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言葉町雪歩の対象

「色々疑問はあるのだけど、主にこのギャラリーの名前とか。」

僕の正面に座る彼女は学校帰りの制服のまま、僕が運営するギャラリー『フーゾク』についてきた。

「こんな薄暗い場所に連れてきて私にいったい何をしようというの、見崎けんざき君」

言葉の内容とは裏腹にしゃべり方がどこか上から目線な彼女・・・言葉町ことばまちは僕のクラスメイトである。

ちなみに、会話をしたのは今日が初めてだ。

「さっきも学校で話したけど、昔はジィちゃんが経営していて僕が引き継いだギャラリー・・・というか音楽とかもやっているから、厳密に言うとフリースペースだよ。『フーゾク』って言うのはここができる前は風俗店だったらしいから、『フーゾク』にしたんだって。」後半についてはスルーした。

 ジィちゃんがどういう意図でこの名前にしたのかは正直解らないが、一部の人達の人気もあるので、変えるのもどうかと思い・・・そのままだ。


・・・・それにしても、姉や妹達以外の女の子と話すのは、ギャラリーをやっているおかげで少しは馴れているつもりだったが、学校の女子と言う条件がつくとどこか緊張してしまう。

というか、学校からギャラリーまで会話も事務的になってしまった。

馴れた場所に着いたおかげで、少し落ち着いたが、自分の話し方に『リズム』が無いのが分かる。


僕の話を聞きながら言葉町は僕が煎れたお茶を飲んでいた。

「高校二年生がフーゾクを経営ね。たいしたモノだわ。」

「確かにその文章だと、俺は高校生にして人生経験豊富すぎるな・・・」

「ええ。ある意味、不良グループの頭とかより、よっぽど性が悪いわね。フーゾクなだけにね。」

「・・・」

か・・・かわいい、ドヤ顔がかわいいだと・・・!


言葉町は同い年にも関わらず、話していると、年上のお姉さんと話している気分になる。長い黒髪でスラッとしていて背筋も正しい。

同じクラスだから、もちろん、顔と名前は知っていたが話してみると改めて大人っぽいと思った。


不意打ちにかわいいと思ってしまったが、それでも表には出さないようにした。何となくここで表情を崩したら負けだと思ったからだ。

「あら、無反応なんて冷たいのね。」

少し不満げだ。


「話を元に戻そう。」

「あら、ツッコミは無しなの?」

「僕はツッコミを求める人には与えない主義なんだ。」

「意外とSね。それに学校でのキャラとの違いに驚いているわ。周りの空気の一部に必死になろうとしている感じがあったもの。」

「それはそっちも・・・・いや、一対一になれば誰だって・・・それよりも今は話を進めよう。」

自分のお茶を啜り、一呼吸。

「・・・・薄暗い場所で悪いとは思うが、言葉町さんが僕に聞いてほしい話があるって言ったんだろ。」

「ええ、あなたの噂を聞いて。何でも探偵みたいなことをしているとか。あと『さん』はつけなくていいわ。私もあなたのことは今から『風見』って呼ぶから」

「もしかしてそれは学校での僕のポジションと、更に風俗と見崎をかけているのか!」

「ええ、よく気づいたわね。付け加えるとすれば風見鶏と言っても錆びていて殆ど風をよんでくれないタイプね。」

「詳細は要らない!しかも、それはただの飾りじゃないか!しかも解りにくい癖に的を得ている気がするから太刀が悪い!」

「ふふ・・・やっとツっこんでくれたわね。」

この女は雑談が好きなのか?

「ツッコまれないと先に進めないのか。」

こいつのこれは、Mなのか、Sなのか?

「ん・・・?」僕の噂?探偵?

「僕の噂ってなんだよ?」

「あら、本人は知らないの?何でも色々な悩みや謎を解決しているとか。」

「・・・いや、色んな人から悩みは確かに聞いてるけど、それだけだよ。『相談に乗る。』それだけが、ここでやる事さ。というか帰り道にもそう話したはずだけど。」

「ええ、そうね。だから噂と違ったときは、少し考えたけど、でもその方がいいと思ったわ。」

悩みはなるべくなら自分で解決したいもの。と付け加えてた彼女の視線は逸れていた。

「で、ここが悩みを聞いてくれる場所ってことね。」

「・・・ああ、ここなら誰にも聞かれないし。いつも『そういう話』はここで聞かせてもらってるんだ。」

「ふ〜ん・・・」

「なんだよ、その意味深な反応は?」

「いえ、別に。」

・・・?よくわからないが、話を進めよう。

「・・・内容を整理する為、もう一度最初から話してくれ。」

「・・・・ええ・・・分かったわ。」

彼女は語りだす、少し重そうに。


彼女の語った内容をここに纏める。

彼女、相談者Kの美術部所属の友人(Aさん【女性】)についてだ。

Aさんの創作活動は身体を紙粘土で作ること。

そのことは自体は美術家志望のAさんにとってはアートの一種だろう、と周りも認識していた。

しかし、それが1年ほど前から過剰になってきているそうだ。

主な変化として、友達(相談者Kを含む)の身体をネチネチと触る。

ネチネチと、とてもしつこく。

美術室に夜遅くまで閉じこもり、触った身体の一部をそのまま紙粘土で作っているらしい。

そして、今日から3週間ほど前に事が始まった。

その日、相談者KはAさんから、モデルを頼まれた。Kは少し嫌だったが、Aさんの強いアプローチに負け、足のモデルを引き受けた。

それが本題の始まり。

足を作り上げたAさんは、Kに心酔した。

Kの足だけでなく全身に惚れ込んだAさんからの、

毎日のアプローチや手紙、電話。

それが日に日に多くなっていく。

そして、一週間ほど前に決定的な問題が起きた。

誘拐未遂だ。

未遂だから、成功はしなかったが一歩間違っていれば危なかったかもしれない。

人の少ない帰り道、待ち伏せ、何か薬品の匂いのするハンカチ。

警察沙汰にはしなかったものの、

その日以来、Aさんは学校を休んでいるらしい。

手紙や電話もない。




と、まあだいたいこんな感じで言葉町の話を一枚の紙に纏めてみた。

ちなみに、言葉町は話し終えてもう帰っている。

検証するにも日も沈みかけた時間帯だったので、帰ってもらった。


「すごいな・・・。」

僕は一人イスにくつろぎながら素直な感想をつぶやく。

Aさんではない、言葉町が、だ。

言葉町とは今日までしゃべった事もない。

友達の事を心配して、今まで話した事のない人間に助けを求める。

この行為だけでも、学校に友達がいない僕にとっては、賞賛すべきこうだと思う。

だが、それだけではない。彼女はAさんを理解したいと言っている。

彼女にまた学校に来て、今まで通り、一緒に学校生活を過ごしたいと言っている。その為には、言葉町はAさんを理解する事を選んだ。

「理解か・・・」

つまり、彼女の相談はこうだ。

『Aがどうして、そこまで身体を像にしたいと思うのか。そして、何故私の身体に拘るのかを理解したい。』と。

正直、後者はAさんがいない限りどうしようもないと思うが、前者は何とかなると思う。

もちろん、ここはギャラリーであり、雑談、相談の場所でもあるから、憶測は超えれないが。




 ギャラリー「フーゾク」相談規定

・どんな話でも相談に乗ります。

・解決までのお約束はしませんが、ギャラリー内で出来る事(金銭面を除く)は何でもします。

・相談していただいた内容は、個人情報を伏せた上で、話題としてギャラリーに保管させていただきます。

が、大雑把な内容だ。

要は「相談に乗るから雑談のネタをくれ。」といことだ。保管と言っても別に何か形にする訳ではない。さっき書いた紙も単に僕が覚えておく為にメモした物だ。


何故、こんな事をやっているかと言うと、ジィちゃんが原因である。

ジィちゃんは生粋のパンク好き。音楽だけでなく、パンクをイメージするような絵や立体物など、アート関係の物も好きだ。

そして、このギャラリーを始め、いつの間にかパンクバンドやアングラアーティストが集まるようになり、刺激を求める悩める若者達に『話題提供と相談』をしている内に、こういうスタイルが形成されたそうだ。その名残でこの店は、密かにパンク系、アウトサイド系のアーティストの聖地と言われるようになったらしい。

ちなみにジィちゃんは、、悠々自適にバァちゃんとイギリスで、パンク生活を送っている。全く持って元気だ。




 彼女、言葉町が帰って暫くした頃、ギャラリーの入り口から階段を上る足音が聞こえてきた。

ギャラリー『フーゾク』は二階にある。外から見ると一階に『おかま・バー』があり、その隣に小さな入り口があって上の方に[ギャラリー『フーゾク』]と言う看板が掲げてある。『おかま・バー』についてはスルーしておく。

だから、入り口からはすぐに、非常階段、ではなく建物の一部としての階段がある。そして侵入者がいる時は響く足音ですぐに分かる。


「こんばんわー、お兄ちゃん。」

やっぱり見無みないだ。

「おう、今日は一人か。」

「うん、みんな、疲れてたみたいだから、創作は早めに打ち切って、ミルちゃんも、うちに帰ったよ。」

見無は中学生、いつもにこにこしていて天然で間延びした話し方をするのが特徴だ。今日は学校(部活)帰りとあって制服だが、私服がパンクファッションという事もあって、頭と足が目立つ。頭は黒髪だが、異常に長い。それを器用に編んで纏めている。足元は、白のコンバースだが、落書きしてある。これを全く違う落書きで10足も持っている。いつものことだ。

「そうか。今日は見流が夕食作るのか・・・」

もう一人の妹、見流の飯はロシアンルーレットだ。たまに普通であり、たまに普通にまずい。

本人が実験感覚、もとい、創作活動の一環のつもりなのが主にその原因だ。

「今日、お客さんは?」

「クラスメイトを連れてきたけど、もう帰ったよ。」

「えっ?お兄ちゃんに同級生?」

「いや、そりゃいるよ!しかも学級単位で僕以外を消さないでくれ。」

「ううん?消えたのは、お兄ちゃんの、方かもよ?」

「相対的に見たらそうかもしれないが、僕はちゃんといる。クラスのヤツとも・・・たまには話す。」

「『いないもの』と、関わってもいいの?」

「・・・お前にアニメ禁止令を出すぞ。」

「ええ〜・・・でも、お兄ちゃんは家でも、『いないもの』だから、そんな権限ないと思うよ〜。」

・・・そうだ。いやむしろ家の方が僕はいないに等しい・・・・

朝は誰も起こしてくれないし、ギャラリーから夜遅く帰ってきても、妹達は寝ていて夕食はチンするだけだからだ。ちなみに親は海外で服飾関係の仕事をしているから家にはいない。

一番年上の大学生の姉がいるのだが、アレは放浪癖があり、たまに帰ってきたらアート作品を家に置いて行きすぐに出て行ってしまう。家にいる時間が少ないくせに、一番年上で作品も高値で売れるから家にもかなりのお金を置いて行ってくれる。

家事全般をする妹たち、お金を稼ぐ親と姉、それにみんなを癒してくれるチワワのレン。

俺の家でのポジションは犬以下だ。いないものだ。きっとリビングの真ん中でダンスをしても気づかれない。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「・・・いや自分に立ち位置ついて改めて考えさせられていただけだ・・・」

「・・・?」

「まーそれはいいよ。良くはないけど・・・で、今日はどうした?」

「ん〜?うん、どうもしてないよ。ただ、立ち寄っただけ。」

「そうか、何か飲むか?」

「うん、おねがい。」


 見無にアイス・ミルクティーを出したやる。10月というのにまだまだ暑い。

テーブルを挟んで妹の向かい側に座った。

それから、見無に言葉町の話をした。

「その話は、私にしても、いいの?」

「ああ、規定では【相談事が一段落するまで】ってなっているが、俺の信用する相手になら話してもいいってさ。それに話し相手がお前だし。」

「信用されてるんだね〜。」

「ん?お前を別に信用しちゃい無いさ。」

ただ単に見無は、他人への詮索は趣味じゃない事を知っているだけだ。こいつも俺と同じで物事を憶測したり観察するのが好きな性分だ。だから、他人の領域には踏み込まない・・・いやこいつは友達も結構いるから、わきまえているのかもしれないが、俺は踏み込めないだけなのかもしれないが。

「ううん?・・・あっ、そうじゃないよ。」

「ああ、言葉町が俺を、って事か?それは単に行き詰まってるだけだろう。」

「う、う、うん?あ〜、そうじゃなくて、お兄ちゃんが言葉町さんをだよ〜。」

「え?」

「う〜ん、だってさ〜学校の人連れてきたの初めて・・・・」

いや、それは単に、学校に外で遊ぶような友達がいないからな訳で・・・・

「う〜ん、というか、学校の人は、連れてきたくなさそう、だったよね〜」

妹は目を細め、両手をテーブルに突き、

「しかも、女の人だし。」

靴を履いたままテーブルに這い上り、

「それに、話の限り美人そうだし。」

「・・・・いや、そんな話はしていないと思うが・・・」

僕の言葉を無視して鼻先と鼻先が触れ合うほどの至近距離から、僕を見下ろすようにして語りかける。クラスでも男女ともに人気があるだけあって、わが妹ながらか可愛い部類に入ると思う・・・

「その人の事・・・・気に・・・なるの?」

「やめい。」と言って、見無の顔を手で押す。

毎回、うちの姉妹は話に女の人が絡むとこうやっておちょくる。テンプレだ。辞めろ。

「あ〜あ〜、最初の頃は、ドキドキしてくれたのにな〜、残念だよ〜。」

「おい、普通に嘘をつくな。」

「え〜、してたよ〜。」

「してない。」

いくら女性に免疫が少ないからって、断じてしていないぞ!俺は!

・・・少ししか。


今回のケースについての話をしたい。

「それでお前はどう思う?」

「うううん?お兄ちゃんは、その人の事が気なってるんだ、と思う。」

「・・・違う。三つの意味で違う。まず、お前の妄想の話じゃないし、気になっても無いし、俺は妹に恋愛話を持ちかける男でもない!」



今度こそ仕切り直す。

「ううん?聞いた感想だとね〜何となくだけど、映画の『盲獣』を連想した。」

「ああ、あれか。・・・というか、あの映画は子供が見ていいものじゃない!」

主に性的な意味で!

「ううん?お姉ちゃんが、『美術的にも考え深いよ。』って、貸してくれたよ。」

あのセクハラ放浪野郎!

「でも、お兄ちゃんって、相変わらず、美術の思考よりも、えっちな思考の方が強いよね。こんなに美術に囲まれて育ったのに・・・」

くそ!『視点も変われば・・・』という話になるのか。

「それなのに、美術と称して、肌色の多い薄い本を、段ボールに入れて隠してるし。」

「あれもまた現代美術だ!っていうか、どうしてお前が机の裏スペースに隠している美術ボックスを!」

「本当に、あるんだ・・・・」

「・・・・妹よ、物事を憶測で話してはいけない・・・」くそぅ!姉貴だな!ガザ入れセクハラ放浪野郎だな!

「ううん?でも、今から話す内容は、憶測だよね〜。」

・・・完全敗北だ。とどめまでキッチリ、必殺仕事人だ。

「ま〜その事は忘れて、今回の事を話そう。」

「ううん!憶測で、ね!」

「・・・・見無さん、マジ、ドS。」

「で、続けて〜」

「・・・お、おう・・・【まず】はAさんの話だな。」

言葉町がAさんを理解する前に僕らがAさんを理解しないといけない。

「・・・・おそらく・・・Aさんが求めているのは、究極の人の形だと思う。もちろん、この場合の『究極』の定義はAさんの中で求めているモノなんだけど、言葉町の話によれば『一度作った人の、身体の一部』は出来が悪くない限り二度は作っていないらしい。」

「ううん。つまり、・・・彼女の中の、過剰な美意識が、Aさんを駆り立てているってことだね。・・・ん〜でも、なんで、一度作った作品を。まだ大事にしているのかな?」

「美しくないなら処分するはず、だと?」

「ううん。だって、『究極』とは違うなら、『究極』こそ、自分の作品であるべきじゃないかな?」

「そんな事は無いんじゃないのか?『究極』にたどり着く為には過程も必要だろ?」

「でも、この場合、彼女の中での少なくとも現時点での『究極』は、もう決まっているんじゃない、のかな〜?」

・・・確かにそうだ、でなければ言葉町だけにそれほど深く心酔しないはずだ。

「ほほう。じゃあ、見無君の作品は全て『究極』だと?」さっきのお返しにとちょっと意地悪な質問をしてやる。

が、彼女はケロッと答える。

「ううん?私は違うよ。だって、私の作品は『究極』を目指すんじゃないもん。」

「じゃあ、何を作るんだい?」

「私が作るのは、その時、想い描いた瞬間、を作るものだもん。」

店のカウンターの客席から正面に飾ってある見無がとある展覧会で佳作を取った作品に目を向ける。

確かに、見無の作品は淡く抽象的で、ドリーミーな絵ばかりだ。

「・・・確かに、だとすると見無には『究極』はないと?」

「ううん。『究極』なら、あるよ。」

そういうと見無は目を閉じた。それからいつもより、もっと遅く、自分に言い聞かせるように話しだす。

「ううん、とね。私が、想い描く、全ての瞬間を描いた時に、私の作品は全体を通して、『完成』、になると思うんだ。」

言い終わると目を開ける。

「それが、私の目標であり。『究極』だよ。」

そっか・・・おっとりしている見無らしい考え方ではあるが、はっきりしているのもこいつらしいな。

「ううん。で、お兄ちゃんの、感想は?」

「特になし。」

「え〜、私の目標を、おにいちゃんは、黙殺するの?」

「まだまだガキが、人生の到達点みたいな事を、語ってんじゃねぇよ。」

「ん〜、ん〜、バカァ〜。」

少しは仕返しも出来たか。

「はいはい。そうだな。じゃあ、バカなお兄ちゃんは推測を続けよう。」

「ふん、だ!」

「まぁ、そう言わずにお前も参加しろ。この事からお前が学ぶ事もあるかもしれないしな。」

「・・・・」

頬は少し膨らんでいるがどうやら参加する気にはなったようだ。

見無の言っている事は間違いじゃない。一つの形として『究極』を熱く求める者ならそうではない物は排除していいはずだ。確かにそう考えると変かもしれない。

ならば前提が間違っていると考えられるだろう。

だとすれば、この話は「盲獣」ではない。「盲獣」の造形家は盲目でありそれ故に物を作る際に身体を触り作る。そして、過剰な美意識から、『究極』に美しい身体の女性を拉致し、自分が作品を作り上げるまで女性を監禁していたという物だ。

そもそもAさんは盲目でもないし、芸能人の誘拐もしていない。

造形をする際には対象に触って形を確かめる事もあるが、今回はそれが行き過ぎている、というのが問題だ。

そして、彼女を止める事が目的でもない。理解だ。止めるだけなら、教師や親など目上に出て来てもらう事になるかも知れないが、理解なら考えるだけの話だ。そして、それから先は言葉町次第だ。





「で、彼女Xの行動については何かちゃんと分かったのかしら、風見君。」

「3つツっこむ所があるか、整理して突っ込ませてくれ。まず最初に、言葉町にとって彼女は謎の人物ではない。二つ目に、風見鶏の事はもうすっかり忘れていたよ。最後に、なんで昨日よりも更に上から目線なんだ!僕の上司か!」

言葉町は足を組んで肘掛けに肘を乗せている。まるでラスボスだ。

表情も昨日より明るい。思考が読みにくいのは相変わらずだが。

もしかして昨日は緊張していたのか?

「冗談よ。」と言って彼女は足を組み直した。態度は冗談ではないらしい。

この女に緊張なんて無関係だな。

「でも、まぁ昨日言った事で分かる事なんて、大して無いでしょうから・・・」

「いや、ちょっとは推測してみたよ。」

「そうなの?」

「ああ・・・っていうか期待してなかったのなら、何で来たんだ?呼んでもないのに。」

「あら、私が来たらマズかったかしら?」

「いや、そう意味で言ったんじゃないんだ。ただ、学校でも何も聞かれなかったし、俺が帰る時も教室にはいなかったからさ。」

「ええ、見崎君って何となく学校では、話しかけにくい空気が出てるわよ。」

「え!いや、そんな訳ないだろ。だって、周りの奴らには挨拶とかもされるし・・・休み時間とか・・・普通に会話するし・・・」

「でも、男子限定でしょ?主に女子にとっては有効なオーラが出てるのよ。女子は近づくなといった感じの・・・童貞オーラ?」

「そんなオーラ力無いし、いらねぇよ!」

「いえ、出てるわ。主に顔と下半身から」

「経験者は顔も違うものなのか?!」

「というより、明らかな童貞には童貞の空気があるもの。」

「ちょっと待て。それだと、お前は見ただけで童貞を見破る事ができるのか?」

「いいえ、『明らかな』と言ったはずよ。つまり、オーラが強い人ね。」

「俺は選ばれし童貞なのか?!」

「羨ましいわオーラが満ちているもの。」

「マジマジと見つめて棒読みするな!ツライ!」

「ミワさんに相談するといいわ。・・・これ、連絡先よ。」

「お前!相談したのか!?」

「・・・水をちゃんとあげても、花とかすぐに枯らしてしまうから、何か良くないオーラがあるのかと。」

「間違いない!それは凍てつく波動だ!」

「?」

どうやら言葉町には、ドラクエネタは通じないらしい。

それに・・・なんだか本当にあるような気がしてきた・・・・童貞オーラ



「で、彼女Xの行動については何かちゃんと分かったのかしら、風見君。」

「・・・そこから、再開させる気は全くないです。暴言町さん。」

「・・・で、彼女の行動から何が分かったの?」

ようやく話が進む。

「分かったじゃなくて、推測だけどな。」

「とにかく話してみて。」

「いや、俺もまだ中途半端だから、もうちょっと推測が固まってから話すよ。」

「・・・まずは自己完結してからって訳ね・・・分かったわ。」

「ん〜・・・まあそう言う事だよ。」

「・・・?まあ、いいわ。でも彼女が事を起こす前にはお願いね。」

「事?」

・・・・?もう事は起きた後だと思うのだが?

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