♯4 大人(側)の悩み
今回は自由曲に悩まされる話です。
『呪文と踊り』を知らない人は面白さ8割減ですのでご理解お願いします。
美也虎:「どうするかな〜。」
職員室で自分の机の背後から聞き慣れた声が聞こえる。
今日だけで「どうするかな〜。」を何回聞いただろうか。
自分の仕事の切りが着いたから聞いてみよう。
美也虎:「どうするかな〜。」
悠:「さっきからどうしたんですか?」
美也虎:「おぉ、飛鳥先生、良いところに来てくれたね。」
悠:「さっきから『どうするかな〜。』何回も聞いてたら嫌でも気になりますよ。」
美也虎:「えっ、聞こえてたの?」
悠:「今、先生の座ってる真後ろが俺の机なんですよ。耳に入ります。」
美也虎:「へぇ〜そうだったんだ〜。」
この人、絶対知ってたくせに。
悠:「そろそも、何で長机を使ってるんですか?自分の机で作業すれば良いのに。」
美也虎:「散らかってるからに決まってるじゃないか。」
確かに散らかっている。
いつも綺麗に棚にしまってある参考書や科学の資料集、音楽CDまでもが机を陣取っていた。
故意に散らかしたかのように。
悠:「まさかとは思いますが、ずっと助け舟を待っていたのではないですよね?」
美也虎:「はっはっは、どうしたんだい飛鳥先生。今日は飲みに行こうってか?」
悠:「人の話を聞いて下さい。あと、先生は妊娠中だから飲めないでしょう。」
美也虎:「じゃあ、いつものところで待ってるからな。」
悠:「えっ?ちょっと、美也虎先生!」
行ってしまった。
いつものところというと喫茶JEULかな。
学校では相談しにくい内容なんだろうな。
・・・・・・・・。
店員:「いらっしゃいませ。1名様ですか?」
悠:「いえ、待ち合わせをしている者と同じ席をお願いします。」
店員:「あちらで宜しいですか?」
店員が示した先には美也虎先生が座って紅茶を飲んでいた。
悠:「はい、お願いします。」
店員:「どうぞ、こちらへ。」
そう言って、先生が座っているテーブルへ案内された。
今日は龍一先生は一緒ではない。
悠:「それで、今日はどうしたんですか?」
美也虎:「・・・。」
悠:「美也虎先生?」
美也虎:「おぉ、すまない。」
カップに残っていた紅茶を全部飲み込んでやっと返事が返ってきた。
美也虎:「それで、何だっけ?」
悠:「それは俺の台詞です。今日は何なんですか?」
美也虎:「それだったな。実は自由曲の事で悩んでることがあるんだ。」
悠:「珍しいですね。」
美也虎:「実は打楽器が足りないんだ。」
これを聞いただけで何なのかがわかった。
J.Bチャンス作曲の[呪文と踊り]は、打楽器が最低でも6人は必要だけど、現在の白銀高校は5人しか居ない。
コンクールの大編成は50人までという制限がある。
そして現在の白銀高校は、2、3年合わせて50人。
1年の中から人を足すと50人を越えるから増やすことはできない。
悠:「俺も考えていたんですよ。管楽器で休んでいる人が打楽器の足りないパートを補うか、打楽器が足りない所は演奏をカットするかの2つかなと思います。」
美也虎:「やっぱあんたもそう思うか。」
悠:「どうします?」
美也虎:「旦那も来るから旦那にも相談してみよう。」
悠:「それもそうですね。」
美也虎:「今の内に何かオーダー入れてもらうか?」
悠:「オーダーよりも俺は店長と話をしてきます。」
席を外そうとしたとき一人の男がテーブルに向かってきた。
顔を見たら一目でわかった。
喫茶JEULの店長だった。
店長:「飛鳥君、久しぶりだね。」
悠:「店長、お久しぶりです。」
店長:「今日は彼女と一緒・・・、ではないようですね。」
悠:「えぇ。こちらの方は僕の高校時代の顧問の先生です。」
店長:「ほぉ〜。二股とはやりますな。しかも、妊娠中のようですね。」
悠:「冗談でもそれはやめてください。先生とは今は同じ学校の教員という関係なだけです。」
店長:「ということは、教員になれたのですね。」
悠:「はい、この春からは白銀高校の教員です。」
店長:「そうですか。お客様を待たせているのでこれで失礼します。」
そう言って厨房の奥へ行った。
美也虎:「この子は私と旦那の子だからな。」
悠:「あんたは真に受けるな!」
美也虎:「だってあの店長が〜。それに私は今まで龍一さん以外の人とし」
悠:「ストップ!わかった。わかったからそれ以上言わなくて良い。ここは公共の場ですよ。ほら、噂をしていたら旦那様が来ましたよ。」
美也虎:「龍一さ〜ん。」
龍一:「なんだなんだ?悠君、僕の妻を泣かせた罪は重いぞ。」
悠:「ひとまず席に座って下さい。事情を話しますから。」
・・・・・・・・
龍一:「美也虎、その子は僕の子じゃないのか?」
美也虎:「違う、この子は正真正銘、私と龍一さんの子よ。」
龍一:「じゃあ、君は本当に悠君とや」
悠:「すみません。俺もう帰って良いですか?これじゃあ、俺が悪者みたいじゃないですか。」
龍一:「いや、何もないなら良いんだ。本題に移ろう。」
美也虎:「自由曲で打楽器が足りないの。どうすれば良いかな?」
悠:「白銀高校からコンクールに出場する人数は50人。人数を増やすことはできない。」
龍一:「えっ?」
美也虎:「だから、打楽器がたくさん居るところをカットするか、管楽器で休んでいる人に足りない打楽器をしてもらうかなんだけど。」
龍一:「二人ともちょっと待って。」
悠&美也虎:「えっ?」
龍一:「二人とも知らないようだから教えるけど、今年から高校大編成の部の制限人数が55人になったんだよ。」
悠&美也虎:「ええっ!?じゃあ、1年生から足そう。」
この話を読んでこの物語の時代がわかった方が多々居ると思います。
2009年です。
理由はシークレットということにしておきます。
今回と♯3の話で出てきた『呪文と踊り』は私が中学2年の時にコンクールで演奏した自由曲です。
私にとって初めてのコンクールでの演奏でした。
あの時の緊張感は忘れもしません。
今年もまたコンクールの季節がやってきました。
おそらく私にとって今年が最後のコンクールになると思います。
悔いの残らないようにしたいです。
コンクールに出場する人たち
頑張って下さい。
以上
後書き&余談でした。