思いを代弁する少女H
代弁してもらいました。
日は昇って沈む。当たり前だよね。
今日はワタシじゃない、誰かの噺をしよう。
誰でもない、誰かの。
女の子がいた。
お人形みたいに可愛い女の子。みんな彼女を可愛がった。可愛いんだから当然だ。
でも彼女は誰も可愛がらなかった。
お気に入りのクマのぬいぐるみは凄く可愛がってたけどね。
可愛い、可愛い、そう言って近づいてくる人々も、貴方に似合うわ、と渡された人形も、彼女には全て同じに見えたそうだ。
しかし、彼女はそれを気にも止めなかった。
同じに見えても苦労しなかったからだ。
誰もが彼女を甘やかして可愛がって……。
彼女はついにわがままに振る舞うようになった。
やりたいことをして、誰かがそれを許してくれて、またやりたいことして許される。可愛いから、みんながみんな、彼女に文句を言わなかった。
それがいつの間にか、彼女の当たり前になっていた。
何をしても許されて、何をしても可愛がられて、何をしても誰かが言うことを聞いてくれる。
それが当たり前だと思い込んでいた。
だから、彼女は気付かなかったんだ。
ある日、お気に入りのクマのぬいぐるみが消えた。彼女は必死のなって、それを人に探させようとした。
けど、誰も彼女の言うことを聞かなかった。
「探してよ!」
叫んでも誰も動かず、しまいには
「本当はそんなクマ大事じゃないんだろ」
と言われてしまった。
わがまま放題言っている間に、彼女は誰からも嫌われる人間になり果てていた。
当たり前だと思い込んでいた誰かが可愛がってくれる世界は、昨日まで確かにあった当たり前は、いつの間にか崩れ去っていた。
彼女はどれが人形でどれが人間かも、誰に頼ったら良いかも、どこを探せば良いかもわからず、それでもクマを探し続けた。
そして、ごみ山でそのボロボロになった姿を見つけた。
「本当はそんなクマ大事じゃないんだろ」という声が頭をよぎった。けれど、彼女はそのクマを迷わず抱きしめた。
「違う、違うの」
それは、当たり前が当たり前じゃないと気付かせてくれた、彼女にとって確かに大切な物になっていた。
「帰ろう。今度は、ちゃんと大事にするから」
そこにあるのが当たり前なもの、なんてないんだよね。
何て言ってみたり。
ではでは、これにて今日の噺はおしまい。
閲覧ありがとうございました!
また続きましたらよろしくお願いしますm(__)m




