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2 戦いの行方


僕は無精ひげに怒鳴り返した。


「お前こそ、キャルを殴っただろ! そんな事をして……いいと思ってるのか…」

「いいも悪いもねえんだよ! 弱い者が痛い目を見る。それが現実だろうが!」


 無精ひげが斬りかかってくる。僕は思わず、地面を蹴った。

 自分でも驚くような速さで、僕は無精ひげから離れていた。無精ひげが驚く。


「なに?」

「いい訳ないだろ……」


 ゴムの脚のせいだ。地面を蹴った力で移動したらしい。

 けど、それよりも、僕の中で怒りが煮えたぎっていた。


「人が人を簡単に傷つけて――いいわけないだろぉっ!」


 僕はゴム脚で蹴って、無精ひげに殴りかかった。

 無精ひげが、剣で防御する。


「あ! く――」


 剣で防御された拳が、斬られた。拳から、血が流れ出す。弾力のせいか、拳が割れるほどじゃなかったけど、この身体のままだと、斬られたら傷つくに違いない。速くなるけど、危険だ。


「くそ……」


 吹き飛ばされたスキンヘッドが、呻きながら身体を起こした。あいつ、気絶すらしてない。無精ひげが、笑みを浮かべた。


 まずい。あいつが戻ってきたら、2対1になる。

 僕はふと、河原に大きな岩があるのを見た。

 あれを利用すれば――


僕は低く身構えた。無精ひげを睨み、攻撃を誘う。


「ハッ、ちょっと素早く動けたからって――」


無精ひげが斬りつけてくる。僕は思い切り横に跳んだ。

無精ひげの剣が空を切り、僕は跳んだ先の大岩を蹴って反動で無精ひげに迫る。


「硬化!」


ゴムの力で跳んで、直前で硬化に変える。僕は無精ひげの横腹に、硬化したパンチをぶち込んだ。


「ぐ――」


 無精ひげが呻く。と、思いきや、無精ひげは、にやりと笑った。


「――って、そんなパンチきくか!」


 無精ひげが、僕を前蹴りで蹴とばした。


「ぐふっ!」


 きいた。無精ひげは、蹴りにも気力が込められるらしい。僕は腹を抑えてうずくまった。


「そんな速さと堅さだけの軽いパンチじゃ、俺の気力防御を破れるわけないだろ」


 無精ひげはそう言いながら、僕に近づいてくる。

 と、容赦のない剣の攻撃が、うずくまる僕の肩を打つ。


「うっ」


 凄い衝撃に、僕は呻いた。膝が笑い、立ってられなくなる。倒れそうだ――

 いや、ダメだ。

 僕が倒れたら、キャルがさらわれる。僕が根性無しでも構わない。僕が弱くても構わない。僕が能なしでも、無力でも構わない。


 ――けど、ここで倒れたら、キャルを助けられない。

 それだけは…絶対にダメだ。


 僕は歯を喰いしばって、無精ひげを睨んだ。


「お、いい顔するようになったじゃねえか。ただし……もう遅いがな」


 無精ひげが、余裕の笑みを浮かべる。

 速くても堅くても、あいつに勝てない。じゃ、どうしたらいいんだ?


 軽い――僕のパンチを、そう言ってた。じゃあ、重くしたらどうなんだ?

 重く。拳を重く。


 急に僕の両拳が重くなり、ガクンと下に垂れ下がった。

 重くなった? 重くできるぞ、しかも部分的に。

 これなら――できるはずだ。


 僕は片足を引いて深く身構える。左腕は頭の上に、右腕は拳を腰の位置に。

 左脚を引いて、右前足を硬ゴムに。

 力を貯めろ。そして一気に――


「ほお…やる気か小僧。いいぜ、かかってきな!」


 解き放て!


 右脚を踏みゴム力を爆発させる。左足で踏み込み、なお後ろ足の右足で蹴る。

 爆進する僕の勢いに合わせ、無精ひげが剣を振り下ろす。


 硬化!

 僕の頭の上に掲げた左腕が、剣を受け止める。

 次の瞬間には、僕は右拳を重くした。


「オオオオォォッ!」


 僕の口から咆哮が噴出した。

 拳を無精ひげの腹にぶち込む。


「う――ぐぉ…」


 身体が曲がった無精ひげの、頭が下がる。

 僕は両手を握り、その拳を最大限に重くして、無精ひげの後頭部に振り下ろした。


 無精ひげの頭が、凄まじい勢いで地面にめり込む。

 無精ひげは顔を地面に埋めたまま――動かなくなった。


「ハアハア…ハア……」


 恐ろしい程の緊張で、息が切れる。

 勝った。

 僕が勝ったんだ。


「て…てめえ……まさか、俺の相棒をやりやがったのか?」


 寄って来たスキンヘッドが、驚きの声をあげた。

 しかし次の瞬間、スキンヘッドは薄笑いを浮かべた。


「ハッ! ざまあねえぜ! 偉そうに言ってたが、あんな重みのねえ攻撃にやられるとはよ! 情けねえ奴だ。まあ、これで俺の取り分が増えたがな」


 スキンヘッドはさっき受けた、ゴムの攻撃が僕の全部だと思ってる。

 油断してる。たたみかけるなら、今だ。


「お前も――僕が倒してやる」

「ガキがぁ! 身の程を知りやがれ!」


 スキンヘッドが肩から剣を振り下ろしてくる。

 僕はギリギリまで引きつけて、横に跳んだ。

 と、その瞬間、相手の膝がしらを蹴り飛ばす。


「ムッ!」


 スキンヘッドが転び、地面に倒れる。今だ!

 僕はジャンプして、両膝で相手の背中に乗る。


「重くなれ!」


 僕の全体重が、一気に重くなった。


「ぐぅ……な、なんだ、この重みは――」

 もっと、もっと重くなれ。


「ぐ……ぐぅ…」


 僕の両膝がスキンヘッドの背中にめり込むくらいに重くなっている。その姿勢のまま、スキンヘッドが振り向いた。


「な、なあ、おい。あの女は死んだことにしてやるから――もう、この辺でやめようぜ」


 スキンヘッドは、重さに顔を歪めながら、僕にそう言った。

 判ってる。こいつの言葉は、その場しのぎのものだって事くらい。


「ダメだ。お前らの言う事は信用しない。お前を生かしておいたら――必ず、彼女を捕まえに来る」

「ま、待て! オレを殺しても、あの女には追手がかかる。最悪、足首の奴隷環を足を切って外したとしても、首のリストレイナーは外せない。リストレイナーにも発信機がついていて、女の居場所は知られるんだ。…それによ、リストレイナーを無理に外そうとすると、どうなると思う?」


 スキンヘッドが、脂汗を流しながら口元に笑みを浮かべた。


「どうなるんだ?」

「爆発するのよ! 首から上が、綺麗さっぱりなくなるってワケだ。いいか。だからあの女は逃げられやしねえ。お前は見逃してやるから、もうあの女を見捨てて――」


 僕はものも言わず、拳を最大限に重くしてスキンヘッドの後ろ首に振り下ろした。

 ゴキリ、という嫌な感触がして、スキンヘッドの首が折れる。

 スキンヘッドは、何も言わなくなった。


 僕は重さを解除すると、立ち上がった。


「キャル……」


 僕は倒れていたキャルの方へ近寄ろうとした。

 その瞳に――微かな怯えが見える。

 そう思った瞬間、僕は視界がぐらついて地面に倒れこんだ。


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