プロローグ
1582年6月21日(旧暦・天正10年6月2日)早朝。
京都本能寺に滞在していた織田信長を、家臣である明智光秀の軍勢13,000人が襲撃をかけた。
本能寺の変である。
鬨を上げる声に信長は目を覚まし、小姓の森蘭丸に偵察させた。
「大殿。一大事です。寺の四方は明智軍に完全包囲されているようでございます。おそらくは謀反かと」
蘭丸は顔面蒼白で報告した。
「……光秀か。ならば、やむを得んな」
(やむを得ん?大殿は、この日を予測していたということか?)
「蘭丸。ありったけの弓と刀を持って参れ」
「はは!」
討ち入ってきた軍勢を相手に、信長は弓で応戦した。
全ての弓の弦が切れると、今度は槍で数人を切り倒した。
しかし、相手は多勢過ぎた。
さらには、腕に刀傷を負った。
「ふう。きりがないな。ここまでとしよう」
疲れ果てた信長は、奥の間に引きこもる。
寺にはすでに火がかけられ、信長の寝所にまで及んでいた。
最期を覚悟した信長は、自分の十八番である「敦盛」を謡い舞った。
―人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻の如くなり
舞いながら思う。
(人生50年、か。もう一度、やり直したいものだな)
舞い終えて、信長は切腹の準備をした。
介錯人はいなかった。
「参る!」
小刀を自らの腹に突き立てた。
とめどなくあふれる血に染まるその身体を、炎が包み込んだ。
つづく




