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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-03-03 此処が辿り着いた場所



明けない夜は無い。と、兄は言った。


本当に?


それは、本当に?









パシャ


パシャ


水が跳ねる音がする。

歩くたびに、足元に広がる水たまりが波紋を広げる。

綺麗な真紅の水流が、足元を流れる。


哀しい。

苦しい。

胸を圧迫する感情の奔流。


それは、目の前で人が斬り殺されているから。

歩いて来た道筋に積み重なった屍のせい。

恐怖に染まった顔で、逃げ狂う人々がいるから。

殺すたびに、視界が赤く染まる。

それが、哀しくて苦しくて、――歓喜に震える。

だって、とても懐かしいのだ。


あの日の再来を、自分の手で行っているようで。


そんな事を考えながら歩いていたせいか、ぶつかるように斬り込んできた人影に気づかなかった。

かわす事もせず見据えると、びくりと一瞬動きを止めるがそれでもつっこんでくる。

力量も測れない馬鹿、と言う事か。

剣が振り下ろされる――ように地に落ちる。服が裂かれて肌が見えるが、傷もない。

そのまま、襲ってきたそいつは斃れ伏した。

すでに、切り刻まれて絶命している。

「ひっ、ば、化物っ」

声が、聞こえた。

「ばけ、もの?」

私が、化物?


振り返れば生き残りが数名、私の姿におののいていた。


嗚呼、コレを見たから。


帰り血に塗れたこの姿。

破れた服の合間から見える肌――鱗のような模様のある醜い肌。


「私が化物なら……お前たちは……」


お父様を殺された。

お母様を殺された。


化物だと呼ばれて。


「お前たちの方がっ、よっぽどっ、化物だろうっ!!」



瞬間、彼等はずたずたに切り刻まれる。

叫び声を上げることなく、散って行く命。

「……化物は、お前たちだろうっ」

なんて、もろいんだろう。


「セイレン」


優しい囁き。

振り返った先には青年がいた。


「プルート……」

胡散臭い男。

それが彼への認識。

信用はしていない。

でも、それでも、彼は私に復讐の機会を与えてくれた。

それだけは感謝している。

「セイレン、あまり殺さないように。これでは、『あれ』を探しに来た意味が無いからね」

「……解ってる」

「『あれ』は……『神殺し』は、絶対に『アーヴェ』にあるはずなんだから」

くすりと笑う彼は、私同様狂っていた。

「大丈夫。まだ、生きてる奴等が数人残っているはずだから」


この組織――アーヴェの末端組織を崩壊させた少女は、凄惨な笑みを浮かべていた。


「でも、それもそこまでよ」

「……?」

足音も、気配も感じなかった。

哀しそうな瞳であたりを見回す女は、こちらを見定める。

「久しぶりね、プルート」

「嗚呼、久しぶりだね……ユウ……いや、『冷酷の魔女』フィーユ」

プルートが笑う。

同時に、フィーユと呼ばれた女も。

本当に、哀しそうに笑っていた。

「黙りなさい」

その顔のまま、言い切った。

「これ以上は――許さない」

焔が燃え広がった。

巨大な炎がフィーユの周りにたゆたう。

「無詠唱……」

なんの準備も予告もなかった。

詠唱せずに、魔術を?

「セイレン、彼女を止められるかい?」

「……ええ」

なら、私だって、同じだ。

「じゃあ、こちらは聞き込みをしているから、よろしくね」

プルートが後ろに下がる。

それに、フィーユはさらに魔術を放つ。

建物の床がひび割れる。

立っていられないほどの揺れ。地震?

無詠唱のせいで、なんの術を使っているのか、どんな系統を使っているのかまったく分からない。

しかし、プルートはまったく気にしない。

ひび割れた床にも、襲い狂う焔にも。

「わかった……殺しちゃっても構わないよね」

「ははっ、君に殺せるかな? 彼女は、強いよ」

「あ、そう」

プルートが強いというのなら、強いのだろう。

フィーユ……冷酷の魔女、フィーユ……。

どこかで聞いた名前だ。

この組織、アーヴェにいるという、三人の切札(ジョーカー)

そのうちの一人が、フィーユと言う名だったはず。

まあ、誰でもいい。

「立ちはばかるのなら、殺すだけ」

そう、いつだって同じ事。


一気に距離を詰める。

魔術師は接近戦を嫌う。

手元に隠してあった短剣を閃かせて斬りかかる。

対するフィーユは何もしないで私を待ち受けていた。

そして――

「つっ?!」

なに?

足に何かが絡みつく。

そのまま、強い力でフィーユから引き離されるように吹き飛ばされた。

「……あなた……なぜプルートなどに従ってるの?」

「従ってる? ふざけるな! 私は誰にも従わない。ただ、目的の為に利用しているだけだ!!」

すでにプルートの姿はない。

フィーユはこちらを虫唾の走る……同情の目で見て来ていた。

なぜ、この女に同情されなくちゃいけない。

苛立ち。



ふざけるな



その目で私を見つめたまま、憐れむように言う。

「貴方が何を目的にしているのか知らない。でも、プルートに従うなんて、愚の骨頂よ」

「あんたに何が解る。此処は……此処が――」

なにがあったのか解らない。

でも、そんな事に構わず、また、もう一度、フィーユに迫る。



そんな目で見るな



「――此処が、私の辿りついた場所、答えなんだぁっ!!」

短剣を振りかぶっても、澄んだ音と共に刃が消える。

いや、違う。根元から刃が折られていた。






とても優しい兄だった。


彼は、化物の私に手を差し伸べて『(セイレン)』と呼んでくれた。



でも、殺された。


理由もなく、意味もなく、ただもっとも残酷な裏切りで。






「私はお前たちを」

折られた刃が後ろの壁にぶつかり、床に落ちる。

その音が鳴る前に、フィーユの頬に一筋、赤い線が入る。






三人で、ずっと過ごせると思っていた。


いや、過していくと思っていた。



なのに、なんで放っておいてくれなかったの?

なんでそうっとしておいてくれなかったの?


私達はただ、静かに暮らせていければ良かったのに。







絶対に、許さない。

絶対に、赦さない。







魔術が乱射される。

それを必死に避け、時に魔術で相殺する。

その合間合間で隙を見て切り裂こうと何度も捨て身で攻撃をする。


冷酷の魔女と呼ばれた彼女は、その称号に似合わない哀しみの表情(かお)でその攻撃を全ていなす。

巨大な魔術を疲れた様子も見せず何度も発動する。

そのくせして、その魔術は私に直撃することはなかった。

私をまるで殺さないように。

「ふざけるなっ」

小さく、毒づいても変わらない。

まるで、茶番。

それが、さらに苛立ちを募らせる。


結局、女との決着はつかなかった。

ただ、プルートの介入と共にふざけた茶番のような戦闘は終了した。

私の行き場の無い苛立ちを残して。














確かに明けない夜は無かった。


その代わり、新たな夜は唐突に訪れたけど。




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