表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の果実  作者: えごは
5/5

第五話『あなたの心に実る果実』




朝。いつものようにみのりが収穫する。彩り豊富な野菜と果物達。

ウメ、スモモ、イチジク、ナシ、ブドウ、ライチ、モモ、そしてサクランボー

どれもが俺にこの世界を教えてくれた大先生たちだ。本当に色々なことを教えてくれる。俺も、ひとつひとつの果実のありがたみ、尊さが分かってきたと思う。

みのりの横で俺も収穫する。

「えへへ、もうすっかり慣れたね」

「毎日のように収穫したからな」

もうこの島にきて、2、3週間は経つ。流石に手慣れてくるというものだ。

「今日もありがとね、みんな」

収穫を終えると、採った果物達に感謝するみのり。俺も心の中で復唱する。


「いただきます」

みのりと採った果物と野菜、そしてオオカミ娘の獲ってきた魚と木ノ実をいつものように調理して食べる。何度も食べてきた品々だが、決して飽きることはない。毎回毎回味が微妙に変化し、同じものでも違うものを食べているような感覚なので、食べる度に新たな発見が次々に生まれる。


「ごちそうさまでした!」

食器を片付け、洗い物を始めるみのり。

オオカミ娘は相変わらず自由奔放に寝っ転がる。





そんな“日常”をみて和みつつ、俺は立ち上がりみのりに言った。

「少し散歩してくる」

「うん、分かった!気をつけてね」

洗い物をしながら振り向き笑顔をみせるみのり。俺は安心して、家の戸を開けた。


「今日も陽射しが強いな」

いつにも増して、陽光が俺の身体を突き刺す。蝉の声や湿った空気が俺の肌にベッタリと張り付いてくる。しかしそれを掻き消してくれる爽やかな風。夏のどんよりとした暑さも、この風が吹けばたちまち消え去るというものだ。今日もお勤めご苦労様です。

太陽の明るさに眼が慣れてくると、俺は1歩踏み出し、家の前の坂を下った。

この坂から見える島の家々は、空っぽの箱などではなく、一つのオブジェクトとして建ち並んでいるように見える。この家たちも島の大事な一部。

最初の時とは明らかに変わっていた。


集落を抜け、ビワの森に入る。ここへ来るのは3度目だが、また違った感覚で森が見えた。

野ウサギに現を抜かしていたみのりのあの表情を思い出すと、今でもくすりと笑ってしまう。本当に純粋で真っ白な彼女。

俺はそんな彼女の日常に、すごく、ものすごく憧れていた。

だから俺は今もこうして島に居続けている。






森を抜け砂浜に出る。そう、ここは俺が一番最初に不時着した砂浜。

あの“神の遺産(ルーンレガリア)”とかいわれてる鉄のガラクタが放置されている場所だ。

いまだにソレは、砂浜の真ん中に棄てられている。

近づいてみると、中の操縦席にはコケや草が生え、もはや植物の苗床になっていた。

「これはもう動きそうにないな」

と、内心少し喜びながら諦めていた。しかし操縦席のモニターが急に点灯した。

「ー自己修復プログラム・コード“CYBELE”自動ダウンロード完了致しました。続いてプログラムの媒体内インストール並びにロゴスクラウドへのデータバックアップを行います。」

「ーっ!」

流石は神の遺産と言ったものか。これだけ大破していても、向こうからの修復プログラムを受信していたようだ。全く要らないことをしてくれる。

「インストール率60%・・・75%・・・90%・・・100%」

「プログラムのインストールが完了致しました。システムスキャン並びにエラー検知を行います」

この鉄の塊は次々と受信されたプログラムを実行していく。この調子で行けば、恐らくシステム内部の破損は全て完全修復されるだろう。あとは外側の破損を修復すれば、何とか月に帰れるほどには直せるはずだ。

「これも何かの呪いなのか」

システムが修復されれば、向こうとの通信も回復するはずだ。

そうなれば、俺はこの機械を直さざるを得ない。

「オールグリーン。システムの完全復旧が完了致しました。」




「電源を内部予備バッテリーに切り替えます」

「メインOS・コード“METIS”を起動します」

「直っちまったか・・・」


不本意過ぎる完全復旧に、ただただ後悔するばかりだったー






「ただいま」

「あ、おかえり!」

オオカミ娘とオセロをしていたみのりが返事をする。

「聞いてよお、くーちゃんったらひどいんだよ。私の番が先だったのに・・・」

「ケッ、みのりがとろいのが・・・」

2人の会話が耳に入り、脳を通らず通過していく。

俺は今気が気ではなかった。頭の中がいっぱいだった。

「どうしたの?」

俺の顔をのぞき込むみのり。流石に我に返り、平然を装う。

「何でもないよ」

「ホントに?」

「ああ、本当に何でもない」



しばし俺の顔を見つめ、大丈夫だと確認すると

「よかったあ」

と安心した笑顔で言った。

この娘には全てを見透かされているようで怖い。隠し事をしてもすぐバレてしまいそうだ。


「そうだ!今日はね大事な日なんだよ」

突然何かを思い出すみのり。

「何だ?」

「えへへ、今日はねえ」

もったいぶるみのり。俺も少し落ち着き、みのりの次の言葉を待つ。

「流れ星がいっぱいみられる日なのです!」


流れ星・・・つまりは流星群が見られるということか。

「どこで見られるんだ?」

「森の中にある、島で一番高い丘だよ」

島の一番高い丘・・・確かにこの島には、山のように盛り上がった丘が一番上にある。あそこなら流れ星が一番キレイに見れるだろう。


「それは是非見てみたいな」

「でしょ!いっぱいいっぱい流れて、ホントにキレイなんだよ」

身体を使って表現するみのり。それだけ美しい景色なんだろう。彼女の必死さを見ていれば分かる



「時間は何時頃だ?」

「いつもの夕飯を食べ終わった時間のあとがちょうどいいんじゃないかな」

まるで流星群の時間帯を暗算したかのように提案した。

「分かった。楽しみにしてるよ」

「えへへ、私も」

本当に幸せそうな笑顔だった。


「くーちゃんも行こう!」

傍らでオセロの石をいじっていたオオカミ娘にも提案する。

「あたしはいい」

「え?」

予想外なことにオオカミ娘はみのりの誘いを断った。

「あたしはどうせ星なんて見たってつまんねえし。2人で行ってこい。」

「そっか・・・うん、それなら仕方ないね。それじゃあお家で待っててね」

「へいへい」

みのりのしょんぼりした姿には流石のオオカミ娘も応えたのだろう。少し罪悪感を感じながら生返事をした。オオカミ娘も好きでこんな返事をしたのでは無いんだろう。正直に答えた。それまでだ。


「そしたら夜まで何してよっか!」

「あたしは昼寝でもしてるよ」

「むーっ、もうくーちゃんは寝てばかりなんだから」

いつものみのりに戻り膨れてみせる。俺は少し安堵した。



「そうだな・・・よし、みのりに太郎伝説のリベンジを挑む!」

「何だってえ!?」

寝る体勢に入っていたオオカミ娘が勢いよく半身を起こした。

「ふっふっふー、いいよ。受けて立とう!」

もちろん勝つ気など更々ない。ただ、彼女と何かをしたかった。ただそれだけだ。


「よし、それじゃあ勝負開始だ」

勝つためではない。みのりと少しでも一緒にいるために、俺はコントローラーを握った。




『2Pウィン!』

「ホント弱えなあ」

「みのりが強すぎるんだ」

「えへへ」

10回以上やっても勝てない。勝てる気がしない。この娘が月に行ったら、たちまち月面チャンピオンまで上り詰めるだろう。

月面にこんな猛者がいなくて本当に良かった。

「もう一回やる?」

「いや、少し休ませてくれ」

そう言って、不毛なバトルは幕を閉じた。




俺は寝室の畳に横になった。

天井を見つめる。

いつもの景色だ。いつもの日常だ。

ここが今の日常なんだ。

この日常を崩したくはない。

この日常でなければ嫌だ。

俺は、

おれは・・・・・・



「・・・・・・やっぱりここか」

虚無の世界は唐突に俺の精神に侵蝕してくる。

しかし、それに違和感を感じていなかった。大体どういう時にこの世界に迷い込むか分かってきていたからだ。

とりあえず宛もなく歩いてみる。

確かに宛は無いが、過去の2回とは違って、今回は迷いがない。

導き手もいないが、それでも進むべき方向が分かった気がした。

景色は全く動いていないように見えたが、俺には確かに進んでいるという確信があった。

進んでいった先に、過去にも見た違和感が近づいてくる。

そう。

草花に囲まれた、この世界の女神。




その女神があの少女であるなど、本能で分かる。

この世界に唯一、生命の息吹を与えられる絶対的な存在。畏怖すべき崇高な存在。


いや、違う。

彼女は、

小さくて、白くて、ショートヘアで、いつも麦わら帽子を被っていて、華奢な体つきで、蒼い瞳をしていて、白いワンピースを着て、果物の香りがして、小動物のように可愛くて、少し抜けていて、自然を愛していて、少し背伸びをしたくなったりして、心優しくて、肌が瑞々しくて、手が綺麗で、少し色っぽくて、素直で、純真で、わかりやすくて、寂しがり屋で、笑顔が眩しくて、サクランボのように甘酸っぱいー

そんな

愛おしくて、愛らしくて、俺の心の中に実った、初めての“果実”だ。


そう、“俺 の 魂 が 願 っ た 果 実” だ。


「ーっ!」

すると鏡のように映った地面が光を放つ。

俺の全身を覆うように、光は眩くなっていく。

新緑の絨毯に眠る女神がそっと眼を開く。


「みのりッ!」

世界を照らす光に揉まれながら、俺は必死に手を伸ばす。




俺の存在を認識した彼女もゆっくりと右手を伸ばす。

以前のように、俺を引き離そうとする存在はもう無い。

あとは俺自身が1歩踏み出すだけだ。


さあ、見に行こう。

これから訪れる、

たくさんの“未知”をー


そして、お互いの手がしっかりと絡み合う。俺は彼女を、みのりを思わず引き上げた。

そして、華奢な身体を抱いて言った。

「みのり、俺はっ、俺は・・・!」

「・・・・・・・・・」

彼女は以前として寡黙しているが、その両手は俺の背中にしっかりと回っていた。


そして解き放つ。この虚ろの世界に終止符を打つ言葉を。


「みのりのことが好きだ!」


世界は眩い光に包まれ、2人を溶かしていくー






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ゆっくりと眼を開ける。すると見慣れた天井がまず目に入った。

どうやらまたあの夢を見ていたようだ。だが、今回はいつもと違う感じがした。もうあの夢は見ないような気がした。何か大事な、そう、俺にとってものすごく大事なことがあったような気がした。

「ったく、何だったんだ・・・・・・・・・ん?」

ふと、頬を触った。湿っている。いや、濡れている。一筋の線を描いて。

「なみ、だ・・・?」

確かに、俺は涙を流していた。もう何年も流していない涙。それが、夢を見ている途中で流れたというのか?

俺はきっと大事なことを忘れている。

大事なこと、大事なこと・・・


「・・・そう言えば、今日は流星群が見られるんだっけか」

ふと、みのりの言っていたことを思い出した。もう今は夕方。みのりが料理をする音が聞こえる。もうそろそろ夕飯の時間だ。大事なことはきっとこの約束のことだろう。涙を流した理由はまだ分からないが。


俺は身体を起こし寝室を出て、居間に入った。


「いただきます。」

「召し上がれ!」

今日はいつにもまして豪勢な気がした。たくさんの種類の野菜と果物がテーブルの舞台で、調和した踊りを舞っていた。



夕飯を食べながら、俺は思い詰めていた。今夜の流星群が見終わったら、もうこの日常には戻れなくなってしまうかもしれない。

「ほら、くーちゃん。好き嫌いはだめだよ」

「ケッ、こんなにげえもの食えるかっての」

「むう、じゃあ私が食べさせてあげる」

「ハァッ!?んなことしなくていい!」

「はい、あーん」

「や、やめろー!」

2人の他愛ない会話を見て、俺の帰るべき場所を再認識する。ここは彼女達の世界。俺がいていい世界ではない。

「? どうしたの?」

「あ、ああ、何でもない。ただぼっとしてただけだ。」

「うーん、それならいいけど。なんか今日は様子が変だよ?」

心臓が軽くドキッとする。俺はまた取り繕って誤魔化そうとした。

「最近暑かったからな。熱中症かも知れない」

「!それは大変!今すぐ手当てしなきゃ!」

「い、いや、大丈夫だ。本当に。もう全然普通だから気にするな」

「ホントに?気分悪かったら無理しないで言ってね?」

「あ、ああ、ありがとう」

苦しかったが何とか誤魔化せたようだ。

「ケッ」

オオカミ娘は誤魔化せなかったようだが。




「ごちそうさま」

「おそまつさま!」

食器をせっせと片付ける。

俺も手伝い、全ての食器を片付け終えた。

「よし、片付け完了!それじゃあ・・・」

麦わら帽子を深く被り、意気込むみのり。

「れっつごお!」

「お、おお」

俺も不器用ながら乗ってみる。


玄関の戸を開け、オオカミ娘に声をかけるみのり。

「くーちゃんはお留守番よろしくね!」

「へいへい」

外に出て、戸を閉めた。


辺りはもう真っ暗で、懐中電灯が無ければ5m先も見えない。

「はぐれないように着いてきてね」

懐中電灯を持ったみのりの背中を、情けないと思いつつ怯えながら着いて行った。

昼間とは違う姿の森に入る。真の闇が森の中に広がっていた。そこを何の躊躇いもなく進んでいくみのり。俺はみのりを信じて後を追う。

立ち入り禁止の柵を通り過ぎ、ホコラと川の分岐点に着いた。





「左の道の川よりもっと進むと丘に着くんだよ」

「そうだったのか」

川までしか行ったことが無かったため、その先は未知の領域だ。

俺達は左の道へ進み、足元に気を付けながら川を渡り、その先の道を進んでいく。

依然、暗闇は続く。その途中でみのりが話しかけてきた。

「キミは流れ星見たことある?」

「ああ、何度かな。」

「そっか。流れ星は好き?」

急な質問で返答に困ったが、

「まあ見慣れてるし普通かな」

と曖昧に答えた。

「ふふ、キミらしい答え」

くすくすと笑うみのり。俺“らしい”答えか・・・

「確かにそうかもしれないな」

「えへへ、キミのことはもう大体知っているもの」

俺のことか・・・俺がこの島に来た理由を、彼女は知っているのだろうか?いや、恐らく知らない。知ってしまったら、彼女は俺から離れていくだろう。知らない方がお互いに幸せだ。

「キミが悩んでいるのも知ってるんだよ?」

ドキッとした。まさか本当に知っているのか?まさか公言したことなど無いのに。

「でもね、キミの悩みごとを解決してあげられるかは分からないけど・・・」

森の出口が見えてくる。そして出口に差し掛かると、懐中電灯を消し、くるりとこちらに振り返り言った。



「キミを救うことなら出来ると思う」

開ける視界。真っ黒な暗闇が急に明るくなり蒼光が照らす世界を照らす。

「さあ着いたよ!」

目の前に丘を登る階段が続いている。みのりが上り始め、俺も階段を上っていく。階段を上っていき、星々の天井が近づいてくると、次々にこの島の記憶が蘇る。

ー不時着し、立ち尽くしていた俺の前に現れた少女

ー島を案内され、初めて入った少女の家

ー初めて出逢う、果物達の収穫

ー海でたくさん遊び、くたびれるまで遊んだ真夏の日

ーオオカミ娘と、色々な試験を受け続けたあの下らなくて楽しかった一週間

ービワを収穫したり、手を繋いだり・・・

ーゲームをしたり、勝ったり、敗れたり

もうすぐ階段を登りきる。だが、記憶は蘇り続ける。

ー稲荷様との邂逅、そしてあの虚ろの世界



・・・虚ろの世界?

・・・そうだ、忘れてはいけないもの・・・

・・・そうだ・・・!思い出した。忘れては行けない大事なこと

あの、何も無くて無機物のような世界で起きた奇蹟を・・・

俺はこの島であった確かな日常を心に刻んだ。

そしてー




「わぁ・・・もう始まってるね」

「・・・・・・あぁ」

そこには、幾万、いや、幾億もの星の粒たちが散りばめられ、それを横切るように幾つもの光の筋が刹那に消えていく。

流れ星の数は、肉眼では数え切れない。瞬いては消え瞬いては消えー

流星群はスコールのように島に降り注ぐ。

星の光が2人の影を写す。

何も言葉を発さないまま、流れ星に惹かれていく。

まるで肉体が消え、精神だけがその場に溶けてみのりと混ざり合うような感覚。

本来、決して交じることのない人間の感覚が、今だけは美しく絡み合って、

全く同じ感覚を共有しているようだ。

今なら分かる。この娘が見ている世界。そして見てきた世界を。

彼女は決して女神などではない。

みのりは純真無垢な普通の女の子だ。

悲しければ泣くし、嬉しければ笑う。

そう、俺と何ら変わらない、同じ“人間”だ。

なら、言えるはずだ。今まで心にずっとあった一言を。

大事に大事に育ててきた、俺だけの果実をー


ふと、肉体の執着が戻り、思わずみのりの左手を右手で掴む。

ギュッと優しく、だが力強く

彼女も握り返してくれる。




「えへへ、綺麗だね」

「ああ」

「来て良かったね」

「ああ」

「また絶対来ようね」

「ああ・・・」

握った手の繋がりが、次第に強くなっていく。

俺の心も次第に強くなっていく。


『あの娘の言う事を信じてあげればいい』


葛藤はもう無い。

俺には信じる心がある。

魂の願う場所がある。


「みのり」

「うん」

だから言おう。この美しい世界の幕を開ける言葉をー


「これからもずっと一緒にいよう」


世界が鮮やかな色に染まっていく。




「・・・えへへ」

俺がみのりの瞳を見つめると、今度はみのりのほうが視線を外す。

「・・・ダメ、か・・・?」

「・・・うんうん、私もキミとずっとずっと一緒にいたいよ」

「そうか・・・」

「でもね?」

「うん?」

「くーちゃんも一緒だからね?」

何を言うかと思えば・・・俺は思わず笑ってしまった

「当たり前だろ。あいつも一緒だ」

「えへへ、みんな一緒」

彼女は微笑んだ。天使のように。

そしてまた流星群を見上げた。


「キミは・・・」

俺の顔を見つめ、頬に一筋の流れ星が流れるみのり。

「あなたは、流れ星は好き?」


「ああ、好きだ」

「今、すごく好きになった」

流星群はしばらく、2人の頭上を流れ続けた。












「おら、起きろっ!」

ボフッ!

「おぶふぉあ」

また、腹の上にオオカミ娘がまたがる。

「朝飯出来てっぞ」

「ああ、今起きる」

半身を起こそうとするが、オオカミ娘は腹の上に乗っかったままだった。

「おい、どかねえと起きれねえだろ」

「キヒヒ、おいお前。昨夜はみのりとどうだったんだよ?もういくとこまでいったのか?キヒヒ」

「なっ!?何もねえよ!」

オオカミのくせにイタズラっぽく笑いやがる。

「キヒヒ、YESロリータNOタッチ〜」

「うるせえくーちゃん!」

「その名前で呼ぶなーっ!」


「ご飯出来たよ〜」

台所ならみのりの声が聞こえる。

「ほら、さっさと朝飯食いにいくぞ」

「へーい」

やっと俺の腹からどき、居間に向かった。





朝食の皿を並べるみのり。


「お、おはよう」

「あっ、おはよう」

お互い気恥ずかしくなってしまう。

目を合わせられない。

「おうおう、初々しいねえ」

「ちげえよ!」 「ちがうよ!」

声がシンクロして、余計に恥ずかしくなる。


「さ、さあ食べよう!」

話を切り替えるみのり。オオカミ娘もそれ以上茶化すことなく、ただいやらしい笑みを浮かべて俺の顔を見た。クソォ


「いただきます」

「召し上がれ!」

いつもの食卓。カラフルな果物たちがテーブルを占領する。

「ケッ、今日も果物ばっかかよお」

「仕方ないでしょ、そんなこというくーちゃんには朝ごはん抜きです!」

「勘弁くだせえ」

いつもの風景。このやりとりがものすごく落ち着く。




俺はふと一房の果物に目がいった。

そう、それは俺が最初に味わった、地球の恵み。

忘れることのない、夏の味。

「・・・サクランボ」

俺はサクランボを手に取ると、口に入れる。種は噛まないように回りを綺麗に食べる。

すると心に広がっていく。この島であった甘酸っぱくて初めてばかりの体験が。


この味が、夏の始まりだったんだ。

この味に、心惹かれていたんだ。

未熟で、だけど必死で、

瑞々しかったこの夏の味に。


俺はみのりを見つめる。

「・・・?どうかした?」

俺に与えてくれた、夏の数週間。

未知に溢れたかけがえのない日々。

俺の心に初めて実った、未熟だが赤い赤い果実。

恋焦がれた日常を、魂の寄る辺に。


初めての景色、初めての香り、初めての気温、初めての音、初めての味、初めての光、初めての夢、初めての生命、そしてー




“初めての日常”


「みのり」

ここでの理性は必要ない。魂の願うままに・・・!


「これからもよろしくな」


暑い暑い真夏の日々が幕を開けたー













第五話『あなたの心に実る果実』ー完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ