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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
58/154

01-16-00 終わりと始まりに

この話をもって第一部終了となります

後書きに第二章の予告があります

若干ネタバレありです



星原皇の館襲撃事件は、ほんの一時間のうちに終幕した。

怪我人は六七名、死亡者一名、生死不明一名。セレスティンによる襲撃では、最も被害が少なかった。

それは、当初より襲撃を予知されていたこと、ジョーカーが常に待機をしていたことによるものだろうと言われている。

その日、皇の館には一番目のジョーカー・フィーユと三番目のジョーカーが揃っていた。ただ、彼等から言わせれば、セレスティンの者達はなにかを探していたためにこのような結果になったのではないかと話していた。


何を探していたのか、公表されていない。が、誰もが知っていた。

神殺しの一族。セレスティンは、彼等を探していた。

そう、テイル・クージスのことを。

セレスティンへの勧誘は断られ、殺害もたまたまその場にいた陰陽師最上カリス……本名茂賀美(もがみ)迦莉朱(かりす)によって失敗に終わった。

なぜ、彼等が神殺しを探していたのか、理由は解っていない。

そして、テイル・クージスの存在はアーヴェの組織に一石を投じた。


さらに言えば……茂賀美迦莉朱の存在は、批判を受けることになった。


カリスは茂賀美家から家出した。その時、彼はあるモノを奪って逃亡した。

それが、茂賀美家が陰陽師の頂上に立つ所以となったモノ……。

神の眷族、式神、十二神将。

十二神、すべてを己が式神とした彼は、彼等を伴って逃亡。

茂賀美家は十二神将を奪った裏切り者としてカリスを血眼になって探していたのだ。

そんな彼を、ラピス・カリオンは事情を知りながら庇い、保護をしていた。


星原は、さらに霧原誠について言及され、苦しい立場となる。


霧原誠……彼は二年前に星原の皇の館に現れた。重傷を負っていた彼は霧原陸夜によって保護されて星原に所属する事となる。

出自は不明。なぜ、皇の館のある世界に入り込むことができたのか、なぜ重傷を負っていたのか不明。彼と一緒に皇の館に現れた少年は死亡し、霧原誠の過去は誰も知らなかった。

そんな彼を、過去について詳しく調べる事もせずに所属を許したこと、星原及びアーヴェ全体の情報を奪っていた事に気付かなかったことにラピスはなぜこんなことになったのかと厳しく責められた。

後からわかったことだが、マコトは皇の館のデータベースから多くの情報を奪っていたのだ。

いまだ、霧原誠の正体は詳しく解っていない。


そして、彼は千引玻璃を殺害し、日野出流を誘拐した。

出流の生死は不明。ジョーカーと裁き司の者たちが目下捜索中である。


そして、星原の本部は、旧星原本部、アヴィアの庭と呼ばれる洋館に移された。




慣れない洋館に、少女は道を迷いながらも進む。

冷たい風が体温を奪ってゆく。

庭に出ると、庭園が広がっていた。よく手入れされているそこは、四季折々の花が咲くらしい。

今は寒桜などが咲いている。

その中でもモミの木など常緑樹のおおい一角へと向かう。

丁度塀の様に常緑樹が餓えられ、座る場所がある場所へ。

そこには、すでに仲間たちが集まっていた。

「やっと来たか、ティアラ」

「やはり、アルトさんは……」

一人で来たティアラに、カリスとテイルはため息をつく。

音川アルトはあの日以来部屋に閉じこもり、誰も寄せ付けない。

話す事も出来ず、食事を運んでも口をつけた様子もない。

「まぁ、しょうがないよね……出流は攫われちゃうし、玻璃君は目の前で殺されちゃうし……マコトは……」

「おい、ティアラ」

それ以上言うなと目配せする。どこに耳があるのか分からない。

あの日以来、陸夜はアーヴェの本部に出頭したっきり戻らず、ラピスは様々な場所に赴いては忙しそうになにかをして、守はラピスの代わりに星原を纏めている。

未だに、星原のエースは現れない。

その代わり、裁き司の者たちが洋館を守っている。彼等が、どこと繋がっているのか解らない。

「アイリとはまだ連絡とれないし……さ……」

朱炎アイリとは未だに連絡が取れなかった。

彼女もまた、セレスティンによって襲われたのかと現在調査中である。

「これから、どうなるんだろうね……」

「ティアラ、そのことなんだが……」

カリスはテイルをちらりと見て、言いにくそうに告げる。

「なんですか?」

「どうしたのさ、改まっちゃって」

「……オレ、ここを出るわ」

「えっ、ちょっと、どういうこと?!」

思わず肩を掴み、ティアラは叫ぶ。

「茂賀美のやつらにオレの居場所がばれちまったみたいでさ……これ以上ここにいたら、まずいからさ。一応、星原を辞めるつもりはないし。ついでに、テイルも連れてく」

「はぁっ?!」

すでに話はついていたようで、テイルも頷く。

聞いていなかったのはティアラだけだったのだ。

「僕も星原を辞めるつもりはありませんが、これ以上本部に居ると月剣や語部がなにをしでかすか分からないので」

「師匠に保護してもらう事になってる。落ちついたらまた連絡はとるからさ」

「……なによ、それ」

ぷうっと頬を膨らませてティアラは呟く。

「ティアラも来るか?」

「無理。うちにはうちのここにいる理由があるんだもん」

カリスが家の捜索から身を隠すために星原にいたように。テイルが神殺しであることを隠して星原に所属していたように。

ティアラにはティアラの、星原に居る理由がある。

だから、彼女は首を振る。

そろそろ、身体が冷たくなっている。

「出流、生きてるよね……なんで、出流だけ……」

マコトは、どうして出流を攫ったのか。

三人は無言になる。

今でこそ落ち着いてはいるが、当初は酷かった。ティアラは客観的に見る。

出流は攫われ玻璃は殺された。

仲間だと思っていた。

それなのに、霧原誠は……。

裏切り者だった。なにもかもウソだった。

「許せねぇよ」

握りしめた拳を、カリスはテーブルに叩きつける。

「あいつっ、あいつが何考えてんのかオレにはわかんねーけどさ……玻璃を殺して、星原の情報を売った……許せねぇよ」

「……そうだね」

男二人が下を向く中で、ティアラは少しだけやっちまったなと顔をしかめる。

ポケットに手をつっこんで、それを確かめる。

それは、本来ならラピスや守に見せるべき物だった。だが、未だに渡せずにいた。

心の整理がつかなかったからだ。

これが、どういうことなのか考えたくなかったのだ。

しかし、いつかは渡さなければならない。

「ねぇ、カリスとテイルってさ、玻璃がどこの誰だったのか知ってる?」

「は? どういう意味だよ」

「え、大和国の人ですよね?」

二人の反応に、やはり知らないのかとティアラは眉をひそめた。

「マコトも、意味わかんないけどさ……玻璃も、だよね」

「だから、どういう意味だよ」

「あーっもう!! 鈍いなぁっ!! 玻璃が星原にくるまで、どこに住んでたのか、家族はいたのか、てか、どうしてマコトのことを嫌ってたのか、二人は知らないでしょ?!」

「え、ええ。たしかにそうですね」

テイルはティアラの様子に引きながらも頷く。

カリスはなんだそんなことかと不満そうにしている。

星原なら、よくあることだ。

だが。

「じゃあさ、これ見てどう思う?」

ティアラはポケットからそれをだす。

それは、しわしわになった新聞だった。

とある記事。三年ほど前の、とある一家の不審死についてだった。

丁度、国家の大事件とかさなり記事は小さな物だ。

両親と兄妹の四人家族は殺され、家には火が放たれた。

家族の幸せそうな集合写真が載せられている。

その写真を見て、テイルとカリスは息を飲んだ。

「な、んだよ、これ」

どういうことなのか、わからない。

そもそも、なんでティアラがこんなものを持っているのかわからない。

「……あー、詳しい事は聞かないで欲しいんだけど。まぁ、ちょっと調べ物をしてたら、図書室でみつけたと言うか、なんというか」

ティアラがなにかしらの理由で星原に居ることを知っている二人は眉をひそめつつも頷く。

「これ、どういうことなんだろうね……」

「ったく、謎ばっかり増えやがる」

「だとしても、マコトが裏切ったことには変わりませんよ……」




それは、聖フィンドルベーテアルフォンソ神国の三年前の出来ごとだった。

12月12日の王位第一継承者マリアンヌ暗殺事件の起こったその日にあった悲劇。

殺された少年の名はクリス・ハルフォンド。

妹のエメラルド・ハルフォンドを助けようとして殺害される。

幸せそうな家族の写真に映る少年の姿は、千引玻璃と瓜二つだった。






真っ暗な部屋の中で、少女は目を見開いていた。

眠れない。

何度も何度も、あの夢を見る。

少年が殺される、あの瞬間を。

真っ赤な血が、まき散らされる。

そして、神楽崎が叫ぶのだ。お前のせいだと。

全部、全部、ぜんぶ、ゼンブ。

「知ってるよ……」

あの時も、そうだった。

チグサが殺された時も、自分のせいだった。

「しってる、よ……」

アルトのせいで、兄ヒイラが居なくなったことも。

アルトのせいで、シルフが居なくなってしまったことも。

アルトのせいで……全部、アルトのせいだ。

大人達が隠したって、気付いている。

「いづる……」

親友の名前を呼んでも、答えはない。

ようやく、出流は居場所を見つけたのに。

セレスティンで出流はどんな思いをしているのだろう。それとも、殺されてしまったのだろうか。

いや、それはないと首をふる。

彼等は、音川と日野を特別視しているようだったから。

でも、ほんとのところどうなのかわからない。

今でも探しに行きたくてたまらない。でも、それ以上に。


恐い。


セレスティンを恨んでいる。怒っている。出流を取り戻したい。

でも、立ちあがれないのだ。

あの黒い女神が、裏切り者だった平然と人を殺すマコトが、そして、神楽崎が。

「はり……ねぇ、たすけてよ……」

暗い道を照らして助けてくれた少年はもういない。

殺された。

霧原誠に。

「なんでっ」



どうして、いないの?

なんで、こたえてくれないの?



音川アルトは、まだ立ちあがれない。


そんな彼女の枕元に、幾通もの手紙が届いていた。

どれも封を切っていない。

届けられても、何もする気が起きないアルトは、見て居なかったのだ。

そのうちの一つには、こんなことが書かれていた。



『至急、流留歌に帰還するように』





星原、皇の館。

そこでは、連日屋敷に残った荷物の整理がされていた。

前々から移動を予定されていた為、そこまで荷物は残っていなかったが、焼けてしまったことで残しておく予定だったものも移動させることになったからだ。

だが、夜になると人気は無くなる。

そこを、一人の青年が歩いていた。その手にはスコップ。

皇の館を通り過ぎ、裏庭に行く。

満開の狂い桜を眺めて……さらに先に行く。

夜道を迷いつつも進む。

林を抜ければ、そこには墓地があった。

そこに真新しいモノが一つだけある。


千引玻璃


その墓標を見つけた彼は、おもむろに墓標を倒すとスコップでその下を掘り始めた。

数分。掘り続けてようやく目的のものを見つける。

そして、ため息をつく。

「なに死んでいやがるんだよ」

さらに時間をかけて、彼は掘り続ける。





出流が目を開く。と、そこにはよく知る少年がいた。

すぐ近く。目と鼻の先に、顔がある。

「ふぇっ?!」

思わずアルトのような声を出してしまった。

すぐに気付いたマコトは、すぐに顔を離す。

どうやら、意識があるか覗き込んでいる所に丁度目覚めたらしい。

彼は、いつものように無表情だった。

「あれ、ここは……?」

落ち着いて、深呼吸して辺りを見渡すと、見知らぬ場所だった。

窓はない。が、ベッドとテーブルといすとクローゼットと、生活に必要そうなものは人揃えされている。

入口は一つだけ。

出流はベッドに寝かされていた。

どうしてここにいるのだろう。そう首をかしげる。

アルトは、玻璃は、ティアラは……。

「あっ」

思わず、マコトから離れた。

立ちあがって、部屋の唯一の出口に走る。

取っ手を回す。ガチャガチャと音が響くが空かない。

ばっと後ろを見る。マコトはベッドの横から動いていない。

「どういうこと、なの? ここ、どこ?」

思い出した。

霧原誠が、千引玻璃を殺したことを。

マコトによって気絶させられたことを。

ここから、出られない。つまり、捕まった。

「ねぇ、まこと……君は」

「霧原誠なんて人間は元から居ない。僕は、『紫の悪魔』。セレスティンの幹部を務めている」

「……っ」

分かっていたことだ。

彼はセレスティンを皇の館に招き、千引玻璃を殺した裏切り者。

「日野出流。セレスティンは君に危害は加えない。ただ、死んでは困るために保護をさせてもらった」

「それは……つまり、なにもかも、知ってるって事?」

「日野家の事情なら、把握しているが」

呆然と、出流はマコトを見た。

アルトにさえ、話していなかったことを、彼は知っているのだ。

「いつ、から」

「始めから」

「なにそれ」

「星原に来る以前に殺されかけた事も把握している」

「なに、それ」

「日野泉美は日野の巫女にはなれない。お前が必要だ」

「なん、で……」

「だから、日野家に殺されては困る」

「最初から、知ってて近づいたのっ?!」

「……そうだと、言っているが?」

姉……いや、従姉である日野泉美は正当なる巫女としての技術を習得していない。

それが故に、出流は今まで殺されずに済んでいた。だが、いつまでその平穏が続くか分からない。

それが、出流の星原に来た理由。の、一つ。


「でてって。出て行って! ばか、ばかーっ!!」


マコトは、すぐに出ていった。

残されたのは、目元を濡らした出流。

入口には鍵が閉められている。

出られない。

「なんなの……なんなのさ……」

なにも、わからなかった。

ただ、座りこんで泣いていた。

日野家の暗部を、彼が知っていた事に恐怖していた。




セイレンは頼まれた食事をカートで運び、とある地下の部屋に赴いた。

なんでも、重要人物を保護……もとい監禁しているらしい。

詳しい事は知らされていないが、少女だと言う。

その為、見た目だけならば14、15歳ほどの自分が選ばれたのだ。

その事に、セイレンは嫌そうにため息をつく。

「なんで、こんなことを」

セイレンは人間に復讐する為にセレスティンに来た。人間に食事を運ぶ為じゃない。

部屋を開けると、すぐに鍵を閉めてテーブルに食事を置く。そこには、一口も手をつけられていない朝食が残されている。それを片付ける。

少女の姿が無いので見渡すと、部屋の隅にいた。

泣きはらした様子で目元が腫れている。

少しも動かない。

何も食べないで衰弱されては困る。責任はセイレンに問われるのだ。

「ちょっと」

少女の目の前に来ると、顔を覗き込んだ。

怯えたようすで、少女はびくりと身を震えさせる。

「来なさい」

服を掴んで無理やり立たせると、椅子に無理やり座らせる。

その前に座ると、持ってきていた紅茶を出す。

さらに、自分にも。

「食べなさい」

「……」

「死にたいの?」

「……」

動かない少女に、セイレンはため息をついた。

そして、静かに紅茶を飲む。

どうにかして食べさせなければならない。彼女は、ただの人間なのだ。

セイレンは水だけでも数カ月生きていけるが、彼女は違う。

「生家に命狙われるなんて、災難ね。ほんと、人間ってくだらない」

思わず、ぽつりと言う。

人間はくだらない。本当に、そう思う。

戦争をして、自分と違うヒトを迫害して、血のつながりのある人でも命をねらう。なんて、くだらない。

少女はセイレンを見る。初めて、しっかりと。

「そんなこと、ない」

「……」

「確かに、戦争はするし、気に入らない人を殺そうとする人もいるし、うちの家みたいなところもある。でも……それだけじゃ……ないよ」

「あなたを見ていると、そうにしか見えないけど」

「……」

「まぁ、いいわ」

どうせ、自分には関係ない。そう、セイレンは飲み終わったカップを片付ける。

少女はまたうつむいている。今回も、何も食べないつもりだろうか。

セイレンはどうすればいいのかとため息をまたついた。

そういえば、兄はあの時どうしただろう。そう、思い出す。

見る者すべてを畏れて、怯えていたあの男の子を、兄はどうやって助けていただろう。

「あぁ……そういえば……」

おもむろに、セイレンはフォークに手を伸ばす。

彼女の為に箸も用意されているので問題ないだろうとフォークとスプーンをとると今日の昼食……ミートソースのスパゲティとオニオンスープ、サラダを見た。

兄は、彼と一緒に食事をしていた。と思いだす。

いつも自分で作って、同じ皿から食べていた。同じ物を食べることで、少しでも警戒が薄まればと言って。

まだ、少しだけ湯気がたっている。

先ほどパンを食べて来たのでそこまでお腹はすいていないが、美味しそうな香りが食欲をそそらせる。

セイレンは、少しだけスパゲティをとって口をつける。

「うん。まぁまぁ……?」

と、食べている内に、首を傾げた。

普通に、美味しい。というか、美味しい。

初めて食べる味だ。いつもの調理人が作ったものではないようだ。

料理についてそこまで詳しくないので解らないのだが、ソースがなんとなく違う。

一応、彼女は殺してはならないことになっているが、セレスティンも一枚岩ではない。もしかしたら、その決定に対して良く思っていない者たちが料理に手を出したのかもしれないと警戒する。

この部屋には下手なことでは近づけない。ベネトナシュと呼ばれるスフィラのお気に入りらしき人物がここの責任者で、徹底した警戒を行っているからだ。だから、なにかしら手を出すこととなったら別の場所で作られた料理に毒を入れるなどくらいしか手が無い。

だが、自分に変化はない。目の前の少女に気付かれないよう、魔法を使う。

毒が、もしくは薬品が使われていないか、調べる。

一応、なにもない。だが、これから料理について警戒したほうがいいかもしれない。そう、セイレンは考える。

そんなセイレンの様子を、出流は思わず見ていた。魔法を使ったことに気づかず。さすがに、お腹はすいていたのだ。

目の前で食べているのを見てあたら、さらに空腹を感じる。しかも、まぁまぁと言いながらも美味しかったらしく、フォークとスプーンを綺麗に使ってさらに食べている。

そんななか、お腹の虫が鳴った。

「あ」

「……」

「……まぁ、食べる?」

「……」

少し悔しくて、出流はそっぽを向いて頷いた。


こうして、日野出流とセイレンは出逢うこととなった。


奇しくも、同じ思いを抱いていた二人が。







霧原誠……と、呼ばれていた少年は暗い森の中にいた。

周囲にはなにもない。暗い森が広がっているだけ。

フクロウの声が響いている。

月灯りが足元を照らしている。

時折動物たちの声が聞こえるだけの静かな、夜だった。集まったのはたった三人。


黒の双眸に肩にかかるかかからないかほどのウェーブのかかった金髪の女と、つい先日星原を襲ったばかりの黒の女神、そして星原を裏切った霧原誠と呼ばれていた少年、紫の悪魔。


二年前に出遭った、同胞たち。


一人は意味無く命を散らされた己が同朋の為の復讐。

一人は自由を奪われなにもかも偽りにされた復讐。

一人は全てをなくして生き残ってしまった自分の為の復讐。


復讐で繋がった三人の、喜劇。


「さぁ、神騙りを始めよう」



神すらも欺き、哀れな道化は踊る。



第二部

神騙り編




予告



裏切り者、霧原誠……通称紫の悪魔。彼によって、アーヴェは窮地に立たされることとなる。


千引玻璃とクリス・ハルフォンドは同一人物なのか

カリスはなぜ茂賀美家から十二神将を奪ったのか

神殺しの一族はなぜ狙われたのか

日野出流はなぜ日野家に恨まれているのか

ティアラはなぜ星原にやってきたのか

マコトは一体何者なのか


遅すぎた朱炎アイリの帰還により、真実は姿を見せ始め、音川アルトの決断は、哀しい悲劇と裏切りをもたらす。


「みなさま、お久しぶりでございます。音川家当主となりました、音川風破(かざは)と申します」


「私には、兄と弟がいた」「う、そだ……そんなっ。霧原誠が裏切ったなど、そんなの嘘だ!! あやつには、もう……っ!!」「風音はお前に殺された!!」「私は……四年前、紫の悪魔さまと……灰かぶりさまと出遭ったのです」「神楽崎(すぐる)を、助けてください……」「白峰の神……貴方は、この世界の真実を知りたくはありませんか?」「アルト……オレは……」「お前は……どうして……どうしてお前がこんな所に居るんだっ。じゃあ、神殺しの一族を襲ったのはっ」「この世界は狂っている」「クリス・ハルフォンドは、紫の悪魔と灰かぶりのターゲットではなかった」「お母さんが、生きてる? アーヴェに、保護されて、るの?」「ラピス・カリオン……罪深き罪人を見張る為にあたしは存在する」「じゃあ、全部、嘘だったの?」「三番目のジョーカー?」「お母サマ……貴女を殺したかっタ」「復讐だよ。ただ、それだけの為に私達はいるんだ」「お前が、アルトを殺したからだっ!!」


神が騙られたのか

神が騙っていたのか


世界の小さな真実は暴かれる。



「おめでとう。君達は真実を見つけた。運命を変えて、世界を救った。だから、チャンスをあげる。『彼女』を殺すチャンスを。『彼』が命をかけて望みをかなえてくれたから。」



運命なんて信じない

カミサマなんて存在しない


全てが必然だと言うのなら、こんなくだらない物語(せかい)なんて、壊してしまおう



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