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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
21/154

01-04-01 陰陽師、占者と共に魔物退治に行く事


お二人は、約束をしていました。

共に、生きていくという約束を。

決して、裏切らないという約束を。


だから、主……私は貴方を……いえ、貴方達を――






出流がカリスと共にやってきたのは、旧フェリス皇国だった。


四年前に終わった戦争のもっとも被害が大きかった国の一つ。

現在は、元同盟国だった聖フィンドルベーテアルフォンソ神国によって統治されていると聞く。

けれど、フィンドル神国もまた戦争によってかなりの被害を受けた。地方で魔物が暴れたとしても、対応できないほどに。そう、機能が回復していないのだ。

他の国でも、まだまだ戦後の復興は進んでいない。

中立を貫き、戦争という戦争をしていなかった大和国やシエラル王国とは違う。

それが、私達のような存在が魔物退治を依頼されている理由だった。


そして、現地に着いた瞬間……私達は彼女に出遭うこととなった。



「なんていうか、普通そうな所だね」

皇の館から『扉』を使って移動し、そこから荷馬車にゆられて一刻。そしてさらに徒歩で歩きはじめると、あたりは普通の風景だった。

草原が目の前に広がり、少し向こうには森がある。

ピクニックにちょうどよさそうな場所だ。

「んー、でもきーつけろよ。そこらじゅうに悪意が残留していやがる」

「……」

「……どした?」

「なんていうか、カリスが陰陽師みたいな事言ってる」

「いや、俺は正真正銘の陰陽師だからなっ!!」

忘れてしまうけど、カリスは陰陽師だったりする。

祈祷に暦作成、安全祈願に占い、妖怪退治に呪い返し。多種多様な術を心得る、宮廷陰陽師にも引けを取らない陰陽師。だと本人は言っていた。

宮廷陰陽師とは大和国などの朝廷に仕える官僚のなかの陰陽師の事を指す。

有名どころは茂加美家の陰陽師だろう。数年前までもう一つ、土御門家と言う陰陽家もあったけど、事件を起こして一族が断絶したとか。

とにかく、陰陽師だ。でも、あんまり皇の館だと感じない。

時々札とか書いてるけど、それくらいだけだ。

なんだか知らないけど、カリスは陰陽師の家から家出して来たらしい。だからかもしれない。

「とりあえず、式を放ったからそろそろなんか分かると思うんだけどな……」

「そういえば、馬車の中でなんかやってたね。式神だっけ?」

「おう。俺の一番得意な奴だよ」

式神。識神とか護法とか言われるそれは、いろいろな種類があるらしい。

今回使ったのは偵察用の式神なのだろう。

「あ、あれじゃない?」

白い何かが森から飛び出してきた。

確か、式神も白い紙から出来てたはず。

でも、カリスは首をかしげる。

「でっけえぞ」

「あ、うん」

手のひらサイズの奴だったはず。

なのに、森から飛び出したそれはよく見れば大きい。私よりも。

しかも、後ろから化物が現れる。

まるで、追っているようだ。

「って、人じゃんっ?!」

「早速、目的の魔物と遭遇かよっ」

森から飛び出したのは、白い何かじゃない。白銀の髪を閃かせた少女だっ。

守からでて、草原に走り込んだ少女は魔物に追われている。

このままじゃ、間に合わない。

カリスはうちよりも先に走り出し、宙に叫んだ。

「っ、朱雀っ!!」


天に、焔が散った。


突如出現した焔。それが、天を衝くほど燃え上がり、そして鳥の姿を模る。

それはまるで、鳳凰。火の鳥は一声鳴くと、カリスの声に従い――魔物へ向かった。

「あれが、四神……朱雀」

少女の元に行くのも忘れ、思わずそう呟く。

カリスは式神が得意だと言ったが、もう一つ得意なことが在る。

それが、召喚。

ただの召喚じゃない。神の召喚だ。

陰陽師は時に神に祈り、助力を乞う。そして、様々な奇跡を起こす。


少女に襲いかかろうとしてた魔物が、燃え上がった。

四神朱雀。かの神は四方の南を守護する炎を司る神。

神気を帯びた焔に、魔物ごときが抗えるはずもなく跡形もなく消し炭に変えた。

呆気ない。いや、呆気なさすぎる。

こんな事でうちら星原が依頼を受けたとは思えない。

小さな疑問を抱きながらも、今は白銀の少女の無事を確かめるためにカリスの元に向かった。




「このたびは、お救いくださりありがとうございました」

白銀の少女はカリスとうちに向かって深々と頭を下げた。

こっちは何もしてないから、少し居心地が悪い。

カリスはと言うと、呼びだした朱雀を返しながら別に気にせず少女に接する。

神の召喚なんて大技を使っていながら、ぜんぜん疲れた様子が無い。やっぱり、さすが得意なだけある。

「別に。俺らの目的はあの魔物だったから、きにすんなよ。それより、なんで追われてたんだ? ずいぶん前から魔物がいるって噂になってたのに、わざわざ森の中に入ったのか?」

「え、そ、そうだったんですか? わ、私、旅の途中で……その……」

「なんつーか、あぶなっかしいな」

「女の子一人だけだなんて、危なくないんですか?」

「女の子……あ、はい。大丈夫ですよ。みなさん、よくしてくださいますから」

ほんわりと微笑む少女は、どこか危なっかしい感じがした。

いや、正直危なっかしいと思う。魔物が出ることも知らないで現在封鎖中の森の中に入ったり、女の子一人だって言うのにぜんぜん危機感持っていないし。

それに、なにかひっかかりを覚える。なんだか、違う気がする。

なにが?

「それにおふたがたにも……えっと、なんとお呼びすればいいのでしょうか?」

「あっ、そういえば、名前っ。うち、いづるって言います。こっちは陰陽師のカリス」

「ども。で、あんたは?」

「イヅル様とカリス様ですね。私の名前は……サイと申します。おふたがたにも、助けていただきましたし」

そう応えた笑顔の少女は――どこまでも美しかった。おもわず見とれてしまうほど。

さっきの鳳凰は神々しいという意味で綺麗で美しかった。サイは、どこか儚く、消えてしまいそうでいてやっぱり危なっかしくて、でも、だからこそ綺麗だった。

ただ、その笑顔に影があった。無理をしているような、辛いことを押し込めて、平気な振りをしているような。そんな、気がした。

「っと、それよりも、戻らないと。本当に、ありがとうございました。でわ、失礼させていただきます」

「えっ、ちょっと」

さっき魔物に追われたのに、なんで戻るのっ?!

それに、カリスも虚をつかれたのか、吃驚している。

「ちょ、待てよっ! まだ魔物がいるかもしれねぇンだぞっ!!」

「すみません。ありがとうございます。でも、取り戻さないといけない物があるのです」

変わらない笑みを浮かべて、サイは森の中へ行こうとする。

「ちょっとまって。なら、うちらも行くから。ね、カリス」

「おい。……あー、まぁ、そっちのほうがいいか」

「そう言う事だから」

その言葉に、サイはぽかんとした顔になる。

本気で驚いているようだ。迷惑だったろうか?

でも、まだ森は安全なのか分かってないし、こんな危なっかしい子をほうっておけない。

「し、しかし……ご迷惑では?」

「うんうん、ぜんぜん大丈夫だよ」

「勝手に死なれちまったほうが迷惑だ」

カリスも一緒にサイを説得してくれる。

「しかし……」

「あと、サイさん。その……うちより年上みたいだし、敬語、やめません?」

「っ、そ、そんなこと、出来ませんっ! あ、いえ、その……いつもこのような話し方なので、お気にせずに。むしろ、こちらの方が私は話しやすいのです」

ともかく、森へは一緒に行く事になった。

本当によかった。なんか、どっかの箱入り娘みたいに純粋そうだし、すごく危なっかしいから、これなら少しは安全だ。

カリスは森の方を見ている。

なにか、感じたのだろうか?

うちは妖怪とか魔物とかを『退治をする』ような力を持っていから、そういうのに疎い。気配を感じたり、何かを察知するのは苦手だ。

ただ、予知で先を知って先手を打つこととかはできるけど、それは運次第。実戦では使えない。

「カリス?」

「まだ、森の中に魔物が結構残ってそうだぜ?」

「そっか……やっぱり一匹だけじゃ無かったんだね」

「まぁ、これくらいで俺らが呼ばれたんじゃ、面倒だしな」

森の中に戻る、それがどれだけ危険なことか、サイに言わないと行けないかもしれない。

そう思っていると、彼女は森を見て語りだした。

「森の奥に泉が在りました。そこに、数十の魔物たちが集まっていたようです。私は驚き、すぐに逃げようとしたのですが、先ほどの魔物に見つかり追われていたのです」

「なっ」

「……数十の魔物、それは本当か?」

「はい。先ほどのよりも小さい者を多かったです。……たぶん、私の探しものもそのあたりに有ると思うのですが……」

数十の魔物? うそでしょ?

うちらは居てもせいぜい十数ぐらいだと思っていたのに。

……これは、まずいかもしれない。

いくらカリスが神様を召喚出来ても、やっぱり限りや制限があるし、うちも其処まで戦える訳じゃない。そこにサイがいたら足手まといにしかならない。

「ねぇ、ここで待ってた方がやっぱりいいんじゃないかな? 私たち、その魔物を退治しに来たの。だから、もっと安全になってから探し物をすれば……うちらも手伝うし」

「いえ。あれは早く見つけなければ。……あの方にご迷惑をかけるかもしれません」

「……?」

どうやら、決意は固いようだ。

ごめんなさいと首を振るサイは、間髪いれずに応える。

「あの方?」

「……私は、人探しのために旅をしているのです」

もしかしなくても、無くしたのはその人の物とか、関係ある物なのだろう。

サイの決意は固い。

「それに、先ほどは後れをとりましたが、少しくらいなら身を守るすべを持っています」

「ほんとうか? さすがに数十も魔物がいるんじゃ、守りきれるかわかんねーぞ」

「大丈夫ですよ。むしろ、もしもの時は見捨ててください。……大丈夫。私は死にませんから」

「……」

そこまで、探している人の事が……。

その笑顔が、痛々しく感じる。

命を落としたら、元も子もないのに。どんなに大切な者でも、自分の命を大切にしないと、どうしようもないのに。

下を向く。今、顔を見られたくない。

きっと、うちは今、すごく醜い顔をしているから。

……大切な人のために命を落とすのは、絶対間違いだ。そんなこと、させない。

「……んじゃ、行くか」

そう、カリスの言葉と共に、私達は魔物の潜む森へ向かった――。



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