懸念
シバの顔をじっと見つめていたアキトだったが
「……だな。ただ、ガリア鉱石と重力石の組み合わせなんて他はやってないからな。色々とうちの飛空艇の技術を欲しがっている国があるのは事実だからな。神経質になり過ぎたかな……」
そう言うとソファの背もたれに身体を預けた。どうやら彼も今回の件は、それほど心配することはないと思っているようだった。
「当たり前だろう。重力石なんて誰もその存在さえ知らないんだから。あれはグラビデ卿のおかげで偶然見つけたんだからな」
「そうだったな……まあ、存在を知ったところで、その見分け方や融解方法までは分からんだろうけどね」
「全くだ。しかし主砲の構造はすぐに考えつきそうなもんだがなぁ」
「案外分からんもんだな」
そう言うとアキトは愉快そうに笑った。
そして
「で、今回はいつものように面倒なフラグは立っていないと……」
と真顔で聞いた。
「ああ、それは今回は感じなかったな」
「そうか。お前がそう言うなら大丈夫だろう」
とアキトは顔の表情を緩めて言った。
「さっきも言ったが、フェリーが自分の娘をそんな事のために、この艇に送り込むなんて真似はしないだろう……それも炎龍付きでなんて出来過ぎだ」
シバはそう言うと言葉を続けた。
「それに第一あいつもこの艇に乗っていたんだぞ。その時でさえ何の興味を示さずにいたのに、今更そんな事をするかぁ? それも娘を使って?」
「それもそうだな……」
とアキトも納得したようだった。
そして
「ところで、クロードと組んでどれくらい経つんだっけ?」
と改めてシバに聞いた。
「うん? 一年が過ぎたところだ。それがどうかしたか?」
とシバは怪訝な表情で首を傾げた。彼はアキトが急に話題を変えた意図を掴みかねていた。
「いや……じゃあ、前はクロードの前の冒険者の時だったか?」
アキトは過去この飛空艇に乗り込んで情報を探ろうとした奴がいた事を思い出していた。
「ああ、そう言う事ね。お前の言う通り、クロードの前だ。その時の送り込んできたのはラシール帝国だった。お粗末な奴過ぎて話にならんかったが……」
とシバも納得がいったようにうなずきながら言った。
過去、何度かこの飛空艇の技術を盗もうと国や組織からあの手この手の接触があった。しかしそのいずれもが、ことごとくこの二人に撃退されていた。
「ああ、そうだった……でもクロードもそろそろ色々と出てくる頃だな」
「多分ね。そういう時期だ」
「今回の事にクロードは気にとめてはいないのか?」
「ああ、全く気にとめていない。お前も扉越しで聞いていただろう? 能天気に皇女様を助けたと喜んでいたぞ」
シバは軽く首を横に振った。
「まあ、そんなもんだろうな」
「異世界モノの主人公はおめでたい奴と相場が決まっているからな」
シバの口元が少し緩んだ。
「そういう事だな」
アキトの口元も同じように緩んだ。
そしてクロードが初めてこの飛空艇に乗った時の事を思い出していた。
それはある村に荷物を運んだ時だった。
その村の名前はデンスパック村。モルタリアの北西部の端にある小さな村だが、この国で最も美しい村の一つと言われている。
正確には荷物と同時にその村の村長も運んでいた。荷物の引き渡しも済み、村長から丁寧なお礼の言葉も頂き『さてどうしようか?』と乗組員と艇外で話し合っていた時だった。




