♯2 対面
投稿一日後に訂正して御免なさい。
訂正前を見れてラッキーだったなとでも思ってください。
今回は少し話が長いですので御了承ください。
この作品はフィクションです。
部員:「お疲れ様でした。」
悠:「はい、お疲れ様。」
音楽室に残っていた生徒が職員室に鍵を返しに来た。
美也虎:「飛鳥先生、今夜は空いてますか?」
悠:「空いてますよ。飲みに行きますか?」
美也虎:「私は妊娠中だぞ。飲めるか。」
悠:「ですね。なら、合コンですか?」
美也虎:「人妻を合コンに誘うな!」
悠:「冗談ですよ。なら、何なんですか?」
美也虎:「お前に会わせたい人が居るんだ。話もしたいしな。」
悠:「まだ俺はお見合いをする歳じゃないですよ!」
美也虎:「お前いい加減にしろ!私はお前の保護者じゃないぞ。なんで見合いさせにゃならんのだ。相手はただの音楽人だ。」
悠:「音楽人ですか。誰なんです?」
美也虎:「それは会ってからのお楽しみ。名前は耳にしたことがあるはずだから言ったら面白くないからな。」
悠:「わかりました。どこで待ち合わせですか?」
美也虎:「喫茶JEULだ、懐かしいだろ。先に行ってから来るんだぞ。」
喫茶JEUL。
高校時代の行きつけの喫茶店だ。
部活帰りによくみんなで行ったもんだったな。
そこで店長と知り合って、行きつけになり、いろいろおまけもしてくれたっけ。
白銀高校吹奏楽部やシロガネ・ウィンドオーケストラの定期演奏会のチケットの提供もしてくれたな。
店長、元気にしてるかな。
店員:「いらっしゃいませ。1名様ですか?」
悠:「いえ、待ち合わせをしている者とと同じ席をお願いします。」
店員:「あちらで宜しいですか?」
先生と先生が会わせたい人(?)の方を指した。
悠:「はい、お願いします。」
店員:「どうぞ、こちらへ。」
場所はわかるけど案内をしてもらった。
店員:「御注文をお決まりになりましたらお呼び下さい。」
そう言って店員は去っていった。
相変わらず人手が少ないから忙しいみたいだ。
美也虎:「来たな。紹介します。彼が白銀高校教諭で吹奏楽部副顧問をしている、飛鳥 悠。」
悠:「どうもはじめまして。」
咄嗟に起立し礼をした。
何処の誰か知らないけど、おそらくすごい人なんだろうと思ったからだ。
音楽人:「起立しなくて良いよ。座ってくれ。」
美也虎:「彼が会わせたいって言ってた人。県内でバンド講師をしている、林谷 龍一。」
悠:「林谷 龍一ってあの講師の人ですか?」
県内では名前の知られる人だから対面できることが驚きである。
確か、俺が白銀高校に入学する前までは白銀高校吹奏楽部のバンド講師として来ていた人だ。
しかも林谷ってことはまさかこの人が。
美也虎:「そして、私の旦那様です。」
やっぱりな。
龍一:「君の事は美也虎から聞いてるよ。大変だろう?」
悠:「えぇ、まぁそうですね。」
龍一:「美也虎の元カレだなんてな。」
美也虎:「うわ〜、この虫を追い払って〜。」
悠:「そんな訳ないでしょ。ただの高校教員です。というか、林谷先生の教え子です。」
龍一:「ごめん、間違えた。ストーカーだったね。だから高校教員になっこいつの後をつけてるんでしょ。」
美也虎:「いや〜、この雄豚を殺っちゃえ〜。」
悠:「話題の前に、今まで俺について何の話を二人でしてきたのかを聞かせてもらいたいですね〜。」
龍一:「はは〜、冗談だよ。ちょっとしたジャレ合いじゃないか。」
初対面でここまでのジャレ合いなんて聞いたことないぞ。
馬鹿にしているようにしか思えない。
龍一:「君のことは美也虎から聞いてるよ。」
それはさっき聞いた。
今度こそまともな話なのか。
惚気話だったら俺はもう即座に帰ろう。
帰る前に店長に挨拶はしていくけど。
龍一:「白銀出身で今は白銀の教師をしているんだってね。」
悠:「はい、今年から社会人なんでまだ右も左もわかりませんけど。」
龍一:「最初はそんなものだよ。忠告だけど、教師が不安だとか緊張だとか、そういうのは面に出してはいけないよ。それを見た生徒は無意味に不安がるからな。それが演奏の本番だったら尚の事だから気をつけな。」
悠:「はぁ〜、気をつけます。」
龍一:「それは良いとして、本題なんだけど、自分の出身校で出身校の吹奏楽の顧問をしていて君はどう思う?」
難しい質問だな。
どうと言われても何を答えれば良いのかわからない。
龍一:「話を耳にしたことがあると思うけど、俺は白銀高校出身で昔は白銀高校吹奏楽部のバンド講師をしていたんだ。」
聞いたことがあるな。
確か俺の学年と入れ替わりだったっけ。
悠:「林谷先生の前の顧問はプロの講師が嫌いで、依頼をしなかったみたいなことを聞いてるんですけど、本当なんですか?」
龍一:「嫌いというか、雇うためにお金が必要だから顧問は断っただけなんだよ。二つ前の顧問は自分の懐からお金を出していたみたいだけど。」
大人の都合って奴か。
当時、俺は居ない頃だったからどうでも良い事だけどな。
龍一:「それで、君はどう思ってる?」
悠:「こういう事があっても良いと思いますが、初めは凄く複雑な気分でした。今は少しずつ慣れてきて違和感や優越感もなくなったと思います。」
龍一:「やはり、俺と一緒だな。立場がなんとなく俺と似ていてどう思っているのか疑問だったから聞きたくて呼んだんだ。申し分ないない。」
悠:「いえいえ、そんな事ないです。」
龍一:「そうか。嫁と同じ職場に居るからいろいろ迷惑をかけるかも知れないが、今後とも宜しく。」
悠:「はい、こちらこそ宜しくお願いします。」
男二人が握手をしている。
強く握ってきてるからこっちも強く握り返した。
端から見たら何かの同盟を結んでいるみたいな光景だな。
美也虎:「人を子ども扱いしないでもらえますか。」
龍一:「別に子ども扱いはしてないよな。」
悠:「そうですよ。気にしないで下さい。」
店員:「お待たせしました。ホットコーヒー三つになります。」
悠:「あれ、頼んでませんけど。」
美也虎:「悠が来る少し前に頼んどいたんだ。」
悠:「そうだったんですか。そういえば、店員さん、店長を呼んで貰えますか?」
店員:「申し訳ありません。今日は一日外出していまして留守です。」
悠:「そうですか。」
大した用事じゃないから良いか。
またここにも来るだろうしな。
龍一:「もう一つ聞きたいことがあるんだけど、君にとっての吹奏楽や音楽とは何なんだい。」
店員が去った後に話題が再開された。
悠:「俺にとっての音楽ですか?」
龍一:「できれば、今の悠君の立場での音楽とは何かを教えてもらいたいな。」
悠:「答えの前に聞きたいんですけど、先生は俺の事を、どこまで事を知っているのですか?」
誤報だと嫌だから念のため聞いておかないと。
悠:「俺が指揮をしている理由。俺が高3の時に演奏者ではなく指揮者をしていた理由。先生はこの二つの訳を聞いてますか?」
龍一:「美也虎から聞いたから間違いではないと思うけど、一応言おうか?」
悠:「なら結構です。」
龍一:「そうか。気に障ったなら謝るよ。」
悠:「いえ、大丈夫です。」
美也虎:「悠、旦那にあんたの事はちゃんと教えてあるから安心しな。そうでなきゃ会わせたりしないよ。」
悠:「そうですよね、ごめんなさい。大学の頃にガセネタが楽団内で噂になってて、悪い見方しかされなかったときがあったんですよ。それが今でも怖いんです。」
怖いと言うかトラウマだな。
楽器ができないくせに一丁前に指揮なんてするなよみたいな感じだった。
幸い、楽団の半数以上が白銀高校吹奏楽部出身で事情を知っている人たちが多かったから噂は長く続かなかった。
とはいえ、視線は冷たいし、練習以外ですれ違ったら舌打ちはされるし、その他諸々。
精神的に辛かった。
龍一:「俺は楽器を吹けないんだ。」
そんな言葉が耳に入ってきた。
龍一:「大学を卒業してから半年後ぐらいに事故に遭ってね。それが原因で肺の活動が狂って激しい運動は医者から禁止されてるんだ。講師とプロ活動を並行してたけど、事故に遭ってからは講師一直線になったって事だ。」
今日会ったばかりの人間がこんな重要な事を聞いても良いことなのだろうか。
この人はそれほど俺を信頼しているって事なのか。
龍一:「楽器が吹けなくても俺の音楽は変わらない。音楽は形ではない。音楽は心だ。演奏出来る出来ないの問題じゃないんだ。俺にとっての音楽は、共に生きていく一つだと俺は思ってる。」
悠:「先生は強いですね。挫折せずにいることが凄いです。」
龍一:「若い人なら挫折はするさ、俺もしたしな。でも、そんなときに助けてくれたのが仲間達だった。みんなから励まされて前に進む事ができたんだよ。」
悠:「俺も今までに何度も仲間達に助けてもらいました。高3のとき交通事故に遭ったんです。事故が原因で握力が低下してしまって、コントラバスが弾けなくなってしまいました。」
気がつけば、俺は自分の過去を言いはじめていた。
この人も楽器を演奏することができない。
ということは、俺と同じ気持ちなのかもしれない。
だから、俺は呼び出されたのだろう。
そう思った。
今日会ったばかりの人だけど、この人なら安心できる。
そんな気がした。
悠:「コンクールまで1ヶ月切っていたのに自分の思うように楽器を弾くことができなくなってました。コントラバス初心者の1年の方が断然上手なぐらいに。さっきの握手は俺の握力を確かめるために強く握ったんですよね。」
龍一:「ばれてたか。ちゃんと確かめたかったんだ。すまないな。」
悠:「いえ良いですよ。続きですけど、弾き真似で最後のコンクールに出場したくない、ならいっそのこと退部しようと考えていました。そんなときに林谷先生が言った言葉で今の自分がここにいると思います。先生、何て言ったか覚えてますか?」
美也虎:「『昼の残りもので良ければ食べるか?』みたいな感じだったな。」
悠:「入院生活は送りましたけど、金欠にはならなかったです。というより、金欠だったのは先生の方でしたよね。」
美也虎:「あぁ、間違えた。『ちゃんとみんなにさようならを言ってから学校を去るんだぞ。』だったな。」
悠:「俺は何も退学まで考えてなかったですけど。」
美也虎:「冗談だ。『吹奏楽は吹いて、弾いて、叩くだけじゃない。楽器ができないなら、今年の夏はお前が指揮をしろ。』」
ちゃんと覚えてくれていたみたいだ。
美也虎:「ではなかったと思うな。」
悠:「訂正しなくて良いです。さっきので合ってますよ。」
美也虎:「そうか?あ〜、そういえば、そうだったな。すまんすまん。」
この人は謝る気ないな。
完全に覚えてたくせに知らない振りして。
悠:「まぁいいや。それで俺は楽器ができないから指揮をするなんて言い訳にしかならないようなことはしたくなかった。でも、部員は俺を含めた吹奏楽でコンクールに望みたいから指揮をしてみんなで上の大会へ行こうと言ってくれました。」
龍一:「なるほど。必要とされてて良かったな。」
悠:「はい、吹奏楽は俺の居場所なんだって仲間達から教えてもらいました。凄く嬉しかったです。」
美也虎:「まぁ、私の御陰でもある。流石は、悠の恩師だな。」
確かにそうだけど、得意気に笑顔で言われると、何かムカつくな。
悠:「今思えば、俺がコンサートマスターをしてたから多少の指揮はできてたけど、もし、俺がコンサートマスターをしてなかったら先生はどうしてましたか?」
美也虎:「そうだな〜。捨ててたか、楽器運搬でトラックの運転をしてもらうために大型四輪の免許をとりにいかせたかのどちらかだろうな。」
容赦ないな。
それ以前に、高校生が大型四輪の免許はとれないだろう。
もし、免許を持ってることが学校に知られたら一発で謹慎になる。
龍一:「もうこんな時間か。すまないが仕事が残ってるから帰らせてもらうよ。」
悠:「そうですか。仕事が残っているのに対面なんかしてごめんなさい。」
龍一:「俺から誘ったことだから気にしないで。それよりも俺が呼び出しておいて先に失礼しなくてならなくてすまない。」
悠:「俺は良いですよ。寧ろ光栄です。」
龍一:「そうか。ありがとう。」
美也虎:「じゃあ、帰ろうか、ダーリン(はぁと)。」
立ち上がった林谷龍一の右腕にしがみつく妻、美也虎。
悠:「さっさと帰ってください。」
美也虎:「羨ましいか。悠も彼女ぐらい作れよ。」
悠:「俺にだって彼女ぐらい居ますよーだ。」
美也虎:「まじで!誰?どこのどいつ?」
悠:「先生も知ってる人です。誰かは秘密〜。」
美也虎:「まぁいい、そのうち吐かせてやる。」
龍一:「悠君、先に失礼するよ。」
悠:「龍一先生。」
林谷夫婦が席を外そうとしたときに呼び止めてしまった。
仕事が残っているって言ってたがさっきの答えを言わないと。
悠:「人が楽しんだり、人が明るくなる。言葉以外のもので人に喜怒哀楽や想いを伝えてたりつたわったりする。そういうものだと俺は思います。演奏側、指揮側、聴衆側、どの立場でも同じです。」
龍一:「そうか。答えを聞けて良かった。ありがとう。」
林谷龍一は俺に背を向けて店を出て行こうとした。
悠:「今日はありがとう御座いました。」
俺の声が店中に聞こえわたった。
右手を挙げようとしたみたいだが右腕は美也虎先生と腕を組んでいたから、龍一先生は左手を挙げていた。
そして、二人は幸せそうに店の外へ出て行った。
第二話を読んでいただきありがとうございます。
まず初めに
また新キャラを出して御免なさい。
予定ではまだまだ新キャラは出てきます。
御了承ください。
今回は
悠が指揮をしている理由。
ということを主に書いてみましたが、どうだったでしょうか。
高校時代の延長みたいな感じですね。
最後に
新キャラの紹介をして終わります。
[林谷 龍一]
年齢:32歳
身長:179cm
趣味:音楽、作曲、編曲
その他
主に県内でバンド講師をしている。
林谷美也虎の旦那。
林谷美也虎とは中学、高校、大学時代の先輩後輩関係。