表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

Ⅰ~未知なる宝をカダスに求めて~

「カダス山に挑む?」


 俺が何を言っているのか、本当に分からないというような表情カオで向かいの席に座る黒髪の美女が首を傾げた。


「何故、挑むのだ? 無意味ではないか?」


 カダス山――この町付近にある二千メートル級の山だ――は、古代遺跡が発見されてはや数年、すでに遺跡は荒らしつくされたともっぱらの噂だ。だからこそ、この黒髪の美女――シズナ――も挑むのは無意味だと言っているのだろう。


「いや、ところがだ、俺が手に入れたこの古文書によると、まだあの山には大いなる宝が眠っているらしい。古代の魔道士が封印したとか諸説あるらしいが、その宝を手に入れた者はまだいないらしい。普通の宝石の類は既に同業者トレジャー・ハンターどもに手に入れられてほとんど残ってないらしいが、俺はそんな簡単に手に入るお宝には興味がないんだ。そう、簡単に手に入れられないお宝だからこそ挑むんだよ」


 力説する俺をため息が迎え撃った。コンビを組んで数か月、一番手に入れるのが難しいお宝――つまり、まだただのコンビどまりだ――であるシズナのため息は、俺にとってとてもキツイ一撃だ。


「この町に来た理由はそれなのか? 呆れるな」


 顔は笑っているが、目は笑っていない。怒らせてしまったかな?


「付き合ってくれるんだろう、カダス山?」


 やはり一人で行くのは寂しいモノがある。目当ての大いなる宝とやらがなくてもいいのだ、安全な場所でシズナとデート気分を楽しみたいという本音も少なからずある。


「何も得るモノがないのならば、今回、私はパスしておこう。一人で頑張って来てくれ。帰って来るのを宿で待つとしよう。宝探しなら、別の町でも出来るだろう。どうせ行くなら、前人未到の場所がいい」


 シズナはそう言いながら獲物であるニホントウ――古代遺跡から発掘された恐るべき斬れ味の刀だ――を引っ提げ、宿へと向かって店を出た。


「素直にデートしようって誘えばよかったかな……?」


 俺の力なき呟きは、シズナの背中に届いただろうか? ……届いていたらいいな。

 お互いソロの宝探し屋(トレジャー・ハンター)だった俺達だが、とある遺跡で罠に引っかかったシズナを俺が助けた事がきっかけでコンビを組む事になった。それ以来、こうしていくつかの町をまわって古代遺跡などを攻略しているが、未だにお宝の残る遺跡には到達した事がないのだった。


「まあいいさ。何とかお宝を手にして、驚かせてやるさ」


 ついでに、「素敵、抱いて」くらいになればいいが、そう簡単に事が運ぶ事などまずあるまい。だいたい、何かあったくらいで「素敵、抱いて」なんてなるワケがない。

 俺は手に入れた古文書――多少値が張ったが――を開き、再度確認した後、俺は食堂を後にした。目指すべきはカダス山。出来るなら今日中にこの町に帰り着きたいところだ、例え何の収穫がなかったとしても。




 ため息交じりで歩を進める俺の後をつけてくる気配があったが、俺は気にせず歩き続けた。

 一獲千金を狙う宝探し屋(トレジャー・ハンター)に危険はつきものだ。






 あっさりと最奥に着いた。祭壇があるが、そこには何もなかった。宝物も、何らかの仕掛けもだ。


「やはり、何もなかったか……」


 まあ、こんなもんだよな。結局、何もなかったのだから、最初からシズナにデートを申し込めばよかった。少なからずモンスターも襲って来たので、いい訓練になったかもしれない。それに、なんだかんだ言ってシズナに背中を預けるのに慣れてしまっていた。宝探し屋(トレジャー・ハンター)なんて職業やっていれば裏切りなど日常茶飯事であるのに、シズナは絶対に裏切らないなどと思っているあたり、俺はもしかしてかなり甘い考えの持ち主なのかもしれないな。


「しかし、ここまで来て手ぶらで帰るのもなあ……」


 ため息が出てしまう。あの古文書、手に入れるのに大金を払った――シズナから少なからず金を借りたのだ――ので、手ぶらで帰ったらそれこそバカにされるだろう。魂まで凍えるかのような目で見下されるかもしれない。それはそれで、ご褒美かもしれないが。


――聞こえるか、我の声が?


 シズナのあの吸い込まれるような美しい黒瞳で見下される事に僅かな期待を抱いた時、誰かの声が聞こえた気がした。


「女の子の声……? まさかな」


 こんな場所に女の子がいるワケがない。聞こえたのは幻聴でなければここで殺されたかどうかした同業者の強烈な残留思念がもたらした声かもしれない。裏切りが日常茶飯事の宝探し屋だ。何があってもおかしくはないが。


「まあいい、帰るか」


 振り向き、元来た道を戻ろうとした俺を出迎えたのは、飛んでくる物体であった。

 爆発物!? とっさに飛び退いたが、爆風で壁へと叩きつけられた。


「よお、カミシロ。今まで何度も俺の邪魔をしてくれていたが、今日はあの黒髪がいねえみたいだからな。誰にも邪魔されずにお前を殺せるってもんだぜ」


「てめえは、“発破”のラッパじゃねえか……。俺の後をつけてきたのか、物好きなヤツだな」


 “発破”の二つ名がつくくらいに爆発物の扱いに長けたラッパ――本名は不明だが、優れた同業者だ、評判は悪いが――が数個の爆発物を手に、俺に笑いかけていた。


「さあ、死ねよ」


 爆発物が俺に向けられ放たれる。魔法か何かが使われているのか分からないが、この爆発物、いつ爆発するかはラッパの意思一つで秒単位で変更できるらしい。

 これまた何とか飛び退く事が出来たが、既に脆くなっていたのだろう、爆発のショックで祭壇から後ろ側の床が崩れ落ちた。俺はそこから飛び退く事叶わず、落ちていく事しか出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ