僕で君を構成したい
筋肉は、早い細胞が約1カ月で60%、遅い細胞が約200日。皮膚は1カ月。血液は4.5~5.0リットルなら100日から120日。骨は約2年半。
「最後の晩餐ってやつか?」
自分の言葉にケラケラと笑う目の前の男は、僕の意中の人だ。
彼は別に優しくない。いや、僕の願いを二つ返事で了承してくれた、優しい人だ。
「約束だと、確かに今晩が最後だね……」
彼の前にハンバーグをそっと置く。
彼は丁寧に手を合わせ、「いただきます」と呟いた。箸を持ち、肉塊を割る。言葉使いから想像できないほど、湖面のような静けさ、ガラス細工のような繊細な動きに、僕の喉が鳴る。
僕は彼の食べ方が好きだ。口を開けば人を小馬鹿にしたような、寂しさの裏返しなのか意地の悪い彼が、静かに口に入れた食べ物を細かくするために、咀嚼をする。そして、それを飲み込む。飲み込んだものは、彼の内臓で吸収され、彼を構成する。この一連の動きは、この世のどんなものよりも美しい!
彼にご飯を作り続けて3年。
僕が彼を構成したと言っても過言ではない。
彼が好きだ。好きなんだ。
――――――どうしようもないぐらい、愛している。
気が付けば彼は「ごちそうさま」と手を合わせていた。僕は反射で「お粗末様でした」と食器を回収する。少しだけ気まずい沈黙が、なぜだが心地よかった。
「……ねぇ」
「あ? なんだよ」
「これから、どうするの?」
僕の言葉に彼は目を丸くして、自嘲気味に笑う。「さあな」と吐かれた言葉に僕は、僕は――――――。
「予定がないなら、まだここにいてよ」
言った。
言ってしまった。
固まる僕に対して、彼は愉しそうに笑った。表情豊かである。
「ハハッ! ここにいて、お前のオカズになれって?」
「ち、ちがっ!」
「人に食べさせて興奮する――――――変態野郎」
その一言で、僕の脳みそのどこかがジリッ! と焼け切れ、衝動に任せて両手を机に叩きつける。
「違う!!!!!」
「……そう興奮するなよ。図星だからって」
そう図星だった。彼の言葉を否定なんて、できない。じんじんと痛む手のひらが、泣きたくなるぐらい事実だと、僕を嗤う。僕は小さい声で「……ごめん」と呟いた。彼の言う通り、僕は“食べさせて興奮する変態野郎”だ。項垂れた僕を見て、彼は舌打ちをした。
「あァー……。まァ、なんだ、」
珍しく歯切れの悪い彼に、顔を上げる。明後日の方向を見つめている彼に――本当に馬鹿な人だなぁ。と視界が歪む。そんな性格をしているから、僕みたいな人間に捕まるんだよ。
「ま、ここに居れば三食タダ飯、家賃無料。だから――――――もう少しだけ居てやるよ」
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