失敗譚
ようやくここまでこぎつけた
屋上のヘリポートで教祖を見送った。
もうじきこのビルには警察が押しかけてくるだろう。
全て予定通りだ。
逃げた先の教団施設には逮捕令状と捜索令状を携えた捜査員たちが待ちま構えている。
もうこの教団も終わりである
新興宗教として始まり、善良な人々騙して来た詐欺集団も今日が年貢の納め時というわけだ
自分が入信してから7年、15年の教団の歴史の半分程度の時間だが、決して短くは無かった。
その時間も無駄ではなかった
燃え尽きた煙草を内ポケットから出した携帯灰皿に収めて振り返る。先ほどヘリが飛び立った場所に4つの大きな棒のようなものが横たわっている。
それは縛り上げられた4人の少女だ
教祖が逃げる際にお気に入りやまだ味見をしていない娘を連れて行こうとしたが、定員オーバーで投げ捨てられた幸運な者たちだ。
もっともこうして教祖に捧げられている時点で、家族に売られたか、本人が借金で動けなくなっているかなので本当の意味で幸運とは言えないだろうが
だがそれも今日で終わりだ
教団にだまし取られた金の帰ってきて立ち直る機会を得る事が出来る
その先は本人次第。こちらの出る幕ではない
今自分にできる事は縛られたままの彼女達を解放し、これからの事を話して少しでも安心させてやることだろう。
そう思い彼女達へ歩みよる。3人は近寄る自分をみておびえた表情を浮かべ、一人は這いずり距離を取ろうとする。
当然の反応に苦笑いがでる
入信してからこれまで敬虔な信者を演じ、教団に貢献し今や教祖の側近として逃亡後のこの施設の対応を一任されている男だ。覚えは宜しくないだろう
まずは固まってる3人からだ、ポケットから出した護身用として持っていたナイフを使い拘束を切りほどいていく。
ナイフを見て身体を強張らせたが、拘束が溶けると呆けた顔でこちらを見つめてくる
「安心しろ、時期に警察が来る、お前らはそこで保護してもらう手はずになっている。」
屋上の強風にかき消されないように大声で言うと、最初は呆けていた顔にも徐々に気力が戻ってくる。
「あの、このまま私が保護されて家族は大乗なのですか?」
一人が問いかけて来た。家族を人質にでもされていたのだろう
「教祖の逃げた先にも既に警察が行っている。もう教団は終わりだ。何もできやしないよ」
言いながら拘束を解いていく。
3人目を解放する頃にはとりあえず安心したくれたのか身を任せてくれて楽に解くことが出来た。
あとは這って逃げている4人目だ
屋上の隅にまで逃げて何か喚いている
どうやらこちらへ暴言や恨み言を言っているようだが、風が強く声がかき消される上に、がなっているので良く聞き取れない
怖がらせないようにナイフをしまい、歩み寄るが叫び声は治まらない。
興奮して我を忘れているようだ
足を止めて、少し離れたところで落ち着くまで待つことにした
しかしそれをみた少女は逃げるチャンスと判断したのか背後の金網に身を押し付ける
そして拘束されたままの姿で体をくねらせあれよあれよという間に金網を登っていく。
そして2メートル程ある金網を登り切り、屋上の縁へ落下、その勢いのままさらに外側へ、何も無い空中へ身を投げた。
後ろから先ほど解放した少女たちの悲鳴が聞こえる
今いるのは70メートル以上あるビルの屋上だ
どうしてこうなったのだろうか
恐らく下には俺が来るように仕向けた警察が到着しているだろう。
ああ、俺は失敗したのか