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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-12-03 シャラの語る童話





昔、神様がいた。

独りぼっちの神様がいた。一人で、ずっと世界を守る神様だった。本当は沢山の仲間がいたのだけれど、その神様は気づかなかった。だから、ずっと一人だった。

ある時、神様に赤子が捧げられた。神様への供物として、生まれて間もない子どもが。

神様は精霊王にその赤子を預けて、すっかり忘れてしまった。だって、興味が無かったから。

しかし、歩きはじめた子どもは神様を気に入ってなついてしまった。

親は解らず、独りぼっちの子供。そもそも、神にささげられた身は、人の世界に戻る事は出来ない。こちらの世界では異端で、どちらの世界にもはじき出されてしまった子。

最初に抱いたのは、同情。そして神様は、いつしかその子を、愛しいと思ってしまった。

その子どもは、やがて神様の大切な人と為り、神様を害する者たちを止めるために神様の元から去ってしまった。


それからというもの、帰ってこない友達を、神様はずっと待っていた。

ずっと、ずっと。気の遠くなるような年月を。人であれば、生きてはいないだろうそんな年月を。

それでも、彼は帰ってこなかった。

一時ほど神様を害する者達の勢力が突如減った時もあったが、変わらずに彼等は神様の力を削っていった。

ある時、神様は寂しさに世界を放浪していた時、彼女は現れた。

神様を害する者達を纏める少女。彼女は、神様にこっそりと囁いた。


そんなに寂しいのなら、同じものをつくってしまえばいい。


どうせ、神様が欲しいのは自分を慰める存在なのだと、彼女は嗤いながら去っていった。

その言葉を聞いた神様は、愚かなことに友達とそっくりな偽物を作りあげた。

まるで友達と初めて逢った時の様に、神様は偽物を愛でた。

それが偽物だと、自分が創ったのだと解らなくなるのに、そう時間はかからなかった。

神様は、偽物を本物だと思い込んだ。彼は戦いになど行かないで、ずっと自分の元に居るのだと、記憶すら書き変えて。


「今度は、絶対に独りにしないでね。ずっと一緒に居て、私だけを見て、私だけを思って、私だけを守って、ずっと、ずぅっと」


名前もつけられずに偽物は、創造主の為に必死に本物の振りをする。

それが、主の願いだったから。

生まれてすぐに神様の願いを聞いて、偽物はただひたすら本物の振りをした。

それが、存在理由だと偽物は己に言い聞かせて、誰にも名前を呼んでもらえないまま、本物の友達だった人としてふるまう。それはどれだけ辛かっただろう。

生まれて間もない子どもは、母親の為にと夢を紡ぐ。

しかし、ある時神様は気づいてしまった。

偽物が大きくなるにつれ、彼は本物ではないのだと。その声が、動きが、笑顔が、本物とそっくりだったが、そっくりなだけで、本物では無かったから。

偽物だと気づいてしまった神様は、偽物を見るのを止めてしまう。

だって、彼は本物では無かったから。そしてまた、彼を一人で待つようになった。

本物の友達は、絶対に帰ってくると約束をしてくれた。だから、ずっとずうっと、神様は待っていた。

本当は沢山いた仲間達に見守られて、いつ帰るかも分からない友達を、ずっと待っていた。


そして、偽物は独りになった。


彼は神様に創られた存在で、本物の代わりで、もう不必要で、存在理由なんてなくて。



捨てられたのだ。



誰も、彼を見ようとはしなかった。

神様が創った偽物。それはある意味汚点だった。

とても素晴らしい神様が、友達が居なくなったからと偽物を創って、記憶まで変えていただなんて、口にすることなくそんなこと無かった事にしようと神様の周りの者達は考えたのだ。

神様も、偽物をその後一度も視ることはなかった。

だから、偽物は独りになった。どことも知れず目の届く範囲から居なくなっては面倒だと閉じ込められて。

誰も、いなかった。彼に話しかけるモノも、視線を向けるモノも、心配をするモノも。

たった一人を除いて。


それは偶然の出逢いだった。


神様を殺そうとした名前を持たない『闇』と出逢ったのは。


二人は神様の元から逃げ出して、人々の中に紛れこんだ。

独りぼっちだった二人は、その日からもう独りでは無くなっていた。

楽しい事も辛い事も嬉しい事も悲しい事も、二人で共有して、笑いあった。

そして、神様のいる世界の中心へ向かう少女と出逢う。

六人目の巫子と足を手に入れた人魚姫。一人ぼっちになった異端の子供と破天荒なかみさま。そして意思を持った人形と。

出会いと別れを、偽物と『闇』は繰り返した。

双子の片割れの少女と旅立ち、人魚姫と別れ、黄泉の神を鎮め、やがて、もう一度神様のいた場所へと向かった。

それは、双子の片割れの少女の願いだった。

少女は、もう一度自らの半身である姉に会うために、神様のいた場所に向かっていた。そこを通らなければ、姉には会えなかったのだ。

偽物は、少女を案内した。

様々な出逢いを通して、偽物はどうしても神様に問いかけたい事が出来たからだ。

『闇』は何度も反対したがそれでも彼は意思を曲げなかった。

少女と共に、神様のもとへと向かった。


そして、偽物が神様のもとに戻った時、神様は神様を害するものたちに呪いを受けるところだった。

偽物のせいで神様のいた場所は壊れてしまっていて、そのせいで神様を害する者たちが入って来てしまったのだ。

それに気づいた偽物は、わが身を顧みずに神様をかばった。

たとえ神様が忘れてしまっても、神様は偽物に取って一番大切なヒトだったから。

彼を創った、創造主だったから。

今度は、絶対に独りにしないでね。ずっと一緒に居て、私だけを見て、私だけを思って、私だけを守って、ずっと、ずぅっと。そう、なんどもなんども……泣きながら神様は寂しいと泣いていたから。

偽物は、神様を憐れんでいたのだ。

周りにたくさんの仲間がいるのにも気づかずに独りだと嘆いている神様を、気づかせてあげたかったから。

言いたかった事をなにも言えず、問いたかったことをなにも問えず、そのまま偽物は眠りについてしまった。

それでも、神様は偽物を見なかった。


神様は今も待っている。眠りに着いた偽物に気づかないで、ずっと待っている。

大切な、大切な友達を。

神様を害する者達は、今度こそ神様を殺そうと神様を見張っている。

そして残された『闇』は、泣きながら姿を消してしまった。

仲間は出来たけれど、偽物がいない世界に絶望をして。

しかし、彼女はきっと偽物が目覚めるのを待っているのだろう。


眠りに着く瞬間、偽物は約束をしたから。


もう一度、もう一度だけ会えたら、その時は――






ふと、ラピスは覚醒する。

寝ていた訳ではないが、少々意識を飛ばしてしまっていた。

とても懐かしいものを見た気がする。

散らばった書類をかき集めながら、ラピスは考える。

「……ルゥイ、だっけ?」

一度しか会ったことのない少年。彼がどんな子だったのか覚えていない。

その外見も、その声色も。

でも、彼の最後だけはよく覚えている……。

「失礼します。ラピスさん、本部からの緊急の連絡です」

「……なにがあったの?」

「はい。複数の国家で反乱や突然の天災に起こったそうなのですが……」

「どうしたの?」

口ごもる守に、ラピスは眉をひそめて先を促した。

守がこのように口ごもるなどめったに見られない。

「どうやら……セレスティンが関係しているようで、先ほど称号付きに招集がかかりました。約一年ぶりの、『集会』となります」

アーヴェの下位組織全ての称号付きが集まる集会。エースのみであれば、つい最近行われたばかりだが、今回はそれとは違う。定期以外でめったなことでは行われない、称号付きすべて、そしてそのほか重要な地位についている者全てが集まる、集会。

それが、行われると言う事は――世界に大きな転機が訪れようとしていると言う事。

「ついに、セレスティンが動きだしたのね……」

セレスティンという言葉をどこか悲しそうに、そっと呟いた。





「そうね。もう少しだけ……すぐにあの人は帰ってくるわ……」

ほんのりと頬を染めて少女の様な姿をしたソレは微笑んでいた。

何百と年輪を重ねた巨大な木々が生い茂る森。

その中心に在る湖の中心の浮島には、どこよりも巨大な樹がそびえるように鎮座している。

その樹の根元で、彼女はいつものように言紡ぐ。

「ああ、早く帰ってこないかしら? ねぇ、シンラ……」

その姿は、まさに恋人を待ち続ける少女だった。

周囲には精霊達が少女を見守り続ける。

ここは、神域。聖なる場。

決して人の入りこめぬ、世界の中心。

そこに居るのは世界そのものであるはずの少女――世界樹。

彼女は、何時までも大切だったヒトを待ち続けていた。


『……哀れね』


そんな少女の姿をした世界樹を眺める亡霊がいた。

金髪に碧眼の女性。

自らよりも長く生きているはずの世界よりも大人びた彼女は、ある目的の為だけに、この神域に居た。

死んでしまった後も、ここに残り続け、役目を続けてきた。だが、もうすぐ彼女の役目も終わる――かもしれない。

先に逝っている愛しい人や友人たちの元へ行く、それは何百年、何千年と望んだことだ。

しかし、同時にそれは――


「ねぇ、貴女もそう思うでしょ?」


突如、彼女は亡霊に話しかける。

それは、独りで待ち続ける彼女の楽しみの一つと為っていた。

何時までも冥府に逝かない彼女と時折話すのが、彼女の日課と為っていた。


『ええ。そうね。きっと戻ってくるわ』

「戻ってきたら、大切な報告があるのよ。きっと彼も驚くわ……」

『それは、なんなのかしら?』

「ふふっ。シエルにも秘密よ。だって、本当に大切なことなんですもの」

『そう。なら、シンラ様が帰ってくるまで待っていなければね……』


役目が終わり消えると言う事は、話し相手のいない彼女をまた独りにして、消えると言うことだ。

シエルはため息をつく。

その顔は――色彩こそ違えど――ラピス・カリオンとそっくりだった。




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