4 ブランケッツ号、急発進!
赤い髪の剣士ランスロットは、屈託のない笑みで僕に声をかけてきた。
その背後には、女性二人と屈強そうな男性がいる。
「あなたたちも山火事の消火に行くんですか?」
「ああ、魔導士のミレニアが行くことになってる」
ランスロットは後ろを少し促してみせた。
金色の巻き髪をして、紫の衣装を身にまとった女性が少し微笑した。
「――こういう場合、炎系モンスターの異常発生が原因だったりする事もあるから、俺たちも後から行くつもりなんだがな」
「そうなんですか……」
「何にしろ、一時間後では街は、もう全焼の可能性が高いが――」
ランスロットは渋い顔をした。
僕は少し考えると、エリナとキャルに振り返った。
「この人たちと一緒に、ブランケッツ号で先に現地入りする――のは、どうかと思ってるんだけど……どうかな?」
「君がそう考えたのなら、反対しないぞ」
「わたしも、いいと思う」
エリナはそう答え、キャルが頷いた。
僕は頷くと、ランスロットに言った。
「僕たちと一緒に、いち早く現地へ行きませんか?」
「いち早くって――馬車よりって事か?」
僕は頷くと、ギルド裏に止めてあったブランケッツ号の処まで、ランスロットたちを連れて行った。
「え? この荷車で行くの? けど、引っ張るモンスターでもいるわけ?」
魔導士のミレニアが、眉をひそめる。
「引くのは僕です」
「え、お前が? どういう事だ?」
これはちゃんと説明しないと、うまくいかない事だ。
「ランスロット、僕が掴むんで『自分は重い』って思って」
「え? ああ、まあ――」
僕はランスロットの片腕を掴む。無論、持ちあがらない。
「じゃあ、今度は僕に同調するつもりで、『自分は軽い』って思って」
「え? 俺が軽くなるのか? まあ、いいが――」
と、言った瞬間に軽くなった。
僕は片手だけで掴んだランスロットを軽く持ち上げる。
「な、なにっ!」
ランスロットの足が30cmくらい浮いたところで、ランスロットが驚いて同調をやめた。途端に重くなって、地面に落ちる。
「え? 何、今の! どういうこと!?」
「今、確かにランスロットが浮いたぞ!」
ミレニアと、屈強な男性が驚きの声をあげる。
「同調さえしてもらえば、僕は人を軽くできます。それは荷台に乗っても同じ。それでこれに乗って、一緒に行ってもらいたいんです」
僕はそう言うと、半信半疑のミレニア、そして屈強な男性と、もう一人、霊術士風の衣装の女性を軽くしてみせた。
ランスロットは驚きの顔で声を洩らした。
「……それがお前の能力なのか、ブランケッツのクオン?」
「はい。ただし、ブランケッツ号は、僕ら全員の能力で創り出すんです。ただ、あんまり大っぴらには口にしてほしくない。けど、緊急事態だし、貴方たちなら同行してもいいかも――と思ったんです」
僕の言葉に、ランスロットと仲間たちは、神妙な顔つきになった。
「時間がありません、急ぎましょう。乗ってください」
「あ、ああ」
全員が乗りこむと、僕は声をあげた。
「軽くします。同調してください!」
僕はバーを持ち上げてみる。
「軽くなってます。成功です。――じゃあ、エリナさん、お願いします」
「判った! 浮かすよ」
エリナがブランケッツ号を少しだけ浮かす。
僕はゴーグルを嵌めて、キャルに声をかけた。
「じゃあ、行きます! キャル、お願い!」
「わかった!」
キャルの力場魔法が前面に展開するのを感じると、僕は駆け出した。
「な、なにっ!」
ブランケッツ号で速く走るコツは、どんどんとスピードに乗ったら、ゴム脚で蹴る距離を伸ばすことだ。一歩で大きく進むことが、速さにつながる。
ブランケッツ号は、どんどんと加速して街道へと飛び出した。
「は、速い!」
「嘘だろ! こんな速さが出るなんて――」
ランスロットの仲間たちの驚愕の声をよそに、僕はエリナさんに言った。
「ナビお願いします、エリナさん」
「任せてくれ、次に見えてくる大きな十字路は左だ」
ほとんど速度を落とさずに曲がりきる。荷台の方に、重心のブレもない。
なにせ重量自体がほとんどないのだ。
「こ、これなら一時間どころか――15分で着くぞ」
「田舎道なので、もっと加速します」
僕はさらに加速した。
遠くの方に煙が見えてくる。
すぐに接近したところで、僕は一旦、足を止めた。
「エリナさん、浮かせられますか?」
「できるぞ、上から見てみよう」
僕は自分もバーに腰かけて、荷車に乗った。
と、ブランケッツ号が宙に浮く。
「う、うそ! あたしたち、飛んでるの?」
「浮いてるだけだけどな」
上空から見下ろすと、山火事の様子がよく判った。
奥の山林地域から炎が街に近づいてきているが、大半は耕作地帯なのでそれほど火事になるとは考えにくい。
問題なのは、その森の一部がおできのように突出している箇所があって、しかもその周囲を住宅地が囲み、そのまま街へとつながってる処だった。
「あの出っ張ってる森の一部を伐採させてもらえば、街には火が入らないはずだ」
「しかし、今から森の伐採なんえ間に合わないぞ」
「それはなんとかなります――あ、あそこに街の人たちが集まってる。あそこに行って、許可をもらいましょう。エリナさん、降ろしてください」
「判った」
ブランケッツ号が地上に降りると、僕は上空で見た街の広場を目指した。
到着すると、街の人たちが集まっている。
色んな人がいた。
互いを支え合うように立つ老夫婦、子供が三人いる五人家族、まだ結婚したばかりのような新婚夫婦。働き盛りの男たち、女たち。色々だ。
色々だが――皆、不安そうな顔をして立っている。
母親の足にしがみつく、小さな女の子が声をあげた。
「ねえ、ママ、おうち燃えちゃうの?」
母親はしゃがんで娘の目線に合わせると、無理に笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫よ、心配しないで」
……この人たちの一人ひとりに、家があり、そしてこの街で暮らしている。
僕がパーティーハウスのリフォームをしたから判る。
家に愛着がある。それは自分たちの『居場所』だ。
この人たちの家を、街を燃やさせたくない。
そう思った時、手前にいた初老の男性が声をかけてきた。
「消火に来てくれた人たちかい? なんとかしてくれ!」
「できる限りのことはします。あの――森の一部を伐採してよろしいでしょうか?そうすると、街への被害が喰いとめられるかもしれません」
話しかけてきた男性が振り返って、声をあげた。
「森の一部を伐採したら、街が助かるってよ! 構わないよな!」
「「頼むから、やってくれ!」」
「「あんた達が、頼りだ」」
僕は頷いた。
「判りました。じゃあ、すぐに向かいます」
僕たちは再び、ブランケッツ号でダッシュした。
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