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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-04-00 陰陽師、占者と共に魔物退治に行く事



とても、懐かしい夢を視た。


馬鹿みたいに彼女を信じていたあの日々を。

彼を追って、炎の海に飛び込んだあの日の再現を。

ひたすら求め続けた結果を。


嗚呼、なんて……







「……陸夜、朝」

無表情に淡々と、霧原誠は兄である陸夜に向かって呟いた。

が、無論、小さすぎる彼の声では熟睡中の兄を起こす事など出来なかった。

そして、それを前々から解っている彼は……故に持って来た辞典を陸夜の腹があるであろう場所にむかって落した。

辞書と一言で言ってもいろいろあるが、彼の持って来た辞典は百科事典である。

百科事典の中でもかなりの太さと重量を持っているソレは、重力によって殺傷能力とまではいかないが、かなりの威力を伴って陸夜に投下された。




「マコト。朝からあれは無いんじゃないのか?」

「……あれくらいなら死ぬことはない」

「いや、死ぬとか死なないとかじゃなくて」

小さなリビングキッチンで、兄弟は朝食をとる。

ちなみに、食卓に載っているのは陸夜の起きるずいぶん前からマコトが作っていたものだ。

当初は当番制で作ることになっていたが、今ではほぼマコトが毎回作っている。

「まだ腹が痛いんだが……」

「……次はもう少し重い物で行く」

「いやいやいや、やめろって」

嫌がっているが、どこか楽しそうに兄弟は朝のひと時を過ごしていた。


「それで、どうだ最近。音川の姫さんとかとやっていけそうか?」

「別に。……話を変えるのはいい。が、有言実行はするから」

「……お前、鬼畜」

「おきない陸夜が悪い」

冷や汗をかく陸夜の頬は、若干引きつっていた。


ここは星原の本部、皇の館では無い。

どこかの森の、奥深くに立つ陸夜の家。

霧原兄弟が静かに暮らす場所だ。

そこに、一羽の鳥が舞い降りる。

瑠璃色の小鳥は窓を突いて家の主を呼び出すと、起きてしまった事件を告げて姿を消した。



///



「……ぬぅ」

難敵、現るとは……こう言う事なのかもしれない。


ひたすら眉間にしわを寄せて見ていた本。そこから私――日野出流は視線を外す。

机の上には何冊もの書物が散乱していた。

マコトがよく本を机に積み上げているけど、その気持ちがようやくわかった気がする。

「こう言う時に限って、来ないし……」

いつもならマコトが来る時間なのに、なかなか来ない。

「もう、マコトのばか」

新しい本を書架から探そうと立ちあがりながら、思わず呟く。

ようやく暇が出来たから調べに来たのに、肝心の調べ物がどこにあるのか解らない。だから、図書室に入り浸り、星原の歩く辞書なんて呼ばれてるマコトに聞こうと思ったのに……マコトが居ない。

まったく、今日の運勢は悪そうだ。

なんて思っていると、いつのまにか横に知っている顔がある。

「あれ……?」

「……なにか用か」

「って、うわっマコトっ。ごめんなさいっ」

噂をしたら影って……。

あわてて取りつくろうように謝ると、マコトは首をかしげる。

「あ、いやその……今日は遅かったね」

「……陸夜が本部に呼ばれた」

「え……何かあったの?」

マコトの言う『本部』は星原の本部、ここ皇の館の事じゃない。

星原の上層組織、アーヴェの本部の事だ。

よくは知らないけど、星原は元々そこから分岐した組織らしい。

そこに陸夜が……星原の中でラピスさんに次ぐ地位にいる陸夜が呼ばれたのは、絶対に何かあったからに決まってる。

「知らん」

「だよねー……」

まあ、マコトが知るはずもないか。

そういえば、早朝から騒がしかったような気がする。

それに関係しているのかもしれない。

「で、なにか用があるんじゃないのか?」

マコトはそう言ってこちらの様子をうかがう。

「あっ、うん。その……頼みたい事が、あるんだけど……」

「……」

無言で先を促すのがわかる。

最初の頃は聞いてるのか聞いてないのか解らなかったけど、馴れたものだ。

マコトが無言なのは、大抵言う事が無いからさっさと続きを言えって事。

必要以上に言葉を発しないから初めてだと戸惑うけど、最近はようやくわかって来た気がする。

「この本、所々よく解らない言語で書かれてるんだけど……」

さっきまで読もうとしていた本を見せてため息をつく。

「読める?」

「未来視による未来変革?」

「……うん」

マコトは題名を読むと、中を開いて読み始める。

「ほら、このへん」

「……訳した物がどこかにあったはずだが?」

「え、そうなの?」

暇さえあれば図書室にこもってるマコトだけど、さすがと言うか、なんていうか。

本を持ったままどこかに行くと、さっさと新しい本を数冊持って来た。

こっちが数時間かけて探していた類いの本をだ。

「……もっと早くマコトが居たら」

「……」

これまでの苦労を思い出すと、なんだか涙が出てくる。

……ため息をつきたい。

絶対、今日は運勢が悪いって。

「出した本は、元の場所に戻しておけ」

本をこっちに押し付けるように渡すと、机の上の本をびしっと指さして言うだけ言う。

そのまま、書架の方へ戻って行った。

こう言う所だけはしっかり言うのに、なんでもう少し会話をしようとしないのだか。

「ありがと……」

どうせマコトには聞こえていないだろう。

けど、そう背中に向かって言った。


いつの間にか、図書室には人が出入りをするようになって来た。

このまま本を放置している訳にも行かず、必要の無くなった本を片付け始める。


調べなくてはいけないことがある。

やらなくてはいけないことがある。

変えなくてはいけない。

こんどこそ、失敗はしないように。

そう、決意を新たにし、気を引き締めてマコトから受け取った本を開いた。

「あ、いづる。ちょっとさ、魔物退治手伝ってくんねぇか?」

「……間が悪い」

「す、すまん」

なんでこんなに間が悪いというか、へんなタイミングで現れたんだ、カリス。

半眼になりながら、カリスに目を向けた。

「陰陽師が魔物退治とか、びっくりだよ」

「オレも無茶言うなと思ってる」

「じゃあ、占い師に魔物退治はもっと無茶だって思わないの?」

もともと悪霊を退治したりする陰陽師ならともかく、占い師に魔物退治は無いだろう。

そもそも、今日は久しぶりの休日。

カリスのほうもほとほと困った様子だけど、こっちだって最近忙しくなってくて大変なのだ。

唐突でもないけれど、なんとなく依頼とかが増えている気がする。

「魔物退治は専門家がやればいいでしょ?」

魔物退治では無く、妖怪退治の専門家である陰陽師に言う言葉じゃ無い気もするけど、魔物も妖怪も国や地域での呼び方が違うだけで、根本は同じの事が多い。

そんなカリスがなぜ占い師の私なんかに言ってくるのか。

「でも、お前だって戦う事は出来るだろ?」

「いや、そうだけどさ」

大和国、いや、中央大陸の人は多かれ少なかれ魔力と呼ばれている物を持っている。

まあ、その地域や考えによって霊力だったり神力だったり、呼び方はそれぞれだけれど、とにかくソレのおかげで身を守るぐらいの術を使える人がほとんどだ。

私の場合、否応なしに習わされたためにちょっとした攻撃的な術や中級魔術を使えるには使える。

だからと言って、魔物と戦うのは話は別だ。

「そこまで凶悪な魔物じゃないって言うからテイルが来る予定だったんだけどよ、なんか知らんがラピスに呼び出されて行けなくなっちまったんだ」

「なら、他の人をラピスさんに頼みなよ。うちは無理」

「だから、ラピスに抗議したんだよ。そしたらどうせお前が暇だから連れてけって」

「ああっ、もうっ、わかった! 行けばいいんでしょ? 行けばっ」

ああ、もうどうにでもなれっ。

ラピスさんに言われたのなら、どうにもならない。

うちの魔術が今回討伐しに行く魔物に効くか解らない。

けど、やけくそになってカリスに怒鳴った。

「日野……図書室で叫ぶな」

「ご、ごめんなさいっ」

間髪入れず、無表情のマコトに怒られたのは、なんとなく悲しかった。












///





『星原』と呼ばれる組織がある。

中央大陸全土に知られるなんでも屋だ。


そして、その元となった組織がある。

その名は、『アーヴェ』。


『星原』を含め、五つの組織の元となった組織。いや、組織と言うよりは、集まり、集団……かけがえの無い仲間たちのパーティ。

五千年前、神と人、邪神と魔の者達が入り乱れた争いの終結後、彼等は『アーヴェ』を作り、二度と同じことを繰り返さないようにとした。

それは結局無駄となり、百年に及ぶ戦争が起こったのはちょうど百年ほど前。

そして、それが終結したのはほんの二年前。

白蓮の都の大虐殺という悲劇によって終わりが告げられた。

それでも、いまだにその傷跡は残り続けている。



『アーヴェ』の本部はその日、星原を含む五つの組織のエースと呼ばれる者達が集まっていた。

そこには、エースの代理として、ラピスの姿があったのは語るまでもない。

騒然となっていた彼等の前で、一つの報告がされた。


いわく、アーヴェの支部のほぼ半数以上が壊滅したと。

いわく、たった一人の少女と、『セレスティン』の生き残り、プルートによって完膚無きままに潰されたと。

いわく、彼等『セレスティン』が……五千年前に隔離され、消滅させられたはずの彼等が今一度現れたたと。




いわく、『神殺し』を探していたと。




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