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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-12-01 シャラの語る童話


千引玻璃がそこに行った時、既に先客がいた。

時間は早朝。まだ、寝ている者もいるくらいの時間だ。

玻璃が早朝に来た理由は、なるべくそこにいつもいる人物に会いたくなかったから。なのだが、そのかい無くはち合わせてしまった。


「……」

無言。思わず、じっとみてしまう。

目の前には、霧原誠。玻璃が苦手な人物だ。

つい先日まで大怪我だか何かをしていなかったのだが、昨日戻ってきた。

が、彼は意外な事に、本を枕に眠っていた……。

周りには誰もいない。朝早いから当たり前なのだが、もともと図書室にはそこまで人はこない。

一応周りを見渡してから、マコトに忍び寄る。

近づけば気づかれそうだったが、マコトは気づかずに眠り続ける。

すぐ横に立って、気づく。これで、どうするというのか。

ころ……物騒な考えが脳裏をよぎるが、さすがにそれは出来ない。

「千引さん? どうしました?」

「へっ? うわっ?!」

「あっ、す、すみません!」

突然の不意打ち。

玻璃とマコト以外いないと思っていた図書室だが、精霊もいたらしい。

サイは、律義にぺこぺこと頭を下げていた。

その手に本を大量に抱えている所からすると、どうやら奥の方に居たようだ。

大声を出したことでマコトが起きたかもしれないと思わず玻璃はそこから離れる。が、そんな心配は杞憂に終わった。寝入っているのか、マコトはピクリともしない。

「珍しいですね、千引さんが図書室にいらっしゃるのは」

「えっと、まあ……」

なるべく彼女の契約者と顔を会わせたくないから時間を選んで来てました、なんて言えるわけが無く、曖昧に笑いながら玻璃は心の中で冷や汗をかいていた。

「なにか、お探しですか?」

「星原とか、アーヴェの成り立ちについて……とか……書いてある本を……あったら読んでみたいと思って」

迷いながら応える。

最近はいろんな場所に派遣されて忙しいのだが、ようやく今日一日はゆっくりできる時間が出来た為、その暇つぶしに図書室に本を借りに来ていた。といっても、サイに言ったものを借りに来た訳では無かった。何を借りようか考えて居なかったので、とっさに言ってしまっただけだった。

「そうでしたか。丁度、先日見たばかりなので、持って来ますね」

「いや、べつにそんなしなくていいよ」

「ついでです、ついで」

そういいながら、サイはひらひらとなにやら紙を見せる。びっしりと書かれた文字は、マコトに探して来るよう頼まれた本の題名だ。

しかし、読めない。

どうやら、ほとんどが大和国などで使われている文字とは違うらしい。

「いや、場所だけ教えてもらえれば」

さすがに女の子に頼むのは気が引ける、とその後に続く。

皇の館にある図書室は意外と広く、地下にあるために窓がなく薄暗い。

どの本棚も似たふうに見えるが、そこを迷いなくサイは進む。

マコトがいろいろな本を持ってくるよう頼むせいだろう。すこしいらいらとしながら玻璃はそう思った。

マコトが、気にくわないのだ。

「こちらですよ」

「あ……」

考えている内に、目的の場所に着く。

辺りは本を読む場所から比べると遥かに暗い。かなり奥の場所にあった。

しかし、本は意外と綺麗だ。奥に行くほど古い本が置いてあるのだが、このあたり一帯だけ妙に本が綺麗な気がする。

「このあたりの本は、つい先日主が補修したんです。かなり古くて痛みが激しかったようで……あ、この本なんかどうですか?」

不思議そうな玻璃の様子に気がついたのか、サイは簡単に説明する。

あたりの本の説明もしながら、どうやらこのあたりにあるらしい目的の本を探していた。

「ありがとう」

「いえ」

なんとなく、サイは苦手かもしれない。そう、考えながら玻璃は周囲の本を手にとってパラパラとめくる。

別に、嫌いなわけではない。ただ、慣れていないせいか会話がぎこちない。

それに、彼女はマコトと契約をしている精霊なのだ。どう接して良いのか、少し戸惑っているのかもしれない。

それから数分は沈黙がつづいた。

サイが本を探す中、玻璃はマコトが寝ていた机の近くに戻った。

あの場所では暗すぎてゆっくり本を読めないし、読む場所では無かったからだ。

だが、こちらにはまだマコトがいる。

「借りるか」

本を借りる時はいつも置かれている紙に自分の名前と本の題名を書かなくてはならない。

その紙を探していると、誰かが図書室に入ってきた。

「あ、はり!」

「あ、アルト。おはよう、って、なんでいんの?」

「おはよー! あ、いたいた。まことー!」

「……?」

え、なんであいつ? なんでマコト? よりにもよって、なんで?! 若干混乱して頬をひきつらせながら玻璃はアルトに問いかける様に視線を向ける。が、まったく気づかずにマコトの元へと一直線にアルトは行ってしまった。

出した手が行く場所もなく彷徨って、仕方なく元に戻る。

その間も視線はアルトとマコトに向かったままだった。


「あれ? 寝てる?」

玻璃への挨拶もそこそこに、マコトに向かったアルトは、寝入っているマコトに気づいて首をかしげる。

無防備に寝ている姿は、珍しい。おもわず見ていると、枕にされていた本が見えた。

「じゅつぎしんしょ? うわ、全部魔法関係の……」

「え、読めんのか?!」

「アルトさん、読めるんですか?」

本を抱えたサイも玻璃と共に驚きの声をあげた。

「え、うん」

「すごいですね。実は私、読めないんですよ……これ、全部なんて書いてあるんですか?」

意外な事に読めない中で探していたらしい。

持ってきた本も机に在る本も、全て玻璃の知る言葉では書いてなかった。

「えーっと、これは読めないけど。こっちは……神術の応用について? とか、魔術と魔法の違い? なんか、術の事ばっかだね」

「お前、実は頭良かったのか……?」

「失礼な! こうみえても、大和国の歴史に神話に古語、暗算……いろいろできるんだからね!」

「なん、だと……!!」

唖然とする玻璃に頬を膨らせてアルトは反論する。

見えない。一応居候していたにもかかわらず、ぜんっぜん知らなかった。

「? さい、どうしたの?」

「あ、いえ……」

アルトに見せた本をじっと見つめてサイが黙りこんでいた。考え込んでいて、心ここにあらずと言った様子だ。

アルトに声を掛けられても、何事かに気を取られている様子だった。

「で、なんでおまえ、マコトのことなんか探してたんだよ」

「あっ、そうそう。退院したって聞いたから!」

「……へー」

「どうしたの?」

「いや」

目をそらしてそっぽを向く玻璃に、アルトは首をかしげる。

「あ、もしかしてはりもまことさがしてっ?!」

「どうしてそうなった!!」

「あれ、違うの?」

「違う!! 本を見に来ただけ!!」

「そっか!」

だめだこいつ。全然わかっちゃくれない。

思わず額に手を当ててため息をつく。

良く解らないが、気落ちしているらしい玻璃の様子に気づいたアルトは、頭を撫でていた。

あまりの意味の分かっていなさにさらに泣きたくなる。そんな玻璃に、サイが同情の視線を送っている。

「……人の頭の上で、大声で会話して欲しくないのだが」

そこに響くのは知っている声。

何時から起きていたのか、不機嫌そうなマコトが顔をあげてアルトを見ていた。

「まこと! お帰り!」

「主、こんなところで寝ると、風邪引きますよ? あと、頼まれていた本はこちらに置いときました」

「……」

二人同時に言われた言葉にどう反応して良いのか解らない様子でマコトは目を白黒させている。珍しい姿だった。

普段、あまり感情を見せないために玻璃は少しだけ面食らう。こんな顔が出来たのかと。

「なんだ……?」

こちらの様子に気づいたのか、少し不機嫌そうにマコトから問いかけられた。

「い、いや」

慌てて目をそらす。

と、ちょうど図書室の扉が開くところだった。

朝にもかかわらず、今日は来る人が多い様だ。

「あれ、アルトちゃん、玻璃くん?」

なかなか図書館では見ない組み合わせに、入ってきた少女は首を傾げた。いつも玻璃は図書館に近寄らないし、アルトは図書館で本を読むよりも外で走りまわっている。

少女――菫はひとりだった。いつも一緒の姉の茜は朝食を作っている時間帯な為、姿が見えない。

彼女が持ってきたのは料理の雑誌と楽譜。図書館から借りていた物を返しに来たらしい。

「おはよーすみれ!」

「おう」

「珍しいねー。どうしたの、こんな朝早くに」

「マコトがいるかなーって探しに来たの」

「そっか。マコトっていつも図書室に居るもんねー」

皇の館に居る者なら、共通の認識らしい。

マコトはそっぽを向く。

「おれはただ単に本を探しに来ただけだからな」

「あれ? はり、そうだったの?」

「……アルトは人の話を聞け」

驚くアルトに、玻璃は頭を押さえた。

そんな二人を笑っていた菫は、ふと思い出して話し始める。

「あ、今日は朝食がちょっと遅くなるかもって、お姉ちゃんが」

「わかった! じゃあ、手伝いに行こうかな」

「アルト、それはやめておけ……」

アルトの料理の腕と手伝いの悲惨な光景を思い出して、いち早く止めたのは玻璃だった。

「そうだね。アルトちゃんは運ぶのだけ手伝ってもらえれば」

「そうですね。アルト様はちょっとここで待っていましょう」

「音川はあそこに入るな」

「な、なんでっ?!」

マコトにまで言われたアルトはなぜだかわからない様子で叫ぶ。どうしてなのかまったく分からない。

「なんでって……そりゃ、ねぇ」

困惑するアルトからそっぽを向き、玻璃は思わずため息をついてしまった。

これが素でこうなのだから、達が悪い。一生懸命なのはわかるが、ちょっとやめておいてほしい。

それは玻璃だけでなく、この部屋に居る人全員の意見だった。

彼女が調理場にはいると、いろいろな物が壊れる。刃物やら割れ物などがある場所でいろいろ落したり壊す姿は心臓に悪いのだ。あと、普通に砂糖とコショウを間違えるのはどうかと思われる。

「菫様。そちらは返却でよろしいんですか?」

話題を変えようと、サイが心配りをして菫の持っていた本を指した。

「う、うん。お姉ちゃんが借りてたのも返すの」

「では、お手伝いしますね」

「ありがとう!」

話題を変えてくれたことと、ここから離れる話題を振ってくれたことにも感謝しながら、菫はサイとともに本棚のほうへと歩いて行った。

「ね、どうしてわたしは手伝っちゃダメなのっ?!」

「お前、自分が不器用だって気づいてないだろ!」

「不器用じゃないよ! こう見えても……て、手編みとかできるんだからね!」

「……まじかよ……」

「むっ、マフラーとかなら作れるからね!」

「なら作って見せろよ!」

「いいよ! ふんっ」

半ば言い合いになり、二人は火花を散らしながら言い合う。

呆れた様子で、マコトはそんな二人を無視して机に散らばっていた本を片付けていた。

そのうち、いつの間にか話が発展していく。

「大体、はりもおにいちゃんも心配症なんだよ!」

「お前がしっかりしてないからだろ!」

「うううっ。こう見えても勉強とかはりより出来るからね!」

「ちょっと昔の文字読めるからって調子に乗ってるだろ」

「ちがーうっ!」

「あなたたち……痴話げんか、上まで聞こえてるわよ」

終わりのない言い合いに、呆れ声が加わった。

慌てて声の出所を見ると、先ほど菫が現れた扉から、見知った女性が顔を出している。

どうやら、菫の閉め方が甘かったらしい。

痴話げんかと言う単語に思わず赤くなった玻璃だが、アルトは気づかなかった様子でなおも言い募ろうとして、玻璃に口を塞がれた。

「ご、ごめんなさい」

「まったくよ。よく、マコトに図書室から追い出されなかったわね」

「あー、はい」

もごもごと口を塞がれたアルトがなにかを言っているが、とりあえず全て無視して玻璃は頷く。

苦笑したのは星原のエース代理、ラピス・カリオンだった。

めったに部屋から出ない彼女が図書室に来るとは珍しい。何かあったのだろうかと考える。

「あれ、ラピスさん? おはようございます。お仕事大丈夫なんですか?」

「おはよう、菫。一応、ね。書類のほうもひと段落したし、息抜きを兼ねて痴話げんかを治めに来てあげたのよ」

疲れた様子でラピスは菫の問いかけに答えた。

最近、称号つきたちの仕事量が酷く増えている事は玻璃も菫も知っていることだ。

玻璃達の仕事も増えているには増えているが、ラピスや陸夜、守たちからすると微々たるものだろう。特にラピスの部屋からは明かりが消えた事が無い、と最近は噂されている。

しかし、若干疲れた様子だが、毎日徹夜しているとは思えないほどラピスは元気そうだった。

そして、どう聞いても最後のほうは面白がっている。

「……」

「ねね、ちわげんかって?」

「お前、勉強できるとかって嘘だろ」

「嘘じゃないからっ!!」

「あーはいはい」

「ひどっ!! しろちゃんにも褒められたことあるからね!」

「……」

あの土地神の場合、かわいい孫を愛でた感覚で褒めただけはないだろうか……。

白峰の土地神を思い出して、玻璃は遠い目をする。

かの神にはアルトや和泉に関していろいろ釘を刺されたものだ。かわいいのはわかったから、もうちょっとその爺馬鹿な思考を止めろと言いたい。

黙りこんでしまった玻璃に、アルトは心配そうに顔を覗き込む。

「どうしたの?」

「あぁ、いや。まあ、うん。わかったよ」

おもわず顔をそむけながら玻璃は頷いた。

「もーっ、視線そらした! その顔、絶対信じてないでしょ!!」

頬を膨らませて、アルトは若干涙目になりながら必死に言い募る。

なにもそこまでと思うが、彼女の立場上いろいろあったりすることを玻璃が知ったのは、後日だったりする。

とにかく、話を変えようと玻璃はしっかり顔を見て頷くことにする。

「わかったわかった。信じるよ」

「うそ! はりのばか!!」

「いや、ほんとごめんって」

完全にへそをまげてしまった少女は真剣な顔で伝えてもへそをまげたままだった。

さすがにやりすぎたかと反省しながらも玻璃は言うが頬を膨らませたままだ。

その様子に、菫とサイは口元を押さえて顔を見合わせ、ラピスは必死に笑いをこらえていた。朝から賑やかである。

「あーもうっ、信じるから! 信じるってオレが言ったこと、信じられない?」

「え?」

「……」

「……」

「……えっ」

まさかの沈黙。と、驚きを隠せない玻璃に、アルトは慌てる。

「信じられないってことじゃないよ!! ただ、そのねっ、いろいろあるの!!」

「い、いろいろってなんだよ」

「はいはい。痴話げんかはほどほどに……」

終わりが見えなくなっていた二人の間に、ラピスが入る。

語尾が震えていて、ほんとにこの人は止める気あるのかと言った様子だが、玻璃もアルトもさすがに気まずくなって口を閉じた。

「そんなことをしてると、マコトに追い出され……あれ?」

いつもなら図書室で騒げばすぐに外に追い出すマコトが、今日に限って何も言わない。どうしたのかと菫はマコトの顔を覗き込んで首を傾げた。

本でも読んでいるのかと思っていたが、どうやら寝ていたらしい。立てかけた本がちょうどその寝顔を隠していた。

さっきも寝ていたが、どれだけ眠いのだろうか。

あららとラピスは寝入ってしまったマコトを見て小さな声で言う。

「主、またですか……」

困った様子でサイはどこから出したのか解らないコートをマコトにかけた。

もう日が出ているとはいえ、もう11月。寒くなってきた。

「ほんと、よく寝てるわね。寝る子は育つらしいから、もうちょっと背、伸びるかしら?」

ラピスも菫の隣まで行くと、一緒になってマコトを眺める。

身じろぎ一つしないマコトは、熟睡しているようだった。あれだけアルトと玻璃が言い合っていたのにもかかわらず、また寝てしまうとは。呆れている玻璃と違い、サイは心配そうに自らの主を見ていた。

「最近、木の下で寝てたり、いろいろな場所で寝てるを見るけど、家で眠れてないのかしら?」

「いえ、普通にお休みになっていますよ?」

なら、いったいどうしたのだろう。と首をかしげる。サイが知らないだけで、実は夜中にこっそり起きているのかもしれない。

眠り続けるマコトに、何を思ったのか菫がぽつりと呟く。

「まるで眠り姫みたい」

借りようとしていた本が童話集だったせいだろうか、そんなメルヘンなことを言ってから苦笑する。

持っていた本の名は、眠り姫。他にも数冊、有名な童話の本を持っていた。

「す、菫様……さすがにそれは、本人の前では言わないであげてくださいね!」

「さすがに言わないよー」

「そういえば、まことって女装したよね!」

「音川様っそ、それは、もっと言わないであげてください!!」


「眠り姫、ねぇ……」

なにやら盛り上がる少女達の横で、ラピスは複雑そうにマコトの寝顔を眺めていた。


称号つきについて。


読み返したら、称号つきについてきちんと書いてなかったので。

ラピス、守、陸夜は星原をまとめる人です。いわゆる理事とか社長の役職?。そんな彼等は、アーヴェの下位組織として他の組織と共通の階級を名乗ることになっています。

上から、エース、キング、クイーン、ジャック。キングとクイーンに関しては、その組織によって前後しています。

ラピスはクイーン。守はジャックで陸夜はキングだったり。

ラピスはクイーンですが、星原ではエースがいるにもかかわらず姿を見せないため、エースの代理として仕事に忙殺されています。


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