その2
『へっくしょん! まもの』
妖魔の一種である『まもの』は、1発言ごとに一定の確率で(具体的には日数%の確率で)このように意図せぬ発言を暴投し、正体をさらしてしまう能力(?)を持っている。考えなくてもわかることだが、99人参加という超々長期村で最後までこの暴発を避けるのは無理だ。くしゃみを避けようと1日1発言に抑えたとしても、この村がエピローグを迎えるのは32日目なので……こまかい計算は算数できない恋窓勢以外に任せるが、まぁ無理だ。
しかしながら、まもの仁はここから感動的なまでの粘りを見せることになる。くしゃみを見たとき誰も思わなかっただろう。まさか、まものが最後の妖魔として生き残るとは。
通常の村では、このような発言をすれば即座に吊られる。まものは占われても溶けないし、そもそも妖魔なので狼の襲撃も受けないためだ。が、漣博士の99人村はおよそ通常とはかけ離れた進行を見せた。
というのも、誤爆や占い、はては堂々の人外COまで加わり、処刑スケジュールは数日先まで満杯。『俺を処刑してくれーー! もうこんな村うんざりだ! 参加するんじゃなかったああ!』と訴えても、『来週まで予約が埋まってるから体育座りして待ってろよ』などと返される始末だったのだ。まさに猫の手も借りたいディストピア村にゃ。
革命期のフランスはこのような事態に対してギロチン台という偉大な発明で切り抜けたが、残念ながら漣博士には発明能力が欠けていたため『処刑は一日一人まで』という厳格かつ時代錯誤なルールを最後まで変えることはできなかった。まったく、これだからsazanamiは!
普通の人狼ゲームでは『妖魔が生きてるかもしれないからLW(最後の狼)は残しておこう』という具合に正体の割れた狼を飼っておくケースがままあるが、妖魔を飼っておくというのは珍しい。ねじ天以外の場所では見られない現象だろう。……いや、ねじ天でも滅多にないと思うが。99人村という常軌を逸した実験が、このようにいびつなゲーム展開を生み出したのだ。
そもそも『99人あつめて全員に役職をつける』という実験内容自体が、狂気めいていた。この苛酷きわまるルールには、ねじ天歴の長い原始土着民さえついていけず、どのように立ち振る舞うのが正しいかを理解している者は皆無だった。村が終わった現在でさえ、どうするのが最善だったかいまだにわかってない者も少なくないだろう。
このため、実験序盤では理解不能な行動や自殺行為に近いCOをする者が続出した。要処刑者リストが一週間先まで予約満席になったのも無理からぬこと。なにか意味不明なことを叫びながらそのまま死んでいったさかけーなどが、その代表と言えよう。よし無理やり出番作ってやったから、もう一本おごれ。(出番?)
ことほどさように村は混迷を極めていたが、恋窓勢は別だった。彼らは『アイドルアルマンを守って皆で仲良く勝利するんだ♪』という強い信念と団結があり、迷うことなど何もなかったのだ。狼も狂人も妖魔も、その他もろもろの陣営も、本来の陣営を裏切って恋人側に回るのが当然という風潮でさえあった。事実、それは最も勝利に近い道だった。そしてなにより『みんなで窓を共有している』という一体感が、彼らに幸せな時間を約束していたのだ。
恋窓が順調に回転し、だれもが笑顔で他陣営の皆殺し計画を練っていた、そのころ……。恋人たちは皆そろって夢のようなひとときを過ごしていた。狂人アルカードはリスクも考えずに仲間の情報を売り、狼てんも迷いなく仲間を売り飛ばし、妖魔ミモザもやすやすと仲間を切って『もう(アルマンが)リア充だったら知らん』と開きなおっていた。冷静に振り返るとコイツらひでえな!
そんな厚顔無恥きわまる裏切り者たちから続々と寄せられる情報に、キャッキャしながら無邪気な笑顔を浮かべる恋人たち。終盤では生活に支障をきたすほど体調を崩してしまう紗紋は全然元気だったし、悪魔の頭脳を持つすぎさまはニヤけ顔で悪巧みをたのしんでいたし、いたいけな幼女ラムは共鳴窓で牛男爵に一泡吹かせようとゲームを満喫していたし、ダイケンキはノエルの口を借りて男子中学生みたいなエロワードを連呼していた。そんな彼らをホストさながらの話術でもてなす、リアルでは社畜のアルマン。
だれもが、恋人陣営の勝利を信じきっていた。
……だが、すべては幻想にすぎなかった。あろうことか彼らは人数計算をまちがえ、リア充のアルマンをアイドルと勘違いしていたのだ! なんという凡ミス! 小学生でもできる計算なのに! おまえら算数苦手か!
わからない人のために説明しよう。簡単に言えば『アルマンがアイドルの場合=恋人みんな勝利!』『リア充の場合=本当の恋人1名以外みんな敗北!』ということだ。見てのとおりゲームの根幹にかかわる部分なのだが……何故そんな重要な計算をまちがえる!? せいぜい二桁の足し算引き算だぞ!? おまえら算数苦手か!(二度目)
ただ一説によれば、アルマン=アイドルだと思わせておいたほうが都合の良い人物が意図的に計算をいじって仕掛けた作戦ではないかという噂もあるが……ログ確認するの面倒だから、全員計算をまちがえてた算数赤点野郎だったことにしておこう。そもそもこんな村に参加した時点で知能障害なんだ。
なんにせよ、アルマンの正体は割れた。この真相に気付いた恋人たちは顔面蒼白、騒然愕然。ピンク色に包まれた勝ち組気分の浮かれモードは一瞬でブチ壊され、瘴気渦巻く漆黒の世界が訪れたのであった。(全てのユニットを-2/-2)
ここからの恋人たちの即解散ぶりは、いっそ芸術的なほどだった。結婚式場のような空気だった恋窓は葬儀場のそれに変わり、日を追うにつれて墓地のようにまで寂れ果てることとなる。人の心とは、かくも移ろいやすい。諸行無常。
この事態に至って、陣営を裏切っていた狼と狂人は慌てて本来の仲間たちに恋窓の顛末を報告。裏切りの報酬である『恋窓リスト』に謝罪を添えることで、陣営への復帰を迎え入れられるのだった。
そう、心の中では『この裏切り野郎! 絶対ぇ許さねぇ!』と思っていても表面上は快く受け入れるのが人狼プレイヤーのマナー。いやはや……カール(うすあじ)並みの軽い気分で仲間を裏切っておきながら、いざとなれば平気な顔で元に戻る……人狼というゲームは本当に人生の勉強になりますね。
駄菓子菓子、ここでも悲惨なのは妖魔だった。狼や狂人はリストが出回ってもまだ戦えるが、妖魔は無理だ。だって占い師が何人もいるし。毎日だれか溶かされるし。占い師を襲撃することもできないし。妖魔が生きてることで他の陣営が得られるメリットもないし。だれでも即理解できるほどの、お手上げ終了状態。この時点で早くも詰んでしまったのだ。安西先生、あきらめなくても試合終了です。
そんな彼らにできるのは『そうかぁ……きみたち裏切ってたのかぁ……それで仲間たちが毎日溶けていったんだ……あはははは……次は俺の番かなぁ……』と力なく笑うことだけだった。唯一溶かされない能力を持つ仁はとっくに魔物バレしてるので、もう本当にどうしようもないのだった。無残すぎる。へっくしょん!
 




