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四人のプリンス、三人のプリンセス

 俺は、まずは校内をぐるっと一周しようかとも思ったが、すぐに断念する。

 一周するだけでも、丸一日かかりそうだ。

 それなら、幾つか目ぼしい場所を決めて、そこから見て回るのが良さそうである。

 他の所はおいおいで構わないだろう。

 そう思い至ると、俺はポケットから校内地図を取り出してざっと見た。


「へえ~。湖なんかあるのか」


 ここが良いかもしれない。

 この学園は緑豊かで、あちこちに木々や花々が植えられて、俺としてはそれなりに落ち着くが、この湖の周りは森のように周囲を木々で覆われてるようだ。

 これなら、もしも人があまり来なさそうなら、今度風月を連れてくるのも良いかもしれい。


「よし。ここに行ってみるか」


 俺はそう結論付けると、早速湖へと足を向ける。

 湖は、校舎の裏手にあるらしく、男子寮からは二十五分もかかってしまった。

 湖に着いた俺は、「ほう」と息を吐く。

 太陽の光りが、水面にキラキラと反射して、何とも幻想的で俺は目を細める。

 俺が住んでた場所は、木が鬱蒼とした山奥で、陽の光は僅かに届くか届かないかと言った感じだった。

 これ程までに美しい光景は、あまり目にすることはない。

 俺が湖に心を奪われていると、水面がパシャりと音をなして揺れた。


「ん?何だ?」


 俺が目を凝らしてみると、何やら大きな影が蠢いて見える。

 魚…………ではない。なんだろうか。

 俺がジッとその影を見ていると、水面から影の正体がぬっと顔を覗かせた。


「【マーメイド】か。珍しいな」


 俺は少し驚く。

 マーメイドは、下半身が魚で上半身が人間の体をしている。

 彼女達はとても気難しく、好き嫌いが激しい為、滅多に宿主を決めないのだと聞く。後、とても臆病だと言う話だ。

 ただし、キレると手がつけられないとも……。

 俺はゆっくりと湖に近付くと、岸に腰を下ろした。


「初めまして。俺の名はエインって言うんだ」


 彼女を怖がらせないように、俺は極力優しく語り掛けた。


「もしかして、ここは君の特等席かな?邪魔しちゃった?」


 俺の質問に、彼女はゆっくりと首を横に振る。

 俺はそんな彼女に、笑顔で続けた。


「そっか。なら良かった。もし迷惑じゃなかったら、俺も時々ここに来てもいいかな?出来れば、相棒も連れてきたいんだけど」


 彼女はジッと俺の話を聞いてたかと思うと、徐にスーと泳いで俺の傍に近寄ってきた。

 すると、岸に腕を掛けて顔を置くと、俺に微笑み掛けてくれた。

 先程までは目元しか見れなかったが、こう改めて見ると、とても綺麗な女性だった。

 ウエーブがかった青い長い髪が、水の中でユラユラと揺らめき、エメラルドグリーンの瞳は何処までも澄んでいて美しい。


 それからは、少しの間彼女と楽しいひと時を過ごす。

 会話は出来なかったが、身振り手振りでも充分俺には伝わった。

 それが無くても、ある程度なら俺には幻獣達の言葉は分かる。

 と言っても、感覚的なものなので、ハッキリとした言葉が伝わってくるわけではないが。

 そして、程なくして俺は腰を上げた。


「俺はそろそろ行くよ」


 俺がそう言うと、彼女は俺のズボンの裾を掴んで、とても悲しい顔をする。

 そんな彼女に俺は苦笑した。


「また来るから。今度は相棒も連れてね」


 俺が慰めるように彼女にそう言うと、彼女はフワリと笑ってから、またパシャりと水面を揺らして湖の奥へと消えて行くのであった。




「さて……次は何処に行ってみるかな」


 俺は、校舎の前まで戻ってくると、もう一度校内地図を眺める。

 そうしてると、突如黄色い声が学園中に響き渡った。


「「「「「「「きゃーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」

「っ?!な、何だ?!」


 俺は驚き、声のする方へと顔を向けた。

 そちらは正門の方角で、どう言うわけか、そこには沢山の人だかりが出来上がっていた。

 俺がそれを呆然と見ていると、今度は突然、誰かに背後から猛ダッシュで追突されてしまう。


「ちょっと邪魔!!」

「ぐほっ!!」


 あまりに唐突の事態に、俺は転びはしなかったものの、その衝撃でたたらを踏む。

 通り過ぎざま、俺にタックルをかましてくれた相手の横顔をチラリと見ると、そいつは港で俺を笑ってくれた女だった。


「マジでいったい何なんだ?」


 俺はぶつかった肩を押さえながら首を傾げる。

 何が起こってるのか訳が分からなかったが、俺は取り敢えず人混みの方へと近寄ってみることにした。

 そこは、大半が女で埋め尽くされていた。

 男も何人かいたが、女の迫力に押されて、後ろで遠巻きに見てる感じだ。

 近くに居た女が、キャッキャッと話してるのに、俺は耳を傾けてみた。


「早く来て正解だったね?」

「うんうん。入学式前に三大国の王子方にお目にかかれるなんて夢見たい!」

「しかもしかも!王女様方も御一緒らしいですよ?」

「きゃー!!どうしましょ!こんなことなら、もっと綺麗なお洋服を来てくるんでしたわ!」


 ああ…………なるほど。そう言うことか。

 今年は、各国の王子・王女が一堂に会してるとは聞いていたが、それがこの騒ぎの原因らしい。

 全くはた迷惑な話である。

 俺は呆れながらも、人垣の隙間からその様子を窺ってみた。


「いやあ、凄い人混みだね」

「あはは。そうだね、俺達モテモテだね」

「お兄様方、楽しそうですね」

「「当然!!」」


 水色の髪をした、男前だがピアスやらネックレスなどのアクセサリーを身に付けた、チャラそうな同じ顔の二人が、集まった女の子達に手を振って愛想を振り撒く。

 その度に、女達が色めき立つ。

 それを白けた目で見ている、金髪を二つ縛りにしている女の子。


「ほら!あんたはあの二人を見習って、もっと堂々としなさい!!」

 バシンーー。

「っ?!い、痛いよ……姉さん」


 銀髪の長髪を後ろで一括りにしているのは、ズボンを履いては居るが女性だ。

 その銀髪の彼女が、紫色のボサボサの髪で顔が隠れてて、猫背で気弱そうな男の背中に、強烈な平手打ちをかます。


「ふん!邪魔だブスども」

「ル、ルイお兄様……いくら何でも、女性にそのようなこと……」


 短髪で茶髪の、まるで女の子達を虫けらのように見下している男に対して、ストレートの白髪に赤目の女の子が、恐る恐るではあったが、果敢にも茶髪な男を(たしな)める。

 それに男の目が鋭くなる。


「うるさいっ!!無印が僕に話し掛けるな!!」

「わ、私は無印では……」

「未だに獣一つも宿せない奴は無印と一緒だ!!」

 どんっーー。

「きゃっ!!」

「っ?!」


 何ということだろうか。茶髪男ーールイ=ユリウス=ロドリゲスは、実の妹である筈の白髪の女の子ーーリズ=ユリウス=ロドリゲスを、力強く突き飛ばしたのだ。

 これには、集まって来た女の子達も凍り付く。


「おい!いくら何でもやり過ぎだろ?!」

「そうだ!相手は女の子だぞ?!」


 双子のチャラ男の一人ーーアラン=ネーヴァス=マーティンが、ルイの肩を掴んで自分の方に振り向かせ、もう一人のチャラ男ーーアシル=ネーヴァス=マーティンが、ルイの胸ぐらを掴んで詰め寄った。


「だい……「大丈夫か?!」?!」


 銀髪の男装女子ーールーシ=カロライナ=ムーアが、リズに近寄って声を掛けようとしていたのを、人垣を掻き分けた俺が遮り、リズの傍に駆け寄ってそっと手を差し伸べる。


「あ、あなたは……?」


 リズが俺の手を取りながら、驚いた顔で俺を見てきたが、俺はその質問には答えずに、ルイをキッと睨み付けた。


「何だ?その目は……僕はユリウス王国、王位継承者だぞ?」


 アシルの手を払い除けて、服の乱れを直しながらルイは俺を見下ろして、不敵に笑って当然のことのように言い放つ。


「……この学園内では、そのような肩書きは意味を成さないと聞いていますが?」

「…………何?」


 ルイの眉がピクりと上がる。

 周囲も、俺の不敬にも取られる発言に、ザワりとザワつく。

 アシルが「ヒュ~」と口笛を吹いた。


「彼の言う通りですわ。遠慮入らないので、やっちゃって下さい。お兄様方」


 金髪に二つ括りにしたーーサラ=ネーヴァス=マーティンが、真面目な顔に似合わず過激な発言をする。

 相当お怒りのようだ。


「ケ、ケンカは……ダメ、だよ…………」


 ボサボサの紫髪で顔を隠したーークロード=カロライナ=ムーアが、ボソボソと何かを言っているようだが、声が小さ過ぎて良く聞き取れない。

 俺とルイは睨み合った状態で、最早一触即発の雰囲気だった。


 俺としては、自らの軽率な行動に、内心既に後悔していた。

 別に、ルイに逆らったこと自体はどうでも良いのだが、あまり目立つ行動をするつもりはなかった。

 しかも、学園都市に着いて早々…………咄嗟なことだったとは言え、マジで最悪だ。

 だが、ルイのリズに対してのあまりに存外な扱いに、俺はいても立ってもいられなかったのだからしょうがない。


 さて……この場をどう切り抜けるか…………。


 俺は、そんなことを考えていたのだった。

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