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男子寮

 インフィニティアカデミーに着いた俺は、鞄から手紙を取り出すと門番にそれを渡した。

 この手紙は、入学通知書になっているので、これを忘れてしまえば入学は出来なかった。風月に感謝である。

 門番が、じっくりと入学通知書に目を通す。


「はい。確かに。ご入学おめでとう御座います。こちらをお受け取り下さい」


 そう言って、門番が手渡して来たのは校章だった。

 六角形の形に、手紙の封蝋にも刻まれていた三対の竜が彫られていた。

 裏には、六桁のナンバーが刻まれている。


「そちらは、校内では必ず制服に付けて下さい。通行証の役目もありますので、外出時などでも提示をお願いすることもあると思います。万が一紛失なされた場合は、速やかにご報告をお願いします。裏面に記載されているナンバーが、その校章の……貴方個人を証明する番号となっておりますので、すぐに同じ物を再発行させて頂きます。以上になりますが、何かご質問などありますでしょうか?」


 随分丁寧な口調だなとも思ったが、分かりやすい説明に、俺から聞くことは何も無い。


「いえ。大丈夫です」

「そうですか。では改めまして、ようこそ!インフィニティアカデミーへ!」


 門番がそう締めくくると、重そうな鉄製の門がギギギ・・・と言う音とともに開かれた。

 俺は、その先へと足を踏み入れるのだった。


 改めて間近で見ると、流石は世界唯一の学園と言った所か。校舎は、大きさもさることながら、荘厳ささえ感じられる。

 俺は、鞄から校内地図を取り出して見た。

 校舎から向かって左側が男子寮で、右側が女子寮になるようだ。


「まずは寮に荷物を置いてから、校内を少し散策してみるかな」


 俺はそう考えて、男子寮へと足を向ける。

 二十分程掛けて男子寮に着いた俺は、寮の玄関を開けて中を覗き込む。

 そこはエントランスらしく、とても広々としていて、磨きあげられたピカピカな床が眩しい。

 狭い山小屋生活の長かった俺は、それに逆に萎縮してしまう。

 俺が尻込みしていると、受け付けカウンターから、一人の女性がひょっこりと顔を出して来た。


「あら?もしかして新入生かしら?」

「あ、はい。エイン=レイモンドと言います」

「あらあら」


 そう言いながら、受け付けから出て来た女性は、青みがかった髪に、後ろで団子状に髪を一纏めにした、二十代後半くらいの若そうな人だった。


「初めまして。私は寮母のアイオネと言うの。宜しくね」


 アイオネさんは、ニッコリと俺に微笑みかけ、手を差し出してきた。

 俺はその手をしっかりと握る。


「はい。宜しくお願いします」

「ちょっと待っててね?」


 そう言うと、アイオネさんがとある一室の扉をコンコンとノックした。


「イアンくん。ちょっといいかしら?」

「はい」


 アイオネさんの呼び掛けに、男の声で返事があると、すぐに扉が開かれる。


「新入生よ。後は宜しくね?」


 それを聞いた男が、少し身を屈める感じで、ドアからこちらに顔を覗かせて俺と目が合う。

 男は、人好きしそうな笑みを俺に向けると、スタスタと俺に近付いてきた。

 先程も思ったが、近くで見るとやはりデカい。

 百九十センチメートルはあろうかと言う長身で、緑色をした髪の男が俺を見下ろす。

 普通なら、これだけで威圧感は半端ないだろう。

 けれど、俺は笑顔で彼に握手を求めた。


「初めまして。エイン=レイモンドです」

「初めまして。寮監のイアン=レービスだ」


 イアンさんも、笑顔で俺の握手に応じてくれた。


「エインくん、ようこそインフィニティアカデミーへ。早速だが、部屋に案内するよ」

「お願いします」


 イアンさんがそう言って、俺を部屋へと道案内してくれる。

 道すがら、この寮での大まかなルールも教えてくれた。

 この寮には食堂があり、朝の七時~八時までと、夜の十八時半~二十時まで開いている。

 ただし、それ以降でも寮母のアイオネさんに頼めば、食堂を開けてもらえるようだ。その場合は、自分で食材を用意して作る必要があるが。

 それから、門限は二十二時までで、この男子寮は女子禁制であり、女子寮も男子禁制だとか。

 休日は外泊も許されるが、その時は必ずアイオネさんかイアンさんに外泊届けを提出すること。

 風呂は大浴場があり、入浴は三年生が二十時~二十一時、二年生が二十一時~二十二時、一年生が二十二時~二十三時となっている。消灯は二十四時のようだ。

 一応は部屋にシャワーも完備されてはいるが、それでもやはり、大半は大浴場を使用するらしい。

 当然、寮内の揉め事はご法度で、その場合は然るべき処置を行うので、十分気を付けるようにと釘を刺される。


 そうこうしてる内に、部屋の前に到着する。

 扉の横の名札には、エイン=レイモンドと俺の名前が書いた紙が差し込んであった。


「基本、二人一部屋なんだが、君はまだパートナーが見つかっていないから、当分は一人部屋になるね」

「そうですか。分かりました。どうもありがとう御座います」


 俺としては、願ったり叶ったりだった。

 人に気を使うのはあまり得意ではない。

 俺はイアンさんに礼を言ってから、扉を開けて部屋に入る。

 部屋の中は、とても簡素な作りとなっていた。

 広さは十畳程で、窓が一つに勉強机が二つ、二つのクローゼットにシャワールーム、二段ベットがあって冷蔵庫に丸テーブルが一つ置いてあるだけだった。

 寮の外観やエントランスを最初に見たせいか、拍子抜けする程こじんまりしていた。

 けれど、よく良く考えてみれば当たり前なのかもしれない。

 この学園には、世界中から資格者が集められるのだ。その数は計り知れないものがあるだろう。

 それだけの人数に広い部屋を割り当てば、敷地やら資金やら、色々な問題が生じてくるに違いない。

 それに、俺としてはこちらの方が逆に落ち着く。

 俺は鞄を丸テーブルに置くと、早速胸に手を当てて風月を呼び出すことにした。


「風月、もう出てきていいぞ」


 俺がそう呼びかけると、胸の辺りがポウと仄かに光り、僅かに熱を持つ。

 すると、そこからスーと風月が現出する。


「ふあ~。思ったより早かったね?」


 風月は、空中で大きく伸びをして、開口一番にそんな軽口を言ってくる。

 俺はそれに苦笑した。


「まあな。どうやら、当分は一人部屋のようだから、その間はこの部屋でなら自由にしてても問題ないだろう」


 俺がそう説明すると、風月は「なるほど」と言いながら、パタパタ羽根を動かして部屋中を飛び回って、部屋を観察していた。


「ただし、あまり窓の近くには寄るなよ?それから、当然だが人には見つからないように。俺が居ない間に誰かが来たらすぐに隠れてくれ」

「了解!」


 風月は、前足をビシッと額の近くに寄せて、敬礼のような形をして見せた。


「それじゃ、俺は校内をちょっくら散策してくるから」

「オッケー。いってらー」


 風月が尻尾をフリフリさせて返事をしながら、早速二段ベットの二段目の布団に潜ろうとしていた。完全に眠る気まんまんである。

 そんな風月に呆れながらも、俺は部屋を後にする。


 エントランスに出ると、アイオネさんが声を掛けてきた。


「あら?もうお出掛けかしら?」

「はい。今から、校内を一通り見て回ろうかと思いまして」

「そう。よっぽどのことがない限りは安全だと思うけど、一応気を付けてね?」

「はい。ありがとう御座います」


 そうして俺は、校内探検へと向かうのだった。

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