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第三話 共同生活の開始!   1 三人で寝る


 僕はそう言うと鉄串をもらい、ハムを手にした。異能を使って、ハムを極端に柔らかくする。すると、鉄串で抑えるだけで、ハムが簡単に切れた。


「おお! 凄いぞ、クオンくん! ハムがまるでチーズのようだ」

「はい。僕もそれをイメージして、そうなるように意識したんです」


 僕たちはハムを鉄串に刺して、暖炉の火で炙った。

 いい匂いがしてくる。


「ん~、たまらん! いただこう!」

「はい。いただきます」

「いただきます!」


 僕らは火で炙られたハムにかぶりついた。

 熱い肉汁が口の中にほとばしる。

 僕は思わず声を上げた。


「美味い!」

「うん。美味いな! 最高だ!」

「……ほんと、美味しいです」


 エリナは空いてる手でパンを取り、火にちょっとかざして口にした。


「う~ん、おかずがあると、パンも美味い!」


 エリナはご機嫌な顔で、そう声をあげた。

 僕もパンを口にした後、ミントティーを飲んでみた。


「美味しい。このミントティーも美味しいよ、キャル――」


 僕はそうキャルに声をかけようとして、言葉を失った。

 キャルが泣いている。


「ど、どうしたの、キャル?」


 キャルは鉄串に刺したハムを持ったまま、一方の手で顔を覆った。


「……美味しいです…」


 キャルはそう言うと、手で眼を拭った。キャルは泣きながら微笑んだ。


「もう…わたし、こんな温かくて美味しい食事は、食べられないと思ってました……。けど、クオンとエリナさんと、こうやって食べられた…。今まで食べた食事のなかで――一番美味しいです」


 キャルはそう言って笑った。

 僕の眼から、意識する前に涙が一筋こぼれた。


 この子は……キャルは――

 今までどれだけ辛い目にあってきたんだろう?

 その辛さを、今から埋め合わせできるだろうか。

 僕がその、助けになれるだろうか?


 判らない。いや、僕なんかじゃ無理かもしれない。

 けど、キャルの力になりたい。


「僕……キャルのために、頑張るよ」


 僕は思わず口にした。

 キャルがきょとん、としている。


「急にそんな事言うから、キャルちゃんがビックリしてるぞ、クオンくん」

「あ…ごめん」

「ううん……」


 キャルは首を小さく振った。


「ありがとう、クオン」


 キャルのその微笑みに、僕は決意を新たにした。


 食事を終えると、僕は急速に疲れが出てきたのか眠くなってきた。

 それはキャルも一緒だったらしく、もう眠たそうな顔をしている。


 エリナが僕らを見て言った。


「じゃあ、もう寝ようか。ただ問題があってだな――毛布が一枚しかないんだ」


 エリナはそう言って、指を一本立てた。そして――


 ……こ、この状況は?


「え、エリナさん、これは一体?」


 寝ている状態の僕は、エリナに訊いた。

エリナは――僕のすぐ傍にいる。

というか、完全に身体が密着している。


「だから、毛布が一枚しかないんだ。くっついて寝てないと、夜中に冷えるだろう。暖炉の火は多分、夜中に消えてしまう」

「け、けどこんなにくっつくと――」


 エリナさんの身体の柔らかい感触が、僕の左腕周りに感じられる。

 この弾力のある二つの丸い感じは――」


「ほら、キャルちゃんも毛布に入って」


 エリナが僕ごしに僕の右側の毛布を開ける。


「え……でも…」

「私とクオンくんは、こうやってくっついて寝るんだぞ」


 眼鏡を外したエリナが、いたずらっぽくそう言った。

 キャルは少し顔を赤らめると、毛布を開けて僕の傍に寄って来た。


 そっと、キャルの腕が僕の身体を包む。

 それからキャルの身体が、僕の身体にピッタリと寄せられた。


 僕の顔のすぐ傍に、二人の顔がある。

 左にエリナ。

 右にキャル。


 僕は左右のどっちも向けなくて、ただひたすら天井を見ていた。


「ね……クオン」


 不意に、囁くようなキャルの声がして、僕はそっと右を向いた。


「大丈夫? 苦しくない?」

「うん、大丈夫だよ。キャルは寒くない?」

「うん。…クオンがあったかい」


 キャルはそう言うと、僕の肩に頬を寄せて眼を伏せた。

 キャルの白くて長い睫毛が見える。


「フフフ……」


 今度は左から、小さな笑い声があがった。エリナの声だ。

 僕は左を向く。

 

 眼鏡を外したエリナの顔はとても整っていて、綺麗に見えた。


「ほんと、クオンくんがあったかいな、と思って」

「そ、そうなんですか?」

「……この二週間、此処で独りで寝てる時は、寒くて凍えそうだった。けど今日は火もあるし、みんなで寝るとあったかいな。それが少し嬉しくてね」


 エリナはそう言うと、僕の腕をギュッと抱きしめた。

 僕の腕に、エリナの豊かな感触が伝わる。


「今日はよく眠れそうだ。おやすみ、クオンくん、キャルちゃん」

「おやすみなさい」


 キャルはそう言うと、すぐに寝息を立て始めた。

 けど僕はこんな状況で――興奮して眠れるか!


 ――と、思ったけど、ビックリするほどあっさりと、僕は眠りについた。よほど疲れていたらしい。


 朝、起きると、僕は眼の前にキャルの寝顔があって驚いた。


「キャ――」


 声を出しかけたが、起こさないように声を殺す。


 壊れてる壁から朝陽が差し込んでいる。

 うっすらと朝陽に照らされたキャルの寝顔は、天使というものがいるなら、こんな感じじゃないかと思うほど可憐なものだった。


 純白の髪に、やっぱり頭の上の方についている猫耳。形のいい細い眉の下で、白い睫毛は整然と並んでいる。真っすぐに通った鼻筋。そしてその下にある、ピンク色の可愛い、艶めいた唇。


 僕はその可憐な寝顔を、間近でぼうっと眺めた。


「う…ん……」


キャルが少し寝言を言って、僕は驚いた。

が、眼を覚ます様子はない。


 その寝顔を見ていて、僕はふと思った。


 一度死んだ僕だけど、もし生きていく意味があるんなら……それはキャルを助けるためにあるんじゃないだろうか。


 そんなの……僕の勝手な思い込みだし、キャルも迷惑かもしれない。けど。

 

 僕は決めた。

 今日の朝陽に誓う。僕はキャルを――必ず守り抜く。

 そのためだったら、僕は人も殺すし、どんな努力もする。


 …いや、なるべく人殺しとかはしたくないけど。

 けど、それが必要な時は迷わない。

 覚悟を決めて、戦うよ。それに、キャルがもっと美味しいものを食べたり、綺麗な服を着たり――もっと沢山笑えるように、頑張るよ。


 僕はキャルの寝顔に、そう誓った。



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