5 四人で寝る
赤くなったまま、カサンドラが僕らに言った。
「お、お前たちは、いつもそんな…一緒に寝たりしてるのか?」
「いつもじゃありません! まだ二回だけです!」
僕は慌てて、声をあげる。
カサンドラは、赤くなったまま眼を見開いた。
「に…二回も――?」
「いや、だから毛布が一枚しかない時期があったんですって! 貧乏で!」
僕はなんか知らんが、とにかくいい訳した。
その様子を、エリナが愉快そうに眺めている。
「まあ、そんな訳で我々は一緒に寝るのだが、気にしないでくれ」
「そ…そうか、判った」
なんか、まだ顔を赤らめたままのカサンドラが、納得したように頷いた。
カサンドラがソファに横になり、僕らは傍の床に三人並んで横になる。
「ふふ……久しぶり」
キャルが微笑しながら、そう言った。
う、嬉しいのか? いや、僕もちょっとは嬉しいけど。
――いや、だいぶ嬉しいかも。
キャルが傍に来て身体を寄せた時、思わず僕は嬉しくなった。
「それじゃあ、寝ようか。おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「……おやすみ…なさい」
暗くした部屋で、不意にエリナが小さく囁いた。
「…カサンドラ、人の傍で寝ると――安心して眠れるんだぞ」
え、何を言い出してるの?
「そ……そうなのか?」
「ああ。試しに、クオンくんの傍で寝てみるかい?」
え、ちょっと? 何を言い出してます?
「その……構わないのだろうか?」
「キャルちゃん、ちょっと大目に見てあげてよ」
「うん。判った」
何を判ったの、キャル?
「じゃあ、私と交代だ。フフ、私はキャルちゃんの傍で寝よ!」
エリナははしゃいだような声をあげて、身体を起こすと僕の右隣にいたキャルの後ろに移動した。
毛布に潜り込む。
「ふふふ、キャルちゃんは柔らかくて、いい匂いがするなあ」
「エリナ、あんまり触らないで」
キャルが耳元で、そんな事を言う。
……ちょっと、隣で何が起きてます?
「あの……それじゃあ、そこにいくけど……」
ふと気づくと、カサンドラが傍に来ている。
ふわりと僕に毛布をかけると、僕の傍にきて横になった。
え? あの――本気で?
横を見ると、カサンドラの顔が間近にある。
紅い髪が流れて、長い睫毛が綺麗だった。
そ…っと、寄り添うように、カサンドラは僕の肩に、頬を寄せた。
「本当だ……温もりを感じる………」
カサンドラが呟いた。
と、不意に、カサンドラが肩を震わせる気配が判る。
「うっ……く……」
突然、そのカサンドラが押し殺すように泣き声をあげた。
「え? あの――」
どうしたっていうんだ、急に。
「すまない……しばらく…このままでいさせてくれないか……」
カサンドラが、涙声でそう囁くと、僕の肩に顔を埋めた。
そうだったのか――
あまりに強敵だったし、救出作戦でも優秀すぎたから忘れていたけど――この人はひどい目にあって傷ついたばかりだった。
強い女隊長ではなくて、この傍で泣いている人は……脆くて、弱い女性なんだ。
多分、自分の身に起きたことの衝撃に、夜、恐さに震えていたんだろう……。
僕は左腕を曲げると、カサンドラの頭をそっと撫でた。
「ありがとう……クオン」
カサンドラの手が、僕の胸にそっと置かれた。
その手に上から重ねるように、キャルの手が置かれる。
さらにその上から、エリナの手が伸びてきた気配が判った。
優しい二人だ。僕の仲間は。
僕は少し誇らしい気持ちになって、深く息を吐いた。
*
翌朝、眼覚めると、僕は一人で毛布にくるまっていた。
しまった! また疲れすぎて、一緒に寝る感触を堪能してない!
無理もなかった。昨日はいきなり捕まって、牢獄に入れられ、脱出して、戦闘して、救出作戦もやったんだった。疲れてないはずがない。
「……おはようございます」
僕はまだ眠たい眼をこすりながら、身体を起こした。
キッチンにカサンドラとキャルがいる。
「おはよう……」
カサンドラが、心なしか恥ずかし気に挨拶をした。
「おはよう、クオン。カサンドラね、料理上手なのよ」
キャルが微笑みながら、僕に言う。
見ると、野菜のスープにマッシュポテト入りサラダ、スクランブルエッグが既に揃っている。なんか、キラキラしてる。
「ホントだ! 凄い!」
「軍人になる前は花嫁修業の一環として、料理も教え込まれたんだ」
カサンドラがテレたように口にする。と、廊下から声がした。
「ちょっと~、なんか凄いいい匂いするんですけど~」
ミレニアだ。その後から、スーとエリナが出てくる。
「ブランケッツは、料理も贅沢なんですね」
「いや、あれはカサンドラが作ったんだ。私たちでは、こうはいかない」
スーの言葉に、エリナは何故か胸を張って言う。
と、その後からランスロットとガドが出てきた。
「おはようさん、なんかいい匂いしてんな」
「そういえば、昨日は、飯抜きだったぜ」
そんな事をいいながら出てきた、ボルト・スパイクに、カサンドラが挨拶をした。
「あの……おはよう」
ふと、我に返ったランスロットとガドが、驚いたように眼を見開いている。
あ~、カサンドラの白のドレス姿に驚いてるのね。まあ、驚くよね。
二人はそのまま、ポカンとした顔で、カサンドラを見つめていた。
「ちょっと! 美人だと、すぐにのぼせるんだから!」
ミレニアがランスロットの尻をつねる。
「いってぇっ! そんなんじゃ――あるけど…」
おい、認めるなよ。どんだけ正直者なんだよ。
ミレニアとランスロットは言い争いをし、ガドとスーが仕方なさそうにそれを見つめている。二人の仲のよさは、お決まりなんだろうな。
ミレニアがランスロットにやきもちを焼いたってことは……やっぱり、そういう仲なんだろうな。その――まだ、そうじゃないとしても、まあ…いずれ。
ふと……僕はキャルを見た。
キャルは、カサンドラに焼きもちを焼かなかったのだろうか?
いや、僕がそんな事を考えるなんて、おこがましい話だ。
まるでキャルに好意をもたれてるみたいな、過剰な自意識だ。
キャルは僕が助けてあげた事から、僕に感謝の念を持ってるだけだ。勘違いするな、思いあがるな。
――僕にそんな事が起こるわけがない。
ふと、キャルと目が合った。
僕は慌てて、視線を逸らす。僕の恥ずかしい妄想を、見透かされるのが恐い。




