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第四章 炎使い――フレアマスター――

会長の呼び出しで、昼は散々な目にあったからなあ……。

「俺って意外とバカ正直なのかな……」

俺は昼にパン――絶対昼の間で1人で食べれる量じゃない――を食わされて、結局、俺まで罰ゲームを受けるハメになった……。

「失礼します……2年の佐藤ですが」

「どーぞ、入って」

またもや会長の声……。

「失礼します……で、俺になにか用でしょうか?」

「うん、まあね……佐藤君にちょっとスカウト的な話なんだけどね?」

「スカウトですか?」

「そ、生徒会に入らない?」

いきなり言われても俺は訳が分からなかった……。

「えっと普通、生徒会には、選挙で選ばれて、初めて生徒会役委員になれるんじゃないんですか?」

「普通はね……でも、この学校には特別に会長推薦枠ってのがあってね……」

つまり、会長の必要な人材を会長自身が選べるってことか……。

「でも、俺何にも仕事できないですよ?」

「別に仕事はしなくてもいいわ……」

いいのかよ……。

「あ、でも雑用ぐらいはできるわよね?」

でた……会長お得意の不敵な笑みだ……。

「あの……今は保留ってことでいいですか?」

「うーん、そうね……今すぐ結論を出してほしいところだけど……」

会長は「うーん」とうなって、しばらく考えていたらしい……。

「じゃあ、1週間以内に決めてね?」

1週間か……なんだか多い気がするけど時間はたっぷりあった方がいいか……。

「わかりました。1週間後ですね」

「できるだけ早く聞かせてね……」

今度はニヤリではなくやんわりした笑みだった……気がする。


「あー、さっさと帰るか……」

「ちょっと待ったー!」

俺が靴に履きかえてる時だった。

「誰だ?」

「こっちよ!」

聞き覚えがある声だった気がしたのだが……気のせいであってほしかった。

「佐藤! あんた生徒会に入るんだって?」

たしか鈴峰風華だっけ?

「えっと、どちら様ですか?」

俺はふざけてみる。

「くずね……せっかくいいこと教えて上げようと思ったのに……」

「え? あ、ご、ごめん」

「単純……」

は、はは……そういば会長の妹なんだっけ? そりゃ口が悪くても仕方がないのか……。

「で、ほんとの要件は?」

「うん、佐藤に話があってね」

「俺に話? なんのことだ?」


「だから、佐藤は生徒会に入るんでしょ?」

「ああ、ってなんで風華が知ってるんだ?」

あ、会長か……。

「もちろん私も、生徒会役委員だからに決まってるじゃない」

いや、そんなこと威張られても、俺には興味ないことだったし……。

「で、どこの役職なんだ?」

「書記よ……って、そんなことはどうでもいいの!」

風華は深呼吸して、俺に人差し指を俺に向けた、それから。

「私が模擬戦やったげるの」

「え……? い、意味が分からないのだが……闘うことと生徒会に入るために何の関係があるっていうんだ?」

「え、あ、あれ? もしかして、美華姉さま何も言ってないの? でも、私に『佐藤のために模擬戦してきて』なんて言ってたからなぁ……」

えーっと、この状況結局俺はどうすればいいんだ? 帰ってもいいのか……?

「ちょっと待ってなさいすぐ戻ってくるから!」

そういって風華は走り去っていった。


5分ぐらい待っても来なかった。この隙に帰っても問題なさそうだったから帰ろうとしたら、陸上部も驚きのスピードで走ってきた。

「はあ……はあ……ちょ……ちょっと……タンマ……」

風華は深呼吸を始めた……。

そんなになるまで走ってこなくてよかったのに。

「えーっと、会長推薦枠について説明するわね」

まだ息は荒かったけど、何とか整って普通にしゃべれるまで1分ぐらいかかったのだ……。

「ああ、俺も訳が分からなくって困ってたところだ」

「えっと、まず会長推薦枠いくつか項目があって……。

1、会長直々に推薦を受けること。

2、被推薦者の同意を得ること。

3、役員全員合意の推薦テストに合格すること。

なお、テストについては、必ずしも行なうものではなく役員の合意があればテストを免除できる

ってあるんだけど……美華姉さまは戦闘テストを行いたいみたいよ?」

ふむ、それで風華との模擬戦をやらせようとしたのか……。

「でも、風華と模擬戦やっても朝と同じ結果になるんじゃないのか?」

「ふん、あれで私が本気だったとでも思ってるの? もしそう思うなら佐藤の脳みそごみ処理場に持って行った方がいいんじゃない?」

ものすごい罵倒のしかただな……。

「とにかく俺は風華と、その模擬戦ってのをやればいいのか?」

「そうね……でも、こんなところでやったら人の目につくからほかの場所に移動するよ」


もうだいぶ目立ってるがな主に風華が走って戻ってきたあたりからな……。

「お、おい1年は上の昇降口じゃないのか?」

「何言ってるの? 靴ならここにあるよ」

ちっ、準備ができてるやつだ……。

「そうね……今日の朝の場所でいいかな……」

「別に人の目のつかないとこならどこでもいいんじゃないか?」

「だから、朝の場所なんじゃない……もっと頭働かせたら?」

ほんとにこいつは口が悪いな……仮にも俺は先輩だぞ……。


朝の場所……俺が告白されるかと思って、ざっくり期待を裏返された場所……。

「はぁ……」

「どうしたの、あ、そうか佐藤はあんまり乗り気じゃないんだよね?」

「当然のことを聞くなよ……」

それに今日は1日完全に両親が帰ってこない日なんだ……あんまり、長いこと家を空けておきたくないんだよな……。

「なぁ、なるべく早く終われるか?」

「うーん、佐藤のでき次第かな」

にこにこと笑っている風華の表情にはまったく裏の感情が込められている……と、いうかそんな感じのオーラが出てた……。

「が、頑張ってみるよ……」

俺と風華は、お互いにだいたい5メートルぐらい距離をとって構えるが、ここで1つ重要な問題にぶち当たる……俺って闘うための能力じゃないんじゃないかと……。

「あのさ……始める前に1つ言ってもいいか?」

「ん? なに?」

「俺って非戦闘型の能力なんじゃないか?」

「あーそれについて忘れてた……えっと……あった」

鞄の中から風華が取り出したのは1枚の紙切れだった。

ゴシック体でプリントアウトしたものだった。

『佐藤あきらの能力について

1、模写――コピー――触れた相手の能力を一時的に使用することができる能力。

2、記憶――メモリー――触れた相手の能力を記憶することができる能力だが使えるわけではない。

そして最後に、呼び出し――コール――実際に使ってみるといい。

彼に伝えてくれ』

なんだこりゃ……?

なんで俺の能力がこいつはわかるんだ? てか、最後のコールってなんだよ?

「生徒会室の扉に挟まってたのよ……にしても1人に3つ能力があるなんてすごいわね……」

「そうなのか? てか、俺は昨日変な石に触ってから能力が出来たんだ……それなのになんで……」

「え? 後天性の能力なんてありえないはず……例えありえても……まさか、この人はもともと知ってたとか?」

「それが今の所考えられる一番だな……」

「それじゃ能力の『呼び出し』使ったら?」

「な、なるほど……そういうことか……そのための『コール』か!」


「それじゃ、とっとと始めようぜ……」

「佐藤はね、教わる立場なの! あんまりえらそうにしないでよ!」

なんだそれ? てか、何を教えてもらうんだ?

「それじゃ、スタート!」

風華は朝の構え、確か『高速拳――ラッシュ――』の構えとった。

「発動『アクセル』!」

あ、そういえば俺の能力の発動条件って……。

畜生! ここは攻撃を受けて風華に触れるしかない……。

しかし、風華の動きは朝よりもまして速く、俺が触れる前に距離を離してくる。

「どうしたの? 早く発動しないと倒されちゃうちゃうよ?」

ニヤニヤした顔が目に浮かぶ感じの声のトーンだった。

くそ! 一瞬でもいい……なんとしてでも動きを止めえるんだ……。

まてよ? 接触って、わざわざ俺が触れる必要があるのか?

「くそ、一か八か!」

風華がもう一撃を食らわせに拳を俺にあてる瞬間を狙って……。

――きた!

「『コール! アクセル』」

「え! そんな接触の方法ありなの!?」

一瞬だが風華の動きが止まった。

俺はその瞬間を逃さず反撃に出る。

攻防が一転して俺が優勢な状態。

スピード同士の戦いなら、より速い方が圧倒的に有利で防御に回ってしまえばほとんど反撃はできなくなるのが、スピード戦の常だ。

「やっぱり甘いね」

風華は余裕で俺の攻撃を受けていたらしい……。

俺の連続攻撃の最中に足をひっかけて風華は反撃にでる。

つまり風華の方が俺よりも速かったのだ……。

足をひっかけられた俺の体制は大きく崩れる。

風華はその瞬間に構えを変える……。

「いくよ! 『超速撃――ソニック――』」

朝に俺が受けた『高速拳――ラッシュ――』よりも格段に速く、ラッシュと違うところは、『拳』だけでなく『脚』も使って攻撃をしてくるところだ……。

回避はその分難しくなっていた。

風華の速度に追いつけなくなり、気づけば俺の顔面すれすれに風華の拳があった。

「……降参だ」

「ま、これで朝の借りは返したね!」

すごくご機嫌な表情……わかりやすいやつだな……。


「あんまり暴れてると他の人に見つかっちゃうわよ?」

俺と風華はほとんど同時に、体がビクッとなった……。

声の主は、怪力副会長竹城だった。

「あ、う……すみません怜先輩。ちょっと熱くなってしまって……」

なんだ……この態度の変化のしかた……。

裏表の変化が激しすぎるんじゃないか? てかっ普通に敬語使ってるし……。

「あきら君も気をつけなさい! どこで誰が見てるかなんてわからないんだから」

「お、おう……」

「で……ふたりで何やってるの?」

――そっからかよ! 書記が知っててなんで副会長が何にも知らないんだ?

――説明すること約10分……

「なるほど……会長もあせってるって感じなのね……」

? 何にあせるんだろうか……特別な『なにか』はありそうだけどな……。

「なあ、俺は何のために生徒会に入らなきゃいけないんだ?」

「うーん、それはしばらくすればわかるわよ……」

「あいまいな言い方だな……それじゃ『なにか』があることは間違いないわけじゃないんだな?」

「そういうこと! わかったらさっさと戦闘能力を上げること!」

風華の割り込み方はいったいなんなんだ……しかも、上から目線だし……。

「じゃあ、今日はもう帰っていいわけだな……?」

「何を言うか! せっかく怜先輩も来てくださったんだし、これからが本番!」

「えー! 私もやるの?」

おいおい、俺の戦闘訓練を指導してくれる人人選ミスってないか?

ほんと、これから大丈夫なのかな……。


――それから、竹城と風華の二人の訓練は日没まで続いた……。

竹城は結構、本気で教えてくれたが、そのたびになぜか、風華にボコボコにされていた、まったく理不尽極まりない……。


「そんじゃ今日は、ここまでね」

「あー疲れた……」

「それにしても、あきら君はのみこみが早いわね?」

「まあ、スポーツはそこそこなんでもできるほうだからな」

もちろん、体育だけは成績5なのだ!

「そんじゃ、明日もサボらないようにわかった?」

あ、明日もあるんですか……風華さん、あんたは鬼か!

「お、おう……そんじゃ帰るぜ、また明日な」

「あ、まって一緒に帰りましょうよ?」

おい、ここでその発言は死亡フラグだぞ! 

「ぐるるるるる……」

ほら言わんこっちゃない……風華様がご立腹だ……。

「怜先輩ちょっといいでしょうか?」

「え、い、いいけど……」

「おい……朝、貴様が言ったこと嘘じゃないんだよな?」

鬼の形相で俺に質問してくる風華様がそこにいた……

「は、はいもちろん嘘なんて1ミリもついておりません……」


「……絶対だな? もし嘘をついていたら……どうなるかわかってるな?」

「あ、ああ……」

俺から確認を取ると、態度を180度回転させて竹城と会話をしていた……。

「そうだ! 佐藤、今日は私と帰れ、迎えを呼ぶの忘れていたからな……」

な、何をおっしゃいますかこの方……まったくバグってやがる……。

「断固拒否だ!」

「佐藤に拒否権はない!」

即答かよ……俺にだって拒否権ぐらいある!

って、まともに言ったとこで無駄か……。

大きなため息をついて、小声で小言をブツブツと言う俺だった……。

「そっか、あきら君はふぅと帰るのね? 別にいいんだけれど、間違っても変な気は起こさないように……わかった?」

「まぁ、ツッコミどころが多いことはわかったよ……」

竹城は「はぁ?」という顔をしていた。


とにかくこの2人は面倒だってのは今日よーくわかったな……。


--とにかく、風華と帰ることになったのだが……。

「くう、疲れた……ほんとにあの練習で、強くなれるのか?」

ランニングに筋トレ、投げられるボールをよける――という名目の風華の腹いせ――あとは実践ぽいことといえば、竹城が護身術として覚えた不意打ちのやり方とか……。

「さあ? 佐藤次第でしょ」

うわ、いまさらこんな無責任なこと言うのかよ……。

「先が思いやられるな」

「なんか言った?」

鬼のような形相で俺をにらみつける風華……あれ? 鬼の形相ってどっかでも見たような……。

「い、いや何にも言ってないです……」

風華とちょっとの間話すだけで、こんなに疲れるなんて思ってもいなかった……。

朝、一番最初にあった時の風華はいったいどこに消えてしまったんだ?


女の子(一応)と帰ってるのに、まったく、これっぽっちも楽しいと思えなかった俺だった……。

なにせ、あのあとはほとんどお互いに、しゃべらなかったのだ。


――そして駅。

「そんじゃ俺こっちだから」

「待ちなさい! せっかくだからゲームセンターに行ってあげようじゃない?」

「えー別にいいよ……疲れてるからさ、んじゃな」

駅の改札口に向かう時に後ろからおもいっきり腕をつままれた……。

犯人はもちろん風華だ。

「いててて! 何すんだ!」

「だから! 佐藤もついてきなさいよ!」

あーこれ以上抵抗しても無駄なんだな、そう悟った俺はしぶしぶついていくことにした。


駅近くのゲームセンター……ここはよくトミカと来て遊んでいたのだが……最近はめっきり行かなくなった。

「で、何がやりたいんだ?」

「うーん、佐藤のおススメは?」

「ゲーセンにおススメなんてあるか! あー、でもクレーンゲームとかだったらいいんじゃないか?」

無難すぎたかと思ったが、筐体すら見たことのないと思われる、風華は興味津々な視線で俺を見てくる……どうしろというんだ?

「で、そのクレーンゲームってのはどこにあるの?」

なるほど、ゲーセンのリアルに右も左もわかりません状態か……。

仕方がない……面倒だが相手をしてやることにしよう。

「で、どの景品がいいんだ?」

「景品?」

「えっとだな? 筐体の中に入ってるぬいぐるみやお菓子などなどの物を景品というのだが……」

「それぐらいわかるっての!」

逆切れかよ……テンパりすぎだろ……。

いちいちつっこみを入れないといけないかと思うとそれだけで気が重くなる。

「んー……あれ取ってよ」

風華が指さしたのは、小さな犬のぬいぐるみだった……。

「取りにくそうな位置にあるな……」

「取れないの……?」

少々不安げな声で気になったから、風華の方を向くと、それは今まで見たことのない表情――朝に見た作りとはまた違う気がした――で俺を見ていた……。

「ま、まあ取れなくはないな」

男は見栄を張るものとか言うけど、別に見栄などではなく、実際に取ることは可能だ……なにせ、トミカとどっちがたくさん景品を取れるか、なんてくだらない勝負をしたぐらいだ。

勝ったのはもちろん俺だ。技術的に俺の方が数段上だったのだ。

俺は筐体にお金を入れて――だけで、風華が目を輝かせていた――華麗なるボタンさばきで目標の景品にアームを近づける……。

「ここだ!」

最後のボタンを押しアームはゆっくりと景品に近づき……景品を引っ張り出して……。

――コトン……。

景品は取り出し口に吸い込まれるように落ちていった。

「おーすごいすごい!」

この時の風華は目がキラキラと輝いていた……。

どんだけ箱入りなんだろうか……。

こうしてみると、風華も能力の事を除けば、普通の女子高生となんら変わりはないんだとつくづく思い知らされた。

そしたら竹城も変わりはないってか……。


「んー今日は楽しかったー!」

風華の表情はずっとニコニコとしていた。

――明日からはこの表情で練習してほしいもんだ……。

そう嘆く俺だった……。


俺は今家に居る……。

特に何かあるわけじゃないけど、何かあるとしたら……俺の前に等身大の風華に似たしゃべる人形がいた。

というかそういう事にしたい……。

「ご飯まだ? おなかすいたぁー……」

「お前みたいなブルジョワにあう料理なんて作れねーよ」

「別にそんなものが食べたい訳じゃないの! だだ、一般人が何食べてるのか気になるじゃない」

ワクワクしたような顔で、見つめるのはやめてくれ……。

というか、お前は金持ちの子で庶民ではないけど、一般人だよな……。

しかし、こりゃ作るまで帰ってくれそうにないな……。

「わかったよ……一般庶民の食事をご馳走してやる……ただし、食ったら帰れよ」

「さぁ? 帰るかはその時の気分しだいかな?」

この……言わせておけば好き勝手いいやがって……。

しかし、口には出さない事が鉄則……そうじゃないと、風華が暴走しかねない、俺の家で……。

俺は手早くできるチャーハンを作る事にした。

さっさと、食って帰ってもらいたいからな……。

ピーンポーン……。

「おーい風華! かわりに出てくれ!」

「はいはーい」

あれ? 風華にしては、やけにあっさりと返事をしたな……。

「お、おじゃまします……」

玄関の方から聞こえてきた声はどっかで聞いたことがあった気がする……。

リビングの扉を開けては入ってきたのは、ご近所さんの……竹城だった……。

「な、なんで竹城がここにいるんだ!」

「そりゃ、もちろん私が呼んだからに決まってるじゃん」

おい、風華……お前の暴走は……。

「はぁ……もう駄目だ、こりゃ……」

「なにか、手伝うわよ?」

竹城はどこから持ち出してきたのかは、わからないが俺の家のエプロンを装着していた……。

「いや、もうすぐ終わるから別にいいよ、風華の相手でもしててくれないか?」

「そう……」

竹城は残念そうな顔をして、リビングに戻っていった……。

そうだな……チャーハンの具として使えるのはツナ缶とニンジン、あとはグリンピースか……。

まあ、これくらいでいいな。

俺は、おなかをすかした、お嬢様方に牙をむかれつつ、急いで作った……作る方の身にもなってほしいものだがな……。

「出来たぞー! 竹城ー! 皿出してくれー」

チャーハンを適当に大皿に、盛り付けてリビングに運ぶ。

竹城の痛い視線が後ろから突き刺さるように感じるんだけど、俺なんか怒らせることやったかな?

風華が何か吹き込んでないといいんだけどな……。


「あのー俺なんかしたかな?」

「別に何も!」

怒ってる、間違いなく怒ってるな……、そんで、俺には心あたりがないってのが、一番の問題だ……。

くそ……後で、風華に問いたださなくては……。

「そうそう、ふぅは関係ないわよ……」

だから、なんで心が読めるんだ!

うーん……俺なんか怒らせるようなことやったかな……?


竹城の怒りを解明できないまま、リビングに出来上がったチャーハンを持って行った。

「おまちどおさま、これが庶民の飯だ……」

「ホント庶民って感じ……白米炒めただけじゃん」

炒める飯と書いてチャーハンだっての……。

「白米だけじゃない、きちんと具もはいってるだろ……」

「これだけね……ねえ、なんか……こう、フカヒレとかいれない?」

「そんな高級食材はいるか! それにフカヒレいれるんだったら、あんかけのほうが上手いんだ!」

「そういえば、そんなのかかってた気がする……」

「さ、いつまでも口論してないで、冷めないうちに食べるわよ」

平然とした顔で竹城が横から言った。

し、仕切った……。

風華が一口チャーハンを口に運ぶと……。

「ん! 意外とおいしい……かも」

「かもってなんだよ……」

「でも本当においしいわね」

「伊達に家の料理当番やってるわけじゃない」

弁当は母さんに任せっきりだけどなぁ……。


他愛ない話をしながら、庶民の晩飯会は終わったかのように思えた……。

風華が立ち上がって身の回りの片付けを始めた。

「……さて、風呂借りるわ」

「おう、気を付けて帰え……はあ? 今なんて言った?」

「だから風呂借りるって言ったの!」

「誰が貸すか! 飯食ったら帰るんじゃねぇのかよ!」

「言ってない、ご飯食べて帰るかは気分しだいとは言ったけど……?」

不適な笑みを浮かべる風華……それはどことなく会長、鈴峰美華に似ていた……。

「着替えがないだろ、さっさと帰れ!」

「先輩!」

風華は竹城の方向に向かっていた。

嫌な予感がするのは俺だけか……?

あ、ここにそんな予感を感じるやつは俺しかいないな……。

「着替え持ってきてもらえましたか?」

「あ、ええ私のパジャマだけれど……」

嫌な予感は大的中しやがった……。

結局、風華は風呂に入ってしまった……。

「あ、ふぅの次私も借りるわよ」

「竹城もかよ!」

「覗いたらどうなるかわかってるわよね?」

「誰が覗くか!」

――駄目だこいつら、めんどくさい……。


しばらく竹城と、俺だけになった……。

しかし、なぜだか気まずい……。

お互い全く無言……。

部屋はまるで誰もいないかのように静寂につつまれていた。

「……」

「…………」

……な、なにか話題……ってデジャヴってないか?

「あ、そうだ! あきら君は、うちの生徒会の仕事はについて、美華会長からなにか聞いたのかしら?」

「いや、全くだけど……」

そういえば、竹城や風華みたいな〈能力者〉がいるんだ……普通の生徒会なわけないよな……。

「で、どんな仕事をするんだ?」

「仕事自体は普通の生徒会とは変わらないけれど、決定的に違うのは、能力者同士の大会があることかしら……」

「大会?」

「そう大会よ、能力者同士で戦闘を主とした大会なの」

「俺一番向いてないじゃないか!」

なにせ人に触れることをしないと発動できない能力なんてダメージを受ける事と同義じゃないか……。

「それでも会長はあきら君を生徒会に入れたいみたいよ……?」

「なんで俺なんだ? この学校には一応能力者は結構な数いるんだろ?」

「それは私にも分からないのよ……」

ふーむ……それで模擬戦闘試験なのか……。

「概ね事情は把握したんだが、なんで能力者同士で戦わなきゃいけないんだよ?」

「これは、噂なんだけれど……その大会の裏には謎の組織が動いてるとか、でその組織は謎の戦闘兵器を作ろうとしてるんじゃないかって話なの……」

いまいち信憑性にかける噂だな……。

この日本で戦闘兵器なんて作ったら、それこそ極刑だろうな。

「で、その模擬戦闘試験には誰が出るんだ?」

竹城が首をかしげた瞬間にドアの方から竹城の代わりにこたえる声が聞こえた。

「美華姉さまよ!」

「意外と風呂出るの早いな……って会長本人かよ!」

風華曰く、風呂が狭すぎてゆっくりできないとか……。

俺の家は普通の一軒家分の風呂の広さはある湯船も全身くつろげるくらいはある大きさなんだが……いつもどんだけでかい風呂に入ってるんだよ。

「会長ってどんな能力なんだよ?」

「うーん正直あきら君には勝ち目はないかも……」

「そうですねこの虫野郎には絶対勝てませんよね……」

「で、どんな能力なんだ!」

「聞いたこと後悔するけどいいの?」

そこまでもったいぶるのかよ……。

「じれったいな……早く教えてくれよ!」


けれど、間違いなく俺自身、聞かなければよかったと後悔してしまうのだった……


俺の家でいろいろあった後、竹城、風華の訓練の元、残りの日数を確実に消費し、答えを出す模擬戦闘の日になってしまった。

今頃気づくのもなんだけれど、答えを出すのは俺なのに、答えを聞く前に試験って順序おかしくないか?

最大の謎を抱えたまま俺は、会長が待つ屋上へ向かっているのだが……。

「おい……トミカなんでついてくるんだ?」

「なんでってお前はバカか!自分の友達がすでにリア充になりかけてるのに、さらに『屋上に行くから先帰ってろ』だ? 屋上って言ったら定番の告白スポットだろ!」

「それがどうしたんだ! 第一に俺はリア充になった覚えはねえぞ!」

「はあ……この前竹城さんとファミレスに来てたやつをリア充と呼ばずして、なんと呼ぶ!」

「知るかああああ!」

俺は階段の途中でうっとおしくなったトミカを蹴とばした……。

よい子は絶対真似するな……下手したら死ぬからな……。

「こ、のや……ろお……ガクッ……」

トミカは階段の踊り場で力尽きそこで仰向けになって倒れていた。

トミカを無視して屋上に行く……。


謎の食事会の日。

「お姉様の能力は、炎使い〈フレアマスター〉よ……」

「マ、マスターって俺勝てるのか……?」

「あきら君には勝ち目は無いけれど、会長もそこまで、鬼じゃないと思うわ……きっと、何かしらのハンデは出ると思うの」

「せいぜいお姉様に丸焦げにならないように気を付けなさい」

そんな簡単に言われてもなぁ……。


――そして、屋上。

「……来たわね」

屋上には会長。

いつものごとく、にこにことしていた……もちろん不敵な笑みだけれど……。

「会長! この模擬戦になんの意味があるんでしょうか?」

「意味? そうねー……佐藤君の適正診断かしら……ふふ」

「そうですか……」

やはり、俺が大会に出れるだけの資質があるかってだけの試験だ……。

「さて、始める前にルールを説明しなくちゃね。」

「ルールですか?」

「ルールはシンプルにね! あきら君が10分以内に私に触れる事が出来ればあきら君の勝ちよ」

「あの……俺の発動条件知ってますよね?」

「ええ、接触でしょ? だからこれを使うの!」

そう言って会長は、リモコンのような物を取り出した。

「起動! エターナル・パワー・エリア」

……特に変わった様子はないのだが……。

「これはいったいどういう……?」

「これはマスター以外の能力をエリア内であれば常時、発動条件なしで発動できる代物よ」


「マスター以外ってどういうこと何ですか?」

「マスターの能力は代償と引き換えに手にする事なの、だからこの機械の力を使わなくても、常に力は使えるのよ」

「なるほど……」

「さて、そんなことはいいから、さっさと始めないかしら?」

さっさと始めて、一気に間合いを詰めて終わらせる!

「……そうですね『コールアクセル!』」

俺は会長との間合いを一気に詰める。

「それは風華の能力! なかなかのスピードが出てるのね……けれど、あなたはただの模造品でしかない!」

会長は俺が突っ込んでくるというのにまったく動じない。

次の瞬間会長の一歩先が炎上し、炎の壁ができる……。

「それがどうしたっていうんですか!」

炎の壁はそんなに厚さがないから簡単に突破でき、目の前に会長が、立っていた。

「第一関門はクリアってところかしら?」

「そんな減らず口叩いてるなんて余裕ですね?」

「そうね……ある意味じゃ余裕かもね……ふふ」

でた、不敵な笑み……。

俺は警戒を最大に高める。

「さて、本番はここからよ!」

「そうみたいですね……『コールブースト!』」

ここで、ブーストに変えたのにはきちんと意味がある。

竹城と風華の特訓の時にやったボールをはじくというのがあったのだが、会長は炎の弾を打ち出す技があるらしい……。

それを回避するためには、ブーストで力をあげて、弾くしかないんだ!

しかも、炎の弾を出す瞬間は会長が笑った時らしいんだ。

「ふむふむ、しっかり予習はしてきてるみたいね……じゃあ授業開始よ!」

やっぱり、自分の癖はわかってるのか……。

会長の両手には炎の塊が噴き出す。

「くらいなさい! 『炎弾』!」

ピッチングマシンも驚きの速度で、炎の弾が撃ち出される!

どの弾も正確に俺を狙っていた……。

「むしろ、そっちの方が打ち込みやすいですよ!」

炎の弾がぶつかる度に気休め程度の革のグローブはみるみる焼けて無くなってしまった……。

「さて、次の技は返せるかしら?」

会長は風華と同じ『ラッシュ』の構えを取る……。

まさかな……もしそうなら、テストにしては難題すぎないか?

「行くわよ……『炎舞』!」

会長の拳に炎がまとっていた……。

グローブすら焼けて無くなった俺の手は素手……これで戦えばもちろんやけどだろうな……。

「『コールアクセル』!」

風華お前の技アレンジさせてもらうぜ?


やや、前傾姿勢で、右手右足を後ろにするラッシュと構えはほぼ同じ……ただ、コンボ数が違うんだ……。

風華はラッシュの時点では『拳』だけだが、俺のラッシュには『脚』も入ってるんだ。

「いくぜ『高速拳・壱の型猛撃』!」

会長の『炎舞』はラッシュと同じ5連撃のはず……だったら、俺の『猛撃』は7連撃だ!

会長は炎の拳で、襲い掛かってくる。

正直、真正面から受けると思うと結構怖いもんだった。

けど、たった7日だったけれど、竹城と、風華の特訓があったんだ。

……自分を信じろ!

会長を迎え撃って、拳同士をぶつければ俺の勝ちだ!

けれど、そんなに甘くはなく、会長は俺の『猛撃』をあっさありと、かわしてしまった。

「なかなかの速度ね……でも、やっぱり甘い……私の温度に耐えられるかしら?」

……比較するものがおかしいですから!


会長は俺から数メートル離れたところに立ちなにやらぶつぶつといっていた。

何を呟いていたのかはまったくわからなかったが、次の瞬間、会長の体の周りに炎が纏わりついていた……。

「あの……熱くなんですか?」

俺の問いに会長は平然と答えた。

「何を言ってるの? 炎自身が熱い分けないでしょ、炎ならどんな熱さでも、私には無関係になるのよ!」

「そんな無茶苦茶な……」

「それが、代償と取り換えた能力の恩恵よ……」

本当に恩恵なんだろか……

若干その言葉を発したとき、会長はどこか悲しそうな顔をした……。

「何をぼさっとしてるの? 来ないなら、こっちからくよ!」

は、速い! そうか炎の噴出が推進力になって速度が増してるんだ!

「高速拳・壱の型猛撃」

この技でしのげるか?

会長の右拳が俺の胴を狙って突っ込んでくるが見え見えだ!

「ここだ!」

「甘い!」

会長の右拳が引っ込んで、代わりに左拳が脇腹にヒットした……。

「ぐあああ!」

勢いよく俺は吹っ飛ばされた……。

「く、くそ……」

「残りは3分ぐらいね……」

会長はいつも通りニコニコしながら、俺に近寄ってくる……。

くそ、この人底知れない強さがある……。

「ほら、手を取って……あなたの勝ちよ?」

「へ? ど、どういうことですか?」

「今回のテストで『炎鎧』を使わないって決めてたのに使ったからそれでってところかな?」

「じゃ、じゃあ俺の答えは……」

「入るんでしょ? 生徒会」

ニコニコしながら会長は俺に手を差し伸べる……。

「はい! よ、よろしくお願いします!」


俺は、会長と握手を交わす。

「よろしくお……熱っ!」

戦闘後に会長の手をとる行為をもう少し慎重になればよかったと後悔した……。

何せ会長は自分がどれだけ高温を出しているかなんてわかってないのだから……。

もちろん、先輩には悪気はなかったと思う……思いたい……。

「あ、ごめんなさい! ついうっかりしてたわ……」

――へぇ……会長って以外と素直に謝れるんだな。

「痛っ! 熱いですっ!」

会長が急に手を強く握った。

「ごめんなさい……ついうっかり力が入っちゃったみたい……うふふ」

会長の目はにこにこしてるのに笑ってはいなかった……。



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