表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

学園長登場

 俺がどうやってこの場を切り抜けようか頭を悩ませていると、何処からか凛とした透き通ったような声が降ってきた。


「何をしている?」


 皆が一斉にそちらに視線を向ける。

 すると、女子達の人垣が割れたかと思うと、そこからゆっくりと一人の青年が前に進みでて来た。


「学園長……」


 リズがボソリと呟く。

 現れたのは、檸檬色の長い髪を腰まで伸ばし、ライムグリーンの瞳をした、純白のローブを羽織った学園長ーーマクベス=オーラントだった。

 彼の出現により、周囲に水を打ったような静けさが広がる。

 流石は学園長と言った所か。その存在感だけで、皆を圧倒するだけの威圧感があった。

 そんな中でも、ルイだけは空気が読めないと言うか何と言うか……その学園長に対しても、傲慢な態度を崩さない。


「ちょうど良かった。学園長、あの男を今すぐに退学にするんだ」


 そう言って、ルイは俺に向けて指を指す。

 学園長はチラリと俺を見て、またルイを見た。


「何故だ?」

「何故って……この僕に楯突いたんだぞ?!然るべき処置があっても良いだろ?!」


 ルイは、まるで当然だと言わんばかりに胸を張る。

 こいつは、自分中心に世界が回ってると思ってるのだろうか。なんて利己主義な男なのだろう。

 俺は人知れず溜め息を吐く。

 けれど、学園長はそんなルイに対して、声を荒げるでもなく、変わらず静かな声音で語る。


「それを決めるのは、君ではなく私だ」

「んな?!」

「よって、ルイ=ユリウス=ロドリゲス、君には一週間のトイレ掃除を命じる」

「はあ?!何故僕がそんなことを!!」


 学園長が発した言葉に、ルイは目を剥いて、納得がいかないと抗議する。


「最近の君の態度は目に余るものがある。これ以上は看過出来ない。よって、これで少しは反省してもらおう。それが嫌なら、いつでもこの学園を辞めてもらっても構わない」

「……………………」


 ルイは、最早二の句が継げなかった。ポカンと口を開けたまま硬直する。

 この学園は、世間への影響力が半端ない。

『インフィニティアカデミーを卒業した』と言う肩書きは、それだけでステータスになり、社会でもかなり優遇される立場になるのだ。

 それ故に、例え資格者であっても、学園を卒業していないのであれば、貧しい生活を強いられるのは必然となる。

 それが王族ともなれば、王位継承権は剥奪……例え無理に王位に就いたとしても、民衆はそれを認めないだろう。

 それだけの力を、この学園は有しているのであった。


 ルイは固く唇を噛んで、真っ赤な顔で体を震わせて悔しそうにしていた。

 学園長は、もう一度俺の方をチラリと見たが、その彼が次に発した言葉に、今度は俺の方が絶句することになる。


「それに、だ。彼は、今年度の入試首席だよ。そんな子を、おいそれと辞めさせるわけには行かないだろ」

「………………は?」


 その爆弾発言に、ここに居る生徒達全員が、一斉に俺を見遣る。


 えっと……今何つった?入試首席?何それ?美味しいの?

 そもそも俺、入試なんか受けてないし。それなのに、何で首席??意味が分からん。


 俺は目をぱちくりさせて学園長を見ると、学園長が僅かに口角を上げてフッと笑う。


 こんっの!!タヌキっ!!

 ふっっっざけんなーーーーーー!!!!


 俺は心の中で学園長に罵声を浴びせながら、キッと彼を睨み付ける。

 けれど、そんな俺に対しても、学園長はどこ吹く風だった。


「話は以上だ。それから、エインくんは後で私の部屋に来なさい」


 それだけを言い終わると、学園長はスタスタとこの場を離れて行く。

 ルイは、学園長が居なくなったのを見届けると、俺を憎しみの篭った目で一瞥してから、早足で去っていってしまった。

 何か初日から大変なことになってしまった。

 何故こうなったか分からず、俺は頭を抱えずにはいられなかった。

 周りも、いきなりの展開に着いていけないかのように呆然としていた。

 そんな中、リズが躊躇いがちに、俺に話し掛けてくる。


「あ、あの…………そろそろ手を…………」

「……え?あ!すまない!」


 リズの指摘に、俺は自分の手を見ると、未だにしっかりとリズの手を握っていた自分に気付き、慌てて手を離す。

 リズは、小さな声で「いいえ」と言って顔を赤らめていた。

 何ともバツが悪く、俺は頭を掻く。

 そうしてると、王子達が一斉に俺の元に駆け寄って来て、口々に話し掛けてきた。


「いやー、君凄いね」

「うんうん。あんな真っ向からアイツに口答えするなんて、俺達以外では初めてじゃないかな?」

「あ、いや……俺はただ、我慢出来なかっただけで……」

「ふふ。謙遜しなくてもいいですわ。とても格好よかったですわよ?ね?リズさん」

「え?!あ、はい……その……どうもありがとう御座いました」

「いや、そんな……」


 リズが俺に頭を下げる。


「お前も少しは彼を見習え!!」

 バシンーー。

「っ?!ご、ごめんよ。姉さん」


 クロードは、叩かれた背を擦りながら、シュンと肩を落とす。

 王子達は、一般人(・・・)の俺にとても気さくに話し掛けてくれた。俺の行動を讃えてくれる。

 それが、嬉しいやら恥ずかしいやら気まずいやらで、何とも複雑な気分だった。


「それにしても……」


 すると、アランが急に俺の顔をジッと見て、顎に手を当てて何かを考えるような顔をする。


「な、何?俺の顔に何か付いてるか?」


 俺は声が上擦り、冷や汗が止まらなかった。


「いや……君、以前何処かで会ったことない?」

「っ?!」

「ああ、それは俺も思った」


 アランの言葉に、アシルも同意する。

 それを聞いた他の四人も、ジッと俺の顔を見詰めだす。

 俺はいたたまれなくなり、皆から視線を外しながら、何とか話を切り替えようとする。


「き、気のせいでは?こんな顔なんて、何処にでもある顔出し?」

「んー……そうかな?」


 だが、アランとアシルは、それでもまだ納得していないようだった。

 首を傾げて、「うーん」と唸っていた。

 俺は、このままではマズいと思い、何とかこの場を切り抜ける口実を考えて、あることを思い出す。


「あ!そう言えば俺、学園長に呼ばれてるんだった!わ、悪いけど、俺はこの辺で!!」


 本当は、いっそのこと学園長の呼び出しなど無視しようかとも思ったが、一刻も早くこの場から逃げだしたかった俺は、この際“あいつ”の言葉に便乗させてもらうことにした。

 少々癪ではあるが……。

 俺はそう言うが早いか、そそくさと皆から逃げるように校舎へと向かうのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ