第一章第七話 結界師の術式。
勇者が巫女にキスされました←
「…我らの勇者様に、祝福を」
いきなりそう言ったルキが顔を近づける。
思わずぎゅっと目を瞑ると、額に柔らかいモノが触れた。
そっと目を開けると、眼前は白に染まっていた。ルキの首筋だと少ししてから気づいた。
どうやらルキが私の額にキスをしたらしい。
しばしの静寂。
先に動いたのはルキ。ゆっくりと顔を離していく。
でも、私は頬を朱に染めたまま硬直していた。無論、無表情で。
そのことがおもしろかったのか、ルキはクスリと口元に手を添えて笑う。
祝福を-確か、そう言っていた。自分の額にそっと触れてみる。
すると、不思議なことに目の前に 記号や数字のようなモノが組み合わさった紐(?)が現れた。
-これが術式。
頭で理解するよりも先に直感がそう告げていた。
「マリア様、今 貴女が見ているのが結界師の術式です
それには触れても害はありませんよ」
ルキは未だにクスクスと笑いながら説明してくれる。
しかし、私が視えている事に何故気づいたのか。
理由は案外簡単だった。
「…なに、コレ……」
鏡に写った自分の顔を見て驚愕する。いや、正しくはその瞳を見て、だ。
私の左目には淡く光を放つように見える"白き蝶"が浮かび上がっていた。
ルキの言っていた白い刻印は、やはり私の瞳の中に刻まれていたらしい。
そして、先ほどの術式。それらはぬいぐるみだけでなく、机の中に仕舞ったアレからも出ていた。
兄さんが結界師だと信じるならば、ロザリオの術式は誰が…。
『綺麗、デショウ?』
フワリと、言葉が聞こえた。これは彼女の声。
確かめるように耳に触れてみた。
そのことを不思議に思ったのか、ルキは首を傾げる。
-コン コン
軽いノック音が聞こえた。
それに気がつき、顔をあげる。
「二人とも、ご飯できたよ」
その一言で日常に戻れたような気がした。
いつもと変わらない兄さんの声。
私はルキの手を取り、車椅子を動かして部屋から出た。
そして 兄さんの料理がテーブルに並ぶ、リビングへ。
「さ、遠慮せずにどうぞ」
「「…いただきます」」
さすがに食べるのを躊躇う。
誰が ご飯とミネストローネ、ハンバーグにおひたしが並ぶ食卓を想像できるのか。
まぁ、味はかなり保証できるから安心だ。
おそるおそる兄さんの料理達を口へと運ぶルキ。
次の瞬間には、顔を綻ばせる。
そんな様子を見ていると、先ほどまで体験していた非日常の世界が夢だったように思える。
実際、そう上手くは思いこめないが。
和洋折衷の晩ご飯…?