素直な生徒
「どうした? クロード? こんなところで寝転がって」
とシバは声を掛けた。
「いや……なんなんだろう? 気が付いたら吹っ飛んでいたよ」
とクロードは床に手をついて起き上がりながら答えた。
どうやらクロードは清助に木刀を上段から打ち込んだは良いが、そのまま捌かれ、流され、体勢を崩され、挙句の果てに蹴り飛ばされたようだった。
「大丈夫?」
と清助は心配そうにクロードの顔を覗き込むように聞いてきた。容赦なくクロードを蹴り飛ばした割には、本当に心配していた。
――もしかしたら清助は刀を握ったら性格が変わるタイプかもしれないな――
……とシバは密かに清助に対する認識を新たにしていた。ちなみにシバは昔から車のハンドルを握ると性格が変わるタイプではなかったが、今は操縦桿を握ると性格が変わるタイプと見られていた。
「うん。大丈夫」
と答えてクロードは立ち上がって木刀を中段に構えた。
その様子を見たシバは
「清助、どうだ? 基本動作から教えた方が良いか?」
と聞いた。
「う~ん。どうですかねぇ……実戦経験はあるみたいですからねぇ」
と清助は考えあぐねていた。
下手に実戦経験のある剣士は教えにくいものがあった。要するに今までの経験とプライドが邪魔をして素直に教えを乞う事が出来なかったりする。清助は今までの経験からそれを危惧していた。それもあって清助は油断なく全力でクロードに立ち向かった。
その時、唐突に
「木刀の握り方から教えて下さい!」
とクロードは清助の前で土下座して懇願した。
実はクロードは自分に何が起きたかを理解できずにいた。しかし一瞬で床に転がされた事実を素直に受け止めた。
――人との戦いはこれほど奥が深いのか!!――
とクロードはこの一撃を受けて思い知った。ここは素直に基本から教えを乞うた方が良い……と瞬時に覚った。流石のコミュニケーション能力の高さである。
今まで魔獣や魔物の類とは嫌というほど対戦してきたが、対人間の経験はほとんどなかった。質の悪い冒険者との小競り合いは何度か経験したが、それほど苦労もなく退けていた。要するにクロードは自己流で腕を磨いてきていた冒険者だった。
確かにシバやアキトからも稽古をつけて貰った事もあったが、それは主に対魔獣対策の稽古だった。
今日ここで転がされたのが真剣勝負であったならば、クロードはもうこの世に居ない。それを一番実感していたのは、それなりに今まで何度も死線をくぐり抜けて来た当のクロード本人だった。
――折角、トウイの国までやって来て剣術を習えるんだ。こんなチャンスを逃してなるものか!!――
とクロードは何が何でもここで剣術を会得するつもりでいた。
「いや、土下座なんてしなくていいから。ちゃんと教えますから」
と清助が慌ててクロードの手を取って立たせた。
その様子を見ていたシバは
――俺の心配は杞憂だったな――
と安心すると
「それじゃあ、俺は他の道場生の稽古を見るよ」
とシバはその場を離れて、入門したてのような幼い道場生の元へと向かった。




