第二話『眩燿サンドビーチ』
爽やかな朝。今日も太陽燦々。
空は雲一つない快晴。
俺はエンガワで軽く伸びをして、大きく息を吸った。
地球の空気は実にうまい。
......なんて1度でいいから言ってみたかった。
まず、空気・空間に充満した重力を改めて感じることが新鮮だ。
自重とはこんなにも重たかったのか。
生の実感ここに極まれり。
「お野菜ですよ〜」
台所で調理していたみのりが、野菜いっぱいの皿をとてとてと、運んできた。
「俺も手伝うよ」
「ありがとう!」
......今日も太陽燦々。
テーブルに野菜オンリーの料理たちが陳列する。
幸いにも俺はかなりのベジタリアンなので、野菜だけの料理で充分だ。
こんなにしっかりとした飯は久しかったのでより一層俺の食欲をそそる。
「いただきます」
「召しあがれ!」
歯ごたえはシャキシャキとしていて、口の中は瑞々しい野菜の水分で満たされる。
採れたては正に格別。月の人々に食べさせてやりたいくらいだ。
大盛りになっていた皿をあっという間にたいらげた。
ここに来てこんなに満腹になれるなんて想像もしていなかった。
やはり自然は偉大だ。
「ごちそうさま」
「こんなにキレイに食べていただいて・・・私うれしいです」
「まあ腹減ってたからな。それに野菜は結構好きだし」
みのりはちょっと照れくさそうな顔で「よかった」と言って、食器たちを片付けた。
満腹になったので居間で寝転がっていると、食器を洗い終えたみのりが駆けてきた。
「海に行きましょう!」
元気にそう言って、俺の顔を覗き込むように屈んだ。
「一緒にカイスイヨクしましょ」
「カイスイヨク?まあ、構わないけど」
視線を逸らし、それとなく返事をする。
「やった!そうと決まればれっつごーです!」
みのりは急いで麦わら帽子を被り、何か入ったカゴを持って玄関へ向かった。
俺はのそのそと立ち上がり、適当に髪をいじって地面すれすれを歩いてみのりの元へ向かった。
「何も持たなくて大丈夫ですか?」
「そもそも俺は手ぶらで来たからな」
「そうでした」
うっかりした笑顔で両の手のひらを顎あたりで合わした。
「それじゃあ行きましょう!」
「おう」
玄関の扉を一気に開けた。
その瞬間、風が透き通り蝉が合唱した。
外に出ると槍のような陽光が眼窩を刺し、思わず手のひらをかざした。
「昨日よりも日差しが強いな」
「絶好の海日和なのです」
確かにこんな日に水を浴びたら気持ちいいかもしれない。
みのりのあとを着いていく足どりは軽やかになっていた。
昨日通ってきた道とは別の道を進んでいく。
昨日の道よりも多くの家が建ち並んでいる。
意外に民家があることに驚いた。だがそこに賑やかさは微塵もない。
空箱の並んだ玩具屋に、誰が心躍ると言うのだろうか?
鈍色の道を歩いていくみのり。
彼女の髪の茶色が一段と際立って光っている。
後ろにいるだけで香ってくるフルーツの香りと石鹸の匂いが妙に落ち着く。
家屋の事など頭の片隅にも無くなっていた。
「そういえば、そのカゴはなんだ?」
ふと気になった。まさか海にまで果物を持っていく気なのか?
(果物のカイスイヨク・・・?)
「水着ですよ!」
......ナルホドー
「お気に入りのかわいい水着なのです」
「そ、そうか」
普通に考えれば水着しかないだろう。
どうやらこのフルーツ星人に毒されてきたようだ。
「あなたの水着はどうするのですか?」
切実な疑問が飛んできた。
まあ地球在住の地球人なら聞いて当たり前の質問だろう。
だが月面人は違うのだよ。
「このスーツ・・・服は耐水性があるんだ。だからこのまま水中に入っても全く濡れない」
「なんて便利な!」
みのりは驚きと好奇心の表情をみせる。
期待通りのリアクションだ。
「ちなみに老廃物の排斥処理もしてくれるから風呂に入る必要もない」
「ぐれーと!」
羨ましそうに俺のスーツを見る。
「いいなぁ。お風呂は手間がかかって嫌いなのです」
「風呂に入らない女の子もどうかと思うぞ」
たとえスーツを着ていたとしても、風呂に入っていない少女はいただけない。
「背中が洗いづらいのです」
なんて些細な悩みなんだろう。俺の悩みがバカらしく思えてくる。
にしても、風呂場で背中を洗おうと悪戦苦闘するみのりを想像すると、
実に愛らしい光景ではないか。
もはや人間ではなく、小動物や犬猫のような生物に思えてきた。
というのは、俺の本能を抑えるための口実に過ぎないのだが。
「海が見えてきましたよ!」
道の先、ちょっとした下り坂から海が顔を覗かせている。
そこから違うにおいの風が2人を包む。
麦わら帽子が飛ばされそうになるのを、俺が上から押さえた。
「えへへ、それじゃあ行きましょうか」
海までの距離は着々と近づいていた。
道の端まで行くとコンクリートの塀にぶち当たり、
目の前には不時着した時のような、真っ白な砂浜と蒼く澄んだ海が視界を占領した。
少し心踊った。
あの時はあれほど絶望していたというのに・・・
塀に沿って歩くと途中で切れて階段が姿を現した。
みのりは足元を気にしながら降りていく。一段飛ばしで俺は階段を降りた。
慎重に降りるみのりを差し置いて、俺は内心では子供のようにはしゃぎ、波際の手前まで近づいた。
海の声がはっきりと耳を打つ。
空気はより一層海の匂いがした。代わりに蝉の歌は遠くなった。
階段を降りきったみのりがサンダルを抜いで、俺の元へ小走りで近づいてきた。
「砂がサラサラしていて裸足の方が気持ちいいですよ」
確に砂浜の砂はきめ細かく、裸足でも支障は無さそうだ。
俺は言われた通り、高機動シューズを抜いで砂浜をしっかりと踏みしめた。
最初はなんだか不思議な感触に鳥肌がたったが、
少しずつ慣れてくると次第に快感に変わり、砂浜を歩くのが癖になってきた。
「・・・裸足も悪くないな」
「ふふ、気持ちよさそうでよかったです。それじゃあ!海に入りますよー」
みのりは「いざゆかん!」と言わんばかりの表情で、
急に身につけていた白いワンピースを勢いよく脱いだ。
俺はその光景をばっちしガン見していたので、
突然のことに理解が追いつかないまま呆然としてしまった。
俺の存在を思い出したかのように、みのりも自らの痴態に頬を真っ赤に染める。
「はわ、いやっあの、こ、これはっ、ついはしゃいじゃって、
いつも、のクセといっいいますか
けっしてえっちなことはなくてですねっひとめをきにしたことなかったので、あの」
「分かった。落ち着け」
俺が一番落ち着け。
何とか息を整え落ち着いたみのりは、少し離れた物陰で着替えることにした。
「嵐のような出来事だったな・・・」
平然を装っていたが、俺もバクバクの鼓動を抑えるのに必死だった。
実際に女性の、しかも可憐な少女の半裸体など見たことがなかったため、
華奢で幼い体つきとはいえ鼓動が高鳴るのは仕方のないことだった。
俺もまだまだ未熟なのだ。坊やなのだ。
ただ一言、さっきの光景に言うとすれば
「白かった」
に尽きるだろう。あいつ、服だけじゃなくて下着も白いとかどんだけ純潔なんだよ。徹底ぶりに感心だわ。
悶々と先ほどの珍事を脳内リピートしつつ、棒つったちで海を眺めていると、
着替え終わった白パンツが背後から声をかけた。
「あの・・・どうですか?」
振り返ってみると言わずもがな、水着のみのりが立っていた。
「えへへ、水着かわいいですか?」
上も下もふりふりの着いたフェミニンな水着だ。
色は白・・・ではなく、花のような薄いピンクで、少し違った印象を受けた。
幼い体なのにこの色気は何なんだ。女性に疎い俺にはちょっとキツいっすよ。
「かわいい、んじゃないか」
頬をぽりぽりと掻いて答えた。
まずい、こんな少女にのろけてしまっているなんてバレたら、これからの立場が危うい。
ここは少々辛辣なコメントをして平然を装おう。
「まあ、中学生には少しませた水着かもしれないけどな」
「むーっ!私はれっきとした16歳ですよぉ!プンプン」
「は?」
亜音速の“は”ここに再び。
「いや待て、俺のいっこ下?悪い冗談を」
「う〜!私だって怒りますよ!中学生じゃなくて高校生です!(年齢上では)」
初めて見る怒りの表情を浮かべながら、グイッと俺の顔に近づいてくる。
みのりの顔に芳醇な香り、それに加え衝撃の真実に頭がオーバーヒートしそうになった。
みのりが俺のいっこ下だと?今まで子供だと思っていたみのりが?そんなバカな・・・
いや確かに、あの得もいわれぬ妖艶な雰囲気や大人びた雰囲気は、
16歳という大人に差し掛かった年齢こその雰囲気だったのかもしれない。
俺がみのりを子供だと侮り過ぎたのかもしれない。これは俺の非を認めざるを得ない。
「ごめん、悪かった。みのりはもうレディーなんだよな」
「そうです。大人の一員なのです。」
いや、まだ大人ではないと思うが・・・
「・・・ふふ、気を取り直して海に入りましょ?」
ぷんぷんしていた表情から一転、またあどけない笑顔で言った。
ホントに卑怯だ、このまな板娘の笑顔は。
2人並んで波際に立った。
つま先に波が触れるたび、ピクッとなるがこの暑さと相まって想像以上に気持ちよさそうだ。
みのりが堪えきれず、バシャバシャと飛沫を立てて海に走って入っていく。
「ほら!キミも早く」
みのりが両手を出して誘う。俺も意を決して海に入っていく。
膝、太股、腰、と徐々に浸かっていき、胸部辺りまで来た時に急に寒気が襲う。
やはり心臓部は敏感なのだろうか?
これほどの低温を今まで感じた事が無かったので、命の危険すら感じた。
身体が自然と震えてくる。
何とかみのりの近くまで行くと、海の遠景を指さして言った。
「ここから10メートルまでなら行っても大丈夫ですが、
それ以上行くと急に深くなるので気をつけて下さいね」
怖くて行けるわけがない。
寒いし暗いし広いし、完全にトラウマになりそうだ。
出発した時の高揚を返せ。
「あと、クラゲがいるので気をつけて下さいね〜」
後になって思えば、このセリフは俺を怖がらせるために言っていたのであろうが、
この時の俺はそんなことに気付く余裕があるはずもなく、ただただ女の子に騙されてビクビクするしか無かった。
「ク、クラゲに万一刺されても、この高機能スーツがあれば、全然大したこと・・・」
「えいっ」
パシャッ☆彡
目の前がスプラッシュする。
一瞬驚きの余り固まるが、みのりに水をピンポイントで顔面にぶっかけれたのだと理解すると、
地球に来て一番の憤慨と羞恥と屈辱を味わう。
「このロリビッチが!」
俺も男だ。思いっきり水をすくい上げればそれなりの飛沫は立つ。
案の定、みのりは全身ずぶ濡れになる。ふん、思い知ったか。
「・・・・・・・・・」
ずぶ濡れになったままのみのりを見て、「やり過ぎたか?」と一瞬不安になったが、
その2秒後にそれは跡形もなく消える。
「・・・・・・あははは!すごい水しぶき!びっくりしたよ!」
楽しそうに笑うみのりをみて安心する。
そうだよな。こうやって海で遊ぶなど彼女にとってはー
「それっ、仕返し!」
小さい手で一生懸命水をかけてくる。
そんな彼女を見ていると、さっきの劣情などとうの彼方に消えていて、
ただ安心と喜びを身に染みて感じながらしばらく水かけを続けた。
もう1時間近く水浴びをしているのではなかろうか?
流石に腕が疲れ、身体が冷えてくる。
だが、みのりはまだまだやる気だ。元気が余り過ぎだ。
「そろそろ休憩しないか?」
元気にはしゃぐみのりに提案する。
「そうですね。お弁当食べましょう」
「いいな」
腹が減ってきてたので、弁当という言葉が余計に食欲をそそる。
みのりと共に浜まで上がった。
みのりが持ってきていたカゴには水着だけでなく、弁当も入っていたようだ。
カゴからさらにカゴのような弁当が姿を現す。その弁当箱を開くと・・・
「・・・これは、サンドイッチ?」
何と予想打にしない炭水化物が出てきた。
「はい!せっかくお客さんがいるんですから、奮発しちゃいました!」
みのりは自信満々に言う。だが、俺は少し真剣に彼女に聞いた。
「パンは・・・貴重なんじゃないか?」
出来るだけ触れないようにしていたこと。だが、“俺のために”となると聞かざるを得ない。
「大丈夫です。あなたと一緒に食べられるなら貴重なものでも構わないのです」
彼女は微笑んだ。俺を見ながら。ちょっぴり切なそうに。
俺はみのりの笑顔に、笑顔で返すことが出来なかった。眩しすぎた。
思わず目を逸らす。
依然、鼓動は俺史上最速のビートを刻む。
だが、苦しさも一緒に心臓を打った。
「さあ、食べましょ!」
雰囲気を打破しようとしたのだろう。いつもの元気なみのりに戻る。
「・・・そうだな。いただきます」
俺も気を取り直してサンドイッチを頬張った。
貴重なパンを使っているが、中身の具材は言わずもがな野菜のみ。
俺は全然構わないのだが。
中には瑞々しいレタスや、真っ赤に凝縮したトマト、細く切られたキュウリたちが所狭しと詰まっていた。
「うまいよ」
「ほんふぉれふふぁ?(ほんとですか?)」
「食ってから喋れ」
もきゅもきゅとサンドイッチを頬張るみのりは実に幸せそうだ。
こういった幸福も、野菜や生命の上にある。
生きるということは生を奪うことと同等だ。
だからこそ、この幸福が何よりも愛おしい。
彼女と出逢ってそう考えるようになっていた。
みのりの眩しさが俺にとっては照らす光のようだ。
「ごちそうさま」
サンドイッチを食べ終え、俺は満腹感でゆっくり休みたいところだが、
みのりは遊びたくて仕方ないらしい。
みのりはすぐさま立ち上がると「少し待ってて下さい」と言って、少し離れた場所まで行ってしまった。
遠目で確認しようとするが分からない。
ただ、何かを抱えようとしてるのは分かる。
それなりの大きさでえっちらおっちらとこちらへ運んでくる。
ようやく視認できる距離まで近づくとそれが何なのかはっきりした。
「どっから持ってきた」
「実は近くにスイカを育てている畑があるのです。」
「用意周到なことで」
まあ海とスイカと言えば・・・
「スイカ割りをします!」
これが旧人類の海の定番、“スイカ割り”か。
確か片方は目隠しをして、相手の指示に従ってスイカの座標を絞り込み、
両の手で握った棒を振りかざしスイカを割るという遊びだったな。
まあ合理的に考えれば、普通に見ながらスイカを割ればいいだけだが、それでは何にも面白くない。
スイカ一つ割るのにも遊び心を持たせる。
これは旧人類でも現人類でも変わらないことだ。
かくいう俺も、スイカ割りをしたくてワクワクしているのだ。オラワクワクスッゾ!
「私が目隠しするので、あなたがスイカさんの場所を教えて下さいね」
もう既に目隠しの布を結びながら勝手に役割を決める。俺が割る側をやりたかったのに。
「分かった。任せろ」
まあいい、俺が教える側ならそれはそれで面白い。
実はまださっきのスプラッシュ!の件を忘れてはいない。
そう、俺はネチネチと執念深いことで悪評高い。俺の闇を今ここで思い知らせてやる・・・
「それじゃあ10回転して」
「よ〜し、いーち、にー、さーん、しー、」
みのりはくるくると回る。回る回る。
目隠ししていることをいいことに、ふりふり振っているみのりの尻をしばらく見る。
目の保養、目の保養。
10回、回り終えるともうすでにふらふらとよろめいている。
「ほぇ〜、はやく指示を〜」
「よし、まず左45度へ直進」
「こっちですか〜?」
ふらふらと酔っ払いのように、俺の言った方向へ進む。
「そのまま、そのまま。よし、次は右90度に3歩」
「はぃ〜」
言われた通り3歩進む。いいぞ。
「そしたら後ろ360度へ直進」
「さ、さんびゃくろくじゅうだから、えぇっと」
混乱してクルクル回っている。ようやく方向を定めると言われた通り直進する。
「俺が“いい”って言うまで進め」
「分かりました〜」
そのままみのりは島の沿岸をふらふらと彷徨い続けた・・・
〜10分後〜
「むぅ〜!ひどいです!ウソつくなんて!」
「いや、流石に気付けよ。砂浜じゃなくなった時点で分かるだろ。」
「だって、“いい”って言うまで進めって言うから・・・」
「それでもおかしいと思うだろ」
どうやら本当にこの娘は純粋で天然らしい。
他人を疑うことを知らない。
もし悪い男がいたら間違いなくたぶらかされるパターンだ。
「もっとな、他人を疑え。おかしいと思ったらすぐ確認するとか・・・」
「・・・・・・きみのこと信じてるんだもん」
しょんぼりとした表情でしれっととんでもないことを言う。
おい、そんな表情でそんなセリフは反則だろ。
ホントこの娘は天使かそれとも小悪魔か?
「悪かったよ。嘘吐いてごめん。役割を交代しよう。それならおあいこだろ?」
「・・・うん」
選手交代して俺が目隠しをする。
少しくらい隙間から見えると思ったが、想像以上に何も見えなくて少々不安になる。
確かにこんな状況だと、相手の言う事を信じるしかないな。
自分が体験して初めて気付く。
これは、みのりに騙されても文句は言えない。
いっそ俺のことを滑稽に惨めに騙してくれ。潔く騙されよう。
などと決心したが、みのりが“嘘をつく”なんてことするわけもなく、
正直にスイカの位置を正確に教える。
「もう少し右ですよ!」「下がって下がって」「前に5歩進んで下さい」
「そこです!」
みのりの言われた通りに棒を思いきり振りかざす。
ズバシャーン
想像以上の大きな音に驚き、すぐさま目隠しを外し足下を確認する。
「大成功です〜!」
見事にスイカは真っ二つに割れていた。
この暑くて眩しい日差しの中で食うスイカは、乾いた体に染みていくようだ。
真っ赤に詰まったジュースの様な実は、正に“生命の水”だ。
スイカを皮ギリギリまで食べ終えると、空は既にオレンジがかっていた。
気温も日中に比べて涼しくなり、遠くから聞こえる暑苦しかった合唱は、
少し切ないバラードに変わっていた。太陽が海の端に触れようとしている。
「もうすぐ日が暮れますね」
「ああ、あっという間だったな」
「あの・・・また海に遊びに行ってくれませんか?」
名残惜しそうに問いかけてくる。ここでNOと答えるヤツがいるか?
答えは当然
「いいよ」
「えへへ」
夕陽の光がみのりの笑顔に映える。
その笑顔は俺にとって唯一無二のものになっていた。
この娘の笑顔を守りたい。
そう強く思うようになった。
今日の海水浴も、スイカ割りも、俺が来るまでは実現しなかったことだ。
彼女の夢、だったのだろう。
みのりを見ていれば自然と気付く。
俺の今までと、彼女の今までは、
全く違うようで、実は本質的な部分で
全く同じだったのかもしれない
ピトッ
俺の肩にみのりが無言で身を預けてくる。
急な事に心臓が高鳴る。
海の匂いの混じったみのりの香りがする。
また理性の枷が外れそうになる。
もう頭の中はみのりに占領されていた。
「・・・さ、さあ帰ろうか」
かろうじて残っていた理性がストッパーをかける。
「・・・・・・」
依然として無言のみのり。より一層心臓が高鳴る。
「みのり・・・?」
彼女を見てみると・・・
「・・・スピー・・・スピー・・・ン・・・」
「・・・・・・・・・」
だろうね!そんな事だろうと思ってたさ。分かってたさ。
この白パン露出狂幼女体型が俺に身も心も委ねるなど、そんな旧人類のラブコメ的なイベントが起きるわけない。
それが世の常なのだ。別に残念でも何でもない。
結局、俺がみのりをおぶって帰ることにした。
服は着せる訳にも行かないので、着てきたワンピースを身体に被せ、
とりあえず風邪をひかないようにしただけだ。早く帰って服を着てもらわないと。
背中で寝息をたてて気持ちよさそうに寝ている。
本当に見た目通り軽く、身体は細く華奢だ。
でも、そこはかとない生命力の様なものを魂で感じた気がした。
この娘は本当に地球の“未知”を教えてくれる。
今考えてみれば、あの状況で“眠る”ということは俺に頼ってくれているということなのではないか?
1人の時には絶対にあり得ないことだ。
2人だからこそ出来ること。
信じられるからこそ行えること。
当たり前のようで気づかないこと。
それを今日、気づくことが出来ただけで地球に来た意味を実感した。
木々から漏れる夕陽に照らされて、
2人は緩やかな勾配を登った。
みのりの家に着いた。結局みのりは終始眠っていた。
まあ逆に起きたら起きたで、気恥しいことこの上ないので、幸いだったと言うべきなのか。
片手でみのりを支え、もう片方の手で玄関の戸を開ける。
もうすでに、この空間が俺にとって安堵できる空間になりつつあった。
そんな些細な郷愁が少し照れくさかったり。満たされた気持ちで靴を脱ごうとした瞬間、
俺 の 安 堵 は 文 章 2 行 後 に し て 崩 れ 去 っ た
「みのりぃ!おせえよ!どこほっつき・・・」
家の奥から
それはそれは猛々しく
ワイルディなケモミミ娘が
姿を現したのだった
第二話『眩燿サンドビーチ』ー完