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My Possessed Day~彼女に取り憑かれた日~  作者: フィーカス
彼女に取り憑かれた日
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二度目の告白

「大事な話があります。明日の午後七時、海岸公園のベンチで待ってます」

 金曜日の学校の帰り、彦野亜留は幼馴染の天川沙織にそう言われていたため、海岸公園へ向かった。

 相変わらず波の音と車のエンジン音しか聞こえない、全く持って平和な公園。

 誰もいない公園のベンチに座ると、亜留は両腕をベンチの背もたれに預け、空を眺めた。

「あの時と同じだな」

 普段ならまだ明るいはずの空が、薄い雲に覆われて灰色に染まっている。

 亜留はだらしなく、足を伸ばす。その足にまとわり付く汗を、涼やかな風が体温と共に奪い去っていく。

 今日は七月六日。

 沙織が事故にあってからちょうど一年。

 そして、沙織から告白されて、ちょうど一年。

 今日の空、今日の海、今日の街並み、今日の公園。どれをとっても、一年前の今日とさほど変化が無い。

 時刻は午後七時の数分前。強いて一年前と違うことと言えば、亜留がいる時間が少し違うことだろうか。

 一定のリズムで刻む細波の音と、不定期に聞こえる車のエンジン音。その中に、救急車のサイレンの音が混ざる。今回こそ通り過ぎると思われたが、前回よりも遥か遠くで止まった。

「まさか、ね」

 その方向を見ながらも、亜留は一年前のことを思い出した。まさか、同じことは無いだろう、と。


 そのままぼうっとしていると、ふと冷たい風が吹いたような感触が肌に伝わった。

 それを合図に公園の入口を見ると、人影がこちらに近づいてくるのが見える。正体を確認しようと立ち上がると、同時に公園の電灯が点灯した。

 ショートカットの髪型に、白いワンピースに、見たことがあるサンダル。それは間違いなく、沙織の姿だった。

 しかし、その沙織の姿をみて、亜留は一つため息をついた。

「ごめん、亜留君、待った?」

「それほど待ってないよ。しかし、何で今日なんだよ。昨日でも良かったんじゃない?」

 学校の帰りに話があると誘ったなら、そのままその日に話せばよかったはず。何故わざわざ一日空けたのか、亜留は不思議に思っていた。

「だって、今日は一年前に、私が事故に遭った日じゃない。その日に言えなかったことを言うなら、やっぱり一年前と同じ日、七月六日かなって」

「変なことにこだわるんだな」

 亜留はおどけた笑いを、沙織に見せた。沙織も、釣られて笑ってしまう。


「で、話したいことって?」

 亜留にはわかっていることだったが、あえて沙織に尋ねた。

「うん、えっと、本当は一年前に言いたかったことなんだけどね」

 沙織は一年前と同じように、恥ずかしそうにもじもじとしている。そして、何とか決心が付いたのか、まっすぐ亜留を見つめた。

「あれから一年間考えたんだけど、やっぱり一年前と気持ちは同じ。小学生の頃からずっと一緒にいたけれど、亜留君のことが好きです。幼馴染や友達じゃなくて、私の彼氏になってください」

 言い終わると、沙織は頭を深く下げた。

「僕もだよ、沙織。これからもよろしくね」

 亜留の言葉を聞き、沙織が頭を上げると、亜留がにこりと笑顔で出迎えてくれた。

「ありがとう、亜留君」

 なかなか告白をしてこず、自分から言い出したほうがいいのだろうかと悩んだ一年間。そして今日、一年前、記憶がなくなる前の沙織と約束していたことを、亜留は果たすことができた。


「それから、もう一つ亜留君に言わないといけないことがあって」

「また事故にでも遭ったのか?」

「え?」

 思わぬ亜留の返答に、沙織は驚いた。

「どうしてそれを?」

「遠くから見ても、体が透けて見えたからね。それに、一年前と同じだったからさ」

 そういいながら、亜留は海のほうに少し歩き、空を見た。

「沙織は覚えていないだろうけど、一年前も、沙織は事故に遭って、霊体のままここに来て僕に告白をした。そして、僕に憑依して、一日僕と一緒に過ごしたんだ」

「そう……だったんだ」

 少しは明るかった灰色の空も、徐々に厚い雲に覆われ、暗くなっていく。

 亜留は再び沙織のほうに近寄った。

「そのままいたら、消えちゃうんだろ? だったら、沙織の体が治るまで、僕の体に憑依して……」

「亜留君、一年前の私がどうだったのかわからないけど、私ね――」

 すこし透けた、曇った顔の沙織が話す言葉。それが一瞬雷の音にかき消される。

 亜留は沙織の口の動きを見て、言葉を聞いて、亜留の顔が引きつる。


「嘘……だろ?」


 その瞬間、亜留の携帯電話が鳴り響く。

「ご、ごめん」

 慌てて携帯を取る。相手は亜留の母親だった。


『もしもし、亜留? あの、落ち着いて聞いてね。ついさっきね――』


 母親からの電話の途中で、亜留は思わず携帯電話を落として立ち尽くした。

「そん……な……」

『もしもし? 亜留? 聞こえてる?』

 落とした携帯から、亜留の母親の声が無常に響き渡る。


 無心状態の亜留が聞き取れたのは、沙織から聞いたことと同じことだった。



――私ね、さっき事故に遭って、死んじゃったんだ――

――さっき、天川さんから、沙織ちゃんが事故で亡くなったって連絡があったの――


 遠くからは何台かのパトカーが通り過ぎる音、そして、救急車がこちらに向かってくる音が聞こえる。亜留はしばらくの間、立ち尽くしたまま動けなかった。


 そっか、亜留君は、一年前も、私の霊体と一緒に過ごしたんだよね。

 そのときは私の霊体は戻るところがあって、記憶は体には戻らずにそのときの記憶は残らなかった。

 きっと、楽しい一日だったんだろうな。うらやましいな、そのときの私。

 でも、今回は戻る体が無いから、記憶が消えることも無いんだよ。そう考えると、これから亜留君との思い出をたくさん作れるんだから、一年前の私から見たら、今の私のほうがうらやましいのかな。

 亜留君、これからは、私は亜留君の体の中でずっと過ごすことになるんだね。

 亜留君が望むようなえっちなことはできないけど、ずっと一緒にいられるんだよ。


 これから、この先、亜留君が死ぬまで、ずっと、ずーっと……


<To be contenued→My Lost Day>

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