夕暮れと夜の狭間の君と僕
川沿いの細い小道を僕たち二人は歩いている。後ろ手に手を組み、小さく細やかな歩調で進む君と、そのすぐ後ろをポケットに手を突っ込み、大きな歩幅でゆっくり歩く僕。異なる二つの歩調が刻む、互いを気遣いあう優しく静かなリズムが、秋の風に運ばれている。
見上げれば、太陽がすっかり山の向こうに沈んでしまった茜空が、その燃えるような朱色を山際に残しながら、次第に闇に侵食されている。帰路を急いでいた鳥たちの姿は、もうどこにもない。その代わりに、歩く僕らを挟む草むらから、虫の音色が二人の靴が生み出すリズムに合わせて、小さなメロディを紡いでいるかのように響いていた。
夕方と夜の狭間を僕たちは静かに歩いている。包み込んでくる秋の気配を、そして何よりも二人で歩いているこの瞬間を噛み締めながら歩いている。
側にいるだけで、一緒に歩くことだけで、ぽっと心に火が灯ったような柔らかな温もりを感じる。身体を内から温めてくれる素敵な感情がここにあることを感じてることが出来る。
今の僕たちには一緒に歩くことだけで十分だった。それは、目を閉じてささやかなオーケストラに耳を傾けながら、すぐ側にいる大切な人を感じることが出来るからで、言葉など無くたって、きっと想いを伝え感じることが出来ると思っていたからだった。少なくとも、僕はそう感じていた。目を閉じ、君の足音を聞いていた。
だから、不意に君の足音が止まった時、僕は君との間に小さなズレを感じてしまった。君のことを、気持ちを僕は共有していると思っていたのに、突然君は歩みを止めてしまった。僕の理解を越えてしまった。僕は少し戸惑い、目を開く。目を閉じていた間に追い越してしまった君の方を振り向いた。
少し身体を屈めていた君は、いたずらを思いついた子どものような笑みを浮かべ、そこに立っていた。上目使いに僕を見つめる瞳には好奇の色が満ち溢れていた。僕は少し眉をひそめた。
一体、君は何をするつもりなんだろう。何を考えて、そんな表情をしているのかな。僕の頭の中を様々な言葉が流れていく。そのどれもが君に対する純粋な疑問と、少しの猜疑心が混じったものだった。
見つめる君はそんな僕の想いと不安を知ってか、すっと背筋を伸ばすと、まるで試すかのように組んでいた手をゆっくりと前へ差し出した。微笑みをたたえる君は目を閉じた。
空は深く、濃紺がその濃さを増し始めているんだろう。僕たちを、遠く君の背後に輝きだした満月が見つめていた。
僕はしばしの間、その行為の意図するところが分からなかった。分からないまま頭を掻き、君の手と表情を交互に見つめた。突然手を出して、何がしたいんだよ。時間だけが流れていく。
そんな何もしない僕に君は次第に不機嫌になっていく。始めに目が開き、眉が吊り上がり、そして瞳が怒気を滲ませ始める。さらにその数十秒。しびれを切らした君は、差し出したその手をさらに突き出してきた。その表情には確かな苛立ちが浮かんでいた。ったくもう、さっさと手握ってよね。
ああ、そういうことか。
吊り上がったその瞳に、僕は差し出されたその掌を優しく受け入れた。暗闇が刻々と深くなる中、君は季節外れの向日葵のように綺麗に笑った。
初秋の帰路を二人はゆっくりと進んでいく。夜風は随分と寒くなり始めていた。
でも、例えどれ程風が寒くなったとしても、繋いだ二人の掌は、変わらぬ暖かさを保ち続けるのだろう。君と僕、共にこうして歩いていく限り。
虫たちのささやかな演奏が僕たちを包んでいた。
粗い繋ぎがあるかもしれませんが、なんというか、限界です……。季節外れですが、どうだったでしょうか?