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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第一章 -日常-
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01-02-05 都のシシャ、弔うは――




振り返れば、声の主がいた。

暗くてよく見えない。けど、確かにその人は――通り魔さんだった。


いや、中にいるってわかってたけど、そりゃ、あたりまえなんだけどっ。

どうしよ、どうした、どうするのっ?!

慌てる私の横で、マコト君は余裕そうに彼を観察している。

いやいやいや、そのよゆうはどこから来てるのっ?


通り魔さんが何かに気づいた。

「そこから離れろ!!」

え?

この、棺から?

取り乱した様子で通り魔さんがこっちに向かってくる。

後ろには、壁しかない。逃げ道は、無い。

で、でもっ、何かを……大切なことを言い忘れている気がするっ。


「あっ、おじゃましてますっ!」

「……」

マコトが無表情で、しかし確かに呆れた目でアルトを見ていた事に、彼女は気づかなかった。


「お前は、ばかかあぁっ!!」

「うあわわわっ、はりっ?!」

地下のせいか、大きな声が真っ暗な室内に響き渡る。

玻璃が来たみたいだ。意外と、早くこれたみたい。

「あ、はりっ。よかった、なにも無かったんだね」

階段から駆けて来たらしい玻璃は、廊下の壁に手をつきながら、もう一方のあいた手で剣を通り魔さんに向けた。

「良かったじゃねーだろ! なに勝手に犯人の家入って、勝手に追いつめられかけて、しかも挙句の果てに第一声がおじゃましてますってなんだよっ!」

「え、これっておいつめられてるの?」

「……」

隣のマコト君が、無言でうなずいた。

なるほど、追いつめられていたのか。

でも、マコト君の様子をみてもぜんぜんあせってないというか。

「これだからアルトは……目が離せないんだよ」

「え?」

「あー、とりあえず、そこの通り魔犯人。さっさと捕まってくれると助かる」

「捕まえに来た? バカか。ガキどもがどれだけ増えても意味はねぇよっ!」

呆然としていたのか、警戒していたのか、動かないでいた通り魔さんがわたしとマコト君には目もくれずに身をひるがえした。

向かう先は、剣を構えた玻璃。

懐に忍ばせていたらしい短剣を抜くとそのまま玻璃に突撃する。

金物がぶつかる音。が、したと思った瞬間

「って、おいっ」

「ありゃ?」

それ以上攻撃しないで、横を通り抜けた。

玻璃が頬をひきつらせている。

そして、階段の駆けあがる音が聞こえてきた。

「ま、待てっ!」

玻璃が慌ててその後を追う。

と、通り魔さん、……逃げたっ?

「あ、まってはり……」

玻璃を追おいかけその部屋から出ようとして、足を止めた。

「まこと君?」

マコト君が不審な行動をしていた。

部屋の中を動き回って、なんだかやっている。

そして、ぱあっと部屋に灯りがともった。

マコト君の手には、光源のランプがある。

それを持って、マコト君はさっきの箱を覗き込んでいた。

思わず近くに行くと、彼女は変わらず箱の中で眠ったように横たわっている。

光のおかげでようやくわかる。

これは、箱とかじゃなくて、棺だ。

「あれ、これ……」

そして、周りに散らばっていた糸のような物は……黒のすこし青い髪。



なんで、こんな物が、散らばって……。

「古来より、女の髪には力が宿ると云われている」

唐突に、マコト君がそんな事を言いながら、ランプを床にかざし始める。

そこには、黒ずんだ曲線が何本も引かれていた。

陣のような物。それと解読不能な文字。

部屋の中を見回して、ようやく気づく。

この部屋は、祭場に模されてる。

まるで、何かの儀式をしようとするかのように。

「……生き返らせでもしたかったのか。それとも、実験でもしたかったのか」

吐き捨てるように、マコト君はそう言った。

あの通り魔さんは、この人を生き返らそうとして儀式の為の供物とかのために人を襲っていたという事なのだろうか。

そして、マコト君は興味を失ったように灯りの灯ったランプを床に置いて、部屋から出て行ってしまう。


あの通り魔さんが何をしたかったのか、私は知らない。

でも、もしマコト君が言ったことがあたっているのなら……。

「かわいそう……」


人を傷つけてまで生き返らせようとしたあの通り魔さんも。

生き返らせられかけたこの人も。

どちらも。





地下にいたアルトは知らないことだったが、地上では大変な騒ぎだった。

逃げようとする通り魔を、天音や天音の報告でやって来た騎士団が拘束する。

そんな捕り物がおこなわれ、野次馬が観戦していた。


地下から出てきたマコトは、屋敷の隅でぼんやりと其れを視ていた。

ようやく一段落ついたらしい天音がそれに気づいてやってくる。

「なーにやってんの。勝手に家の中に入るなんて……」

「……知らん」

「知らんって……まあ、何事もなかったみたいだから、あんまり言わないけど、後で陸夜君に怒ってもらうからね」

それを聞くと、マコトは眉をひそめる。

「……それで」

「ん?」

「共犯者は?」

「あぁ……あの男が言うには、『紫の悪魔』に手伝ってもらっていたって。……死者を……恋人を生き返らす為にって、そそのかされた……みたい」

すみませーん。

騎士団の一人が、天音の元に駆けてくると、耳打ちをして去って行った。

「ちょっと呼ばれたみたい。玻璃君達と一緒に待ってて」

そう言うと、天音もその後を追って行く。

その横を、丁度話題に上がった玻璃が擦れ違いに歩いて来た。

「好きだった人を生き返らす、ね。バカバカしい」

「死んだ者は、生き返えらない」

「……」

返事が返ってくると思っていなかった玻璃は、なおも言葉を続けるマコト怪訝そうな目を向ける。

「生き返ったとしても、それはもはやヒトではない」

マコトの言葉は、ただひたすら静かに、無情に響いた。


「……化物だ」






大切な(ヒト)が在りました。

それは、とても大切な(ヒト)でした。


だから喪った時、取り戻そうと考えたのです。


取り戻したいのです。

取り戻さなければ、いけないのです。


愛する人を喪って、それを取り戻そうとするのは罪なのでしょうか?

叶わない願いを求めて足掻くのは、愚かなことでしょうか?




多くの野次馬が、その捕り物を見ていた。

押し合いへしあいの中、男は騎士団に引っ張って行かれる。

人々の喧騒の中、目を見張るような金髪の少女が一人、それを見ていた。

白い町並みを眩しそうに眺めながら、男の行方を見守る。

「終わったの?」

「あぁ」

いつの間にか、その後ろに青年がいた。

青年に気づいた少女は、呟くように言紡ぐ。

「他人を害した時点で、罪であり愚かなことよ」

取り戻すのは罪。足掻くのは愚かなこと。

それを肯定した少女――清蓮にプルートは笑った。

「君がそれを言うんだね」

「私が罪人で愚か者であることは否定しないから。勧誘はどうだった?」

「さあ? 彼女がこちらに来るのか……どうだろう?」


人ごみは、自然と解散していく。

そこに、金髪の少女と青年の姿は無かった。







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