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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第二章 -神騙り-
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02-10-04 全容視えぬオベロン 


出流は、暇だった。

もう、何日もセイレンは来ていない。

代わりに食事を持って来る少年は無愛想でなにも語らず起こった表情でいつも帰っていく。

今、連れ去られて何日か分からなくなるたびに、服の糸を抜いて作った日付を認識するために創った紐をみる。寝て朝が来るたびに結び目を作って日付を数えていた。

幾つも幾つも出来た結び目は、増えるたびに怖くなる。

星原は、あれからどうなったのだろうかと。

セイレンは何度か口を滑らせて教えてくれたが、それでも心配だった。

アルトは、今何をしているだろう。玻璃を目の前で殺され、今も落ち込んでいるのではないだろうか。いや、彼女の事だから立ち直り、セレスティンと戦おうとしているかもしれない。

きっと、大丈夫だと思う。しかし、考える事はどれも空想の産物。本当になにが起こっているのかは分からない。

突然、ノックも無しに扉が開いた。

すぐに視線は扉に行く。

ゆっくりと開く扉から姿を現したのは、よく見知った少年だった。

「……まこ、と?」

マコトは……出流を誘拐してきた最初の日に少しだけ会ったぐらいで、ほかはほとんど顔を出さなかった。久しぶりの対面だった。

以前よりも細くなったかもしれない。顔色が悪いように見える。

心配の言葉をかけようとして、今は敵であることを思い出す。

彼は、裏切り者だ。星原を裏切り、玻璃を殺したのだ。信じられない気持はあるが、優しい言葉をかけられるような状況ではない。

「いまさら、どうしたの」

そう言えば、セイレンはマコトの名前を聞いてとても驚いていた。そんなことを思い出しながら、出流は問う。

「もうすぐ、アーヴェの者達がここに来る」

「え……?」

思わずマコトを真正面から見てしまう。

彼は、薄紫の瞳を静かに出流に向けていた。

「アーヴェの?」

星原の上層組織。彼等が動くとは、出流を奪還するためと言うことだろうか。少しの期待が浮かび上がる。

だが、同時に思う。

その情報をマコトが知っていると言う事は、セレスティンに筒抜けと言う事。彼等は馬鹿じゃない。分かっている襲撃に備えないはずが無い。

「……それを、私に言ってどうするの?」

小さな希望を見せて、どうすると言うのか。

「東には、行かない事をお勧めする」

意味がわからないと首をかしげる出流を横目に、言いたい事は言ったとばかりにマコトは部屋を出ていく。鍵をかけるのも忘れない。

残された出流は、マコトの居なくなった部屋で呆然と立ち尽くすしかなかった。





「セレスティンのアジトへ突入する?」

四葉のエース、レナ・オーギュストの胡乱げなこえが響いた。

アーヴェ本部、未だセレスティンの襲撃からあわただしく復旧を急いでいるそこで、被害のなかった会議室にてまたしても総会議は行われていた。

今回は、各組織のエース(星原のみエース代理)とジョーカー、他数人のみである。ジョーカーは珍しく全員が揃っていた。月剣本部の襲撃を受けたため、他の者は各本部に襲撃を受けた時の為に待機する事になっている。

アーヴェ本部はセレスティンに襲撃され危険ではないかという意見もあったが、日にちも場所もなく、結局ここでおこなうこととなっていた。

内容は、レナが先ほど言った通り、セレスティンの事である。

一番目のジョーカー、フィーユはレナの言葉に頷いた。

「セレスティンのやる事に対して、アーヴェは後手に回りつづけているわ。これ以上被害を出さない為にも、セレスティンをこのままにしておくわけにはいかない」

月剣のエース、アルドールが険しい顔で頷く。今まで、月剣はセレスティンに支部を潰され、本部への襲撃まで許してしまった。いつもは月剣と意見が対峙することの多い語部のエース、アダマストも苦渋を飲んだように頷く。語部もまた、支部を襲われていた。

反対だと意見を言うのは、レナのみ。四葉はほとんど支部が存在せず、セレスティンにもほとんど狙われていない。また、セレスティンへの襲撃に四葉が関わるのは好ましく思ってはいなかった。

各組織にはそれぞれ役割がある。月剣は国家間の問題を解決し、語部は宗教での諍いを治め、星原は大陸中への支援を行う。そして四葉は、人ならざる者達を保護する。

組織に所属するほとんどの者が亜人、獣人、人外の者達である。

セレスティンは人に迫害された者達の復讐の為の組織だとうたっている。それが嘘であれ本当であれ、人を殺し悪事を行うセレスティンを四葉は認めはしない。だが、積極的に戦えるような相手ではない。

犠牲が無いからそんな事が言えるのだと、アルドールから非難の視線が送られるが、レナは首を振る。

「犠牲者が出ていないから拒否しているのではないわ。今、襲撃を受けて本部も月剣もぼろぼろの状態でどうやってセレスティンを止めると言うの? 少なくとも、彼等にはあのプルート、それに黒の女神がいるわ。彼らに、勝てるの?」

もう少し、時期を置いた方がいい。レナは言うが、今度はフィーユが首を振った。

「セレスティンは、謎の計画を進めているの。これ以上時間を与えて居たら、なにが起こるか分からない。だから、私達は黒の女神スフィラの身柄をなるべく早く拘束しなければならないと結論を出したの」

「計画?」

そんな話を知らなかったレナは、四人のジョーカーを睨んだ。

「聞いていないわよ、そんな話し」

同じく知らなかったラピスは眉をひそめる。

だが、アルドールとアダマストはなにも反応しない。

「以前より計画されていたもの、らしいわよ。詳しくはファントムと三番目のほうが知っているわ」

フィーユに話を回されると、ファントムが頷いた。

「もう、何十年も前から計画されていた物ですね。今は……オベロン計画などと呼ばれているようですが」

「今、は?」

言い回しが気になったアルドールは問いかけるが、ファントムは笑ってかわす。

「まあ、気になさらず。その計画ですが、どうやら、シェランさんを殺すために練られた物だとか。私はその詳細が明かされる前に組織を裏切ってしまったので、よく知らないのですが」

そう言うと、三番目を見る。

セレスティンに潜入する謎のジョーカー。仮面で隠された素顔は誰も知らない彼は、首を振る。

「下っ端にはほとんど情報が回されていない。おそらく、詳しい内容を知っているのは組織の幹部と中枢を担う者達だけだろう。ただ、かなり大規模の計画であることは確かだ。めったに集まる事のないメンバーたちが集まり、計画の始動を宣言するほどには」

「……」

彼はセレスティンに潜入していると言うが、情報はまったく流れてこない。本当に潜入しているのか、疑わしそうにアルドールは見た。そもそも、彼が月剣への襲撃を事前に気付いて情報を流していれば、あの様な事にはならなかったはずだ。

「もっと詳しい事はわかりませんか?」

「計画は順調、だと。アーヴェで交渉が決裂するのは予想済み、むしろ、アーヴェ本部の情報を手に入れる事が本題。月剣襲撃は他部隊によりなにかしらの工作があったらしいが、その内容までは分からなかった。一番目のジョーカーへの襲撃はどちらの援護へも行けないようにするため。……こちらも危険な綱渡りをしている状況で、これ以上は」

「現在、本部でなんの情報が奪われたのか調査中です」

アスが三番目の情報に付け足す。

「次は何をするつもりか分からないのか」

アルドールが三番目に問いかけるが、また彼は首を振った。

「……分からない」

「……くそ、なにが切り札(ジョーカー)だ。まったく役に立ってないじゃないか」

アルドールはなじる様に言うが、まったくもってその通りだと三番目はなにも言いかえさない。

それは、アスもフィーユも思っていることだった。

なにしろ、三番目がなにを目的として行動しているのかがまったく分からないのだ。ファントムはなんだかんだ言いながらもシェランの命に従い、また先輩であるフィーユやアスになにかと絡んでは情報を交換して行くが、三番目は秘密主義すぎてジョーカー達ですら存在に手を焼いているのだ。

しかし、一つだけ彼がセレスティンへの潜入で得た物がある。

「それでも、私は反対です。だいたい、セレスティンの者達がどこを拠点としているのかすら分かっていないじゃないですか」

レナが言った言葉に、フィーユは首を振った。

「セレスティンの根城について、三番目が場所を特定しているわ」

「本当か!!」

アルドールが目を見開いてフィーユに詰め寄った。

「えぇ。だからこそ、セレスティンへの襲撃を決めたの」

凛と、ハーフエルフの魔術師は言う。

その言葉には決意があり、レナはこれ以上は何を言っても無駄だと諦めた。

「あちらはアーヴェが襲撃されて落ち着かないうちに襲撃をするとは思っていないはずだ。最短時間で準備をして、セレスティンへ攻撃を仕掛けなければならない」

レナが諦めたことで、アスが話を引き継ぎ襲撃について話を進めていく。

すでに、ジョーカーのみで話し合い、内容は詰められてある。さらに、シェランに確認もとってあった。

「実行は明日、辰の刻。襲撃の成員は各組織より有志を募って欲しい。相手はセレスティン、命の保証はないため、強制ではない。彼らと戦うに対して実力が伴わないと思われる者は称号付きのほうでふるい落とす事。また、ジャックの称号付きと最低限度の戦える者を本部にのこし、襲撃時にすぐに対応できるようにする事」

さらに作戦の詳細がさらさらと話されていく。詳しい内容に、レナは自分がどれだけ粘っても決定事項だったのかとため息をついた。

「明日……か……時間が惜しいな。本部に戻る」

話が終わると、すぐにアダマストが動く。続いて、アルドール、レナもすぐに動き出した。

すでに時間は正午を過ぎている。作戦実行まで二十四時間をきっていた。

唯一、残ったのは星原のエース代理、ラピスだった。

「……一つだけ、音川アルト達の処遇についてどうするのでしょうか」

アルト達は、実は未だに本部にいた。

襲撃されたとはいえ、本部は現在、ジョーカーが随時交代で警護をしている。最も戦闘員が居て、安全であるのだ。

そして、彼らの処遇については話し合いの途中でセレスティンの襲撃があったため、うやむやになってしまっている。

「セレスティンとの決着がつくまではこのまま本部で匿っていた方が安全でしょう」

アスがそう言うとやらなければならない事があるとみな動きだした。

あまり納得はしていないが、ラピスも時間が惜しいとすぐに行動する事にした。

会議に参加はしていなかったものの、ラピスと共に本部に来ていたスワーグ支部支部長アマーリエに詳細を話すと、先に本部に戻ってもらう。そして、ラピスはある場所へと向かった。


「さてと、そろそろ反省したかしら?」

ラピスが来たのは、本部の中でも奥まった場所にある狭い事務所だった。

ところせましと並べられた事務机には大量の書類が山積みにされ、そこで事務に追われる者達がいた。

音川アルト、最上カリス、テイル・クージス、ティアラ・サリッサ、朱炎アイリ達である。

彼等は、ファントムからの指示を無視し、無謀な戦いを挑んだことで大量の始末書を書かされていた。さらに、星原の溜まっていた事務や本部襲撃で止まっていた事務など様々な書類を回され、それに忙殺されていたのだ。潤は、さすがに何日もここに居る事は出来ず、すでに帰っている。

因みに、彼らの見張り兼護衛であるシヴァとクリーもなぜか隅っこで書類とにらめっこしていた。簡単に潤に捕まり、アルト達の暴挙を止められなかったため、彼らも始末書やらなにやらちょうどいいからと書いていたのだ。書類が大の苦手なシヴァは、大量の書類を前に絶望的なアルト達よりも哀しいそうにここ数時間まったく終わる気配のない書類を見つめていた。

「……ラピスさん……この量は、さすがに無理です……」

限界で口すら開けないようすの面々のかわりに、少しだけ余裕のあるテイルが小さな声で言う。

「あなた達がどれだけ迷惑かけたと思っているの。これくら、どうにかしなさい」

「……おにっあくまっれいけつかん!」

小さな声で呟くティアラに、ラピスは無言で頭を叩いておいた。

「本部から報告が来るかもしれないけど……貴方達の処遇だけど、とりあえずあと何日かこのまま本部にいることになったわ。これ以上迷惑をかけないようにね」

話す内容はそれだけ。セレスティン襲撃の件は言わない。ラピスは、彼等が行くと言っても許さなかっただろう。ならば、最初から言わない事にしたのだ。

アルトもカリスも、ティアラも、戦う事は出来る。だが、プルートや幹部の者達と戦うことになったら絶対に危険だ。なにしろ、プルート達と戦って、ティアラが重傷を負ったのはつい最近だ。さらに、魔法を使う事ができないマコト相手に、数人で挑んだと言うのに結果は散々だった。次も、また潤やジョーカー達が来てくれるとは限らない。

アルト達の様子を確認すると、ラピスはすぐに部屋から出ていった。

書類に忙殺され、アルト達はラピスの様子がおかしいことや、本部があわただしく動いている事に気付く事は無かった。



しばらく書類を淡々と処理していたアルト達だったが、さすがに限界は来る。小休憩と称して、皆が休憩を始めた。アイリもまた、久しぶりに回転させた頭を冷やしながら、廊下に置かれているソファによこになっていた。

部屋の中は、アルト達がいる。少しばかり、居づらかった。

扉が開く音がして誰かが出て来るが、アイリは寝てるふりをする。

「おつかれさん」

廊下の冷たい空気で少し冷たくなっていた頬に、あたたかなものが当てられた。

目を開けると、両手に湯気を立てたマグカップを持ったカリスが温かいマグカップをほおに当てているのであった。

「……」

座りなおしたアイリの横に、カリスはどっこいせ、と座りこんでマグカップを一つ渡す。

中身はカフェラテだった。

長い付き合いのカリスは、アイリの好みを知っている。一口飲むと、悔しいほど自分の口によく合う。

そういえばマコトや玻璃も、みなの好みをよく把握していたなんて余計な事を思い出す。

「すまんな」

さすがに師走。廊下は冷える。カリスはマグカップに両手をあてて笑った。

「アイリに礼なんて言われたらあとが怖いよ」

「カリスは私をなんだと思っているのだ」

「なんだかんだ人を巻き込む厄介な奴」

「本人目の前で言うか?」

「聞かれたからなー」

こんな会話も、久しぶりに感じる。

ここ数週間はこんなふうに落ち着いて友人と話しながらお茶をすることも無かった。

「なぁ、アイリ」

あの話しだろうか。そう、アイリは身構える。

「お前、すげぇな」

「え?」

「地の大精霊を救ったって聞いたぜ?」

「……救えてなど、いない」

違う話だったかと少し呆気に取られながら、内容に落ち込む。

「でも、すげぇよ。未だにアーヴェの本部の人達が解析できてない呪いの進行を一月も抑えるなんて」

「……すごくなんて」

「オレには出来なかっただろうな」

「……」

「残念な結果だったけど、お前がいたからそんだけの被害ですんだんだとオレは思うぞ」

「……」

ぽんぽんとうつ向くアイリの頭を叩かれる。

年下の少年に元気づけられるとは思っても見ず、ほんの少しだけアイリは泣きそうに微笑んだ。

「なぁ。オレはマコトの事を許せないと思う。でも、アイリがマコトの事を擁護してるのはきっと理由があるんだと思ってる。なんで理由を言えないのか……魔術的な物なのか……考えたけど、とりあえずそれはいいとして……理由とか言わなくていい。ただ、オレは疑おうと思うよ。本当にマコトは裏切ったのか。あいつの行動の意味を」

マコトと戦って、すぐにカリスは脱落した。だが、実はすぐに気絶から目覚めていた。

十二神将達に魔力を回さなかったのは、気絶から覚めている事を気付かせないためだった。隙あらば、反撃しようとしていた。

だが、反撃の機会は来ず、さらにマコトは最後にカリスを見た。各称号付き達を見回すついでに。目があった時、彼はカリスが起きている事を知っていたのだと気付いた。

マコトは、全然本気を出していなかった。いや、本気を出していないと言うより、カリス達を殺す気が無かった。プルート達と違い。

一体、彼は何をしたいのか、何をしているのか、知りたいとカリスは思っていた。





あの剣は、一時的に魔力をほどく事ができるのだという。


みな、休憩で各々好きな事をしているなか、ティアラは一人椅子にもたれ込み、考えていた。

思い出すのはマコトとの戦いだ。

あの時、ティアラは侮っていた。マコトを、魔法も使えない剣士だと。

それが、箱を開けたらどうだ。ティアラは敗北した。

プルートの時のように誰かが暴走したわけではない。正面で戦って、だ。

あの時マコトが使っていた短刀は、魔力を斬ってほどくことのできる刀だと、後々分かった。

放たれた魔法を壊したり、一時的に魔法契約を破棄させる事ができるのだと言う。

ティアラはあの時、ソードとの契約を失った。

ほんの少しの間のことだったが、それは恐怖となって残っている。

ティアラは、ソードとの契約が無ければ文字通り歩けない。足を、動かせない。日常的な生活を、なにごともなく送る事は出来ないだろう。

ティアラは……戦争に巻き込まれて消えた町の生き残りだ。家族も友人も町の人々もみな死んだ。そして、ティアラも小さくは無い傷を負っていた。もう、二度と歩けないはずだった。

ソードは契約者の傷を回復させる。ティアラの足を動かせるようにとその力をふるっていた。だが、契約が切れて契約者ではなくなったために、ティアラは動けなくなってしまったのだ。

マコトは知っていたのだろうか、とティアラは考える。

おそらく、知らなかったはずだ。ただ、ソードの力による回復が目障りだからだろう。

この事は、誰にも言ってないから。

ため息をついている間に、アルト達が休憩を終えて書類に向かっていた。考え込んでいる間に時間が過ぎていたようだった。






早く星原本部に戻ろうと足を速めるラピスは、アヴィアの庭に帰る為の『扉』の前で、青年が立ちつくしていることに気付いた。

近づくと、彼はにこりと笑う。

「さきほどぶりですね、ラピス殿」

仮面で顔の上部を覆い隠す元セレスティンの幹部、ファントムだった。

正直、ラピスはファントムの事を気にしていた。


『……なにも話せなくて、すみません。あと、もう少しだけ……待っててください。ラピスさん……陸夜くん』


かつて、初めて会った時のファントムの言葉だ。彼に、どこか懐かしさを感じていたが、だが思い出せない。

彼の正体は謎に包まれている。

さらに、彼はラピスと星原の本来のエースしかしらない話を知っていた。


『エースの正体を明かさない方がいい。エースの動向を魔術師が見張っている』


一体、彼は何者なのか、警戒するラピスをよそに、彼は突然頭を下げた。

「星原のあのこたちを、俺に貸してください」

「え?」

あのこたち?と首を傾げるが、なんとなく誰なのか予想はついてしまった。

ファントムと関わりが深い、さきほど会ったばかりの少年少女達だ……。

いったいどういう事なのか、まさか明日の襲撃に彼等を連れていくつもりなのか、それともなにかに使うつもりなのか、頭が真っ白になる。

「危険だとはわかってる。でも、彼らなら、これから起こるかもしれない悲劇を、止められるかもしれない」

『かも』の想定の話をファントムは続ける。

「あの子たちは、絶対に俺たちが守るから、お願いです」

動揺するラピスは、ファントムがいつもと全く違う様子である事に気付かなかった。一人称も、口調すらも違う彼は、必死になって頭を下げる。

「な、なにを、あの子たちになにをさせるつもりなんですか」

「……俺と一緒にセレスティンの本部に来て欲しい」

「そんなっ、絶対にダメです!!」

「このままじゃ、真実が闇に葬られてしまうかもしれないんだ!!」

必死のファントムの言葉に、ラピスは押される。少しずつ冷静になってきた彼女は、目の前の青年がいつもと違う事にようやく気付いた。

雰囲気も、なにもかも、違う。

ラピスは、それでも退かなかった。

「私は星原のクイーン。エースの代理として、星原を預かる者。部下を……まだ若い未来ある子たちを、危険と分かっている場所に行かせる訳にはいきません!!」

「もう、彼等は守られるだけの存在ではないと、この前の戦いで分かったはずです。たしかに、マコト相手に敗北したかも知れない。でも、彼等はきっと何度でもマコトに挑むはずだ。この状況に彼等は納得していない。真実を知りたいと戦っている。あなたが止めても、きっと彼等は進むはずだ」

それでも、ラピスの下に許可を得にファントムが来たのは、けじめだ。

ラピスに、承認して欲しかったのだ。

「……でも」

「あなたは知ってるはずだ。真実を隠された者達がなにを望むのかを。あの子たちには真実を知って欲しい」

「真実?」

かつての過去を、とても思い出したくもない過去を思い出し、ラピスは苦い顔をした。

なぜ、ファントムがラピスの過去を知っているのか、考えたくもないが、不安と不信感が募っていく。

だが、次の言葉でそれすらも忘れてしまった。

「……なぜ、星原がセレスティンに襲われていないか、気付いてますか」

不思議な問いかけだった。

星原は襲われている。星原の旧本部皇の館を襲撃され、死亡者も出た。

また、たまたま旧ダスク共和国で魔術師の黄泉還りとプルート達と接触し、交戦した。さらに、アルト達がたまたま白蓮の都でプルート達と接触して戦いとなった。


だが、それ以外は襲われていない。

いや、セレスティンから攻められたのは実質一回だけだ。


なにかが、おかしいとラピスは思った。

月剣も語部も、本部も、支部が襲われ、研究所は潰され、多くの死傷者がでたという。

なのに、星原の犠牲者は一人だけ。

さらに、アイリとティアラの証言を思い出す。白蓮の都で、清蓮は当初彼等を見逃そうとしていたと言う。

『プルート? こいつらは星原よ。話しがちが……』

彼等は、星原の者を殺す事を禁止されていた。プルートはどうも違ったようだが、セレスティン全体で星原の者を殺す事を禁止されている可能性が高い。

恐ろしい考えが浮かぶ。まさかと、震える体を抱きしめた。

「なんで、あの子たちなの?」

震える声で、ラピスは聞いた。

「二年、アルトに関してはほんの数か月かもしれない。けれど、その間は確かに共に戦う友で、仲間だったはずだから」

「最後に一つ、だけ……いい?」

「?」

「……貴方は、誰、ですか?」

「…………ごめんなさい、ラピスさん。全部終わったら、絶対に、教えますから。だけど、都合がいいとはわかるけど、俺の事、信じてください」

ラピスは、何も言わなかった。




次回、血戦


冷徹の魔女、機械仕掛けの人形、謎多き三番目、夢の操り手、そしてアーヴェの者達はセレスティンへ。




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