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騙る世界のフィリアリア  作者: 絢無晴蘿
開幕の前に
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i0-00-00 まどろむ少女の願いは叶わず

それは、一年前―――








逃げないと、殺されるっ



少女は館の中をひた走っていた。


「どうしてっ」


息は切れ、額にはうっすらと汗が浮かぶ。

周りは紅。業火に包まれていた。

ただ、それだけで辺りが紅色なのでは無い。


その紅は、血。


真紅の血が、まだ生乾きの血が、辺り一面に飛び散っているのだ。

そして、そのすぐそばには物言わぬ屍が横たわる。

見知った顔を見つけるたびに、少女は顔を歪ませた。


「なんでっ」


もしも地獄がこの世に顕現したのなら、きっとこの場所のことを言うのだろう。

耳をすませば、周りからは人々の鳴き声、怒声、悲鳴、歓喜の声が途切れなく続く。

今もまた、誰かが殺されているのだ。


「うちは、また、何もできなかったのっ?!」


涙を浮かべながら、少女は走り続けて遂に見つける。

ただ一人の親友を見つける――殺された瞬間を。


「あ……ああああああああああっ!!!!」


栗色の髪が、血に染まる。

彼女は笑って、小さく言った。


『逃げて』


にげないと


にげないと

逃げないと

逃げて……どうするの?

みんな死んだ。

殺された。

私だけ生き残って、どうする?


ただ、少女は無意識のまま逃げて、裏庭に出た。

桜の木は満開で、薄紅色の華が咲き誇っていた。

花弁が散る中、黒の女神が嗤う。


「ねぇ、どうだった? ミライは変わった?」


少女は応えない。


「無駄なのよ。全て。アナタがやって来た事は、スベテ無駄なの」


ただ、一歩あとずさる。


「さようなら。可哀想な巫女サマ」


その後の、少女の記憶はない。










生きる者がいなくなったその場所で、黒の女神は嗤っていた。

ただ、ご自慢のお人形を見つけて哂っていた。

先ほど殺した少女のことなど忘れて、それは嬉しそうに笑って言った。


「ねぇ、迎えに来たの。帰りましょう。ワタシの可愛いお人形さん」


ソレは、なにも言わずに黒の女神に斬りかかった。







今度こそ誰もいなくなったその場所で、黒の女神は狂ったまま嗤い続ける。

終わってしまった物語を抱きながら。













                  ✡      ✡      ✡





なんでも屋である『星原』の本部、スメラギの館――。


扉が乱暴に開き、二十代後半ほどの女性はその部屋に乱入する。

「シルフ? なんの用なの」

部屋にいた少女、ラピス・カリオンは突然の訪問者に眉をひそめて言った。

「ん、やっほーラピス。ちょっと頼みごとがあって来たんだけど」

音川シルフは気軽にそう言うと、近くにあったソファに座り込む。

「お断り」

「はやっ。ひどっ。私とラピスの仲じゃない」

「……貴女の頼み事は、毎回ひどすぎるのよ」

どんな仲だと一人心の中でつっこみつつ、ラピスはため息をついた。

確かに、彼女とは腐れ縁ではあるが。腐れ縁でしかない。

「そう? まぁ、今回はそこまでひどくないとは思うけど?」

「今度は一体何?」

我ながら甘いと思いながらもラピスは問う。

「うん。うちの娘、ちょっと預かって欲しいの」

「娘? えっと、たしかアルトだっけ。あの、ご自慢の娘さんを?」

「そうそう。そろそろ外の世界にも目を向けさせたほうがいいころ合いかなーっと。アルトのお勉強のためにも、是非お願いします」

からりと笑う彼女は、まるでいたずらをして楽しむ子どものようだった。

お勉強、なんて言っているが、その本当の理由は一体何なのか解らない。

「……本当は、何を考えているの?」

「この世界は、どうしてこんなに美しいのか」

「ウソでしょ」

「うん」

シルフの考えがわからない。

ラピスはもう一度ため息をつくと、これから起こるであろう問題ごとに頭を抱えた。




帰り際、呟かれた言葉に……


「だって、そろそろこの世界は真実を思い出したほうがいいと思うんだよ」


ラピスが気づくことはなかった。





以前投稿していた小説を、一から書き直したものです。

ちなみに、ループものではありません。


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