第一章第五話 勇者の立場。
必殺技「上目遣い」のご登場!!←
そしてルキはこう続けた。
「ぼく達の世界へ、来てほしいのです」
真剣な瞳で見つめられる。目を逸らせない。
そのまま少しの間だけ、静寂が私たちを包んだ。
「…少し、考えさせて…」
YesともNoとも言えず、出せた答えはそれだった。
ルキは眉尻を下げて私を見おろす。
本当は、異世界なんか行きたくない。
だけど、ルキの顔を見ていたらはっきりとは断れなかった。
ルキは私を姫抱きしたまま屋上を後にする。
そのまま車椅子に乗せてくれ、後ろから押してくれた。
「……あのさ、」
学校の校門を出た辺りで口を開く。
顔は前を向いたまま、ルキは車椅子を押してくれているままだが。
「今日、泊まりに…こない?」
ピタリと車椅子の動きが止まる。
ルキは何も言葉を発さない。
少しばかり不安になり、そっと振り返って表情を見てみる。
赤面していた。
ルキは顔を真っ赤にしながら口をパクパクと動かしている。
何を伝えたいのかは全く分からないが、何かおかしな事でも言っただろうか。
出会って間もないのにこんな事を言うのはやはり常識外れというやつなのか。
「ゆ、勇者様と同じ家で 一夜を明かすなどむ、むむ 無理ですよ…! ご自分の立場を考えてください!」
怒られた。
だからって私の表情が変わりはしないが。
とりあえず遠回しに断られてしまった。さて、どうしよう。
私の家では、新しい知り合いができたならかならず家に連れてくること。という変な家訓があるのだ。
さすがに異世界から来た巫女も知り合いの内に入るだろう。
兄さんのもてなしを見たら、どんな反応をするのかは目に見えているが。
「、ダメ…?」
「ぅ…うぅ……///」
必殺、上目遣い。
相手の立ち位置上、自然になってしまうものだから楽。
今までの知り合い達も 皆、コレにやられている。
さて、ルキはどんな反応を見せてくれるのか。
「こ、今回だけ ですよ…?」
承諾してくれた。実に良かったと思う。
その後、私が道案内を、ルキが車椅子を押して家に着いた。
一応一軒家。
両親は居ないので、兄さんと二人で暮らしている。
「…入って、」
振り返り、ルキの顔を見つめる。
ルキは緊張の面もちでコクリと頷いた。
そして、家の敷地内にルキが足を踏み入れた瞬間。
-パチ パチッ
ナニか音が聞こえた。
おそるおそる振り返ってみると、ルキは自らの両手を驚きの表情で見おろしていた。
「マ、マリア様…この 家には、結界師が 居られるのですか…?」
「…結界師?」
「あ…、いえ、何でもありません」
すぐに笑顔に戻るルキ。
先ほども明記したが、この家には私と兄さんしか住んでいない。
私はただの人間-いや、勇者の末裔らしいが、兄さんは普通の人間の筈だ。
結界師などという存在はこの家には居ない、筈。
さて、結界師とは誰なのでしょうか…