表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
22/154

01-04-02 陰陽師、占者と共に魔物退治に行く事


森の中で待ちかまえていたのは、多すぎる魔物たちだった。

「って、ちょっとまってよ。こんなにいるって聞いてないよ?」

「俺に言うなよ。俺だって知らねぇよ……」

こそこそと木陰に隠れて彼等をやり過ごしながら、カリスと言いあう。

こんな事をしても仕方ないし、このまま帰る訳にも行かない。

魔物は獣の姿をしている。

人間よりも少し大きな狼のようだ。でも、あんなに鋭い牙も爪もない。

「ったく、しかたねぇ。とりあえず、やるぞ」

「そうだね」

なら、やることは一つ。

「サイさん、離れないでくださいね」

テイルから貰った折り畳み式の薙刀を組み直す。

なんでも、魔具に改造したとかしないとか。危なそうな物じゃないとは思うけど、今回が初めての実戦だから少し恐い。

後ろにいるサイは、うろうろと視線を彷徨わせている。

たぶん、探し物を探しているのだろう。

こっちはそれよりも魔物たちの事だ。

カリスは既に召喚を行っている。こんどは森の中で火災が起きたら怖いからと召喚しているのは白虎だ。

姿は純白の白い普通よりも大きな虎。

白虎も四神の一柱だ。西を守護し、金を司る神。

カリスを背にのせ、魔物たちから逃げる。その逃げる間にカリスは術を放つ。

二人とも息もぴったりで奮闘していた。

そして、うちは。

「ていうかこれ、うちに不利すぎでしょっ!?」

もともと、薙刀は柄が長い。森とか木が所狭しと生え、振り回すことが困難なここでは、その実力の半分も出せない。

そして、もう一つ。私の一番得意な属性は、炎だ。

カリスが朱雀を召喚しなかったように、うちも炎術を使うのは躊躇われる。

だから、薙刀の刃に炎を纏わせた。必要最低限の炎を、周りに飛び散らないように。

「はっ」

魔物と戦う事なんて初めてだ。が、いつも通り戦えば大丈夫。

獣の動きをする魔物たちに翻弄されながらも、ある程度戦えていた。

そもそも、占い師に戦いを求める時点で間違っているから、あとはカリスの出番だ。

妖怪退治の専門家、陰陽師に任せるとしよう。





カリス様は陰陽師らしい。どうも、場数を踏んでいるのか、召喚したらしい白虎と魔物を順調に狩っていきます。イヅル様はというと、少々戦い馴れていないのか、危なっかしく薙刀を振るっていました。

イヅル様は少しだけ動きがぎこちない。どうも、こう言う事には馴れていないようで。

しかし、カリス様が上手くフォローをしていらしゃる。

主と同い年、もしくは少々年上の彼らだが、かなりの腕が立つよう。

その様子が昔を思い出して少々傷心的になります。

あの頃が懐かしい……。

けれど、そんな思い、今は要らない。それよりも、落しものを探すほうが先ですから。


サイはあたりを見渡す。

さきほどもこのあたりまで来て、この魔物たちに襲われた。

だから、この辺に落しものをしているはず。

そう考えて探すも、なかなか見つからない。

茂みの中に落ちたのか、木の影にあって見つからないのか。

「……はぁ」

後は二人が魔物を倒した後、探す事になりそうだ。

と、何かが近づいてくる気配がした。

魔物達も怯えるように毛を逆立てる。

「……これはまた、大変なモノを呼び寄せてしまったようですね」

魔物たちを従えて、巨大な体躯が姿を現す。

見た目は魔物とそこまで変わらない。ただ、大きすぎた。

年季の入ったその様相。どうやら、この魔物たちの首領のような存在らしい。

サイを庇うように、イヅルは若干戸惑いながらも付近の魔物を斬りつくす。

カリスは白虎とともにソレを見ていた。

「おい、イヅル……どうする、こいつ」

「そ、そりゃぁ、倒すしかないでしょ……」

ソレが口を開けた。

慌てて白虎が後ろへと下がり。して、ソレは吼えた。

脳を揺さぶるような絶叫のようなソレが辺りに響き渡る。

「――っ、イヅル、行くぞ」

「わかってる!」

双方から挟み撃ちにするように魔物に向かう。

人の身体の三倍はあるその魔物が吠えたとたん、他の魔物たちが蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。そのおかげでこの魔物一体に集中できる。

が、先ほどの魔物とはどう見ても力の差がある。

二人で被害もなく倒せるかと言われると微妙なところだろう。

イヅルが薙刀を振るうも、白銀の体毛に阻まれて斬ることはおろかたいして攻撃も効いていない。

炎を纏う薙刀でも、意味はない。

「って、ぜんぜん効いてないんだけどっ!」

「オレに言うなっ!」

カリスの方は元が退魔の術であることもあり、一撃必殺の力はないにしても小さな傷を作っている。

が、それでも足りない。

「ノウマク サンマンダ バザラダン カン――!」

不動明王の小咒。

その完成と共に炎が巻き起こる。

森への飛び火など考えていられない。

ここでこの魔物を殺さなくては、こちらが殺される。

そう、カリスは気づいていた。から、問答無用で炎を呼び出す。

しかし、その炎が魔物を倒すには火力が弱かった。

「ったく、でかいのやるか……」

すぐに発動できる簡単な術では対応しきれない。

魔物の突進、それに九字を切ってそらし対応しながら、どうにか逃げる。

「しくった――っ!」

魔物の行く先を見て叫ぶ。

「逃げろ!!」

そこに居たのはサイ。

突然の事に避ける暇もなく――。

「サイさんっ?!」

叫んでも、なにも変わりはしない。

サイがいた辺りが魔物によって押しつぶされていた。

押しつぶされたのか、運良く逃げられたのか。イヅルもカリスも確認のしようが無い。

魔物の重みに木々が歪み、悲鳴を上げる。

そして、避けられたと知った魔物が身を翻しもう一度カリスへ跳び込んで。

――鮮血が舞った。


「……本当は、使いたくなかったのですが」


そう、倒れた木々の間から出てきたサイは、手に白銀の剣を持ち、鮮血に濡れていた。

自分の、ではない。魔物の血に。

「サイ、さん?」

「……そうも行っていられない状況ですので、助太刀させていただきます」

一体、どこに持っていたのか、細身の白銀にうっすらと光る剣を構えた少女は、ひるむことなく魔物に向かう。

それに一瞬見とれた二人は、すぐに我に返ってサイの援護をする。

まさか、彼女が戦えるとは思っていなかった。が、戦えるのならば戦ってもらったほうが良い。

本来なら主に術を主体とする二人に代わって、サイが前線に立つ。


何で創られたのか、白銀の剣は不自然なほど切れ味が良い。

あれだけイヅルの攻撃を防いできた魔物の体毛がいとも簡単に切り裂かれる。

さらに追い打ちをかけるように白虎とカリスの攻撃。そして攻撃が効かないために後ろに下がったイヅルの援護がいく。

元々、イヅルは炎術を得意とする。薙刀を習い始めたのは一年前から。

どうしても其処まで得意ではない薙刀では魔物に通用しないのだ。そもそも刃がその身に届かない。


そして、サイの途中参戦から数分後、魔物は斃れた。


「いろいろ聞きたい事があるけど、とりあえずお疲れ様」

イヅルは斃れた魔物の躯の横に座り込みながらカリスとサイをねぎらう。

気になることはサイの正体。

だがその本人はその声を聞いていない。

探しものに夢中になっていたのだ。

元々探し物の為にここまで戻ってきたサイは、倒れた魔物の事など眼中になく、あたりを散策している。

「見つかったかー?」

「……いえ」

暗い顔で探すサイに見かねてカリスも共に辺りを探す。

が、何を探しているのか分からないので対して役立ているような様子は無い。

「……っと、あっ、ありましたっ!!」

ちょっとすると、サイの歓喜の声が上がった。

「えっと、それが大切なもの?」

「はいっ」

にこにこと笑顔でサイは、破れた小さな紙を大切そうに抱いていた。

カリスはそれを見て、確信する。

「お前、人間じゃないだろ」

「は、い?」

「そもそも、おかしいと思ってたんだよ。どうも世間知らずっぽい女の子が一人で旅だとか、そもそも何も持ってなかったし。無くした物が旅の荷物なのかと思ってたけど、それも違うようだし」

真実、探し物が見つかった場所にはその紙以外になにも落ちていなかった。

まだ探し物がある様子は無い。

どこかに持ちモノを隠している様子もない。

そして、あの戦い。イヅルも疑問に思っていた、あの剣。

「まっ、だからどうだとか言うつもりはないけどさ……で、その紙はなんなんだよ」

「えっ、その……私の正体は聞かないのですか?」

「そ、そうだよカリスっ」

サイの正体にまったく興味が無いらしいカリスに、イヅルはともかくサイまで声を上げる。

「言いたくないなら聞きたくないし、魔物退治は終わったんだから別にいいんじゃね?」

「べつにそうだけどさ……ちょっとは気にならないの?」

「いや、だって正体不明の奴らとか周りに多いじゃん」

「そ、そうだけど……」

イヅルが思い出すのは星原の面々だ。昔から姿の変わらないらしいラピスにカリスの師匠、実はまだアルトに教えていない幽霊の事や意味不明なその他大勢。

正体がわかっている人なんて一握り過ぎる。

カリスの本名だって知らないし、玻璃の事、ティアラの事、マコトの事、アイリスの事……数え上げればきりが無い。

「で、なんなんだよ」

「えっと……ただの写真ですよ?」

「魔物がいるのを知りながら戻って来るほどなんだから、あんたにとっては大切なもんなんだろ? ま、見つかってよかったな」

それ以上聞くことも無く、カリスは自分の事のように嬉しそうに言うと、話は終わりとばかりに歩きはじめる。

かなりの魔物を狩った今、この森に居る意味は無い。まだ数匹は生き残っているようだが、それくらいなら別に害もなさないだろうと判断してのことだった。

イヅルはそれに気づいて遅れてカリスを追いかける。

「ま、ともかく気をつけろよ」

「じゃあ、さようなら、サイさん」

このまま、別れればもう会う事は無いだろう。

サイを置いて、二人は去って行こうとして、イヅルだけ立ち止まった。

「そういえば、サイさんの探している人ってどんな人なんですか? あっ、人じゃないかもしれないけど……その、うちらこう見てもいろんなところ行くんで、良ければ教えてもらえませんか? 見つけたらサイさんが探していたって伝えておきます」

「えっと、よろしいのですか?」

「はい」

「……この、写真の方です」

サイが見せたのは、先ほど見つけた破れた写真。

そこには、誰かの腕に引かれて写真に映る少年が映し出されていた。

腕の持ち主は破れた場所に映っていたようで、見る事は叶わない。

「私は……私は、我が(あるじ)を探しているのです」

なぜ破れてしまったのか、其処に居たのは誰なのか気になるところだが、それよりもカリスとイヅルはその写真から目をそらす事が出来なかった。

あまりにも知りすぎているその容姿に、目を奪われていたから。

「これって……」

「……あいつだよな?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ