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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-11-01 約束された未来の話



「……うーん。ちょっときな臭いんだよねー」

一人、難しい顔をしながら歩きながら呟くのはティアラ・サリッサ。

その手には相棒の槍を持ち、べつだん用がある訳でもなくうろうろと皇の館を歩きまわっていた。

彼女の独り言は何時ものことで、実はそれは相棒である武器――なぜかソードと呼ばれている槍との会話であることは知られているので、つっこまれることはなかったりする。

そんなティアラの目下の問題は、現在の星原の、というよりも星原の上層組織であるアーヴェや同じくアーヴェの下位組織である月剣や語部の動きであった。

どこもかしこも、ピリピリしている。それが現在の感想である。

当然と言えば当然ではある。

アーヴェの支部が襲撃されて全滅したのはつい先月。そして、星原所属のキングとジャックの称号つきである陸夜と守たちが襲われたのはつい先日。

どちらも、セレスティンと呼ばれる組織が関わっていた。

「まったく、ソードのいうとおりになっちゃったねー……そろそろ、戦争でもおっぱじめるつもりなのかな、セレスティン」

軽い口調でティアラは言うが、その顔は真剣そのものである。

この大陸が平和になったのは四年前。それ以前は血を血で洗うような戦場が所かしこにあった。

セレスティンは、その戦争を裏から操っていたとも言われている。

彼らの目的は――邪神の復活。そして、復讐。

その為ならなんでも行う。それこそ、戦争を起こして数万の民を殺すぐらい、容易い物である。

彼らのことを知る者は、意外にも少ない。裏社会では有名だが、表だってその存在を見せることはないからだ。

だが、ある意味有名でもあった。おそらく、もっとも有名な神話の中に出て来る、『空想上の人々』として。

かつて、この大陸は満月の様な形をしていたと言う。しかし、今は何があったのか上部が欠けた三日月となっていた。

その欠けた部分。そこには、セレスティアと呼ばれる国があった。そこに住んでいた人々は、神々の怒りにふれ、大陸から存在ごと消された……。

そんな彼等の中で、運よく難を逃れた人々が自ら名乗った名が、セレスティンだと伝えられているのだ。

「解ってる……私達の目的は唯一つ……」

ティアラがここに居る理由、意味、理由……それは、かつて全てへの復讐を誓ったセレスティンに所属し、世界を破滅寸前に追い詰めた女、ラピス・カリオンの監視である。

「解ってる、けど……」

ティアラが行うのは、監視だけ。

だから、今星原やアーヴェの抱える問題に介入はしないし出来ない。

たとえ、ティアラの仲間たちがそれに関連していようと、彼女はそれを傍観することしか出来ない。

「だからって、このままでいいとは思いたくないよ……ソード」

セレスティンによって人生を狂わされた人々の一人、だったから。

「あ、ティアラ。おい、テイル見なかったか?」

独りでぽつんと廊下に佇んでいたティアラに、ちょうど通りかかったカリスが声をかける。

「え? あ、いや、見てないよ! またいないの?」

「ああ。ったく、あいつにしてもなんにしても、最近どうしたってんだよ……」

「そりゃ、しょうがないでしょ。唯でさえピリピリしてた所にアレだったんだから」

「まあ、そうだけどさー」

カリスたちもそれは気がついているらしい。

襲われたテイルとマコト、二人ともティアラやカリスと同年代の友人であるからという理由もあるだろう。

「で、なんの用だったのー?」

「いや、ちょっと……師匠の所行けとか言われたんで……」

師匠の言葉だけで、ティアラは納得したように頷いた。

「あー、生贄にと」

「いや! 生贄になんて思ってねぇよ!」

「じゃあ、人柱に……」

「言葉違うだけでほとんど一緒だから!」

「どんだけ苦手なのよ」

「いや……毎回家に帰れ帰れってうるさいからさ……」

口をとがらせると気に入らないとばかりに不機嫌そうに言う。

カリスはすでに家を出てから三年ほど帰っていない。連絡もとってないと言う。

唯一の例外はカリスの師匠だった人だけ。なんでも、星原の支部で働いており、カリスに星原を紹介したのも彼女だったらしい。

「で、どーすんの? アルトとかに放り投げちゃえば?」

「えーっと……一応、結構繊細な呪具だし……」

「あ、それなら大丈夫でしょ。アルトだって一応は巫女さんだし、そういう扱いに慣れてるはずだし」

「そう、か? ほう……なるほど……」

明後日の方向を向き、カリスは暗い笑みを浮かべていた。

そんなカリスをおいて、ティアラはまた歩きだす。

今はいろいろ考えたい事があるのだ。

ふと、窓の外を見ると――裏庭の桜が仄かに色づいていた。





「くしゅん……ふえ? 風邪かなあ……」

「ちょっと、大丈夫?」

「うん、別に具合悪いとかないんだけどなぁ……」

談話室の一番大きなテーブルには、そろそろ旬となったみかんが籠いっぱいに積まれている。

そのみかんの皮をむきながら、アルトと出流は休憩をとっていた。

部屋には他に誰もいない。最近はみんながこの部屋にそろう事も無くなって来ていた。

マコトは入院中、テイルは最近忙しいらしくあまり姿を見ない、カリスは最近注文された何かを作成中で部屋に閉じこもりっきり、アイリは指定で依頼を受けることが多くなって皇の館になかなか帰ってこられていないらしい。

しかたなく、二人でのんびりと雑談をしていると、おもむろに外が騒がしくなる。

「おい、アルトっ!! またセレスティンの野郎と戦って、マジかよっ?!」

「あ、はり」

息を切らせて――おそらくここまで全力疾走でもして来たのだろう――千引玻璃は談話室に転がり込んできた。

見ていて、面白いほどの慌てっぷりだ。

星原の人々は知っている。玻璃はアルトの事を過保護に大事にしていることを。まあ、ぶっちゃけてしまえば、きっとこいつ、アルトのこと好きなんだろうな―とか、普通に知っている。だから、おそらくここまでの道のりでみんなに生温かい視線を送られたんだろうなーと出流は思いながら、玻璃を見ていた。

しかし、玻璃のほうは気づいていない。むしろ、アルト以外の人物が目に入っていなさそうだ。

「えと、うん。そうだけど、どうしたの?」

がしかし、当の本人は過保護に心配されていることをまったくもって理解していなかった。

なんとういうか、哀れだ。

「そうだけど? じゃねー!! 話し聞いてどれだけ心配したと思ってんだよ! あのな、お前は知らないだろうけど、セレスティンっていうのはめちゃくちゃな組織なんだぞ! 今回は何も無かったから次回も、なんてそんな生ぬるい奴らじゃないんだからっ。もっと……もっと考えて行動しろ……」

「ご、ごめん……」

いつもよりも剣幕な玻璃に、さすがに思わずしゅんとする。

「前も言ったけど……危ない目に合うんなら……手が届く所で……せめて、俺がいる時に合ってくれよ……」

「玻璃……さすがにそれ、無理だと思う。でもって、うちにはなんの心配もないんだ……」

ちょっと見損なったわ。そううそぶく出流に、慌てて玻璃は慌てて否定をしたが、あまり信用性が無い。むしろ、談話室に入って来た時、出流が隣に居た事にすら気づいていなかった。

「アルト以外どうでもいいっていうことか」

「い、出流?! あ、いや、そういう訳じゃな――」

「うん。だからさっきの告白気味の言葉もみんなに言いふらしておくわ」

「ちょっ、まて!! すまんって!」

「あー、ちょっとお取り込み中、いいか?」

何時の間に入ってきたのか、談話室の入り口近くにカリスが腕を組んでアルト達を見ていた。

どうやら話すタイミングをうかがっていたのだが、まったく見つからずにしょうがなく声をかけて来たらしい。

「ん? どうしたのかりす」

「おう、なんだ?」

これ幸いとばかりに返事をする玻璃に呆れながら、出流もカリスに顔を向けた。

どこかしてやったり顔でカリスは笑う。

嫌な予感を感じながら、出流は玻璃を見た。同じくなんとなくまずったかもと後悔をしている玻璃と視線が合う。

なあ、これ、どうする。なんか嫌な予感が……。

絶対裏があるよね、これ……。

二人が視線だけで会話していることにカリスは気づかず、話を進めた。

「なあ、お前らさ、観光地とか興味ないか?」





車いすの少女が丘の上に佇んでいた。

もともと標高が高い場所にある町。そこからさらに上がった場所にある場所だ。

強い風が時折吹いては薄黄緑の髪を揺らす。

少女はずっと胸元に手を当てて、町を見ていた。

短い時は数十分。日によっては何時間も。飽きることもなくいつもと変わらぬ風景を毎日見ていた。

これが少女の日課だった。

ここからなら町全体を見ることが出来るからだ。

もしも誰かが来れば、少女にはすぐに解る。

だからだ……。



「早く……迎えに来てくれないかな……」



少女の待ち人は、いまだ姿を見せない。






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