4 能力範囲を探る
僕たちは続けてヒモグラを探し、もう2匹取った。
しかし、土を掘ってるキャルがしんどそうだった。
「大丈夫、キャル?」
「大丈夫よ」
キャルはそう言って笑ったけど、やっぱり土を掘るのはしんどいはずだ。
「そうだ、私が土を掘ろう。その方が、自分で深さのセーブもできるし」
エリナがそう言う。実際、そうやってキャルとエリナの役を交替して、一匹取った。
「なるほど、土を掘るのは大変だな」
エリナが苦笑する。だから最初は僕がやったんだけど、さすがに掘る役とやっつける役は兼任できない。
と、僕の頭にふと思いついた事があった。
「そうだ! 土を柔らかくしてみましょうか?」
「土を? おお、そうだな。そうしてもらえると、大分ラクかもしれない」
「けど、僕の力を地面に使ったらどうなるんでしょう? まさか地面全体が柔らかくなるなんてことは――」
もしそうなったら、みんな沈んでしまう。
……いや、僕の柔らかくする力が、そんなに広範囲に影響できるものなのか?
「一度、やってみたらどうだ?」
「ちょっと、触れてみます」
僕は地面に触れて、柔らかくなるように念じた。
「どうだろう?」
エリナがスコップで、僕の手の傍をつつく。と、その先がヨーグルトにスプーンを差し込むように埋まる。
「あ、柔らかいぞ! 何処まで柔らかいんだろう。いい機会だから、クオンくんの能力範囲を知っておこう」
「お願いします」
エリナさんはスコップを使って、辺りの地面を刺していく。
段々、手から遠くしていって、1mくらい離れた処で、ガリ、と地面が堅くなった。
エリナは手から円を描くように感触を確かめていく。
「うん、どうやら半径1mほどだな」
「なるほど、その範囲が僕の属性変化の影響範囲なんですね」
と、キャルが少し考えている。
「どうしたの、キャル?」
「あの…前にクオンは男二人を運んだじゃない? あの人たちは、1mは越えてるから、どうなんだろうって」
するとエリナが、考えをまとめるように口を開いた。
「そうか。個体としてまとまった物は、その塊のまま影響できるけど、地面とか壁みたいに延長のあるものは、その影響範囲が半径1mくらいって事か。クオンくんの能力は面白いな」
「面白いですか」
僕は苦笑した。
「けど、こうやって地面を柔らかくしてれば、掘るのも少しラクになりませんか?」
「うん、なるな」
エリナが地面にスコップを入れて、土を持ち上げる。 と、声をあげた。
「あ、スコップが地面から離れた途端に、重くなった。離れると、クオンくんの影響力がなくなるからか。じゃあ、少しずつ掘っていくか」
僕らはヒモグラ探しを再開した。エリナは柔らかくなた地面を、ちょこちょこと掘っていく。
「うん、だいぶラクだぞ。――そして、ここで一旦止める」
エリナが手を止めた。次の掘りで、ヒモグラが飛び出してくる。
僕には、少し思いついたことがあった。
それはヒモグラの火を噴くタイミングだ。
ヒモグラは空中に飛び出して、一番高い地点まで来ると火を噴く。
その火を噴く瞬間、空中で静止するからそこを叩いていた。
けど、火を噴く前に叩ければ、エリナとキャルに危険性がなくなるはずだ。
「じゃあ、行くよ」
エリナの声で、スコップが入る。ヒモグラが飛び出してきた。
ヒュン、と僕は鉄棒を振る。
火を噴く前に、ヒモグラが地面に叩きつけられた。それを柄でトドメを刺す。
「え? 今、クオンくん、火を噴く前にやっつけたのか?」
「いや、この方が二人の危険がなくなるから……」
「凄いわ、クオン!」
キャルが眼をキラキラさせて褒めてくれた。凄く嬉しい。
「いや、我々はパーティーとして進化してるな。素晴らしい!」
エリナがそう胸を張った。うん。僕もそう思った。
キャルもエリナも、僕も笑顔だった。
と、その時、遠くから声がした。
「みなさーん、もう暗くなりますよ。そのくらいで切り上げなさいな」
カミラさんの声だ。
ふと気づくと、確かに辺りが薄暗くなっている。
「まだ四匹だけど――続きは明日にしようか」
「そうですね」
僕たちはカミラさんの元に行くと、エリナが口を開いた。
「カミラさん、色々ありがとうございました。また明日来て、続きを頑張ります」
「そうね。それじゃあ、うちでご飯にしましょう」
え?
「え? 夕飯を――いただけるんですか?」
「ええ、どうぞ。皆さんが嫌でなければね。それに、今日はうちに泊まっていらっしゃいな」
「えぇっ!?」
僕たちは一斉に驚きの声をあげた。
エリナが恐る恐る訊く。
「い、いいんですか? 私たち、今日会ったばかりの冒険者ですけど……」
カミラさんが、にっこりと微笑する。
「もちろん、わたしだって会ったばかりの冒険者を簡単に家に入れる程、迂闊じゃありませんよ。けど――あなたたちは信用できるでしょ?」
カミラさんの笑顔を見て、僕らはお互いに顔を見合わせる。
そしてカミラさんに向かって、一斉に頭を下げた。
「「「よろしくお願いします!」」」
* * *
カミラさんのお宅に招かれた僕らは、そのテーブルの上に並んだ料理に息を飲んだ。
湯気をたてるシチューに、炒め野菜と鶏肉のソテー。光沢を放つサラダに、焼き目のついたパン。どれもこれもが素朴ながらも一級品だ。
「うわぁ……」
「凄く美味しそうな匂いです…」
言葉を失った僕に、恍惚の表情のキャル。エリナはカミラさんに言った。
「本当に……素晴らしい料理です!」
「ふふ、ありがとう。それじゃあ、みんなでいただきましょう」
「「「いただきます!」」」
僕らが一斉に声をあげると、カミラさんがポカンとした顔をしている。
「あの……その『いただきます』って?」
カミラさんの声を聴いて、僕らは思わず笑い声をあげた。
人間らしい食事、というのを久しぶりに味わった。
この想いは、エリナもキャルも同じだったらしく、もう食事中は感動で泣きそうだった。僕らはとてつもなく満足して、カミラさんにお礼を述べ、後片付けをした。
その間にカミラさんが寝床を用意してくれたらしく、片づけが終わった僕らに声をかけた。
「悪いんだけど、空き部屋は二つだから、キャルさんとエリナさんは同じ部屋で休んでね。クオンさんは、個室で」
「何から何まで、ありがとうございます!」
エリナが頭を下げたので、キャルと僕も慌てて礼をした。
「それじゃあ、ゆっくり休んでね」
カミラさんがそう言って去った後に、エリナが僕に悪戯っぽい顔をして言った。
「クオンくんは、今日は一人寝で寂しいかな~」
「何言ってるんですか、エリナさん!」
僕がそう言うと、エリナは微笑んだ。
「今日はあったかく寝れそうだね、それじゃお休みなさい」
「おやすみなさい、クオン」
そう言ったキャルの可憐さに……僕は一瞬見惚れた。
* * * * *
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