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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第二章 -神騙り-
59/154

02-01-01 始動

プリセリア歴4996年、12月、皇の館が襲撃される。


アーヴェとは因縁深きセレスティンは、以前より『神殺し』を探していた。

星原にて保護されていた『神殺し』の一族の末を勧誘、もしくは殺害をしようとしたモノであった。

また、日野出流を誘拐したことから、日野の姫を狙った犯行とも見られている。


また、襲撃の際、霧原陸夜の義弟霧原誠がセレスティンからのスパイであったことが判明。

星原の千引玻璃が応戦するも、殺害される。

霧原誠は元黒騎士の『紫の悪魔』であり、現在はセレスティンの幹部ベネトナシュと名乗っているもよう。

さらに、彼は星原及び、アーヴェ本部中央、裁き司、月剣、語部、四葉の全ての組織に関する情報を奪った。

現在、ジョーカーたちが彼の正体を探っているが、成果は上がっていない。



セレスティンを束ねるのは、前回(・・)同様黒の女神、スフィラ。

判明しているセレスティンのメンバーは紫の悪魔、神楽崎、プルート、タツヤなどである。




アーヴェの本部、中央。その中の会議室には大勢の人々が詰めかけていた。

中央に座るのはアーヴェの支配者シェラン。その横には二人のジョーカー、フィーユとアスが控える。

裁き司がその後ろに並び、シェランの前には月剣、語部、四葉のエース三人が並ぶ。星原のエースはいない為、そこにはラピスがいた。

さらに、その後ろにはキング、クイーン、ジャックの称号持ちが座る。

各組織の人数が揃ったことを確認すると、シェランにフィーユが確認するように視線を向ける。頷いたシェランの様子に、フィーユは心を決めて口を開いた。

「今回の星原での襲撃事件について、ですが……」

「星原のキング、彼の義弟が絡んでいるとか?」

フィーユの声を遮り、月剣のエース、アルドールが言った。

いつもながら、大きな態度に数人が小声で批判する。

「まったく、困ったものですわ。ま、た、も、星原のキングが不祥事を起こすなんてねぇ」

月剣のクイーン、クレアーティがラピスを見つめながら笑う。

何も言わないが、その言葉に同意している者は多い。

星原のキングの不祥事は、これで二度目なのは確かに変わらないのだ。一応は、違うキングではあるのだが……。

「やはり、霧原陸夜をキングにするのは早計だったのでは?」

「そうですわ、なんせあのエース殺しのキング、夜神空夜の弟なんですもの」

以前のキングと陸夜は血縁である。腹違いの兄弟であった。

その事を、ねちねちとアルドールとクレアーティは言いつのる。

それを、ラピスも陸夜も無言で聞いていた。

陸夜は膝に置いた手が真っ白になるほど握りしめている。が、顔には出さない。何も言わない。

「そこまでにしておいては? 不義を働いたのは陸夜さんの義弟。陸夜さんには非が無い筈です」

助け船を出したのは四葉のエース、レナだ。

「別に、わたくしたちは責めている訳ではないわ。そもそも、こんなことになってもエースは出てこない星原という組織について、問題には思っているけど」

「我が星原のエースは……どうしても離せない用があるとのことで」

ラピスの回答に、クレアーティは大げさにため息をついた。

「いつもいつも同じいい訳で、一度だってここに現れたことが無いじゃないですの。本当に、星原にはエースがいるのかしら?」

嗤うクレアーティに、数人が同意する。

星原のエースが本当にいるのか、みな疑い始めているのだ。

何年も何年も、星原はエースの名をまだシェラン以外には誰にも告げていない。

「クレアーティどの、これでは話が進まない。フィーユ殿の話を聞き終わるまでの発言は控えてもらおう」

「あら、ごめんなさい」

唯一無言を貫いていた語部のエース、アダマストの言葉に、クレアーティは素直に謝る。

それを、ラピスは静かに見ていることしか出来なかった。


星原はこの中で一番発言力が無い。

全ての発端は十二年前に在る。

十二年前、当時の星原のエースであったリースが殺された。

犯人は、当時星原のキングであった夜神空夜とジャックの夢条響。身内同士の争いによる殺し合いだった。

公式の発表では、エースの座を欲した空夜と響による凶行だと言われている。が、本当にそうかと言われれば、ラピス、いや、ほとんどの星原の人々は否定しただろう。

空夜も響も、そんな人間ではなかった。

むしろ、リースは毎回そろそろ引退して空夜にエースの座を押し付けたいとまで言っていいたのだ。また、響も本来ならキングに為るはずだったのだが、怠け者でさぼり癖があり、書類仕事なんて嫌だと逃げ回った末にジャックを無理やり押し付けられたような人間だ。

そんな二人がリースを殺すはずが無い。

だが、彼等は裁き司による取り調べから逃亡した。

それ以来、二人の消息は不明。今も捜索されているが成果は上がっていない。


そんな事件があった為に、星原は四つの組織の中でも最も発言力が弱いのだ。

「話は終わったようね」

フィーユがようやく終息した会話にため息をついた。

「星原の襲撃についての詳細は既に配られている資料のとおりです。調査結果、霧原誠は紫の悪魔と同一人物であることが確定されました。なぜ黒騎士の暗殺者が星原に潜入し、スパイ活動をしていたのかは現在調査中です。アーヴェの所属者の名簿やこれからの重要な会議などの日程、組織の使っている基地の場所が漏れたようなので、日程などの変更できる物は随時変更していきたいと思っています」

すらすらとアスが話して行く。

「つまり、私達の居場所も正体も、知られたと」

「なにか、思う所があるのか、アルドールどの。我等は別になんともないがね」

「べつに、なにもありませんよ。ただ、どれだけ身内に対する警戒が甘かったのかと。そうですよね、ラピスさん」

「……」

返す言葉も無く、ラピスは無言を貫く。

代わりに、その隣にいた女性が苛立ちを露わにした。

「そういうのも含めて、エースの仕事でしょうっ。ラピスはエースじゃないわ。ラピスを責めることはないと思います」

「レ、レナ」

ラピスとレナは旧知の中。昔から中がいい分、レナは星原のエースに対して良い想いを抱いてない。なにしろ、現在の星原のエースはラピスに全ての仕事を押し付けているのだ。

「ラピスっ、あなたはなんで何も言わないのよっ。あなたはよくやってるじゃないっ。もう見てられない。星原はどうにかしているわ。ラピスにばかり重責を背負わせてっ」

「レナ殿……」

「アダマストは黙っていてっ。ラピス、エースは誰なのっ。星原はいつまでエースを不在にするのっ」

アダマストが止めようとするが、レナはさらに勢いをつけていく。

「エースは不在じゃないわ」

「なら、なんでここに来ないの? 名を明かさないのっ」

その様子に、四葉のキングのキセキが止めようとするが、その手を払ってレナは言い募る。

「ラピス、これ以上星原にいる必要はないはずよ。こんなところ、捨ててしまいなさいっ」

「ここで、その話はしないで。そもそも、以前に言ったはず。星原にエースはいるわ。訳あって、名前を明かす事も姿を現す事も出来ないけど……」

たしかに、エースはいるのだ。

予定や計画は必ずエースの目を通しているし会議の場にはこれ中らと様々な資料や会議内容についての意見を送って来る。

だが、エースは誰なのか、明かせない。それが、『彼女』がエースになる条件だったから。

彼女の『制限』が解けるまでは、その正体は秘密なのだ。

「話が進まないわ。今は内輪もめしている場合ではないでしょう」

シェランが遂に声を出す。呆れた様子で、額に手を当てている。

「そう、それで私に案があるのですが」

手をあげて発言したのアルドールだった。

彼は、微笑みながら言う。


「星原を、解体してはどうですか?」


死刑宣告の様に、その言葉はへやに響いた。





アーヴェの下位組織、語部。

そこは、宗教に関連した事象を扱う場所である。

故に、そこでは神殺しについて以前から調査されていた。

『神殺し』

文字通り神を殺すと言う大罪を犯した者だ。

しかし、同時に神と言う高位の存在を殺めるほどの力を持った存在。

語部は、神殺しをどうしても確保したかった。

神に関連した事柄を扱うことから、できれば手に入れたい研究素材として。


「なるほど、神殺しは星原に助けを求めていたか」

アーヴェの会議から戻ってきた語部の称号付き、四人はすぐにアダマストの事務室に集まると話を始めた。無論、話し合うのは星原の今回の騒ぎ。

そして、月剣についてだ。

「どうするんだよ、旦那」

ジャックのフィーネラルの軽そうな声が響く。しかし、その目は真剣だ。

「無論、神殺しはこちらに引き渡してもらう」

「そう簡単に渡してくれると思う?」

クイーンのノイン・ノインが嘲笑する。

「拒否するのであれば、多少強引な手を使ってもしかたがあるまい。神殺しは、我々にとって貴重なサンプルだ」

「りょうかいだ」

アダマストが頷く。ノインは何事か考えて、そしてそれまで何も発言をしなかったキングに目を向けた。

茂賀美(・・・)和史路(かずしろ)は、資料を見たまま動かない。

「なーに見てるの?」

「……」

「ちょっと、聞いてるの? カズシロ」

揺さぶると、ようやく気付いて和史路が顔をあげる。

「どうしたのよ」

「……いえ。それより、月剣が星原の解体を推したことに対して、語部はどう対応するのか方針を固めたほうがいいと思います」

「まあ、そうだけどさ。あんた、なんかみつけたの?」

それまで和史路が見ていた資料を奪って、ノインは読む。が、何度も読んだ星原の襲撃の際の資料だ。別に発見も何も無い。

「変なの。で、アダマスト? 語部は星原をどうする方がいいのかしら?」

フィーネラルとノインの視線に、アダマストは渋面を作る。

「今は、傍観をするのが賢明だろう」

本音を言えば、解体は阻止したいのだ。

語部と月剣は以前から反目し合っている。彼等が解体と言っているのならば、その反対のことをしてやりたい。が、星原が解体されれば、語部に星原が以前より溜めてきた膨大な資料や研究資料として価値あるものを手に入れることができる。

しかし、シェランがどう動くのかがまだ解らない。

会議の中では、考えておくとしか言っていなかった。

「星原のエースは、一体何者なのかもわかってねーしなー……」

フィーネラルが呟く。

それは、誰もが思っていたことだった。







「まったく、なんなのよあの女! クイーン・オブ・クイーンのくせにっ」

むしゃくしゃしているのか、乱暴に扉を開けたクレアーティは、そのままソファに身を沈めて叫んだ。

場所は月剣の執務室。アルドールの部屋だ。

「クレアーティ、ラピス・カリオンについてはもうやめろ」

「だって……」

アーヴェの会議中、表面的にアルドールは冷静を装っていたが、内心はかなりびくついていた。

クレアーティが責めていたのは、あの『ラピス・カリオン』なのだ。さすがに肝が冷える。

ラピスといえば、アーヴェの創設した直後からとある事情で存在していると言う裏のある経歴の持ち主。なぜ、彼女が未だに星原のクイーンの座に納まっているのかまったく意味がわからないと言う存在なのだ。

そんな彼女のいる星原に対して解体を提案したアルドールもアルドールなのだが、クレアーティは以前からラピスを敵対している。それにアルドールはほとほと手を焼いていた。

「クレア、ラピス・カリオンにはそれ以上手を出すな」

「アルドったら、彼女の肩を持つの? ひどいわ……」

クレアーティはふくれっ面になると、立ちあがって機嫌が悪そうに部屋を出ていった。

それにため息をつく。

と、それはもう一人のため息と重なった。

「アルドールさん、彼女はそろそろ降ろした方がいい」

そう言ったのは、アルドールの横で書類に忙殺されているヒイラだ。ずれたメガネを直しながら、彼はクレアーティの出ていった扉を見る。

「彼女はクイーンにふさわしくない。あの、ラピス・カリオンに対して本当に何を言っているのか分かっているのか……」

「だが、彼女の様にラピス・カリオンに意見を言えるものは貴重だろう? それより、星原の『彼』から連絡は来たか?」

「はい。現在、神殺しのテイル・クージスは星原の本部に居るそうです。無防備に」

「そうか……」

『彼』からの報告に、アルドールはにやりと笑う。

語部とは違い、国々の国家間に起こる事象をあつかう月剣だったが、彼らもまた神殺しを手に入れようとしていた。

なにしろ、神を殺すほどの力をもつ存在。今はもう、そのような力は失われて久しいらしいが、なぜ神を殺すほどの力を持ったのか、どうすれば神を殺す事ができるのか、それを解き明かす事ができれば手に入れられる物は多い。

スパイを通して神殺しの動きを把握し、いつ捕獲するかと獲物に狙いを定める蛇のように潜んでいた。

「星原を解体すれば、神殺しの居場所は無くなる。その時が、狙いだ」

「はい」

「しかし、いいのか?」

「なにがですか?」

まじめなヒイラがそこに異を唱えるはずが無い。が、思わずアルドールは問う。

「星原には、君の妹がいたはずだが? しかも、君と『同じ』だと言うじゃないか」

「やめてください。あんなのと一緒にしないでいただきたい」

怒りにまかせて、ヒイラは机を叩く。それと共に、アルトと同じ色の栗色の毛が揺れた。

「……そうか、すまない」

少しの間がおきる。

ヒイラに関して、家族の事は禁句だ。それは、彼が月剣に来た時からのならわしとなってしまっている。

彼が音川家に対して並々ならぬ感情を抱いているのは誰もが知っていた。

「そう言えば、グラントは?」

もう一人の称号付きの青年が見当たらないことに気づき、アルドールは話題を変えようと声をかける。だが、あまり変わっていない。

なにしろ、グラントは彼の母親の血筋の家の者なのだから。とはいえ、グラントは仕事上の仲間だ。彼の話題に関してはヒイラはそこまで感情をあらわにしたりしない。

「足りない資料を探しに」

音川家の話題を振ってしまったがために、その声には棘がある。

「そう」

早く戻ってきて欲しい。そう切に願いながら、アルドールはため息をついた。

キングの称号を持つのは、グラント・フォン・メイザース。ヒイラの親戚だとか。仲が良いと言う訳ではなさそうだが、良く彼等は話をしている。どうも、跡継ぎの問題でいろいろあるらしい。

月剣の称号付きは、どうしてこうも癖の強い奴らばかりなのかとアルドールはもう一度ため息をついた。この姿は、月剣の中以外は見せられない。





アーヴェ、下位組織四葉では、語部や月剣の思惑などどこしれず、穏やかな昼下がりを過ごしていた。

「マコト、ねぇ?」

顔面に大きな傷のある青年が紫の悪魔についての資料を見ている。

「どうしたの、キセキ」

甘えるように、少女がキセキと呼ぶ青年の膝に飛び乗る。

「いや、昔さ、僕のいる村にそんな名前の子がいたと……思い出した」

「へー、キセキがいた村って、あの雪がすごいって言ってた?」

「あぁ」

無邪気な少女には翼が生えている。その翼を撫でながら、キセキは嗤う。

「まぁ、みんな死んだけどな」

「……白蓮の大虐殺、で?」

「そだよ」

暗い顔になったキセキに、少女は首をかしげる。

無邪気な彼女の名はリリアス。有翼の獣人だ。

対するキセキは、半端者の吸血鬼。仲間のうちから異端者として追放された者だった。

彼が四葉にやってきたのは四年前のことだ。それ以前はシエラルの白蓮の都近くの村に住んでいたと言う。世間知らずで外出と言うものをほとんど経験したことが無いリリアスは、いつもキセキやいろいろなヒトビトの周りをうろついては外の話を聞いていた。

「そこに、キセキの初恋の人がいたんでしょー?」

無邪気に聞いて来るリリアスに、キセキはぽかんと顔を見て……ぼっと顔を赤らめて手で顔を隠した。

「なぜ知ってる! いや、そんなことあるわけ無いだろっ。あぁ、もう、用事を思い出した!!」

隠そうとしているが、隠せていない。

慌てた様子で顔を隠したままキセキは部屋を出ていくと、隣で見ていた青年が口笛を吹く。

「おっ、噂は本当だったのか」

「アクシスー、キセキ行っちゃったよ……」

「おそらく、図星だったから恥ずかしかったんだろ?」

リリアスは先ほどの話を教えてくれた青年、アクシスに声をかける。

これでいて、リリアスはクイーン、キセキはキング、アクシスはジャックの称号持ちだ。リリアスは幼いようでいて、実は四葉の中でも古参の存在だったりする。

「なぁ、リリアは星原の解体どう思う?」

「えっ。んー……まぁ、別にいいんじゃないかなぁ? 星原ってなんでも屋だし、解体しても困らないっちゃ困らないし」

「そうか」

「ま、でも解体はしないだろうね。あそこの情報網と隠れた人材は目を見張るものがあるから」

「そうか?」

星原には多くの支部があり、そこから全世界の情報が集められる。

そして、人材……確かに、そうなのだ。星原の所属する者たちは、一人を好む者が多いがいずれも様々な分野で得意な能力を持っている。

それは、彼等が世間一般から外れた者たちだからだ。だが、彼等をまとめ上げる存在はいない。

「はぁ、星原、どうなるんだろうなー」

アクシスはむっつりと黙ったままのエース、レナを見て、ため息をついた。



二章早々に主人公不在……

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