第一章第二話 異世界からの巫女。
ようやく主人公の名前が…!
教室に入ってきた転校生は、俯いていて顔がよく見えない。
クラスの全員が彼女に視線を送る。
無論、静寂が場を包む。
担任教師が促し、ようやく転校生は顔をあげる。
「は、はじめまして…っ、ぼ、ぼぼぼ ぼくは勇者様を探しにきた巫女の、ルキです…!」
顔を真っ赤にし、両手を胸の前で組みながら堂々と告げる。
正直、意味が分からない。
しかも担任教師は転校生の言葉を軽く無視。
空いている席、私の前の席を指して座るように促す。
「は、はいっ…!」
謎の転校生、ルキは不思議と違和感の無いまま席に着く。
まるで、元からそこにいるのが当たり前のように。
朝のホームルームが終わるとルキは周りの席に座る生徒への挨拶周り。
その間、両手は祈るように胸の前で組んでいる。
学校で勉強をしているより、教会で祈りを捧げている方が似合う。
「あ、あの…はじめまして」
ルキは身体ごとこちらに向けて話し始める。どうやら番が回ってきたらしい。
私は、挨拶の代わりに微かに瞼を伏せて答える。
元々感情や表情を表に出すのは苦手なのだ。
けれど、相手は嬉しそうに口元を綻ばせる。なにかおもしろかったのだろうか。
「お名前を、伺っても…?」
「……真莉亜、」
「マリア様ですか!」
また嬉しそうな反応を見せるルキ。
そもそも、様付けで呼ばれるのは初めての経験。
どう反応していいか分からない。故にいつも通りの無表情。
「マリア様っ、ぼくのことは是非 巫女とお呼びください!」
「え、やだ…」
さすがに即答する。
何が楽しくて転校生のことを巫女呼びしないといけないのか。
それも、爛々と瞳を輝かせて見つめてくるのでやりにくいことこの上ない。
くるくる変わる表情。ルキの第一印象は犬。決定。
彼女こそ私の運命を非日常へと連れていった張本人。
しかし、この時はまだその運命とやらに私は気づいていなかった。
ルキが彼女と関係があることも、知る由もなかった。
その日の放課後。
いつもなら特に用事もないので真っ直ぐ家に帰るのだが、ルキに引き留められた。
学校内を案内してほしいらしい。よりによって私に。
まぁ、家に帰ってもやることもない私に拒否権は存在しないのだろう。
荷物を鞄にまとめ、膝の上に乗せて机から離れる。
「…あれ? マリア様、足……」
そこでようやく車椅子の存在に気づいたのか、ルキは不思議そうな声色で言う。
少しの間の後、自らの鞄を脇に挟めて後ろから車椅子を押してくれた。
「……別に、いいのに…」
「いえ、勇者様のお世話は巫女の役目ですから!」
楽しそうに、元気な声で話し出す。
何度聞いても意味が分からない。
それに、今の口ぶりだと私が勇者みたいになっている。何故?
そんなことより、学校案内をしなければ。
ルキに車椅子を押してもらい、教室から近い部屋から順番に説明。
説明って言っても名前と何をするところなのか一言説明を加えているだけだが。
そんな簡素すぎる説明を聞いてるルキは超嬉しそう。
やっぱり犬のようだ。
どうやら、簡単に学校を案内しているようですね