謎の男
それからというものの・・・最強であるこいつ、ラズは俺に構い続けた。まぁ、仕方ないことではある。理由を簡潔にまとめよう。この最強の女、ラズは、優遇された生活を送ってきた。そして、その生活に慣れてしまったせいで、こいつは、調子に乗りすぎて周りから人がいなくなった・・・。という話である。そんなラズは、今日も俺に構いに来たらしい。
「お前はさ・・・なにかしたいこととかないの?」
「したいことって?」
「ほら、今は牢獄に閉じ込められているわけだしさ・・・趣味とかもできないわけじゃん。お前は、趣味とか無いの?」
「これと言って、昔から無趣味だった。強いて言えば、本を読むことだったが、もう興味のある本は全て読み尽くした。・・・それに、散歩も一応暇潰しにはなるが・・・・・・牢屋を出て散歩させろ。何て言えねぇだろ?」
「そうだな」
「だから、今の俺にはなにも趣味はない」
「趣味がない生活って・・・・・・面白くないの?」
「まぁ、そうだな。やることがないから暇ではある」
「夢とかはないの?」
「夢は・・・・・・」
これは、言って良いものだろうか。あくまで、俺が進治郎に夢を打ち明けることができたのは、進治郎と同じ夢を持っていたから。・・・・・・しかし、この夢は人によって意見が違う。俺は、こんな世界が嫌いだから、異能力で全てが決まる世界を変えたい。と思っているが、中にはこの異能力を良く思っている者もいるだろう。もしこいつが、異能力を好んでいるのなら、少なくとも関係性が変わることは間違いはない。それを踏まえた上で・・・・・・ラズにはこの夢を打ち明けるべきなのだろうか。
「どうしたんだよ。急に黙り込んで」
「い、いや・・・」
「別に、言いにくいなら・・・・・・言わなくたっていいが」
「じ、じゃあ、俺は黙秘する」
さすがに、彼女のことをなにも知らない状態では、流石に彼女に打ち明けることができなかった。それからも、俺は彼女と会話をするのだった。
俺の牢獄生活は、無期限だった。まだラズが話してくれるお陰で、暇を解消できているが、流石に一日一食の生活は限界に近かった。しかし、そんなある日のこと、この生活に転機が訪れる。いつものように、ラズが訪れる。
「今日も、拷問をしに来たぞ」
「と言いながら、話にきたんだろ」
「・・・・・・そうだよ。悪いか?」
「いや、別に。悪いなんて言ってないだろ」
拷問を受けながら、ラズと会話をする。そんな、なんの変哲もない日常だったのだが・・・・・・。
「それでさー・・・」
「・・・・・・え?」
突然、ラズが気を失う。
「ラズ?・・・・・・ラズ!!」
呼びかけても、反応がない。呼吸はあるので、恐らく死んではないが、突然の出来事に俺は困惑を隠せない。・・・・・・少し考えて、一つ仮説が浮かんだ。恐らく、異能力者の仕業だ。・・・・・・しかし、組織の仲間がこんな突然の行動をするわけがない。内通者などならまだわかるが・・・・・・しかしここは簡単には見つからない奥深くにあると聞いた。だったら・・・・・・何故?と、俺はまた考え込んでいると、やがて一人の姿が見えた。この組織の生き残りだろうか?と思ったが・・・・・・その人物は、段々と此方へ歩み寄ってくる。やがて近くなってくると同時に、その人が仮面を付けているのがわかった。その一瞬で察する。こいつが・・・・・・この組織の全員を眠らせた。と。つまり・・・・・・相当な強者ということが予想できる。
「おい。少年」
「はい」
なんだろうか。もしかしたら、俺も殺されてしまったりするのだろうか・・・・・・?と、そう思っていた。が、しかし、その仮面を着けた男は驚きの言葉を発する。
「出ろ」
「え?」
「いいから出ろ。こいつらが起きる前に・・・・・・早く出ろ」
「え、いやでも・・・」
「なんだ?俺の言うことが聞けないってか?」
「い、いえ!!出ます!!」
その圧倒的な威圧感に、思わず怖じ気着いてしまうのであった。言われるがままに牢屋を飛び出し、俺はその男と一緒に走り出す。
「なぁ。どういう風の吹き回しだ?」
「そんなことはどうでもいい。今はとにかく走り続けろ」
内心ではすごく気になっているのだが、まぁ面倒なことを言われる前に、指示にしたがっておくとしよう。
それからとにかく遠くへ走り続け、俺たちは追手が追い付いてこれないくらいのところまで逃げてきた。「それで、どういう風の吹き回しだ?」
「・・・・・・それは、教えられない」
「どうして、あの場所を・・・・・・?」
「それを知って、どうなる?」
「いや・・・」
返す言葉がなかった。確かに、知ったところで何か出きるわけではない。だったら、知る必要もないか。「とにかく、お前は必ずここにいろ。俺がまた戻ってくるまで絶対にこの場を離れるな」
「わかった。・・・・・・が、何故離れたらいけないんだ?」
「簡単な話だ。・・・・・・もしあの組織にまた見つかったら、今度こそお前は殺される。だから、ここにいろ。安心しろ。飯は置いてある」
そうして、その男が指差した方向を見てみると、たしかに数日は持つ量の食材が置かれてあった。
「とにかく、絶対にこの場を離れるな。おれは、もう行かなければいけない。それじゃあ。約束だけは、絶対守れよ」
そう言って、その仮面男は去っていってしまった。結局、何者だったのかはわからない。が、あの男が言うとおり、絶対に動いてはいけない気がする。本能が、そう察していた。・・・・・・だから、暫くの間、俺はここにいよう。と、そう誓うのであった。
4/9 18:33現在
遅れてすみません!!歯医者行ってました。明日も、少し夜に予定があるので遅れる可能性があります。