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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第二章 -神騙り-
83/154

02-09-01 すべて手の内の遊戯、それぞれの決意


「うぅ、さっむー」

分厚いコートを着込みながらもまだ寒いと、ティアラ・サリッサは腕で自らの身を包む。

場所は、一面雪景色。白い建物が雪で隠れてもはやなにが何だかわからない。

さらには風が吹き荒れ、吹雪になりかけていた。

「たしかに、これでは今日は無理だな……」

ティアラの後ろからついて歩く朱炎アイリは、顔を手で庇いながらゆっくりと進む。

その顔は険しい。

「え? あー、そうなの」

と、突如ティアラが独り言のように言葉を紡ぎ、なんども頷いている。

「どうした、ティアラ」

「これなら、今晩峠で、明日の朝には吹雪も止んでるはずだって、ソードが」

「なるほど」

思わず、アイリはティアラの背負う槍を見た。

唯の槍ではない。魔槍、と呼ばれるものだ。

ティアラの話しでは、なんでも『ソード』と名乗る意思があり、時折助言をくれたり力を貸してくれるのだとか。アイリも、何度かティアラの体を借りて顕現した彼を見ている。

話した限り、悪い人ではなさそうだったが、なぜ彼が槍に宿っているのか、そもそも彼は何者なのかはまったく分からなかった。ティアラもまた、彼の事を必要以上に話そうとはしない。

今のところ、ティアラに悪影響を及ぼす存在ではないことは確かなようだった。

「うー、仕方ない。今晩泊る所探そう」

「うむ」

二人は、頷きあうとまた雪の道を進んだ。

「白蓮の都、明日には全貌が見えるのだな。そう思うと楽しみだ」

あたりは降り注ぐ雪で見遠しが悪い。美しき都を明日は拝めるかとアイリは薄くほほ笑んだ。


シエラル王国、白蓮の都。

かつては第二の首都、美しき白の都と謳われ人々でにぎわった都だ。

しかし、今はその面影を残すのは誰も居なくなった無人の廃墟だけだ。

かつて、ここでは悲惨な虐殺が行われた。

白蓮の大虐殺と言えば、知らない人はいない大事件だ。

ましてや、それは百年戦争を止めた原因となった事件である。当り前であろう。


数年に一度の雪月花祭。その祭の最中のことだった。

一人残らず、殺された。

誰もが死に絶えた死の都に遅れて到着したシエラル王国軍はその悲惨な都を紅蓮の都と称した。

一面の白い世界が、真っ赤に染まっていたと今でも悪夢に見る者もいる。


殺された人々はまだ全員見つかっていない。

おそらく、攫われた者もいたのだろう。

未だに攫われた人々の消息は分かっていない。

そもそも、大虐殺を行った者達が一体誰だったのかすら分かっていない。


そんな悲惨な事件のあった都に、ティアラはいた。

一面の雪景色。まさに白の都。

凍える手をこすり合わせながら、まだ使えそうな建物は無いかとうろついていた。


「もうさ、この辺の家借りない?」

「無理だ。窓も扉も壊れて隙間から雪が入っている。せめてもう少し無事な建物のほうがいい」

「ですよねー。あー、寒いったらありゃしない」

「寒いさむいと言うから寒いのだ。反対の言葉を言ってはどうだ?」

「あ、熱い、暑いっ! すこぶる熱い!! ……あんまり意味ないかなぁ」

「そうだろうな」

寒さを少しでも忘れようと二人は会話しながら前を進む。

この時期、シエラル王国は雪で国土のほとんどは白く染まる。それは、白蓮の都も例外ではない。

二人が無人の都に来たのは、とある依頼の為だった。


白蓮の都で起きた大虐殺。そこで無残な死を遂げた魂への追悼と鎮魂の為の神事。

三年前から年に一度星原に匿名で依頼が来るのだ。

大々的にではない、盛大にはやらないで欲しい。ただ、ひっそりと。誰にも知られることなく。

どうやらラピスはその依頼主を知っているようなのだが、その正体を決して明かす事は無い。あまり、表舞台には立ちたくないのだとか、立てない人物なのだとか、星原の中でもいろいろ噂があった。

毎年、白蓮の都に数日滞在して鎮魂の儀式をして、そして終わる。なんの危険も無いので、つい最近まで休んでいたアイリの復帰後最初の依頼としてあてがわれたのだ。

他に、適正な人が居なかったというのもある。

実力者たちは増えている依頼に全国を駆け回り、特に呪術を修めている者は引っ張りだこなのだ。


二人がしばらく歩くと、人の声がした。いや、風の唸り声だったのかもしれない。

ただ、暗くなっていく周囲とその不穏な音に二人は足を止めて顔を見合わせた。

「今、なんか聞こえた?」

「風、だろう」

「はやく、どっか休める所探そう? ねぇ、アイリ」

雪に覆われたこの廃墟。ここはかつて大虐殺があったのだ。それを今さらながら思い出してティアラは違う意味で身を震わせた。

そして、また。

「ひぃっ」

思わず腕に抱きついてきたティアラに、アイリは驚きながらもなだめる。

「風の音だろう。そう驚かなくて大丈夫だ」

「でも、ちょっと怖くない? あたし、ほんとは……」

こう言う所、苦手……と、ごにょごにょ言うティアラに、アイリは仕方が無いなぁとばかりに庇うように前に出る。ティアラの腕を引きながら、アイリは進んでいった。

「お化けや幽霊は平気なくせに、どうしたのだ」

「お化けとか幽霊ならいいの。そうじゃなくて、その……怖くて」

「怖い?」

「なんで生きてるのかって、責められそうで」

「……ふむ。そうか」

そういえば、とアイリは思い出す。ティアラが星原に来たのは、数年前のこと。

なんでも、住んでいた村が戦争に巻き込まれて、一人ぼっちになってしまったからだとか。

一人生き残ってしまったその罪悪感があるのだろう。

「だが……ん?」

なにかを言いかけて、アイリは止まる。

ふと、一面の白の世界にありえないモノが見えたからだ。

目を凝らす。

やはり、間違いない。

「ティアラ、どうやら先ほどの声は人、だったようだ」

白く大きな壁の様な物の前に、女性が立っていた。

いや、その身長からまだ少女かもしれない。

腰まで届く金色の髪が風に遊ばれて揺れている。それが、視界に入ったのだ。

彼女は、

壁の様な物に手を当ててなにかをしていた。

アイリ立ちからは後ろを向いていてよく見えない。

「そこの方。この辺りに住んでいる方だろうか。申し訳ないが、この雪で道に迷ってしまった。よければ、一晩宿を借りたいのだが……」

これ幸いと、アイリは近づきながら声をかける。

白蓮の都に人は住んで居ないはずだが、彼女はいったいどこに住んでいるのだろうか。この近くに昔村があったはずだ。そこの生き残りかもしれない。疑問に思いながらも、アイリは楽観していた。

少女が慌てたように振り返った。

「ん?」

「えっ、なんで」

その見覚えのある顔に、アイリは思わず眉をひそめる。

ティアラもまた、驚きに目を丸くした。

「なぜ、貴様がそこにいるっ」

忘れもしない。アイリとティアラはよく覚えていた。

金色の髪に蒼の瞳。あの時は、狂気の笑みを浮かべていた、復讐者。

「セレスティンのセイレン!!」

アイリの鋭い声が響いた。

「……それはこっちの台詞よ」

吐き捨てるように、清蓮が呟く。

すぐに臨戦態勢に入るアイリとティアラだが、二人では清蓮に敵わないだろう。

ティアラは致命傷を負わない限り再生する能力を持っているが、清蓮はその再生が間にあわないほどの重傷を負わせてくることは前回の戦いで分かっている。そして、アイリには清蓮を倒すほどの力は無い。ソードに変わればどうにかなるかもしれないが、確実性は無い。

どうするか、二人は緊張した面持ちで清蓮の動向を見る。

彼女の動き次第だが、彼女が戦うつもりならば、すぐさま逃げるつもりだった。

だが、彼女は動かない。

ちらりと周囲を見渡して、そしてアイリ達を見る。そして、冷淡な声で命令する。

「運が良かったわね。さっさとここから消えなさい」

「っ?!」

アイリは驚き、息を詰まらせる。

清蓮は、以前人間を憎んでいると言っていた。そして、人間を殺す事に躊躇いなど無い様に町を水没させた。ティアラに普通の人間ならば致命的な傷を負わせた。

好戦的だった前回を知っているアイリは、どうしてもその言葉が信じられなかった。

ティアラは、無言で清蓮を見つめる。

忌々しげに清蓮はアイリ達を見くだすように冷たい視線を送る。

「なにを、考えている」

清蓮にとって、アイリ達は憎むべき人間だと言うのに。

「うるさいわね。私の気が変わらないうちに消えろ」

静かだったティアラが、アイリの袖を掴み、引いた。

「ティアラ?」

「行こう、アイリ」

「だが」

ティアラは静かに首を振る。これ以上は危険だと。

ソードがティアラに伝えて来るのだ、彼女以外に、なにかが近くにいると。

今のうちに、撤退すべきだと。

すぐに逃げて、アーヴェの本部に連絡すべきだ。そうすれば、しかるべき人々が彼等が一体何をしていたのか調べてくれるだろう。運が良ければ、彼等を拘束できるかもしれない。

未だ、アーヴェの組織を狙った襲撃は続いている。星原は幸運なことに被害に遭っていないが、他の組織ではかなりの人達が死亡している。ティアラもアイリもアーヴェ本部からもしもセレスティンの者と接触した場合はとにかく逃げろと言われているのだ。

「一つだけ教えてよ、清蓮ちゃん。出流(いづる)は、無事なの?」

後ずさりながら、ティアラはゆっくりと聞いた。

アイリも、しぶしぶ後退して行く。もはや、二人に戦意は無い。

「……あぁ、あんたたちは、あの子の知り合いだったっけ」

思い出したように、清蓮は呟く。

「あの、こ?」

まさか、清蓮がそんな反応をするとは思わず、ティアラは眉をひそめた。

「まだ、生きてるわよ。これからどうなるか知らないけど」

「そう……よかった……」

ほっとティアラは胸をなでおろす。そして、アイリも息をついた。

「さっさと行きなさい」

「……」

二人は顔を見合わせ、静かに来た道を戻る。

そして、ある程度離れた時、走りだそうとした。が、すぐに足は止まる。

「おや、それはいけない」

ティアラ達が戻ろうとした道の脇から、男が二人歩いてきたのだ。

「まさか、こんな場所で君達に逢えるなんて……本当に幸運だ」

二人のうち、前を歩く男が言う。

ティアラもアイリも、動く事が出来なかった。

走りだそうとした足ががくがくと震える。

「こんな場所で……君達を殺せるなんて」

目の前で、歪んだ笑みを浮かべる男は、あまりにも恐ろしかった。

黒の死んだような目。歪な笑顔。ティアラにもアイリにも向けられていない、しかし壮絶な殺気。その異様な男は、吹雪をものともせずにティアラとアイリの元へと歩いて来る。

後ろから従うように歩いてくるどこにでもいそうな平凡な顔の深緑色の髪の青年は、どこか作り物めいた笑みを浮かべている。

「プルート? こいつらは星原よ。話しがちが……」

「星原だろうがなんだろうが関係ないよ、清蓮。こいつらは殺す、人形遣い」

「わーかってるよ」

後ろの青年が、片手を振ると、ティアラとアイリの周囲に黒い仮面を付けた男たちが逃げ場を塞ぐように現れる。

プルート、その名にティアラとアイリは衝撃を受けていた。

プルート……現在分かっているセレスティンの幹部のうちの一人。星原襲撃のときにもいた男だ。しかも、彼は陸夜が魔術師の黄泉還りに殺されかけた時、現れた男でもある。

だが、アイリもティアラも会ったことは無かった。

『ティアラっ、代われ!!!』

「えっ、ソード?」

ティアラが聞いたことも無いほど、切羽詰まったソードの声が響いた。

それはティアラにしか聞こえない声だが、なぜかプルートもまた反応する。

「ソード……? まさか、ソードブレイカー?」

『ティアラっ! 早く!』

「や、まって、ソードっ」

待ってと叫ぶティアラを無視して、ソードは無理やりその体の支配権を奪う。

一瞬の変容。グニャリとティアラの姿が歪んだかと思うと、すでにそこにはティアラは存在せず、槍を背負った独りの青年が居た。

その目は怒りと憎しみに染まり、プルートを睨みつける。

「ティアラっ?! ソード殿っ一体なにを」

アイリが何事かと止めようとする前に、ソードは動いていた。

槍を構え、プルートへと突撃する。

しかし、アイリはその結末を見る事は出来なかった。周囲の黒い仮面の者達が武器を持って襲ってきたのだ。

慌てて結界を張りしのぐが、その結界を横から水龍が襲う。アイリには回避することができない。

「くっ」

横目で見れば、そこには清蓮の姿がある。

「どうやら、殺してもいいみたいだから、殺すね」

淡々と、どこかに心を置いて行ってしまったかのように彼女は言った。

「くそっ」

結界にヒビが広がる。魔力を注ぎ強化するが、黒い仮面の者達の攻撃が、清蓮の水術が容赦なく襲う。

ソードはプルートの元へと行ってしまった。二人は離れた場所で戦い始めている。

清蓮と新緑の髪の男――人形遣い、二人を相手にしなければならない。絶望的な戦いに、アイリは歯を食いしばり絶える。

「諦めな」

ひときわ巨大な水龍が天を登り、そしてアイリに向かって勢いよく下って来る。

ここまでか。もはやアイリの結界では防ぎきれない。諦めかけたその時、地面が突如揺れた。

「な、なんだ?!」

まさか、新手かと驚き、揺れに耐えきれず座りこんだアイリだったが、周囲の清蓮と人形遣いも驚き、また体勢を崩していた。

そして、聞き覚えのある声が響く。

「アルファっアイリを守ってください!」

「ついでに朱雀(すざく)騰虵(とうだ)っ、周囲の奴等を焼きはらえ!!」

なぜか頭上から落ちてきた彼等は、雪を舞いあげながら地面に着地すると、アイリを守る様に前に立った。

「よかったです、間にあって」

「いろいろ言いたい事があっけど、とりあえず……無事か?」

水龍を地面から生えた腕が捕まえて握りつぶして地面に消えた。炎の鳥と炎の蛇の式神が周囲に炎を放ち、雪を溶かし、そして黒い仮面の者達を焼く。

「……ああ」

二人に見えないように、うつむきながらアイリは応える。

カリスとテイルには確かに手紙を送っていた。だが、まさか今、しかもこんなちょうどいい機会に現れるなんて思っても見なかった。

どうしようもなかったこの状況。今も、二人増えた所で勝ち目があるか分からない。

それでも、たった一人で敵と対峙するよりも心強いのは気のせいじゃない。

カリスもテイルもアイリとティアラの窮地を見て、助けに来てくれた。それが嬉しくて、アイリは前を向いた。

「助かった」

震える声で、アイリは言った。

だが、すぐに困惑に変わる。

「……テイル?」

突如、テイルが崩れ落ちたのだ。その場に立っていられないとばかりに。

「お、おい、テイル、どうした?」

カリスも驚いて声をかけるが、テイルは口を動かすだけで声が出ない。攻撃を受けた様子は無い。しかし、その視線の先には人形遣いが居た。

どうして。と口が動く。

目がこぼれてしまいそうなほど見開いた眼には、恐怖と怒り、そして絶望があった。

「知り合い?」

清蓮が冷たい声で人形遣いに聞く。

彼は不思議そうに首を傾げた。少しばかり考えて、ぽんと手を討つ。

「あぁ、あの時の生き残りか」

どういうことだ、とカリスもアイリも目を白黒させながら警戒する。

「しまった……これ、あの時の人形だったか」

人形遣いは自らの身を見降ろしながら、あまり後悔している様子無く言う。

「これは、神殺しの一族を皆殺しにした時の、姿だったな」

「は?」

なんだ、それは。

カリスにその言葉がどうしても受け入れられなかった。

「まさか、こんな場所に神殺しの一族の生き残りが現れるとは思っても見なかった」

「どういうこと?」

清蓮が怪訝そうに問う。

「いや、彼の家族を殺したのは、私だから」

「……」

からりと笑う人形遣いを清蓮は無表情で見る。

「そんな顔をしないでくれ。私だって上から命令されて仕方なく……あぁ、あの男の人は強かった。ゴーレムだっけ? あと、あの女の人も……弱いくせに必死になってめんどうで」

「黙れっ」

カリスが声をからして叫んぶ。

アイリはそう言う事かとテイルの元に座りこむと、その震える手を握った。

「テイル、とにかくここから逃げるぞ。立てるか?」

「……ごめん、ごめん。大丈夫」

明らかに大丈夫な様子ではない。アイリは、人形遣いを睨みつけた。





プルート。セレスティンの幹部であり、黒の女神スフィラを信奉する男。

人間。のような外見。

しかし、人間ではない。

人外。

なぜなら、彼はあまりにも長い時間を生き過ぎている。

彼に関する記録は神世の時代にまで遡る。そう、黒の女神が母神である現在を司る神に封印される以前から彼女の周囲にその影はあった。彼女の封印が解けた後、彼は彼女のすぐ隣にいつもいた。彼女が再封印された時、彼は姿を消し、いつの間にかセレスティンの幹部となっていた。


「き、さ、まあぁっ!!!」

どこまでも純粋な殺意。ソードの憎悪の言葉に、プルートは笑みを深める。

「まさか、ソードブレイカー、君が存在しているとは思ってもみなかった」

「黙れ!!」

怒りに支配されたソードの槍はプルートに届かない。

避けられ、プルートの剣に弾かれる。

「貴様ッ貴様っ貴様ぁっ!!! なんでここにいるっ在ろうことかこの地にっシェンラルの土地にっ!!」

「ははははっ! 許せないか? 許せないだろうなぁ、ソードブレイカーっ」

それこそ、我を忘れるほどに。

その憎しみが心地よいと、プルートは目を細める。

「くそおおおお」

怒りで我を見失い、単調な攻撃となったソードの槍など恐れるに足らず、プルートは嘲笑しながら彼を切り裂く。

プルートの影が突如広がり、ソードの身を包みこもうとする。

『ちょっと、ソード! どうしたのっ?!』

ティアラの声がソードの中で響いた。

「こいつは、オレが相手する!」

その声に気を取られ、影から逃げようとしたソードだったがその身を拘束される。

『ソード! どうしたのっ。いつものソードじゃないよ!!』

「……っ!!」

無理やり右手の槍を振るう。それに触れた瞬間に影が消滅していく。どうにか拘束から逃れたプルートは、生み出されていく影を消滅させていくが、それ以上の影が生み出されていく。

『お願いだからっ。アイリが危ないの!! ソード! アイリのところに戻って!!』

「こいつは、こいつとスフィラだけはっ」

『ソードの馬鹿!!』

馬鹿でもなんでもいい。ただ、プルートだけは……と、ソードがプルートを見た時、すでにそこにプルートはいなかった。

影を避けている内に彼はすでに移動していたのだ。

どこに?

慌てて周囲を探そうとしたソードに、後ろから衝撃が襲った。

「くっ」

下を見れば、腹部を貫通する血まみれの剣先が見えている。

乱暴に抜かれ、ソードは揺らめきながら前に逃げる。

腹部を抑えながらプルートが居るはずの場所を見るが、すでにそこに誰もいなかった。

『ソード、後ろ!!』

反撃する暇もなく、さらに背中に一太刀。

腹部の傷はすでに直りかけているがそれでも苦痛はある。

プルートが居るはずの場所に槍を振るうが空振り。左手に移動していたプルートが、笑いながら横っ腹を裂いた。

その衝撃で倒れたソードを、さらに彼は追撃する。両足の腱を切り裂き、心の臓へ剣を振り下ろす。

それを転がり、ぎりぎりで回避したソードは立ちあがろうとしてまたしても全身を影に拘束されてしまったことに気付く。

影に誘導されていたのだ。

「ぐあぁぁあああぁっ」

全身を影で締め付けられ、ソードの手から槍が転がり落ちた。

それを蹴飛ばしながら、プルートはソードの元へとやってくる。

「ばかだねぇ。そんなんだから、シャラージュを助けられなかったし、今だって誰も守れないんだよ」

「……ぁあっ」

ようやく、ソードは気付いた様にアイリがいたはずの場所へ視線を向けた。

そこでは、たった一人で追い詰められているアイリがいる。

このままでは--。だが、ソードは動けない。

腹部に、またしても剣が刺さった。さらにまた。

何度も何度も影で拘束され、動けないソードをプルートは串刺しにしていく。

「平民が、名前もない孤児ごときが騎士様? なに夢を見ているんだ? お前は、誰も、救えないんだよ!!」

もはや抵抗も出来ないソードに、プルートは笑いながら剣を振るった。そして、つまらなそうに辞める。

ソードの目に、何も映っていなかった。

心が、折れて屈していた。

影が消えると、地面に倒れる。そのまま、動かない。

そんなソードに興味をなくし、プルートはアイリたちのほうへと向かった。





今回はいろいろな人が大集合。かなり長くなりそうです。


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