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5 カリヤへの糾弾


 僕はカリヤに言った。


「……お前に訊きたいことがある」

「な、なんでしょう?」


 僕は問うた。


「浅谷有美さんに…何をした?」


 カリャの顔色が少し変わった。


「答えろ!」

「四人がかりで――レイプしました」


 カリヤがあげた声を聴き、僕は愕然とした。


 ……やっぱり、噂は本当だったんだ。


 僕が学校を休んでる間に浅谷さんは狩谷たちに襲われ、学校を止めたんだ。


 黒髪をポニーテールにして、目鼻だちの整った美人。学級委員長だった。

 唯一、僕が殴られてる時に、狩谷を制止してくれた子だった。


「ガハッ――」


 僕はカリヤを二発殴った。


「ヒ、ヒィィィ、やめてください!」

「浅谷さんが泣いてやめてくれと言っても、お前たちはきかなかったんじゃないのか!」


 僕はそう言って、カリヤを殴った。


「ゲアッ! …最初は嫌がってましたが、途中からおとなしくなりました」

「嘘をつくな!」


 僕は続けて三発殴った。カリヤが呻く。


「嘘をついた上に浅谷さんを冒涜した。お前はもう殺す」

「ウ、ウソです! ウソをつきました! あいつは最初、泣き叫んでましたが、最後には全く無反応になって死んだようになりました。オレたちはつまらなくなって、打ち捨てて帰りました」


 やっぱり……


 あまりの事に、浅谷さんは絶望したんだ。

 もう、何も感じなくなることでしか身を守れない。


 それほどまでに、こいつらに――自分の心を傷つけられたんだ。

 もう、身動きできなくなるほどに……


「くっ……クゥゥゥ――」


 意識せずに、声が洩れた。

 涙があふれ出して、とまらなくなっていた。


 自分の人生に、そんな悲惨な出来事がおこるなんて、想像もしてなかったろう。

 こいつらさえいなければ、浅谷さんの無垢で清らかな人生があったはずだ。


 だがこいつらが、それを汚い手で汚した。


「お前には……人の気持ちを思いやるとか…他人の痛みを想像するとか――そういう気持ちはないのか……? お前には、人の心があるのか?」


 僕は言った。

 カリヤに問うたんじゃない。


 そんなものが最初からないのは判ってる。

 けど、どうしてそんなにひどいことができるのか……僕には理解できない。


 それが言葉になっただけだ。


「ク、クオンさんにあてつけたわけじゃなく、あいつが生意気な事を言うんで、ちょっと思い知らせてやっただけです」


 カリヤが弁解するように言う。

 このバカは、それが弁解になると思ってるのか?


 僕はカリヤを殴った。泣きながら殴った。

 殴ったところで、浅谷さんが受けた傷はもう元には戻らない。


 多分、自分の受けた事を、夜に想い出して恐怖してるだろう。

 夜も寝られない日が続くだろう。


 世界は明るいものから、暗黒に反転する。

 全てがうまくいって、順風満帆だった浅谷さんの人生は、もう取り戻せない。


 そんな風に他人の人生を破壊するまねを、どうして平気な顔でできるんだ?

 許せない。こいつの事が――心底、憎い。


 僕はふと気づいて、カリヤを殴る手を止めた。


「お前……他にも女の子をレイプしたことがあるのか? 浅谷さんだけじゃないだろ?」

「そんなに多くないでしゅ…10人くらいでしゅ」


 こいつ!


 急激な怒りがこみ上げて、僕はカリヤの顔面を滅多打ちにした。


「ヒィィィ……た…たしゅけてください……」


 カリヤの顔が、恐ろしい程に腫れあがり、原型がなくなっていた。

 前歯がなくなった口で、泣きながらカリヤが懇願する。


「お前は死んで当然の人間だ。お前が前世でやった唯一の善行は死んだことだけだ。お前が死んで、安堵した人間が沢山いるはずだ。お前なんか死んだって、誰も泣かない」


 僕はカリヤにそう言った。

 カリヤの腫れあがったまぶたの奥の眼が、素の光に戻った。


「お……おみゃえは…どうなんでゃ……?」


 腫れた唇で、カリヤがそう僕に言った。


 僕は? 僕が死んで、誰か泣いたか?


 クラスの誰とも仲良くなれず、親は期待に応えられなかった僕を――厄介者のよに扱っていた。


 親は一時期だけ泣くかもしれないが、きっと手間がなくなって安堵する気持ちを抑えられないだろう。それを不人情だとは思わない。


 だって、僕が、僕自身を一番厄介に思ってたんだ。


「僕が死んでも……誰も泣かない――」


 僕は呟いた。今、気付いた。


 このカリヤと僕は、合わせ鏡のようだ。嫌だけど、多分、似ているのだ。


 けど、そうなったのは、こいつのせいだ!

 こいつのせいで、僕の人生が狂った。

 ――憎い。胸の底から湧き上がる衝動で、身体が震える。


「今すぐ、殺してやる!」

「ヒィィィッ!」


 カリヤが悲鳴をあげたその時だ。


「――クオン!」


 僕は……声がした方を見た。

 キャルだ。キャルが来ていた。


「キャル……」

「クオンが死んだら……泣くよ。わたしは…クオンが死んだら、泣くよ!」


 キャルがそう声をあげた。


「私だって泣くぞ、クオンくん」


 走ってきたせいか、息を切らしながらエリナが言う。


「キャル……エリナさん…」

「クオンが何をしたって、わたしはクオンのこと信じてる。前の二人の後だって、クオンは変わらずに優しかったから。……だから、いいよ、クオン。けど――」


 キャルは涙をためた眼で微笑んだ。


「何も言わないで、消えたりしないで」


 キャル……


 前の二人を殺したのは、キャルが確実に狙われると思ったからだ。

 けど、今回はどうだ?


 今回は……僕は、憎しみからカリヤを殺そうとしている。

 もし憎しみからカリヤを殺したら――僕の中の何かが決定的に変わるだろう。


 キャルが信じてくれている、僕のままでいられるかどうか判らない。

 僕はカリヤを見た。


「た……たしゅけて…くだしゃ…い……」


 顔が変形して、涙と鼻水を垂らすこの男が――僕と同じ?


 違う! 僕にはキャルと、エリナが…仲間が、大切な人がいる。


「……お前が今まで、僕を殴ったり蹴ったりした分を、今日でチャラにしてやる」


 僕は言った。


「けど、許すんじゃないぞ。一回だけ見逃すだけだ。もし、今後、僕たちに何か仕掛けてきたら――その時は容赦も躊躇もなく、お前を殺す。判ったか!」


 カリヤが、鼻水を垂らしながら、うんうんと頷いた。



    *     *     *     *     *


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