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その1


 2017年12月7日。

 自他ともに認める……様子はなくとも圧倒的多数の他人が認めるマッドサイエンティスト・漣博士考案の壮大な社会実験『99人のねじれた村』は、見るもグダグダに……華麗に幕を閉じた。

 彼は実験の着手に際してクレイジー三橋伯爵なるエージェントを送り込み、参加者視点からの意見を聞くことで実験の意義を世に問おうと考えていた。しかも幸か不幸か、彼は占い師という重要なポストを引き当てることに成功する。

 ……が、彼は開始早々にキューピッドの矢を撃ち込まれて恋人陣営に変えられ、狂人側に占い師であることが知られていたため発狂させられて陣営をねじ曲げられ、さらに鬼火のデバフを付与されたうえ、普通に狼の襲撃を受けて何もできないまま死んだのであった。99人もいるのに、この集中砲火ぶり。非常に笑える……もとい悲しいできごとと言えよう。

 この日から、墓下では伯爵の『アタマsazanami』コールが途絶えることはなくなる。


 伯爵と同時に、上流貴族かつイケメン紳士の牛男爵も退場したことで爵位持ち両名が死亡して村には一騒動が訪れたが、初日早々から死因不明の死体が大量に転がるという驚異的アポカリプス事変の前には些細なハプニングでしかなかった。無理もない。この日、突然死も含めて約10体もの死体が確認されたのだから。常識的な人数の村だったら、この時点で終わっている。改めて言おう、人狼は99人でやるゲームではないぞと。

 余談だが、このとき同じく不慮の死をとげたキックは人狼界きってのショタコン野郎であり、古くからの名プレイヤーとして知られている。彼がこの実験に参加したのはAICEの勧誘に乗ったためだが、そのAICE本人は開始前に村を抜けており、だまし討ちを受けたような形になったキックは『あのAICE許さねえ!』と執拗に言い残している。

 彼がこの村で刻んだ発言の大半は、これのコピペだ。というか、ほかにロクな発言をしてない。初日に死んだのだから仕方ないとも言えるが。しかしダミーの代わりに死んでしまうとは、キック野郎も伯爵野郎も他の野郎どもも実に情けない。


 多くの死者を埋葬しつつ、漣博士の狂気的な実験村は本格的に動きだした。すなおにCOする者、騙りCOする者、まじめに推理する村人、おはステ作戦に出る者……などなど、村は一見まっとうに展開しているかに見えた。

 ところが、いなの恋窓誤爆で事態は急転直下。ピンク色の空間で仲睦まじくしていた恋人たちに戦慄が走る。そんな事故の渦中にあっても、持ちよった情報と冷静な計算によって『我らのアルマンはアイドルであろう』と判断する恋人たち。彼らはアルマンアイドル説に賭けて突っ走ることを決意する。この時点で冷静になっていれば、のちの悲劇は避けられたのに。恋は盲目とは、座頭市もよく言ったものだ。

 結果、人狼、狂人、妖魔、その他多くの人外を含む『99人村構成員リスト』が恋人全員の共有情報となり、彼らは情報戦において大きなリードを得るのであった。のちに、この通称『恋窓リスト』は表に流出してゲームを根底からブチ壊すことになる。


 当然のごとく、村では大殺戮が始まった。倒すべき敵の名がすべて判明している以上、恋人たちの前に障害はない。圧倒的な票数を武器に、狼と妖魔を処刑してゆくのみだ。愛こそジャスティス! 人の恋路の邪魔をする者は皆殺しだーーッ!

 愛を唱えながら異教徒をブチ殺しまくるキリスト教と同じだが、そう都合よくゲームは進まない。純粋な村側狼側の票も多いのだ。まずは常識的な流れとして、誤爆したいなに対しての制裁処刑が執行された。皮肉なことに、この後数日に渡って処刑が実行されず、しばらくのあいだ処刑欄にいなの名前だけが晒される結果となり、村の話題を集めたことは記しておこう。


 引き続いての裏窓誤爆などもあり処刑の手はなかなか狼に向けられなかったが、村にはブタという殺人鬼がいた。このブタが恋窓勢であることが、狼にとって致命的だった。恋窓から入手した人別帳にもとづいて、やすやすと狼を狩ってゆく連続殺人鬼ブタ。その手際の良い仕事ぶりは狼たちを震え上がらせ、ついでに狂人たちを断崖へと追い込んでいった。

 だれが自分たちを攻撃しているのかさえつかめず、一方的に葬られてゆく狼たち。しまいには、あまりに狼が減りすぎたためドワーフアリエルの慈悲によって守られる体たらくをさらすほどであった。あまりに情けない。(私怨)

 ここから凄腕狩人アリエルの無双劇が始まり、狂人たちの悲劇が始まる。


 恋窓の共有情報によって狼以上の惨劇を見たのは、妖魔陣営だった。恋窓勢には複数の占い師が所属しており、その占い先が一斉に妖魔へ放たれたのだ。狼には襲撃という報復手段があるが、妖魔には何もない。なす術もなく次々と溶かされてゆく仲間を前に、うろたえるばかりの妖魔たち。

 だが彼らには、仁という救世主がいた。彼もまた豊富な人狼戦歴を誇る男であり、陽気な性格もあいまって評価の高いプレイヤーだ。なんの悪意もなく、オフ会での写真を名前付きでネットにUPしてしまい、あの匿名掲示板で叩かれまくっているほどモラルの欠如した伯爵からさえ『仁くん、そういうのはちょっと……』と苦言を呈されるぐらい、彼は世界人類の善意を信じている男なのだ。

 ところが、期待の男は不意のくしゃみ暴発で早々に自らの正体を暴露し、実質ゲームオーバー。以後しばらく観賞用の愛玩魔物として生かされ続けることとなる。一体どこの馬鹿がこんな役職考えたんだよ、sazanami。



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