1、私の立場
「きりーつ、れーい」
ーおはようございまーす。
何とも言えないやる気の無い声。それもまばらだ。統一感が無いのは相変わらずと言った所。
「出席取るよ」
で、やる気が無いのは私も同じ。一年とは言えさすがに12月にもなると飽きて、いや、緊張感が無くなる。目の前に広がる薄茶だった机にだらしなく座る生徒達も、私ー教師ーも。
あ行から始め、わ行まで。毎日の恒例。今日も私のクラスは全員出席らしくポールペンで丸を書きながら安堵する。
別に欠席があったからといって誰かに咎められたりはしない。ただ少し、そう、慣れてきたからこそ心配にはなる。
イジメ、という問題が。
遊びの延長がそれになっているのに気付かない微妙な年頃はとうに過ぎている高校生。
だからこそ注意を払わないといけない。
「んー、じゃ、一限の準備してね、と」
新品だったのに八ヶ月使いややくたびれてしまった出席簿を手にそうへらりと伝え廊下に出る。市内一のオンボロ学校の校舎の廊下は外とあまり変わらない。やっぱりカーディガン着てくれば良かったと一人溜め息を吐き、廊下を歩く。教室の反対側、つまり、後ろ側の扉を横切ろうとしたその時、ガラリと小さな音を立ててそれが開き、誰かが私のスーツの袖を掴んだ。
「先生」
黒く長い髪が彼女の顔に合わせてゆっくり動き、サラリと肩から滑り落ちる。
「どうした?羽矢野」
握り締められた袖と教え子の一人、羽矢野 真純を見つめれば、彼女は瞬きを一つしてから小さく、それを呟いた。
ー好き、です。
吐息を吐く程に小さなそれに動揺し動けずに居れば、彼女はニコリと笑んでから袖を離し、私の前を横切っていく。黒髪から零れ落ちる甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、耳が赤くなるのを感じ、逃げるようにその場を離れる。
ーやられた。
階段を早足で降りながら鼓動が落ち着くように呼吸を繰り返す。夏の終わり頃からの羽矢野との毎日のやり取り。当初は冗談だと思っていたし、遊んでいるのだろうと、思っていた。
女子高生らしいごくごくつまらない数人での遊びだと信じていた。
けれど何日経っても羽矢野以外は告げて来ず、段々と疑いを持つも遅かった。それはもうとっくに私と羽矢野の毎日の習慣になってしまっていた。
決定的になったのはあの日だった。
あの日、羽矢野は今日のように私のスーツの裾を掴み、まっすぐ私を見つめて少し悲しそうな顔をして告げた。
「先生、返事は?」
放課後のオレンジ色の夕日の中で私のと彼女は二人きりで逃げ場も無く、ごくりと喉を鳴らすしか出来なかった。彼女は目を潤ませながらもう一度口を開く。
「先生。……三浦 康友先生。先生が好きです」
私は1ーBの担任で男で年は26で教師で、目の前に居るのは十も下の担任をしているグラスの女子生徒で。
それなのに胸が高鳴った。
私は4月、羽矢野真純を一目見た瞬間に恋に落ちていたのだから。
寝る前に1000から2000くらいでタラタラ書いてく年の差ラブストーリー。
モヤモヤしたい方はぜひブクマを。






