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婚約破棄した途端、彼の転落が始まりました

※私は宮部みゆき先生のファンです。

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『美貌を失い、愛を得る』

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『学園で黒い噂が渦巻いてますが、彼の愛が欲しいだけなんです。』

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「フェリアナ・エイデル。俺は君との婚約を破棄したい」


フェリアナは目を見開いた。頬から血の気が引き、手にしていた扇がぱたりと床に落ちる。

「そ、そんな……どうして?」


動揺を隠せない彼女を前に、レオン・グレイスは胸を張った。

「俺は田舎の跡継ぎなんてごめんだ。

 オフィーリアは伯爵家のご令嬢だ。俺に相応しいと思わないか?」


フェリアナは、胸元のネックレスを握りしめ、かろうじて声を出した。

「……レオン。あなたは、ご自身の立場をご存知なのですか?」


レオンはフンと鼻を鳴らす。

「グレイス家の三男坊だから何だというんだ?

 問題ない。オフィーリアは俺と結婚してくれるはずだ」


「レオン……どうか考えなおして——」


「くどいぞ! ……まぁお前は俺の家の金目当てなんだから当たり前か」


「……っ」

彼女の肩がわずかに震えた。


「グレイス家の支援がなければお前の家はおしまいだもんな」


フェリアナは唇を噛み、うなだれた。白い指先が扇を拾い上げながら小さく震えていた。

「私は、決してそれだけでは……」


「図星だろ? 俺はそんな金目当ての女なんてごめんだ」


フェリアナの瞳は潤んだが、ネックレスを握りしめていた手を下ろし、静かに言う。

「私は……あなたを縛っていたのですね」


涙を流さぬように目に力を込めた。

「ごめんなさい……どうかお幸せに」


「……あ、ちょっと待ってくれ。オフィーリアにまだプロポーズしてないから、婚約破棄の件は広めるなよ」


「……わかりました」


うなだれた背が扉の向こうに消える。

その刹那、レオンは勝利を確信した。

自分の人生がようやく光を掴んだと思っていた。



「遊びでしょ? 当たり前じゃない」


数週間後、オフィーリアは爪を磨きながら、涼しい声で言った。

煌びやかなシャンデリアの光が、彼女の髪に反射して眩しかった。


「なっ……俺は本気で——」


豊かな金髪をなびかせながら、彼女はあざけるように微笑む。

「本気? 三男坊に何の価値があるの? 鏡、見直しなさいよ」


ぱちん、と指先が軽く弾かれる。


「俺といるのが楽しいって言ってただろ!」


「遊び相手としてはね。結婚は別の話よ。

 王都にはね、男爵家の三男坊より“いい男”がいっぱいいるの。……どうして気づかなかったのかしら?」


オフィーリアは爪に息を吹きかけながら笑った。

「私、今度公爵家のご子息とお見合いすることが決まったの。素敵でしょ?

 だからもう私に話しかけないでね」


その冷たい笑みに、レオンの喉が塞がった。声は出なかった。



「お前、自分が何をしたかわかっているのか!」


父の怒声が部屋に響いた。机の上の書類が、びりりと震える。


「えっ……」


父はくしゃりと一枚の書簡を握りつぶし、さらに怒鳴った。  

「今しがたエイデル家から“婚約破棄受理”の報せが届いたわ!

 もう正式に破談として扱われるということだぞ!

 お前、いったい何をやらかしたんだ!!」


レオンの顔から血の気が引き、ほんの一瞬、やばいと悟った色が走った。

「だって、俺は——」


「愚か者が! 折角エイデル家と繋がりを持てたのに!」


「没落しかけの家だろ? グレイス家がなければ立ち直れない——」


「だからこそ婚約を結んだのだ!」

父は机を叩き、身を乗り出した。

「エイデル家とは新しい交易契約が進んでいた!

 あの家の鉱山ルートを借りる予定だったのだぞ!」


「は? そんなの聞いてな——」


「言っただろう! お前は田舎が嫌だと駄々をこねていただろ!」


レオンは思わず一歩退いた。

言葉を詰まらせ、視線を彷徨わせる。


思い返せば、婚約が決まったとき「地味で田舎臭い女だ」と口にした。

あの時、フェリアナが悲しげに俯いた姿が脳裏をかすめる。


「フェリアナなら、きっとお前を上手く導くと思っていたのに……」


「どういう意味だよ!」


レオンは思わず声を荒げたが、父は冷ややかに視線を落とした。


「フェリアナに謝罪してこい」

父の声は低く沈んでいた。


「婚約が破談になれば、エイデル家との取引もなくなる。

 あの家の鉱山から出る銀は、王都で高値がつくんだぞ。

 家の儲けになる話を、自分から潰すつもりか」


レオンは息を呑む。


父の手が机を叩く音が響く。

「今すぐフェリアナに頭を下げろ。

 それができなければ、家から除名だ」


父の怒気に、レオンはただ唇を噛んだ。


 最悪だ……俺にだって選択肢はあるだろう!



翌日の学園。

フェリアナを探したが、姿はなかった。

仕方がないので、彼女のクラスに向かい、友人らしき人に声をかけた。


彼女の友人は睨みつけるように言い放った。

「なんで婚約破棄したの? バカなの?」


開口一番の言葉に、レオンは固まる。


「友達想いでいい子だったのに……知らないだろうから教えてあげる。地元の家を継ぐために、あの子、ずっと勉強してたのよ」


レオンは鼻で笑った。

「夫人になるのに? 必要ないだろ」


友人は眉を吊り上げ、怒りのままに言葉を叩きつけた。

「エイデル家が鉱山と交易の家だって、本当に知らなかったの?」


レオンは口ごもる。

「……細かいことまで、いちいち覚えてられるかよ」


友人はゆっくり息を吐き、冷えた声で言った。

「細かいこと? それ、婚約者の“家業”よ」


言葉の刃が静かに落ちる。

友人はため息とともに続けた。


「だからフェリアナは……あなたを支えられるように、

 毎日家の資料を読み込んでたの。

 あなたが一度も聞こうとしなかった“細かいこと”をね!」


 ——俺のために?


その一言が胸の奥に突き刺さる。

言葉を探す前に、友人は顔を背けた。


「行方? 言うわけないでしょう」


冷たく告げられ、レオンは何も言い返せなかった。

フェリアナが生徒会委員だったことを思い出し、生徒会室に向かった。





生徒会室を訪ねると、後輩が冷たい目を向けた。

「俺、フェリアナ先輩に憧れてたんです。

 後輩の面倒見もよくて、誰にでも丁寧で……」


レオンが眉をひそめて問い返した。

「……そうなのか?」


本気で知らなかったらしいその反応に、

後輩の表情が一瞬で険しくなる。

驚きではなく、明らかな苛立ちだった。

「去年の学園祭で、屋台の運営を全部取り仕切ってくれたんですよ。

 あの混乱をまとめたのは先輩でした」


「あいつが?」


信じられず呟くと、後輩は眉をひそめた。

「そんな先輩を泣かせるなんて」


胸の奥が鈍く痛む。

行方を尋ねるが、「知っていても教えません」とだけ返された。



学園の廊下を歩いていると、同級生のベンが笑いながら声をかけてきた。


「聞いたぞ、フェリアナさんと婚約破棄したんだってな」


「ちっ……うるさいな」

(まだしてねぇよ)


肩をすくめると、ベンは呆れたように笑った。


「もったいないことしたよな。フェリアナさん、けっこう好かれてたのに」


「……あいつが? あんな地味なのに?」


「は? 本気で言ってんのか?」

ベンは苦笑して首を振る。

「去年だって、お前が来なかったパーティーで何人も言い寄られてたぞ」


「……え?」

レオンは間の抜けた声を出した。


——あの日は、オフィーリアと抜け出したのだった。


「でも“婚約者がいるから”って、全部断ってたんだ」

軽口の裏に、ほんの少しの憐れみがあった。


「……俺の、ために……?」


ベンは小さく息をついた。

「お前、大切にされてたんだよ」


その言葉が胸を貫いた。

喉の奥が焼けるように痛い。


 俺……愛されてた?


フェリアナの居場所は勿論彼も知らなかった為、レオンは彼女の担任に会いに向かった。



教師クラウディアを訪ねると、彼女は事実しか語らない口調で答えた。


「彼女なら、学校を辞めたわ」


「そんな……まさか!」


クラウディアは眼鏡を外し、レンズを拭きながら言う。


「優秀だったのに……地元の年上の方との婚約が決まりかけてるそうよ。仕方がないわね」


眼鏡をかけ直し、冷ややかに見下ろした。


「婚約破棄したのでしょう? もう関係ないはずよ」


その視線に、声が喉で止まった。


胸の奥で、言葉にならない反発が渦を巻く。

——まだだ。まだ終わりじゃない。

 正式に破談が公表されていない以上、俺は“婚約者”のままだ!

 フェリアナは、俺を待っている……!


そう思った途端、全身が燃えるように熱くなった。

レオンは踵を返し、勢いのまま屋敷へ向かう馬車へ乗り込んでいた。





フェリアナの故郷へ向かう馬車の中、レオンの胸は焦燥で焼けていた。

窓の外の風景が遠ざかるたび、鼓動が速くなる。


まだ間に合う。俺が助ければ——。


屋敷の門前に立ちはだかったのは、フェリアナの父だった。


「娘はもう……他の方との縁談を進めている」

父の声は淡々としていた。

「破談が届いたその日から、エドガー殿が動いてくださった」


思わずレオンは叫んだ。


「家のために娘を嫁がせるのか!」


「娘が望んだことだ」


レオンは拳を握りしめた。


「……思えば、最初から間違っていた」

父は静かに息をついた。


「資金繰りに困っていた折、グレイス家から縁談の話があった。

私は迷ったが……フェリアナは家のためになるならと、あの婚約を受け入れてくれた」


父は目頭を押さえながら、低く続けた。


「娘には好きな男がいた事を知っておきながら、私は……娘の幸せをもっと考えるべきだったのに……」


 フェリアナに好きな男?


「エドガーは自分の力で未来を掴んだ。

地方の士官として戦場に赴き、王国の国境戦で功を挙げた。

その働きを認められ、王の恩命により男爵の爵位を賜ったのだ。

戦場で得た褒賞金と恩給を倹しく貯め、我が家の借財を返してまで、婚約を整えた。

——彼になら、娘を任せられる」


「そ、そんなの——金で娘を売ったのか!? 彼女が好きなのは、俺なのに!」

レオンの声は震えていた。


「それは違う。娘が昔から好きなのはエドガーだ」


レオンは勢いで立ち上がり、叫んだ。


「そんなわけない! 俺のために努力してたんだ!」


父は小さくため息をついた。


「……君が頼りないからだよ」

その声に怒気はなく、ただ静かな疲れが滲んでいた。


「婚約が決まってから、一度でも我が家を訪れ、家業を学ぼうとしたことがあったか?

娘は君を支えるために学び続けていたというのに——君は何をしていた?」


「それはっ……」


「娘は……君を愛していたわけではない。

だが、寄り添うつもりはあったのにな」


父の声は、責めるでもなく、ただ静かに沈んでいた。


(そんな訳ない! 婚約破棄を言った時、あんな悲しそうにしていた!

 俺と別れたくなかったからだ!)


反論しようと息を吸ったその時、庭の奥からフェリアナが現れた。


白いドレスの裾が風に揺れ、胸元のシルバーのネックレスが陽光を受けてきらめく。

久しく見なかったその姿は、記憶よりもずっと——美しかった。

まるで彼女自身が、新しい光を纏っているかのように。


「フェリアナ……!!」


そして——隣には、新しい婚約者。

二人は穏やかに寄り添い、笑い合っていた。


フェリアナとエドガーが寄り添うのを見た瞬間、

レオンの喉がひゅっと鳴った。

何かを言おうとして、言葉が裏返る。


「う、浮気者!」


「?」


「お前は俺のことが好きだったんだろぉぉ!」


叫びながら駆け寄るが、エドガーが無駄のない動きで、レオンの肩を地面へ押し伏せた。

顔が泥に擦れ、ひやりとした土の匂いが鼻を刺す。

それでももがきながら叫んだ。


「離せ! どうしてだよ!」


家の警備兵が駆けつけ、レオンは引きずられる。

泥のついた手が、虚しく空を掴んだ。


そういえば——

彼女が俺にあんな幸せそうに微笑んだことなんて、一度もなかった。


「フェリアナ……! なんで、笑わないんだよ……!」


最後に見たのは、

哀しみでも怒りでもなく、

ただ困惑だけを湛えた彼女の視線だった。

※この短編には、ほんの少しだけ“視点に関する仕掛け”が入っています。

気づいた人は、どこで気づいたか教えてくれると嬉しいです(^^)

「これどういう意味?」という部分があれば、お気軽にメッセージでどうぞ。

(ネタバレになるため、ここでは詳細を語りません)

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― 新着の感想 ―
面白く読ませていただきました。 仕掛けは上からでも下からでも…と思ったのですがどうでしょうか。
眼鏡をかけ直し、冷ややかに見下ろした。 の下りで背が低めのなのかなくらいしか思いつかなかった…
仕掛けはわからなかったですが、面白く拝読しました! 読めば読むほどわからなくなる謎…
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