第一章第四話 異世界の危機。
異世界がピンチだそうです
しばらくしてから、ルキがぽつりぽつりと言葉を漏らし始めた。
「…ぼく は…異世界 から、やって きたんです…」
どこか寂しそうに笑いながら言葉を紡ぐ。
ルキの双眸は遠くを見つめていた。
「かつて、ぼく達の世界を救ってくださった勇者様のお力が、今一度 必要になったんです
…だから巫女であるぼくが、かつての勇者様の末裔を、貴女を迎えにきたのです」
笑みをこちらに向ける。
嘘を言っているようには聞こえない。
でも、私が勇者の末裔? そんなことはあり得ない。
だって私は生まれつき体が弱く、歩くことすら困難な ただの弱い人間だ。
もしも、私が勇者だったとしても なんの力にもなれない。
「…どうか、お願いします…勇者 マリア様……ぼく達の世界を 救ってください…」
必死に懇願するルキ。
何かの間違いだと言ってほしかった。冗談だと、言ってほしかった。
それに、状況を詳しく知らない。あまりにも情報が不足している。
そして最大の問題。私が勇者の末裔だという証拠は?
そんな数々の疑問をルキにぶつけてみた。
すると-
「…分かりました。全て、お教えします
信じていただけないかもしれませんが、今から話すことに一切の嘘は含まれていません」
今までとは違い、真剣な表情になる。
そんなルキを見て私も一度 大きく頷く。
「ぼく達の住む世界は、とても緑豊かで平和な国でした
でも、遠い昔。世界は黒の刻印を持つ者によって支配されかけていました
そんな時、一人の勇敢な若者が立ち上がったのです
その人は世界を救い、後に勇者様と呼ばれるようになりました
世界は勇者様のおかげで平和と豊かな緑を取り戻し、黒の刻印を持つ者達は居なくなりました
しかし、勇者様はいつしかその姿を消し、世界には今一度 黒の刻印を持つ者達が溢れてきました
ぼく達は、かつて世界を救ってくださった勇者様の血を引く者を探すことにしたのです」
「……それが、私…?」
「はい。貴女は勇者の末裔だという証-この、白の刻印を持っていますから」
そう言い終えたルキはじぃっと覗き込むように私の瞳を見つめる。
白の刻印。たぶんソレが見えているのだろう。
今の情報が、全て作り話だという可能性もあった。
でも、真剣に話すルキを見ていたら本当のことのように思えてきた。
それに-ルキが、彼女と関係があるような気がしてならない。ただの勘だが。
「…信じて、いただけましたか…?」
不安そうな顔を向けられる。
私は相変わらずの無表情。そしてほとんど無反応だったからだろう。
「……一応」
本心はあまり理解していなかった。
急に非日常的な話を聞かされ、その全てをすぐに信じられる人間がいるのか。
とりあえず私は、表情には出していなかったが 内心かなり困惑していた。
自分が勇者の末裔だということも、白や黒の刻印についても、異世界の危機だって全てが初耳なのだ。
マリアの持っている白の刻印…気になりますね