表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

学園都市

 それから五日後の昼頃に学園都市に到着した俺は、フラフラの足取りで、何とか上陸を果たす。


「……おい。大丈夫か?坊主」


 船員が、そんな俺を心配して声をかけてくれる。


「だ、だいじょ……うぷっ!!」


 けれど、俺は最後まで言葉を続けることは出来ず、その場に突っ伏し、海の中に胃の中の物を吐き出してしまう。

 だが、吐き過ぎて最早胃液しか出てこない。

 アスピドケロンが、僅かに顔を顰めた…………ような気がした。

 海がこんなに激しいものだとは思わなかった。

 それはもう、揺れるわ揺れるわで、俺は人生初の、所謂船酔いと言うものを体験したのだった。

 海を満喫する所か、この五日間、ほぼ船内で寝るハメになってしまった情けない俺。

 風月の背中に乗って滑空したこともあるが、今思えば、もしかしたら風月は俺に配慮してくれてたのかもしれないと思った。

 そのことについては、今度改めて風月に確認してみるとしても、兎に角、今後一切船に乗らないと心に固く誓った俺である。


 そんな俺の背中を船員が優しく撫でてくれていると、誰かがクスリと笑ったのが聞こえた。

 俺は涙目になりながらも、視線だけを動かして、そちらを見遣る。

 そこには、髪が肩より少し長めの金髪に茶色の瞳、頬にはうっすらとそばかすが残った、俺と同い年くらいの女の子が居た。

 俺は彼女に何処か見覚えがあったが、それを思い出そうとする前に彼女はすたすたと歩き去っていく。その一瞬、小馬鹿にしたような視線を向けられてしまった。

 俺は気のせいだと思うことにして、何とか足に力を入れて立ち上がると、船員にお礼を言ってから別れた。

 そうして気を取り直して、学園都市に目を向ける。


 学園都市ーーそれは、ある種の一つの国だ。

 この世界に於いて唯一の学び舎であり、資格者は十二歳になると、当然の如くこの学園に通わされる。

 この都市には【王】は存在しないが、代わりに【学園長】がこの都市を取り仕切っているのだ。

 中央には、まるで王城のように高く聳え立つ、俺がこれから通うことになるインフィニティアカデミーがあり、その周りを様々な店や家が立ち並んでいた。

 この都市内で、普通に生活することも当たり前に出来るようになっている。

 そして何よりも、この学園都市では、国々の政治的介入は決して行えない。

 ここにはここのルールがあり、それは過去の英雄達が定めたもので、いくら学園長であってもよっぽどのことがない限りは覆すことは不可能らしい。


 俺は、船酔いが落ち着いたのを感じると、漸く学園都市に歩を進める。

 街の景観を眺めながら学園に向かって暫く歩いていると、前方から男の怒鳴り声が響いてきた。


「こら!!待ちやがれ!!この糞ガキー!!」


 そちらに目を向けると、少年がこちらに走ってくるのが見て取れた。

 その腕には、真っ赤な美味そうに熟した林檎が数個抱えられており、その少年を、棍棒のような物を振り回した親父が追いかけている。


「……シャディー」


 俺は視線だけを動かし、誰にも聞こえないように呟くと、その声に呼応するかのように、俺の影がゆらりと揺らめく。

 そして、少年が俺の横を通り過ぎる瞬間、俺の影から手のような物が伸びたかと思うと、少年の足首を掴んだ。


「うわっ!!」


 少年はそれに驚き、前のめりに転びそうになる。

 両手は林檎で塞がれていた為、あわや顔面を地面に叩きつけられる所を、俺が咄嗟に片手を出して受け止めた。


「はあ……はあ……ありがとよ。兄ちゃん」


 おそらく、果物屋らしき親父が漸く追い付くと、荒い息を弾ませて礼を言ってきた。


「はあ…………さて、糞ガキ。今日と言う今日は逃がさんぞ?」

「っ?!」


 親父がしてやったりと言わんばかりに、ニンマリと笑う。

 この口振りからして、これが初犯と言うわけでもないのだろう。周りも我関せずと言った感じだ。

 少年は唇を噛み、悔しそうにしていた。


「ちょっと待て。こいつをどうするつもりだ?」


 そんな少年の様子を見て、俺は親父に聞いてみた。

 すると、親父は当然のことのように、ふんぞり返って答える。


「どうするも何も、警備隊に突き出すに決まってるだろ?」


 警備隊と言うのは、犯罪や不正行為などを取り締まる者達のことだ。

 この少年はまだ十歳くらいだろうから、きっとそう悪い扱いにはならないだろうとは思うが、何せ俺はここに今日初めて来たばかりなのだ。

 まだ、この都市の法律などは良く分かっていない。

 それに何より、この少年はおそらく無印だろう。

 資格者であっても貧富の差はあれど、盗みを働く程ではない。

 盗みを働くのは、大抵が刻印が無く生まれた者だ。

 そして、もしも資格者から無印が生まれた場合、人知れず捨てられるのが、この世の常識であった。

 だから、無印の子供達でより固まって生きて行くのは、特に珍しいことではないのだ。


「さあ、そいつを渡して貰おうか!」


 俺があれこれと考えてると、親父が業を煮やしたように催促してきた。

 俺が少年をもう一度見ると、こんな状況であっても、両手に抱えてある林檎を未だに離さない。その見上げた根性に感服する。


「……分かった」

「っ?!」


 俺が、少年の掴んでいた肩を少しだけ強めると、少年が息を飲んで体を強ばらせるのが分かった。

 親父が、またニンマリと笑った。


「この林檎は俺が買い取ろう。それでいいだろ?」

「「……へ?」」


 俺が予想外のことを口にしたからか、親父と少年が、揃って間抜けな声を出す。


「ん?何か問題でもあるのか?」


 俺が再度確認するように問うと、親父がしどろもどろになりながら答えた。


「え?あ……いや……金さえ払ってくれれば俺は……何も……」


 親父の言葉を聞いて、俺は早速鞄から財布を取り出すと、金を親父に手渡す。

 親父は、何とも複雑な表情をしながら、すごすごと自分の店へと戻って行った。

 俺はそれを見届けると、少年に向き直る。

 少年は、信じられない者を見る目で、暫く俺を凝視していたが、徐々にその(まなじり)が吊り上がっていった。


「あんた……どう言うつもりだ?」


 漸く声を出したかと思うと、徐にそんなことを聞いてくる。

 その瞳は、まるで親の仇を見るようでもあった。


「どうとは?」


 俺は、何故そんなことを聞いてくるのか分からず、首を傾げる。


「ふざけるな!!同情のつもりかよ!!」


 そんな俺の反応が余程気に食わなかったのか、肩をわなわなさせて、顔を真っ赤にしながら少年が怒り出す。

 きっと、俺は少年のプライドを傷付けてしまったのだろう。

 どれだけ貧しくても、彼には彼なりの矜持がある。

 けれど、俺は少年の視線に目線を合わせるように屈むと、語り掛けるように言った、


「……同情されるのは嫌いか?」

「当たり前だ!!」

「なら聞くが、お前は盗みが誇りあることだと思ってるのか?」

「そ、それは……でも……」


 俺は、敢えて厳しい言葉を投げ掛ける。それに少年が言い淀む。


「俺は、別に盗みが悪いことだなんて思ってない」

「…………え?」


 俺の意外な言葉に、少年が面食らった顔をする。


「お前みたいな子供が、大人の力も借りずに生き延びる手段は他に無いだろうからな。けれど、お前は俺の質問に言葉を詰まらせた。なら、盗みが悪いことだと、心の何処かで思ってると言うことだ」

「………………」

「そう思えるなら、まだ大丈夫だ」

「……大丈夫?」


 少年が、先程の威勢が掻き消え、今度は不安そうに瞳を揺らして俺を見詰める。


「ああ。どう大丈夫なのかは俺にもまだ分からん」

「へ?」

「『大丈夫』にするには、結局はお前の努力次第だからな」

「………………」

「けど、一緒に考えてやることは出来るぞ?」

「一緒に……?」

「そうだ。けど、取り敢えず今は……」


 俺は、ずっと物陰から覗いていた、少年少女達に視線を向ける。

 少年少女達が、俺と目が合うとビクッと身を竦めた。


「その林檎をあの子達に食わしてやんな。俺は必ずまたここに来ると約束する。その代わり、お前もその間は絶対に盗みを働くんじゃないぞ?」


 そう言って、俺は少年の頭を撫でながら立ち上がる。

 その瞬間に、少年の薄汚れたブカブカのコートのポケットに、財布を滑り込ませた。


「っ?!」


 少年は、その重みに驚愕に目を見開く。

 俺が少年から離れて歩き出すと、背中に少年の「ありがとう」と言う声が届いた。

 俺は後ろ手で、それに返事をするのだった。

この世界では創作の物も出ますが、基本実際にある物が出てきます。『万年花』とか『林檎』とかね……。


決して名前を考えるのが面倒だからじゃないからね!!本当に違うからね!! 汗汗

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ