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『無能』と言われてきた俺が”隻眼”になってしまった。  作者: 柴田優生


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33/57

なんで?

「こんどこそ、負けててよ?」

そうして、彼が起き上がらないことを祈る。しかし、

「いってぇ・・・」

平然と、起き上がってしまった。やっぱり、そう簡単には行かないか。そう思った瞬間。

「降参だ」

「え?」

そんな、素っ頓狂な反応を洩らしてしまう。そりゃそうだ。彼は、何て言った?

「こ、降参!?どうして、あなたは立ち上がったんだよ!?なのに、どうして」

「戦っても、勝機がないと見た。お前、アレを効果も知らずに放ったのか?」

「いや、知っている。だから、放ったのよ」

「だったら、もう答えは出ているじゃないか。だから、再度宣言する。降参だ」

意味が、わからなかった。たしかに、私はあれを発動させた。でも、効果が出る前に私を倒せばよかったのに!!

「え、えーっと。無叶大和の降参宣言により、優勝者が決定しました。優勝、夢!!」

その事実が、確定する。大和の顔を覗き込むと、少し残念そうにしていた。

「ば、ばっかじゃないの!?そんな顔するなら、降参しなければよかったじゃない!!」

「どちみち、勝つ道はなかっった。それに、この顔は負けた悔しみの顔じゃない。いや、勿論それもあるが、それよりも、圧倒的な実力差だったという、称賛の顔だ」

「ほんとうに、意味がわからない」

しかし、勝ったのは事実。本当は嬉しいはずなのに、なんか、全然嬉しくない、そんな、後味が残るようなトーナメントだった。

あのまま、戦っても意味がない。勝算は、無かった。おそらく夢は、最後まで戦えばよかったのに。とでも思ったんだろう。しかし、俺には無理だった。本当は、手を抜いてはいけない戦いだった。無論、最初から本気で行くつもりだった。しかし、相手の名前が俺の友達だと知った瞬間、俺は絶対に勝てないことを確信した。

「俺の甘さが、出ちまったか」

一番の敗因は、それだった。俺が甘くなかったら、あの一撃で終わらすことができたのだが、まぁ、そんなたらればの話を語っても仕方がない。次の試験までは、少し時間があるから、寮に戻って休むとしよう。

 寮のフロントで、お茶と嗜んでいると。

「ねぇ」

「ん?どうした?」

そこには、見知った顔、見知った声の、夢が立っていた。彼女から声をかけられるなんて、珍しいな。もしかして、決勝のことか?流石に、隠すことはできなかったか。こいつ、勘がいいからなぁ。おそらく夢は、俺が手を抜いたことに対して咎めようとしているのだろう。

「自分自身でも、分かっているんでしょう?」

「なにがだよ。どうした突然」

「とぼけないで。ねぇ、貴方はどうして、決勝戦で手を抜いたの?」

「・・・やはり、そうか」

さて、どう返そうか。嘘を付くのも悪くないが、結局は、バレて更にヒートアップするのが結末だろう。だったら、本当のことを言うしかないか?どちらにせよ、気を悪くするのは変わらない。だったら、本当のことを言うしかないか。

「俺の、無叶大和という人間の甘さが出てしまったんだよ」

「は、はぁ?」

「俺だって、最初は本気で戦うつもりだった。もっと、学園のトップに立つために。しかし、対戦相手が夢だと知った瞬間、瞬時に俺は勝つ自信がなくなったんだよ」

「それはどうして?」

「それは、お前が、友達だからだよ」

「・・・え?どういうこと?」

「お前も、誰もが知っている通り、俺は無能と唱われた男だ。故に、元々友達は少なかった。それに、昔、目の前で好きな人が殺されたことがあったんだ」

「っ・・・」

「泣き叫んだ。声が枯れるくらいに、朝から晩まで、泣き叫んだ。そんな過去があったから、俺は二度と大切な人を失わないと誓った」

「そんな悲惨な過去があったのね。嫌なことを思い出させちゃってごめんなさい。けど、今回の試験のルールでは殺しは行わないはずよ。貴方が、自分の手で私を殺すことは絶対無いのに、じゃあ、なんで手を緩めたの?」

「それが、甘さだよ。たしかに、殺すことはない。夢は、俺にとって大切な友達だから。・・・だから、お前を傷つけることができなかったんだ。いくら真剣な戦いとはいえ、それよりも傷つけたくないが勝ってしまったんだ。だから、初戦からお前と戦わないことを祈ってた。最初から、確信していたんだ。お前と戦うと、必ず手を抜いてしまうから。それが、決勝なのに手を抜いた理由だ」

「なにそれ、そんなの、納得できない」

「それは、すまない」

「でも、もう。過ぎてしまったことは仕方ないわ。私からは一つ、貴方、世界を変えたいって言っていたわよね?」

「あぁ。言ったな」

「そんな、私にですら遠慮をしてしまうような、生半可な覚悟じゃ、世界は変えれないよ。それだけ」

そう言って、夢は去っていってしまった。

「生半可な覚悟、か」

夢の言う通りだ。口では変えたいって言ってるけど、そうだよな。こんな夢だからって、手を抜いちゃうようじゃ、世界は変えれないよな。

「教えてくれてありがとう」

はやり、あいつは、俺にとって最高の友達だ。あいつは冷静であるが故、それからいろんなことが学べる。

「ここでも、負けてしまうか」

人間性でも、実力でも劣っていると、そう実感した瞬間だった。

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