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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
第三章 -黄泉還り-
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03-06-05 魔術師のセカイ



黒煙が晴れていく。

壁を土術で吹き飛ばしたアダマストは、前へと進む。

そこには、呆然とした様子のノインがいた。その側で、青年――ソードが立ち上がる。

アイリは、その様子を後ろから見ていた。

「なんで、なんで来たの……殺さないと、いけないじゃない」

泣き出しそうな声で、ノインは言う。

「けじめを付けに来た」

アダマストの静かな声が響く。

ノインは、それにうつむいた。

あぁ、彼女は……。アイリは唐突に気づいた。


黄泉還りの彼等は、彼等を使役する魔術師の命令に従わなければならない。

たとえ、ソレが意に沿わない命令でも。


彼女が最初からそうだったのか、それとも情が移ってしまったのか、それはアイリには分からない。けれども、彼女はアダマスト達を、きっと裏切るのは不本意だったのだ。

それに、アダマストは気づいている。こちらも、どこから気づいていたのかアイリにははかれない。だが、きっと。

二人の戦いが始まった。

その戦いに何を思ったのか、ソードは静かに離れてティアラに元へと戻る。二人の戦いの様子をうかがいながら、ティアラはアイリ達の元へと退いた。

アイリもカリス、アマーリエも、二人の戦いを静観する。

本来なら、ノインが有利だった。不死なのだ。殺したって死なない彼女が、どうして負けるのか。しかし、戦いはアダマストが主導権を握っていた。

先ほど、ティアラと剣を交えていた時とは明らかに変わった。

戦う意思など、たぶんないのだ。

ただ、命令に従っているだけで。

おそらく、動けなくなるまで、彼女は戦い続けるだろう。

アダマストの魔術で、ノインは傷ついていく。

「不毛だ」

もう、決着はわかりきっている。止めようとアイリが動き出したとき――。


その戦いは、唐突な爆発で中断された。




その少し前。地下へと続く道を、正面から突入したフィーユ達は見つけていた。

どうやら、一応隠されていたようなのだが、明らかにわかりやすいように壊され、誰でもはいれるように入り口が開いていた。

「……罠か、それとも」

未だ連絡のない、三番目のジョーカーの事を思い出す。

罠かと疑ってはみたが、十中八九、犯人は彼だ。

辺りの黄泉還りの失敗作達を捕縛し終えると、フィーユは半数を地上に残し、地下へと向かった。

地下の道は一本道だった。警戒しながら進むも、何もない。魔術的な罠や隠蔽もない。

まっすぐ進むと、扉が見えてくる。

少し開いているその扉から、音が漏れ聞こえる。

戦闘音。やはり、先に三番目が辿り着いていたのだ。

上での黄泉還り達の動きがそこまで統率されていないのも、彼がすでにここで戦闘をしていて、黄泉還りの魔術師を釘付けにしていたからだろう。

すぐに、魔術師を拘束するために突入しようとする。

が、その時部屋の中から魔力が集まる気配を感じた。異様な力の集まりは、まるでわざと暴走させて爆発させようとしているようで……。

「総員、急いで結界を張ってっ!!」

慌ててフィーユは後ろにいた人たちを守るように巨大な結界を張り巡らす。みなもその声に従って結界を創ろうとするが間に合わない。

爆発が、部屋の中から起こった。


「……みんな、大丈夫?」

ぱらぱら爆発で飛んできた破片が落ちる。

フィーユは周囲を見渡す。先ほどまであった扉は壊れて少しばかりの板を残して吹き飛んでいる。廊下の壁もひび割れ、一部が崩れていた。

「はい……」

「フィーユさんが結界を張ってくださったので……」

「こちら、無事です」

どうやら誰も怪我はしていないようだが、突然の爆発でみな動揺していた。

上でも混乱が起きていることだろう。

とにかく、中を確認しなくてはならない。

フィーユは部屋を覗いた。

黒く焦げ付いた家具。何かの破片が散らばって居る。

そこに、彼女はいた。

「あら、ようやく来たのね」

待っていたとばかりに、彼女――フィアは嗤った。

服などはぼろぼろで見られないものだが、体には一切傷もなにもない。

その足下で、少年が倒れている。動いてはいるので生きてはいるようだが、フィーユからはよく見えず分からない。

「コレじゃあ、つまらなくて、ずっと待ってたのよ」

コレ、と足下の彼を蹴りつける。蹴るとそれで満足したのか、それ以上気にすることはなく、フィアはフィーユに微笑んだ。

フィーユの顔がゆがむ。

部屋の中には黄泉還りの魔術師はいない。

前回同様、逃げられたのだ。

また、逃げられてしまったのだ。

あきらめでフィーユは足を鈍らせる。フィアを拘束しなければならない。けれど、この状態で彼女と戦えるのか……。

「まだだっ。まだ、あいつは逃げ切っていない」

その時、フィアの足下にいた少年が見えないように持っていた短剣でフィアの腹を裂いた。

血が、飛び散る。

彼の血か、返り血か分からないほど血で汚れた少年は――マコトは、叫んだ。

「音川アルトに要請しろっ。この周囲で風術および幻獣、魔獣で空を飛ばせるなと。まだ、あいつは側に居る」

そう言うと、側にあった机のようなモノをひっくり返す。そこには、奥まで続く穴があった。

そこにマコトは飛び込んでいく。

「まっ……」

待ってとも、傷は平気なのかとも、なにも聞く暇なくフィーユの前からマコトは姿を消した。

それを追おうとするが、その前にフィアが立ちふさがった。

「あのぼろぼろの子供一人でなにができるか、見物ね? きっと死ぬわ。そしたら、貴女はもっと苦しんでくれるかしら?」

「キサマはっ」

マコトに切られた腹はすでに元通りになっている。

まるで、彼をわざと追わせたようだ。いや、実際そうなのだろう。

フィアは誰かが苦しむ姿を見たいのだから。

フィーユが、守りたかったヒトを目の前で失ったとき、ソレは嬉しそうに嗤っていたのだから。

早く、彼女を拘束しなければならない。





アルトは、降り止まない雨の中、ずっと待っていた。

フィーユ達が次々に黄泉還りの子供達や黄泉還りの失敗作達の拘束に成功している報告は来ているが、アルトは拘束した黄泉還り達をさらに封印している者達とは違う場所で待機しているので知っているだけだ。

少しずつ、雨がやんできたように感じる。

アルトは、ふと空を見上げた。

――空に、何かが見えた。

研究所の方向、正確に言えば研究所よりももっと先。それが少しずつ近づいている。

慌てて風を操り空に何か居ないか調べる。

鳥、ではない。

「アインさんっ上空に、なにか……おそらく黄泉還りの子供か協力者がいますっ!!」

慌ててアルトは報告をする。

空にいたのは幻獣ヒポグリフだた。その背に、誰かを乗せている。ソレは、急速に研究所に近づいている。

「……みんな、隠れてっ」

アインが非戦闘員である者達に指示を出す。そして、戦闘ができる者達が彼等を守るように前に出た。

肉眼ではっきりと見えるほどソレは近づいてくる。

「……玻璃」

金髪が、見えた。

拘束された魔術師の子供達の中に、彼の名はなかった。

研究所に一目散に向かっていた彼だが、突如方向を変える。

「どうして……?」

アルトは首をかしげるがアインの顔は厳しくなっていく。

その時、爆発が起きた音が聞こえた。研究所のほうからだ。

そこに、風が吹いた。風術で、声を届けてきたのだ。

『風術でも幻獣でも、とにかく空を飛べせるな』

「……?」

研究所へ行った風術師の一人の声だ。アルトは首をかしげながらも従う。

飛行の禁止など、普通ならあまりにも大変な魔術になるが、アルトに関しては話が違う。

「聞こえているよね、みんな?」

辺りを見回しながら、声をかける。それは、ヒトへではない。

「お願い、この周囲で誰も飛べないように手伝って」

クスクスと小さな笑い声が聞こえてくる。

『良いわよ、愛しい児』『珍しい』『貴女がお願い事をするなんて』

小さな声が、至る所からあふれてくると、風が強く吹いた。

アルトも、周囲へ――どれほどやれば良いのか分からないがとにかく広範囲を、できうる限りの空の風を操っていく。

「今のは……?」

アインが厳しい顔のまま、アルトに問いかけた。

「研究所の方から誰も飛ばすなと伝言が来たんです」

「誰も……? まさかっ」

何かに気づいたアインは先ほどツェーンが消えた方角へ視線を向ける。

「みなさん、ここで待機してください。私は先ほどの不審人物を追いますっ」

「えっ」

アインはそう言うと、混乱するアルト達を残してすぐに走り出す。

「黄泉還りの魔術師が逃亡した恐れがあります。皆さんは、ここから離れないようにっ」

「待って、待ってくださいっ」

その言葉を聞いて、アルトもまた走り出した。

もしも、それが本当ならば……。

アルトは、見失いそうになりながら、アインの後を追った。




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