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マクベス=オーラント

 俺は足早に、校舎の二階に一気に駆け上がると、壁際にもたれ掛かって大きく息を吐き出す。


「あ、危なかった。何とか誤魔化せたかな?……誤魔化せたよな?」


 俺は誰に聞かせるでもなく、独り言を言う。

 今は“まだ”誰にも、俺の『正体』に気付かれるわけにはいかなかった。まだその時ではない。

 どうにか誤魔化されてくれたことを願って、俺は学園長室へと改めて向う。


 学園長室の扉の前に着くと、俺は頭を切り替えることにして、強めに扉をノックした。


「はい」


 すぐに返事が返って来て、俺は扉を開けて中に入る。

 俺が入室したのを目に止めると、学園長椅子に座って机に両手を組んだ、マクベス=オーラントがニコやかに微笑む。


「やあ、良く来てくれたね。イアンくん。君のことだから、来ないのかと思ってたよ」

「…………そうしたかったですよ」


 俺は盛大に溜め息を吐きながら扉を閉めた。

 すると、まるでそれを見計らったかのように、扉が閉まると同時に彼が席を立ち、俺の元にツカツカと近付いてきて…………“いつも通り”の彼へと豹変する。


「いや~ん!本当に久しぶりね!イアン!元気にしてた~?少し背が伸びたんじゃないかしら?まあでもそれもその筈ね!最後に会ったのはいつだったかしら?一年?二年?ああん!もう!この日をいったいどれだけ待ち望んでいたことかしら!!漸く貴方をこの学園に迎え入れることが出来て私とっても嬉しいのよ?ちゃんとご飯は食べてる?好き嫌いしたらダメよ?しっかりと栄養バランスも考えなくちゃ!!その点この学園にいればこれからは貴方をずっと見てられ「はいはい!ストップ!!」……あら?何かしら?」


「あら?何かしら?」じゃねぇーよ!!


 マクベスは、先程までの威厳は何処へやら、俺を抱き締めてはあちこち触りまくっては、オネエ言葉で捲し立てる。

 まあ、俺としては、こちらの方が馴染み深いものなので、そこら辺は特に驚きもしないが。


「はあ~……取り敢えず落ち着いて頂けませんか?学園長」

「まあ!他人行儀ね!ちゃんと『マクベス』って呼んで頂戴!」

「いや……でも、仮にも学園長なわけだし……」

「二人っきりの時は『マクベス』って呼んで!じゃないと返事しないから!」


 学園長……もといマクベスは、まるで子供のように頬を膨らませて、そっぽを向いて拗ねてみせる。

 そんな彼に、俺は苦笑いするしかなかった。


「全く……分かったよ、マクベス。これでいいだろ?」


 俺が改めて名前を呼ぶと、マクベスの顔が一瞬にして明るくなる。

 そして、俺を客間のソファーに座らせると、自分は当然の如く俺の隣に座った。しかも、体をピッタリ密着させて……。

 普通は向かいに座るものでは無いのかと言うツッコミはしない。何せマクベスだし……。


「風月ちゃんは元気?それからバーンちゃんやシャディーちゃんも。後は……」

「皆元気だ。それより、一つ聞きたいんだが……」


 まだ話を続けようとするマクベスの言葉を遮り、俺は早速本題に入ることにした。


「さっきのあれは何だ?何で俺が入試首席者になってんだよ?」

「あら?何か問題でもあったかしら?」


 マクベスは、悪びれもせずにそんなことを言ってくる。


「大ありだろ!!これじゃ、悪目立ちし過ぎるじゃないか!!」

「んー……それならもう遅いんじゃないかしら?私が出て行く前に、既に悪目立ちしてたみたいだし?」

「うぐっ!!」


 顎に人差し指を置いて、マクベスが首を傾げる。

 マクベスの尤もな指摘に、俺は言葉を詰まらせた。

 致し方ないことだったとは言え、確かに俺は、たった半日で嫌というほど目立ってしまったのだ。

 これからの学園生活が思いやられる。


「それに、試験何か受けなくたって分かるわよ。貴方は間違いなく首席よ?」

「は?それはどう言う……」

「だって、物心ついた時から私や『先生』が勉強を教えてたのよ?首席でない筈がないじゃない」

「うっ!それは……」


 俺は又もや言葉を失う。

 マクベスの言い方は自信過剰に聞こえるかもしれないが、それは事実だった。

 マクベスの言う『先生』と言うのは、俺のじいちゃんのことだ。

 実は、じいちゃんは元教師であり、この学園の元学園長でもあった。

 マクベスは、そんなじいちゃんから、直に教えを乞うた元教え子なのだ。

 そして、俺の過去(・・)を知っている、数少ない人の一人でもある。

 そして、そんな二人から直に勉学を学んだ俺は、自分で言うのも何だが、それなりに優秀な方ではないかと思う。


 だがそれにしても、いくら何でも無茶振りにも程があるだろう。

 これは明らかに、職権乱用じゃないのか?


「はあ~……なら、それはもういいよ。けど、入試首席ともなると、確か『新入生代表挨拶』何かがあったよな?今から気が重くなる」


 俺は、これ以上マクベスに何かを言うのは無駄だと思い諦めることにした。

 ソファーに深く沈みながら天井を仰ぐと、溜め息を吐く。


「あら~?それなら大丈夫よ!イアンなら絶対に!」

「他人事だと思って……」


 いったい誰のせいだと思ってんだか。

 マクベスの根拠の無い自身は何処から来るのやら……俺を買い被り過ぎてるような気もするが、彼のこの明るさと前向きさに救われたことは、一度や二度ではない。

 だからか、どれだけ無茶振りをさせられても、本気で怒ったり、嫌いになることはないのだ。

 俺はやはり、マクベスが好きだな、と改めて思う。

 だが、決して本人には口に出して言ってやらない。絶対に調子に乗るから。

 俺は苦笑しつつ、それからマクベスに軽く近況報告をしてから、学園長室を退室して自室に戻ることにした。

 学園探検は、結局一箇所しか回れなかった。

 それでも、今日一日で色々なことが起こりすぎて、さっさと部屋で休みたかった。


 入学式まで後二日である。

 こんな感じで、三年間を無事にやり過ごせるのか、もう既に、不安で仕方なかった俺であった。

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